■ 十五日目


契約の日、里と森の契約の更新日。
森は里を守り、里は森に尽くす。
その契約はごとの1年契約で、期日がくれば切れてしまう。
だから、新たな契約を結びなおす必要があって、それが契約の日だ。
もっとも儀式を執り行うお偉いさんでもなければ、新年の祭りという意味合いの方が強いんだが。

あと、この日は無礼講が許される日でもある。
なんでも『日付が変わって契約が切れた夜中から再契約の儀式が終わるまでの間は未契約なのだから、御霊にも法にも我々を縛る力はない』とか言った奴がいたらしく、その時の御霊も悪ノリして結果日付が変わってから儀式が終わるまでは無礼講が許されるようになったんだとか。
しかも悪ノリが続いて、年々儀式の開始時間が遅くなっていって、今じゃすっかり夜の儀式になっちまった。
ま、無礼講だといったって、度が過ぎて捕まったバカを何人か見てるから、額面どうりじゃねぇんだろうがな。

クテラは契約の日とクリスマスが重なった、なんて浮かれてやがるが、俺はこの無礼講の日が好きじゃねぇんだ。
無礼講の日にはヤツが来る。
俺が下街に降りてから毎年だ。
特に最初の年はひどかった。
身構える事すら出来ず、横合いからの一撃で終了。
何があったかさえ解らなかった、気が付けば自分の寝床で転がってた。

クテラと一緒に街を歩く。
そこかしこに赤い服の爺さんが置かれているのを見て、ヤツはこれに扮していたのかと妙に納得する。
真っ赤なカッコに、白い髭で顔を隠して。


とは言っても、ハイデルベルクまでは追ってはこないだろう。
今年は大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせて落ち着こうとするが、体は警戒を解いてはくれない。
手枷や首輪が外れていてくれたことが有り難い。

「手、繋がないと、今日は人多いですし……」

鎖が無くなって不安なのか、クテラがそんなことを言ってくる。
だけど、それはまずい。
今日に限っては致命的になりかねない。
って、真っ先に出た考えがこれかよ・・・
ヤツは来ない、そう思ってたんじゃねぇのかよ・・・


そうして、買い出しをこなしていく。
いつの間にか、クテラは手を繋ぐのをあきらめ、俺に前を歩かせていた。

そして、ヤツを見つけた。
ご苦労なこった、ほんとにここまで追いかけてきやがった。
流石に、人込みで始める気は無いらしく、あちらに誘っている。
方角から言って、街外れにでも出る気なのだろう。

「わりぃが、ここから別行動にさせてくれ」
突然の事に、クテラが言いよどんでいるうちに走り出す。
とにかくここはまずい。
とにかくクテラの傍はまずい。

まずは、追う展開。
商店街を抜け、露店街をぬけ、目立つ赤い服を追って走る。
今の俺で見失わない所を見ると、誘導の為に加減して走ってるってとこか。
その証拠に、街外れの空き地にたどり着くころには、その背中を見失っていた。

「きてやったぜ、出てこいや」

日が陰り始め、薄暗くなった周囲に目を凝らし、状況を確認していく。

「といっても、俺だけだけどよ」

高木が左手に1本、正面に残土の山、その奥に瓦礫、右手側は平坦だが城壁が近い。

「今のあいつにゃ、あんたは毒だからな」

どこに隠れる、俺ならどこに・・・
状況確認?戦術予測? 今までやったことなかったな。
全て、こっちに来てから学んだ知識だ。
俺も随分と臆病で小賢しくなっちまったもんだ。


高木を警戒し距離を取る

様に動く

ほら、きやがった

背中を取ったつもりで、城壁の上から重い一撃と共に飛び降りてくる。

振り向いて【防御】で受ける。
今ならわかる、これは【強打】だ。
「そういうことかよ」

一度間合いを取る、完全な接近戦では膂力に勝るヤツには勝てない。
相変わらずの赤い服、とその下のごつい体。
そして、白いひげでの変装。
去年と同じだ。
「ずっけぇぞ、今までも、精霊術使ってやがったな」

会話にかこつけながら【命中】を待機させていく。

「大体、なんでこんなとこまで来てんだよ、てめぇ 暇なのか?誰も構ってくれねぇのか?」
【神速】を待機

「そういや、そのカッコ、サンタなんだろ?ごつすぎて最初、解んなかったぜ」
【超神速】を待機

「そんじゃあよ、ここまで来てもらってわりぃが、そろそろ死ねや!!」
【憤怒】発動
 【超神速】対抗発動
 【神速】対抗発動
 【命中】対抗発動
「今年こそくたばれ、クソ親父ーー!!」 

「ぬるい、軽い、出直せ半端野郎」
当然の様に【防御】で止められる。
あぁ、なるほどな、気合入れて殴ってもきかねぇわけだ

その後、当然の様に【強打】(多分Xくらい)を直撃で貰い意識が飛ぶ。
例年どおりと言えば例年どおり。
違うと言えば、何されてたかが解ったくれぇだ。

■ 十七日目


寒い・・・
そう感じて目を開ける
どこだここ?
見慣れない空に月が浮かんでいる。

とりあえず起きるかと体を動かしたところで痛みが走る。
あぁ、そうか。
なんとなく思い出してきた。
また、やられたんだったな。

「ちっきしょ サンタなんだったらなんか置いてきやがれってんだ・・・」
ダメージと寒さで固まった体に気合を入れて起き上がる。
かなり痛てぇが、おかげで頭も動き出す。

あぁ、そうだ
「クテラ、置いてきちまったな・・・」
状況が状況だったとはいえ、もう少しきちんと話すべきだっただろうか。
ま、なんて説明すりゃいいんだって話だが。

「わりぃことしちまったな、ちゃんと戻ってりゃいいんだが・・・」
そんな事を考えながら、服を整えていく。
辺りは完全に夜で、月も高い。
随分長く気を失っていたようだ。

くしゃみを2回。
そして、うずくまる。
今年はあばらをやられたらしい。

ぐ、ぐ、ぐ・・・

さらにくしゃみを1回
痛みで、目がくらむ。
こりゃ早く暖まらねぇと気絶するな・・・



祭りの後の大道りを歩く。
やはり、時間が遅いらしく、人通りはほとんどない。
出店に使っていた屋台は全て明かりが落ちていて、折りたたまれていた。

「クレープくらい、買ってやればよかったな」
そんな屋台の一つを見ながらひとりごちる。
まだ、好きなんだろうか?
それとも、また好きになるんだろうか?

ぐ・・・

初めて、クレープを買ってやった時の事を思い出して少し笑う。
脇腹が痛むが、それでも少し気が晴れた。
ずいぶんと酷い顔だったからな。
生クリームとチョコレートソースでべたべただった。

どうやったらうまく食べれるんでしょうか?となやむあいつに
フォークとナイフを使わねぇからだと、適当なことを吹き込んだんだっけな。

まだ、好きでいてくれるんだろうか。
また好きになってくれるんだろうか。

あの頃みてぇにうまくできてる気がしねぇ
状況が変わった?
あいつが変わった?
いや、俺が不甲斐無ぇだけだな。

くしゃみを2回

とりあえず、元の場所に戻れるよう
痛みを堪えてでも、歩くしかねぇんだな。

■ 十九日目


精霊術基本教本

使用上の注意

回復に関する精霊術は主に対象の生命力を増幅する、代謝を促進する、等の現象をおこし、その結果、治癒という効果を得ています。
これは傷、特に外傷に対してとても有効である反面、病に対してはほとんど効果を及ぼしません。
それどころか、感染症などに至っては、その原因である菌の生命力増幅や、繁殖(代謝)を促進真してしまうため、症状を悪化させてしまった例が報告されています。
病人へ回復に関する精霊術を使用する際には、細心の注意を払ってください。