■ 二十二日目


あーぁ、なんでこんな事してっかね ほんと・・・


「そりゃお前、ご主人様に気をつかったんじゃねぇか。大した忠犬ぶりだぜ」

うるせぇよオッズ。

そんなんじゃねぇって言ってんだろうが。


「よかったのかナイン クテラは・・・」

うるせぇよユージュ

おめぇこそリーナはいいのかよ。


「・・・で、私はなんで呼ばれたんだ?」

そもそも、ユハ

てめぇが、あの金髪半端野郎の手綱を握ってねぇのがわりぃんだろうが。


「うるせぇよてめぇら! がたがた言ってねぇで飲みやがれ!!」



「ナイン、明日なんですが、ロジェさんとデートに行こうと思うんですが」

これが発端。

「ナインもそれでいいですか?」

いいですか?ってなんだ。

何を確認してんだコイツ?

つまりあれか、自分はロジェとデートするが、いいのか って意味か?


「どこに行くのがいいんでしょうか?ナインは行きたい場所ありますか?」

あぁ わかった

そうだよな、クテラさんにしては随分挑発的だとは思ったよ。

つまり、これは


「なんで俺も行くことになってんだよ・・・」


まったく、どのツラ下げて他人のデートについていかなきゃならねぇんだ。

だいたい、俺にどうしろってんだよ。



見送るのも、送り出されるのも、どうにも嫌で

クテラが起きだす前に、部屋を出る。


あの後、俺は俺で今日は休日ということで、別行動を許された。


そんな訳で、朝から街をうろつくものの

普段ゆっくり吸えない分と煙草をふかしゃ、後は何にも目的がねぇ

暇なんかつぶれやしねぇ

さて、どうすっかな。



「災難だったな、ナイン 同情するぜ、いやまったく」

しばらく喫煙所のベンチで過ごした後、同じくやってきたオッズに煙草を分ける。

こいつ、煙草ももたねぇで喫煙所に何しに来やがったんだ?


「うるせぇよ そんなニヤけたツラで心にもねぇこと言ってんじゃねぇ」

「そうカリカリすんじゃねぇよ、彼女の浮気の1度や2度、大目に見んのがいい男ってもんだろうが」

そんなんじゃねぇよ

クソッ なんでこんな奴に話しちまったんだかな


「ま、こんな時にいい男がやる事なんて1つしかねぇだろ」

「なんだよ、こっちも浮気でもしろってか?」

「バカ言え、それじゃ泥沼になっちまう。」

女ってのはおっかねぇんだぜ?

なんて、肩をすくめておどけて見せる。


「男が浮気な女を待つにゃ、ヤケ酒かっくらうしかねぇんだよ」

「こんな昼間っからか?」

「当たり前だろ? なんせ、振られるのに昼も夜も関係あるもんか」

違うっつってんだろうが

あぁ、解った こいつは俺にケンカを売ってんだな。

いいぜ 買ってやんよ。


「そういや、あんたの奢りって話があったっけな 文無しにしてやる」

「あぁ、いいぜ 心行くまで飲んでくれ。それでお前の失恋が癒えるなら安いもんだ。」



店を探しに商業区に移動を始める。
流石に今いる露店街の店で飲んだくれた日にゃ決まりも悪い。

「露店で真昼間っからの飲むのも、なかなか乙なんだがな」

それに何より、露店で飲むとなると

「わりぃが、日の当たる場所で飲むって気分じゃねぇんだ」

援軍が呼びづらくなる。


そう、オッズの財布を空にすると決めたはいいが、俺一人じゃ正直戦力不足はいなめねぇ。
あんな奴でも、協会員だ。
それなりの給料だって貰ってやがる。


移動の途中でユージュたちの宿に立ち寄る。
1階はカフェバーにでもなっているのか、コーヒーのいい香りが残っていた。

注文したコーヒーを飲みながら、マスターに呼びに行ってもらったユージュを待つ。
なんならここで飲んでもいいか。なんて思いもしたが。
隣で、コイツはちょっと上品すぎんな なんて感想をもらす脱獄囚を見てやめにした。


「そんな訳で飲みに行くぜ、ユージュ」

「・・・異論はないが、随分といきなりだな」

降りてきた端から話を向けるが、問題なく乗ってきてくれる。
さすが、俺が援軍と見込んだ男だ。

「・・・それで、行くのはいいんだが、ナイン、クテラはどうした」

が、そいつは余計だ。

「く、はっはっはっ よくぞ聞いてくれたな、そこの兄さん。 実はなこいつ振られてやがんだぜ」

ほら見ろ、オッズまで余計なこと言い出しやがった。

「ちげぇって言ってんだろうが、そんなんじゃねぇよ」

「・・・振られた? 喧嘩でもしたのか?」

だから、違うって言ってんだろうが。


残りのコーヒーを飲みながら、オッズの紹介と状況を説明する。
そんな顔してんじゃねぇよ。
気のまわし過ぎだ。
ちょっと別行動しただけでそんな騒ぐんじゃねぇよ。

「じゃあ、行こうぜ」
マスターに軽く挨拶をして席を立つ。

「・・・すまない、先に行っていて貰えるか」
どうした?と言いかけて2階へ向ける視線に気づく。
なるほどな、やもすると時間がかかるか・・・


「解った、じゃ待ってるぜ」
結局ユージュを残して宿を出る。
それならば現地集合が良いだろうと、マスターが気を聞かせて店を紹介してくれた。

1階は食堂なんですがね、その地下を雰囲気のいいバーにしている店があるですよ。

だそうだ。
そういったチョイスしてくるって事は、ユージュたちは宿主ともいい関係にあるらしい。
何ともうらやましい話だ。
ウチの宿の親父も、もう少し気が回んねぇもんかねぇ。



「お、旦那じゃねぇか」

「なんだオッズ、ユハのこと知ってんのか」

「あぁ、昔ちょっと世話んなったんでな」

紹介された店は商業区の外れにあるらしく、まだ見えてこない。
そんな、脱獄囚と受刑者の前にフードの男が通りがかった。

「ナイン、俺は思うんだが・・・」

「なんだよ、改まって」

「おまえは、あの旦那相手にくだをまく権利があるんじゃねぇかってな」

あぁ そういことか

「いいぜ、金を出すのはアンタだ、好きにしな」

ま、人数は多いに越したことはねぇしな。

「だがよ、ユハが乗ってくるとは思えねぇんだが」

「あぁ、重々承知してるよ」

いい作戦があんだよ とユハに近寄っていく。

「じゃ、ナイン、お前左だ 俺は右を押える」

そんな事じゃねぇかと思ったよ。


「よぅ、旦那」

「オッズに、ナインか 珍しい取り合わせだな」

「あぁ、これから飲みに行こうと思ってよ」


歩きながら話そうぜとユハに促す。

打ち合わせ通り、ユハを挟んで 右にオッズ 左に俺


「こんな昼間からか?」

「そうだとも、旦那も相棒が留守してんだから暇だよな」

「確かにロジェは出かけているが・・・」


そこでオッズが、がしっとユハの腕をつかむ。


「おっし、決まりだ。行こうぜ」

「いや、私は・・・」

そう言っている間にも、ずるずると引っ張って行く。

・・・俺が出る幕はなさそうだな。

たぶん次回に続きます

■ 二十三日目


1杯目

全員に同じ酒が配られる。
オッズが席に着くなり注文したエールだ。

「ま、最初くらいは同じ酒で乾杯でもすんのが礼儀かと思ってよ」

「それは、誰に対する礼儀なんだ?」

戸惑いか不機嫌か。

目の前に置かれたジョッキを眺めながらユハがオッズに問いを投げる。


「こいつはな、店に対する礼儀なんだよ」

いつまでも待たしちゃかわいそうだろ、とメニューも見ずにウエイターにつまみを注文する。

ユハの非難のまなざしもどこ吹く風だ。

ユハがロジェ意外とまともに話しているのなんて、そう見ていない。

まして、受け流されてる所なんて、それこそ初めてじゃないだろうか。


「・・・成程な そういうものか」

いや、確かにそういうのあるんだろうが

違うぜ、ユージュ。


「そのおっさんはな、安くて腹にたまりやすい酒を選びやがったのさ」


そういや、ユージュがリーナと一緒じゃない所も初めてだな。

てっきりユージュが保護者なのかと思ってんだが、どうにもそんな単純でもないらしい。

なんだかんだと、勘のいいあのお嬢ちゃんが居ないと、どうにも心もとない部分が見え隠れする。


「ま、細かい事は気にしなさんな、行き渡った事だし乾杯、乾杯」

「・・・何に乾杯するんだ?」

「そりゃおめぇ・・・」

またか、こっち見るんじゃねぇ


「主賓のナインに決めてもらうしかねぇな」

あ?

「なんだ?何もねぇのか? なら俺が えー若いふた 」
「うるせぇ、ユハの健康を祈ってだ!!」

ガチン!

あーぁ、なんでこんな事してっかね ほんと・・・





2杯目

ユハのを除く3人のジョッキが空いたところで、オッズがすかさずお代わりを頼む。

野郎、本気でエールばっかり飲ます気でいやがんな。

つまみと一緒に届いた2杯目のエールを、苦々しく飲みながら違和感に気が付く。

「酒がつめてぇ・・・」


「なんだ、しらねぇのか ハイデルベルクの名物なんだぜ?」

「しらねぇよ この街来てからこっち、飲みに行く機会なんてなかったからな」

「・・・そうだな クテラと一緒に酒場に入るのは、何か想像しづらいな」

「なんだよ、おまえだってリーナつれちゃ、酒場なんかにゃ入れねぇだろうが」

「それはそうなんだがな、うちの宿には部屋に冷蔵庫があるからな、知ってはいた」

「れいぞう なんだそりゃ」

「なんでも、物を冷やすための箱らしいぜ?精霊技術の恩恵らしいな」


なるほどな、そういうもんか。

とすると、さっきのエールはバカやってる間にぬるまっちまったって事か。

そりゃもったいない事をした。


今度は冷たいうちにと、エールを飲み干す。

冷たい酒も、それはそれでいいもんだ。


「だからよ、こんな料理も出せるんだとよ」

生の肉にソースが掛かっていやがる

いくら俺らが人狼だからって・・・


「いや、こいつは人間も食べられる立派な料理なんだそうだ」

なんでも、光と水の精霊力で腐敗を防いでいるんだとか

けど、手間がかかってるぶん、値が張るんですけどね とウエイター

「どうしたんだオッズ、急に気前良くなったじゃねぇか」

「なに、これくらいはサービスみてぇなもんさ」

なんに対するサービスなのやら

ま、美味いなら文句はねぇさ。

なにせ、あの食に厳しいユハが喰ってるくらいだ。

人が食っても美味いんだろうよ。

「おい、これと同じやつを有るだけ持ってきな」

3杯目のエールを持ってきたウエイターに注文する。

オッズが何か言ってるが、かまいやしねぇ





6杯目

揚げ物、生もの、パスタにピザ
魚に肉に野菜にとハイデルベルクは本当に食料に恵まれている。

6人掛けのテーブルいっぱいに並んでいた皿は、半分は空となり、もう半分も残りわずかといった様子で、
ウエイターを呼んで、空いたジョッキと合わせて片付けさせるか、次を頼むか悩むところだ。


「旦那、飲んでるか」

そこそこ、皆、酔いが回ってきただろうか?

オッズは見ればわかるし、俺もそこそこフワついてる。

顔にこそ出ていないが、ユージュもそこそこきてそうだ。

だが、ユハだけがここに来た時と様子が変わらない。


「あぁ、飲んではいる 私はお前たちの様に、無茶な飲み方をしていないだけだ」


言われるほど、そんな無茶をした覚えはない。

ただ、ウエイターが運んできたものを、端から一息に飲み干しているだけだ。

オッズも同じ様なものだし、昔から酒はこう飲んでいた。

何より、オッズに空ジョッキの数が劣るのも、なんとなく癪な気がしてきた。


「旦那は相変わらずだなー」

「・・・オッズとユハは長いのか」

「いや、そういう訳でもねぇんだが、ま、むかしちょっとな」

「気を使わなくていい、昔、彼と同じところに収監されていた」

「そんで、俺はコイツで世話になり、その礼に、冤罪が認められるまで警護してやったのさ」


左目の眼帯を指さす。

正直、オッズの動きが隻眼のやつのものとは思えないんだが、ユハが絡んでるとなると一層怪しい。


「あぁ、あの時は助かった。偶然とはいえ感謝している」

「そうだな、旦那は今も昔も悪目立ちするからな 囚人の間でも、やれ吸血鬼だ悪魔だ喰人鬼だと、噂になってたもんさ」

「その原因の半分以上は、お前と一緒に居たからだがな」

「ま、そうかもしんねぇな」

オッズは右手で左腕を軽くつかむ。

やれやれ、秘密の多いおっさん達だ。

ま、話せない事があるのは、ここに居るどいつも同じだけどな。





12杯目


そういえば周りに俺たち以外の客が付き始めたな

外じゃそれなりに良い時間なんだろうか。


相変わらずオッズはペースを落とさねぇ

クソッ つえぇな・・・ どこまでついていけっか

ユージュはいつからかペースを落としてるみてぇだし、俺も・・・

いや、それもなんか癪だしな・・・


「そういえばユージュ、どうだ? この旦那がロジェの言ってた旦那なんだぜ?」

「・・・どうだ、か そうだな、なんというか、そう聞くと腑に落ちた」

フードが似ていると言っていたが、なるほど。

「そういえばナイン、お前の事もロジェと話した」

「あいつ、なんか変なこと言ってなかったか?」

「・・・目つきとガラが悪くて、一緒にいる奴が大変そうだ だったかな?」

「あの野郎、てめぇの事棚に上げて何言ってやがんだか」


ロジェの顔を思い出す。
クテラの事を思い出す。

クソッ なんだろうな イラつく。


「おい、ユハ おめぇだってロジェと一緒にいるのは大変だよな」

「いや、あまり感じたことはないが」

「くっくっく たしかにクテラは大変そうだよなぁ」

「うるせぇよ オッズ」

ちきしょう、そのニヤついた顔が気に食わねぇ


「大体、ユハ! てめぇがロジェの手綱を、しっかりもっとかねぇのが、いけねぇんだろうが!」

「言いがかりだな、アイツは仕事の相棒というだけだ。私に行動の制限は出来んよ」

知ってるよ、そんなこたぁー

言いながら、ジョッキをあおる。
ウエイター もう一杯だ


「ナイン、もうよせ それこそクテラに心配をかける」

「うるせーよユージュ、お前こそリーナはいいのかよ」

これも、余計なお世話だな
知ってんだよ、解ってんだよ。

ウエイターからジョッキをふんだくって・・・

「クソッ なにがデートだ!!」




13杯目

ぶっ倒れた。

「スッキリしたか?」

飲めるだけ飲んで

「あぁ、おかげさんでな」

言いたいことを言った。

「・・・気にするな なんとなくだが、わかる気もする」

ユハの掛ける『清浄』が心地いい。

「やはり、こうなるのだな」

「まあな、その為に旦那を連れてきたわけだしな サービスしたろ?」

お見通しって訳か あーぁ

「アルコールも毒には違いないからな 完全にとはいかないが、歩って帰れるくらいは出来るだろう」

「そりゃ助かった、こんな大男、担ぐのだって一苦労だ」


楽にいなっていくのを感じ立ち上がる、確かなんとかなりそうだ。

そう思ったのもつかの間、バランスを崩しユージュの肩を借りることになる。

「あまり無理をするな もう少し休んでいろ」

そう言われて、椅子に誘導される。

「すまねぇ 助かった」

「・・・構わんよ 俺はお前の援軍なんだろう」

そういや、そうだったな。


「しっかし、強情すぎだぜナイン あのひとこと言わせんのに、いくらかかったこと思ってんだ」 

「うるせぇ、おめぇが言い出したことじゃねぇか」

ヤケ酒をかっくらうしかねぇか 確かにな・・・

「あぁ、言い出したのは俺だ だがな、お前には言う事がある」

「わかってんよ・・・」
「わりぃ 愚痴につきあわせた 許してくれ」
 

「・・・ありがとよ」


「いいぜ、今度はお前が奢れよな」



前回から引き続き、今回の一言メッセージは 
ENo257 ユハさん ENo547 オッズさん ENo711 ユージュさんをお借りしました
レンタルに応じていただいた皆さん、ありがとうございました。

■ 二十四日目


前回の一言メッセージの未公開部分です。
せっかくなので、今回掲載します。


7杯目


「そういやお前らおそろいで首輪してんのな」
「別に好きでしてるわけじゃねぇよ」
「・・・なんだ、そうなのか?」
「そうなのかって ユージュ」
「俺は好きで付けているようなものだからな」
「そらまた、なんつーか ごちそうさんだな」
「いや、だけどよ それって確か リーナの意思ひとつで即死とか言う物騒な・・・」
「あぁ、だがまぁ そこまで問題は無い」

「どうせ、彼女に言わせれば、私は彼女の物なんだしな」
「その上、お前はそれでもいいと思っていると・・・」
「なんだ、どっかの首輪付狼の所とは随分ちげーな お前の飼い主はどこ行ったんだナイン」
またそれかよ、そんな事よりも良い事思いついた。
「ユージュ その首輪、リーナはもう一つもってねぇか」
「どうすんだよそんな物騒なもん」
「ロジェにつけるんだよ」
「なるほどな、で、飼い主は誰よ?」
「そんなもん、ユハに決まってんじゃねぇか」
「ダメだな、喜んでる顔しか思い浮かばねぇ」
「やらないぞ、私は・・・」
「そうだなユハの方が苦労するのが、目に浮かぶようだぜ・・・」
「あぁ、クテラと一緒だな」