■ 一日目


「さて、ようやく着きましたね」
先行しているウサギには『街で待つように』と伝えてあるはずなのだが・・・
いないのだろう。
なにせあのウサギ、じっとしている事にとことん不自由だから。
まぁ、あれだけ目立つ風体だ、探すのはそれほど苦労は無いだろう。
食事がてら聞き込みを始めるとしよう。
「あの、ウサギ見ませんでしたか? ええ、2mくらいの大きなウサギなのですが・・・」


「ああ、貴方も動物を探しているんですか」
そのさなか、通りで見かけた少女に惹かれ、少し長く話をする気になった。
「はい、私のは夢で見ただけなんで、実際に居るのかもよく解らないんですけど」
そう答える少女は魔石職人のしるしを付けていた。

確かに、魔石は必要だった。
こちらに来る前に、力あるものは殆ど失ってしまっていた。
また、少女の落ち込んでいた痕跡も、依頼という形での接触も、食事には都合がいい。
しかし、そんな好条件さえ瑣末に思えるほどの、強力な感情に私は魅入られてしまった。
それは、心の奥底に澱の様にたゆたう記憶。
深い深い色をした、長くかなしい夢。

「はい、材料は平気そうです。どんな魔力を込めますか?」
その顔に『人の役に立てる』という純粋な喜びをうかべ、少女は私に問いかけてくる。
本当なら適当に答えて、ここで食事とするところだ。
しかし、私は
「その、さびしい夢を・・・」
言わずにはいれなかった。
「貴方の哀しい夢の切れ端を、わけていただけませんか?」

 ・
 ・
 ・

「えっと、その、大切にしてくださいね・・・」
少女は気丈な振る舞いで、完成した魔石を手渡してくれる。

「理由、聞いてもいいですか?」
瞳に哀しみを残したまま、それでも少女は私を見上げてくる。

「だって、かなしい夢が欲しいだなんて・・・」
そんな少女に何か感じたのか

「救ってさしあげたい方がいるんです。ああ、ウサギの事じゃないですよ」
普段なら語る事のない話をする気になった。

「貴方の夢は、たぶん、その最初の手がかりなんです」
あの色に当てられたからだろうか?

「それに、あの人はいつも、こんな哀しい色をしていましたので・・・」
だから、自分の本質から、こんなにも外れた事をしているのだろうか?

「あとは、ほら、これなら不意に食べてしまう事もなさそうですし」
だから、気づかいなんて、人間のまねごとまでしてしまっているのだろうか?


「えっ、魔石、食べるんですか!?」
きょとんとした少女の表情に、こちらも本質を取り戻す。
「いえ、すいません、やはり慣れない事はするものではないですね」
「あ、冗談ですよね・・・ その、ごめんなさい・・・」
「いや、こちらこそ。ムリを聞いていただいて、ありがとうございます。」

その後2、3言葉を交わし、私も少女も歩き出す。
少女は夢の獣を求め雑踏の中へ。
私はウサギを追って森の方へ。
次に出会った時こそ、少女に幸多からん事を願いつつ。

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本日の贖罪

2mのウサギ  :ENo3485 レグリュエル様
           合流できず、そして喰えず

魔石職人の少女:ENo2904 シセ・フライハイト様
           食事未遂、残念

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。
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■ 二日目


それはそうだ、ウサギを追いかけて異世界に来たんだものな。
次に出てくるのは『イートミー』と相場が決まっている。
しかし、なんて・・・



昨日の聞き込みの結果、『怪奇! 二足歩行の巨大ウサギ!! 森の方へ向かう!!!』との証言を得た。
それも時期的にいって、この世界に到着して早々に向かっているようだ。
やはりというか、なんというか。

そんなこんなで、1日費やし森へと向かう。
で、出会ってしまった。
大きなリンゴ型の頭部。
真っ赤で筋肉質な肢体。
そして、食べられることを願いつつも、それをどうアピ−ルすれば良いのかわからない戸惑いと恐怖。
それを必死で覆い隠す健気な攻撃性。
あぁ、なんて愛らしい・・・

あのウサギもこの生物との邂逅を望み、捕食される幸福を与える誘惑に逆らえなかったんだろう。
なるほど、理解できる。

さて、理解はできるものの、それはそれで問題ができた。

1つ、ウサギの目的がこの生物だとして、なぜここにウサギがいないのか。
つまりこれは、すれ違いという事だろうか。
本当に、じっとしていないウサギだ。
リードが必要だろうか?
いや、大きさ的に手綱なのか?

2つ、目の前の愛らしい生物が、攻撃的な素晴らしい表情でこちらに向かってくる。
どうしよう、あまり冷静さを保つ自信がない・・・
この歓喜の中、あれを潰さずにいられるだろうか?

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本日の贖罪

二足歩行の巨大ウサギ:ENo3485 レグリュエル様
            合流できず、そして喰えず

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。

今日の日記、人間がいない・・・
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■ 三日目


※この日記には2mのウサギが出てきます。彼はに声帯がありません。その為、筆談にて会話を成立しさせています。
しかし、いちいち『〜と書いている』とか『〜と看板に書いて見せた』とか『〜と書いた看板で殴り掛かってきた』とか書いていると面倒くさい読みづらくなりますので、以降、筆談での発言は[サキのバカ野郎]のように[ ]で囲います。ご了承ください。


リンゴとの邂逅を終え、再び町に戻る。
戦利品として、食事を終え、果実を得た。

結果から言ってしまえば、ウサギとはそう苦も無く合流を果たせた。
なんでも、私が街で聞き込みをしている時、ウサギは東の街はずれで露店を出していたのだそうだ。
なぜ、わざわざ街を出てそんな所で?と思い聞いてみると
[商売ができて、適度にトラブルがある、この場所がいい]のだそうだ。
確かに、このウサギの飼主もそういう人だった。
なにを好んでか、治安の悪い場末の喫茶店の2階に居を構え、ごろつき達の喧嘩にもよく首を突っ込んでいた。
「探偵という職業の方は、治安がいい場所とは縁が遠いのですね・・・」


「さて、少し真面目な話をしましょうか」
すごい勢いで看板を書き殴っているウサギの背中に声をかける。
振り返るウサギの越しに見える看板は真っ黒だったが、きっと少年少女には見せられない語句で塗り固めたのだろう。

[まじめな話?]
「まず、お互いの状況の確認でしょうか?」
そういってウサギの装備に目を移す。
ウサギ愛用の品々の姿が見えない。
[見ての通り、手ぶらで放り込まれた。他に荷物は何もないよ。お前も似たようなもんか]
「えぇ、気がついた時には、弱々しい装備に棒と石。何とも厳しい洗礼ですね」
[郷に入っては郷に従え。それでも何とかなるのが、この世界の素晴らしいところなんだろうな]
「その様ですね。いかがですか、この世界のならず者たちは?
ここ数日、戦いに明け暮れたウサギ君の感想を聞きたいですね」
[街や平野は比較的平和。ただ、森や山はまずい]
「私たちの行先に森や山はありますか?」
[ある。たぶん、それ以上にやばい場所も]



今後の方針[今は装備の充実を優先する]はいいんだ。
[その為には商取引、その為の露店]も正論。
しかし、この店客が来ないんだが?
そもそも、煽り文句がおかしい。
[滝から落ちても大丈夫!!]って武器屋の看板にはどうだろう?

武器屋『バリツウェポンズ』本日来客数・・・1名

確かに、このウサギの飼主もそうだった。
あの探偵事務所に客として入った人間が、はたして何人いたんだろうか?
「探偵という職業の方は、お客さんとも縁が遠いのですね・・・」


残念な事に、ウサギがまた看板を塗り始めた。
ウサギで食事を済ませるのは諦めるしかなさそうだ。
仕方がないので、辺りをぶらつくことにする。
幸いこの辺りは、ウサギの様な『治安のいい場所と縁遠い方々』の出す露店でにぎわっている。
食事をするには都合がいい。

露店では、様々なものが、様々なものを売っていた。
人が、妖精が、悪魔が、獣人が、魔物が、エルフが
武器を、防具を、素材を、技術を、食料を、そして従者を・・・

売る側と売られる側、境界はどこで引かれているのだろうか?

店主も客も品物も、とにかく統一感が一つもない。
まるで全ての存在を受け入れているかの様な場所。
そんな場所でも線は確実にひかれている。
「私も本当は売られる側なのかもしれませんね」


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贈答品として失礼の無いよう気配りされた包装を取り去る。
するとそこには、リンゴをモチーフとした赤のグラデーションで彩られた箱。
そして、その蓋を取り去るとき、貴方は深い感動と、自然への感謝に包まれる。

職人が1体1体、心を込めて作りました。
一つとして同じ顔のものはございません。
お菓子の姿を借りた芸術品。
食べてしまうのがもったいない。

スティルフ銘菓 赤い濃い人 絶賛製造中

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さっきアップルさんが配っていたチラシだ。
紹介用の挿絵には、アップルさんが正座している姿をかたどったお菓子が描かれている。
これは興味をひかれるな・・・
このチラシ、かなり高度な印刷だ。
そして、このセンス。これだけ高度な技術の使い道が商品チラシとは・・・
素晴らしい、食欲をそそられる。
是非とも会いにいかねば。


「敬愛を込めて閣下と呼んでほしいのである」
それが、『赤い濃い人』と書かれた、のぼりをたどって着いた先に居た人物の第一声だった。
なるほど、権力者か。
ならば、それ相応の対応をするべきだろう。
「閣下におかれましては、ご機嫌麗しく、サキミタマ心より・・・」
膝を折り拝謁の礼を尽くす。
なぜだろう、閣下から焦りと当惑を感じる。

その後も、礼を尽くし、敬い、尊び、賞賛を重ねる。
しかし、どうにも状況は芳しくない。
ここまでして、喜び一つ浮かべず居るとは。
そうとう芯の座った為政者なのだろうか?

「そ、そんなにかしこまっていては商売の話もやりづらい。ふ、普段道理話すことを許すのである」
「あぁ閣下、ご配慮痛み入ります。それでは、失礼して・・・」
次は安堵か・・・ それも欲しい感情とは違う。なかなかに難物だな。

さて、商談だ。私の目的が違ったとしても、閣下は商取引を望んでいる。
もうその欲求を利用する以外、方法がなくなった。


付加の技術交換が決まり、ウサギの露店へ向かいながら打ち合わせる。
閣下に手を入れてもらう品が、ウサギの所持品だからだ。
ウサギには相談していないが、まぁ大丈夫だろう。

「これに付加をして欲しいのである」
「忠臣育成の書ですか。イトマゴイとは何でしょうか?」
「暇乞いとは家臣から愛想を尽かされることである。あるじとして恥ずべき事なのである」
家臣が愛想を尽かす、か・・・

閣下は乗っていた神輿を、アップルさんに担がせての移動となった。
しかし、担ぎ手のアップルさんは1匹。
神輿の後ろに担ぎ手はいない。
この神輿、浮遊して自律移動が可能なのだ。

「でしたら閣下、なぜご自身で従者を作成しないのですか?」
引っかかっていた疑問をぶつけてみる。
「閣下ほどの技術の持ち主なら、裏切らない、いや、裏切りという言葉さえ思いつかない従者を作る事ができるのではないですか?」
そう、私のような・・・
「そうであるな。やって、できない事ではないかもしれん」
そういって担ぎ手のアップルさんに目を向ける。

アップルさんは汗を受べ、必死で神輿を担いでいる。
この神輿の驚くべき技術は浮遊ではない。
担ぎ手が1人でもいる場合、その担ぎ手に適度な負荷をかけるバランス制御。
ここにこそ、特筆すべき技術がある。
筋肉の張りからみても、アップルさんには相当な負荷がかかっているようだ。

しかし、そんなアップルさんがうれしそうなのだ。
「吾輩は思うのである。家臣や従者が居てこその主なのだと」
そんなアップルさんを眺める閣下にも喜びがともっていく。
「よき主に仕えたと喜ぶ家臣が居る、それこそが主の喜びなのだと」

一見、無意味に見える労働を『主のとの絆』として受け入れ、喜びに変えていくアップルさん。
重要な仕事を与えられているが、仕事の完遂しか望まれていない私。
真の幸せを知る者のは、どちらなのだろうか。

少なくとも、イトマゴイを選べるあのアップルさんは、売られる側では無いのだろう。

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本日の贖罪

縁遠いウサギ:ENo.3485 レグリュエル様
         合流できた しかし、喰えず
閣下      :ENo.3053 ミコーシュ・F様
         この後、美味しくいただきました

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。
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■ 四日目


「看板を一つ拝借しますよ」
[かまわないが、何につかうんだ?]
「釣りです」
[こんな陸地の真ん中でか?]
かしげる首に合わせて、2mの躯体に相応の長い耳がゆれた。

ステップ1
ウサギからもらってきた看板に
【不用品です お気軽にお持ちください】と書きつけてウサギ露店の隣に立てる。
ステップ2
この間森で拾った木材をおく。
ステップ3
気長に待つ。

冷ややかな店番ウサギの視線に
「さて、仕上げは流々というやつですね」
と答えて座り込む。


かかりませんか・・・ 
「仕方ないですね、取引に出かけますので、かかったら確保しておいてください。」
と、ウサギに声をかけ出かけることにした。

露店生活にも少し慣れてきたところだが、ウサギの話ではそろそろ出発するらしい。
次の標的は巨大化したネズミだそうだ。
やぱり巨大ウサギとしては、巨大ネズミを追いかけたいのだろうか?
しかし、困った。
出発となると、当然人里を離れるわけだが、そうなると決まって付きまとう問題がある。
つまり、その間の食事をどうするか。
次の街まで最短で3日。
我慢できるが辛くもある、そんな微妙な距離だ。
しかし、あのウサギ、幸が薄いのかいまいち食べづらい。
理想としては、ウサギに代わる非常食が確保できることなのだが・・・


そんな考えに耽りながら、目的地にたどり着く。
腕のいい職人がいるという聖堂。
うわさを信じているのは私だけではないらしく、他に2人の客がいた。
熱を帯びた青年と、花の香りのする女性。
どうやら、青年の合成を依頼する代わりに、女性が仕事を請け負ったようだ。

「では、私は付加を行なって戻りますので、ハヤミさんは他の依頼品の受取をお願いできますか?」
「それは構わねーんだけど・・・ 呼び方、それで決定なのか」
「ん〜 ハヤミさんじゃないとすると・・・ たっちゃん?」

これから別行動になるようだ。
今日の食事はこの二人のどちらとしよう。

「では、おねがいしますね。あと、テルリウムさん見かけたら戻るように声かけてください。」
「りょーかい、んじゃ」
「あと、」
「ん?まだ何かあんの?」
「お花、踏んだりしないで行ってきてくださいね」
「ふ、ふまねーよ」
「摘んだりとかも」
「つまねーし、なんもしねーから」
一点の曇りもない笑顔を浮かべる女性と、対照的に引きつった笑顔の青年。
これは、青年の方にしよう。


「いや、助かりました。私も付加の技術があるのですが、先約が居りまして、お受けできなかったのですよ」
なんとか、警戒をかいくぐり会話へと持ち込む。
どうやら青年の目的地は、私の次の目的地は同じらしい。
同行を申し出、歩きながらチャンスを伺う。
人通りの増える前に、食事にありつきたいものだ。

「これは、なかなかの品ですね」
「あぁ、これでようやく・・・」
目的の品を手に入れた喜びを浮かべるが、なんだろう?
陰りとでも言うのだろうか、微妙に食欲をひかれない。

「そういえば、お花がどうとか。」
「あ、いや、あれについては聞かないでくれ・・・」
陰りが濃くなってしまったか。
しかし、この辺りに問題がありそうだな。

「花がご入用ならこれを差し上げましょう」
そういって帯につけているポーチから花を取り出す。
「は? ポーチから? そんなものいつも持ってるのか?」 
「魔法で生成した花です。手品のタネみたいなものですよ。精巧に作りましたが造花なんです」
「いや断固いらない。手品どころか、いらぬ誤解のタネになる・・・」
陰りの正体は薄い怯えなのだろうか。
だとするとプレッシャーといったところだろう。

「お仲間とうまくいっていないのですか?よろしければ相談に乗りますよ、こんな格好もしていますし」
「あんた、神父、なのか?いや、いいって、べつに問題とかもねぇし。」

ではやはり・・・
「問題があるのは、あなたの方なのですか?」

話すべきかを考えているのだろうか?
複雑な表情と、入り混じる心の色。
もう少し話しやすく促そうかと考えていたとき、青年は話し始めた。

「いやだってさ、あって数日なんだぜ。なのに、火を使うなとか。得意なんですよね?とか聞いておいてさ」
酷いだろっと苦笑しながら青年は続ける。

「でもそれって、火を出さない火霊使いとも一緒にいるっつー事なわけだし。
だから、あいつは、あと多分もう一人も、こんな短い間に、役に立つとかそういうの超えた内側なかんじで」
いったん言葉を切る。
青年自身、次にくる言葉がなんなのか、わかっていないらしい。

「なんつーか、正直どう接したらいいのか、分かんなくてな」
しかし、困ったようにそう語る青年には強い喜びがともっている。
陰りなど見えなくなるくらいに強く。
いや、素直じゃないね。

「ただ、ありがとうと伝えればいいのだと思いますけど」
「いや、でもなんか」
照れているのか、一瞬視線を外す。

・・・・イマダ・・・・

「しかし、」
手を伸ばし、青年の肩に触れる。
「心が浮き立った時にこそ、危険は這い寄るのです」
目の焦点の合っていない青年に語りかける。
「重々、お気を付けください」
喰われている最中の者はよくこんな顔をしている。
そして、この青年なかなかに旨い・・・



「どうです、すこし安らいだ気分になりましたか?」
声をかけられ、青年の目に力がもどる。
「あぁ、なんか落ち着いた、のかな・・・」
「軽く祈祷を行いました。そのままお仲間のところへ戻れば、素直に感謝が伝えられるのではないですか?」

少し考え後、青年は渋い顔をしたのみだった。



青年と別れた後、ほかの買い出しを終え、ウサギの露店へと戻ってきたのだが・・・

辺りは緊迫していた。
お互いがお互いから目を離せず、相手の次の動きをうかがっている。
その脚はいつでも走り出せるようかかとを浮かせ、重心を傾けつつぎりぎりそこに制止できるように調整する。
2者の間に違いがあるとすれば、立場の違いだけ。
追うものと追われるもの、狩猟者と逃走者。
まさに一触即発。

商談用のテーブルを挟んで、ウサギと角の付いたお嬢さんが対峙している。
ウサギがこちらに気づいて、視線をそらす。
瞬間、じりじりとしたそのバランスも崩れ、2者同時に走り出す。

お〜 速い速い。
向こうの木で折り返して、あっちの露店をまわりこんで、また戻ってくる。
テーブルを挟んで対峙。そして、にらみ合い。
ウサギの疲れ具合からみて、もう何周もしているのだろう。

「よくは分かりませんが、休憩にしませんか? ちょうどよくプラムケーキもありますし」


「なんであんな事になっていたんですか?」
「逃げるから」 [追ってくるから]
本能が原因だろうか?

話を整理すると、このお嬢さん白樺がもらえるという噂を頼って、ここまで来たのだとか。
そして、ウサギを発見、以下、さっきの通り。
なるほど、ウサギは私のいいつけを守ってくれていたらしい。
グッジョブ、とサインを送るがウサギは死んだ目をして肩で息をするばかりだった。

そんなこんなで、切り分けたケーキをほおばる角付のお嬢さん。
その表情はとても幸せそうで、私も食欲を刺激される。
しかし、食事のためにと伸ばした手に視線を感じ、あわてて引っ込める。
視線の主をたどると、あの熱を帯びた青年がいた。
「おい、あんた・・・」
鋭い視線をこちらに送ってくる。


「ま、いいや・・・ テルル帰るぞ」
わずかの緊迫の後、彼の方から視線を外した。もしかしたら、確証があっての事ではなかったのかもしれない。
だが、あのまま手を伸ばしていたら、きっとこれでは済まなかったのだろう。
「あれ、橘君?」
「橘君?じゃねーよ、なかなか戻ってこないんでリリィさん心配してるぞ」
「そんなに時間たってたんだ。ごめんなさい。橘君にも心配かけちゃったね。」
「いや、まーそのなんだ。俺は別に・・・」

ごちそうさまでした。
そういって、角付のお嬢さんと熱を帯びた青年は去って行った。
しかし、自身は喰われた事にさえ気付かなかったのに、仲間の時はすぐ察知するとは。
これからも苦労しそうだな、あの青年は。

[ところで、疑問なんだが]
「なんです?」
[お前、さっきの男の胸ポケットに、こっそり花さしてたろ?]
「ええ、気づかれなくて何よりです。」
[あれはなんのサービスなんだ?]
「意趣返しと言いますか、食べ物の恨み、というやつでしょうか?」


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本日の贖罪

非食用ウサギ:ENo.3485 レグリュエル様
       喰いづらい 反省しろ
熱を帯びた青年:ENo.1818 橘 速様
        おいしゅうございました
花の香りの女性:ENo.3499 リリィ・ブロッサム様
        青年より隙がなかった
角付のお嬢さん:ENo.3533 テルリウム・レンナート様
        惜しかった 次こそは

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。

な、なんだってー バリツウェポンズに客がいっぱい (`□´/)/  
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■ 五日目


さて、今更なんだが何故私たちは昼間に行動をしているのだろうか?
そもそも、ウサギは夜行性だし、私に至っては休息の定義すらあやふやだ。
街での商取引中は、相手があってこそなのだから致し方ない。
客に合わせ昼間に行動するのが合理的だ。
しかし、行軍となると話は変わる。
自分の有利な、動きやすい、疲労しづらい時間に行動するのが合理的。
索敵の意味をもっても、夜間の方がウサギ的には視界が良好のはずだ。

なのに、このウサギは昼間の行動を好む。
その意味をきちんと理解しているのだろうか?


いかに温暖なセルフォリーフといえど、夜に休息を取るとなれば焚火を囲い、野営地を作る必要がある。
寒暖差を考慮する意味合いもあるが、野生動物からの防衛という側面も大きい。
また、私達には縁遠いが、調理の際にも焚火は必要になる。

その焚火から程よく暖が取れるあたりに、簡易テーブルが設営されている。
その上に広げられている書類やら、帳簿やらをながめる。
何もこんな時にまで、と思いもするが、このあたりがウサギの妄執なのだろう。
テーブルとテントでは荷がかさみすぎると選ばせた結果、テーブルが残ったくらいだ。

おかげで風邪をひくことになったとしても、それはそれで本望なのだろう。


毛布にくるまって震える人の姿をしたウサギを、焚火の向こうに見ながら、ウサギの残務をかたす。
テーブルに置かれたランプの明かりを頼りに、発注書にウサギの名前があることを確認していく。
サインのない1通は、仕方がないので私の名前を印す。

そう、このウサギは名前を自分と重ねている。
その意味をきちんと理解しているのだろうか?



ウサギがウサギであるのなら、呼び名はウサギで十分なはずだ。
機械が機械であるのなら、呼び名は機械で十分なはずだ。
故に私の名も、その機能のみで十分であったはずだ。

探偵よ、何故、ウサギに名を付けた。
探偵よ、何故、私に名を付けた。


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本日の贖罪

風邪ひきウサギ:ENo.3485 レグリュエル様
        食わせがいすらないとは・・・

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。

今回の日記はENo.3485 レグリュエル様の日記とリンクしています。
いや、むしろ向こうが本編です。
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■ 六日目


サキ「これはまた、ずいぶんと大きなネズミですね。ウサギ君、こんなのと戯れたかったのですか?」
レグ[……どうひねくれたらそんな発想に思い至れるんだよ……依頼だ、依頼。セルフォリーフ騒動には積極的に関わるって決めただろ]
サキ「それはそうですが、どうしてこう、巨大動物たちは食いでが無さそうなんですかねー」


街から離れて3日目、それは喜びを食わずに3日目でもある。
正直、そろそろ誰か食べたいものだ。

サキ「もう限界です、まるで7週間くらい何も食べていないかのようです」
レグ[七週間も断食したことなんてない癖に……がまんすれば、明日には街につくんじゃないのか?]

にべもない・・・


サキ「そういえば、料理の技術を学ぼうと思うのです」
レグ[……何だよ、急に]
サキ「いえ、今までは釣餌は購入して済ませていたのですが、こうも未開の地が続くと、それもままなりませんので」
レグ[釣り餌って……まあ、何かを学ぼうとするのは良いことなんじゃないのか?]

サキ「それで、教えてほしいのですが、料理とは何ですかね?」
レグ[そこからなのか!? ……料理っていうのは、食材をより食べやすくしたり、そのままでは食べることのできない食材を食べられるようにすることだよ]
サキ「食べることのできないものを、食べることができるようにする、ですか・・・」


サキ「成程、だいたいわかりました。ウサギ君、技術習得に協力して頂けませんか?」
レグ[……何をどうすればいいんだ?]

味見、いや毒見か?などと看板を作成しているウサギを尻目に、焚火に火をおこす。

サキ「とりあえず、この本に載っているオリエンタル料理です。なんでも腹を空かせた旅人に対する最高のもてなしなんだとか」
レグ[オリエンタル? へえ、名前が名前だとやっぱり、そういう方向に興味が向くのかな]

では、まず・・・

サキ「ウサギ君、焚火に飛び込んでください」
レグ[……は?]
サキ「は?ではありません。早く飛び込んでください」
レグ[どういう話だ!]
サキ「いえ、本に書いてありましたので」

ウサギに本の内容を軽く説明する。
なんでも、腹を空かせた旅人と出会ったウサギが、自身を食料にして貰う為に焚火に飛び込んだとか。
その時、ウサギにも、旅人にも喜びがあふれたんだとか。

サキ「これなら、頑固なウサギ君も喜びを浮かべてくれそうだとおもいまして」

レグ[思いまして、じゃない!!]
[ガッデム!!] [死ね!!] [拒否!!]

無数の々の看板が乱れ飛ぶ。ウサギの次の技能開花は叩射だろうか?
数が数だけに、あまり悠長にもしていられなそうだ。
外れた看板を拾い、ウサギの頭部めがけて投げ返す。
きっとウサギがつかれるまで続くのだろう。


サキ「それにしても、お腹、すきましたね・・・」

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本日の贖罪

未調理ウサギ:ENo.3485 レグリュエル様
       『たべられません』

快くレンタルさせて下さいました皆様、色々申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。

今回の日記はアイコン変更記念でメッセージ形式です。
次回どうなるかは考えてません。
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