一欠けらの希望を握り締めて、ばたばたと渋谷駅のガード下を走る。 希望という名のそれは手のひらに収まる程度の小さなバッチの形をしていた。何の希望かと言えば、ヨシュアを待つしか能のなかった俺が自分の意思でヨシュアに会いにいけるかもしれない、という可能性の一つだ。 羽狛さんからもらったそのバッジの図柄は参加者バッジのものとよく似ているけれど、黒地に白いスカルの参加者バッジとは逆の色合いで、白地に黒い参加者マークが描かれている。要するに、参加者バッジをそのままネガポジ反転させた図柄だ。 あの夏のゲームの後も、間隔はばらばらながらちょくちょくと羽狛さんの店には顔を出していた。何せ羽狛さんは俺の憧れのその人だというのだから、少しでも近くに、と思ったのはごく自然なことだろう。 まあ、あのゲームで色々あったせいで、俺の羽狛さん及びCATに対する認識は少しばかり形を変えてしまったけれど。でも尊敬する気持ちは今でも変わらなかったし、憧れの人だということに間違いはないのだ。 そんな中、しばらく忙しさにかまけてしばらくワイルドキャットへの訪問が叶わなかった時期がある。 少し間が空いたな、と思いながら久しぶりに店の敷居をまたいだその日、カウンターの隅の席に控えめに腰掛けていた人物に俺は冗談ではなく心臓が飛び出すかと思った。相変わらず店内は閑古鳥が鳴いていると思っていたけれど、今日はしっかりと一人の先客がいたらしい。 緩やかに波打つ黒髪も、その表情を覆い隠す真っ黒なサングラスも、柄の悪いホストのような着こなしのスーツも、あのときと寸分違わぬ姿で指揮者の彼は暢気にコーヒーを啜っていた。 何せ彼――北虹寵という人物に関して俺は何一ついい思い出などなかったものだから、思わず身構えてしまったのも仕方のないことだと思う。 けれど立ち上る湯気をくゆらせて、のんびりとカップを手にしている彼のあまりに邪気のない姿と、彼の目の前、カウンターの中でこれまた暢気にこちらに手を上げている羽狛さんの姿で、少なからず脱力してしまったことも否めない。 「よぉ、久しぶりだな」 「やぁ」 「……ちわ、っす」 サングラスのおっさん二人に同時に挨拶されて、内心ちょっぴりたじろいでしまったことは俺の胸の中だけの秘密だ。ついでに薄い微笑をくちびるに乗せた指揮者の彼の挨拶の仕方がヨシュアにそっくりだなと思ったのだけれど、それも内緒にしておこう。 店に入った手前何も注文せずにじゃあ俺はこれで、というわけにもいかず、少しばかり気まずい気持ちでいつものカウンター席に腰を下ろす。指揮者の彼の隣に座る勇気はなく、かといってあまり離れて座るのも羽狛さんと話しにきた身としてはおかしいだろうと思い、結局彼の椅子から二つ分空けた左隣に収まった。 「……あの」 「ん?」 「えっと、なん……で……」 いつものようにコーヒーを淹れてくれる羽狛さんに、聞きたいことは山ほどあったのだけれど、なんであのとき消滅したはずの彼が今ここにいるのかというのはなかなか聞きづらく、自分から口を開いたもののどう言っていいのかわからずに口ごもる。 すると羽狛さんはようやくこちらの意図を汲んでくれたのか、んん、と首をかしげてから驚いた様子で大げさに頭を掻いた。 「ああ、そういえばこっちでメグミに会うのは初めてか?」 「う、ん」 こっち、というのはRGのことだろう。UGに属する人たち特有の言葉遣いはヨシュアで慣れていたので、すぐに分かった。メグミ、というのが彼のことだというのも、ヨシュアも同じように下の名前で呼んでいたから混乱することはない。ただ、ぱっと聞いただけでは一般的には女性に多い名前なのに加え、羽狛さんが彼のことを下の名前で呼び捨てにしていることも意外だったせいで不思議な気持ちになる。 「そっかー、そうだよな。おまえはメグミが消滅したと思ってたんだよな。実は消えてなかったんだ、これが」 本人の前で言うのは悪いだろうかと思ってわざわざ消滅という言葉は避けていたのに、あっけらかんとした様子でさらりと口にする羽狛さんに思わず突っ込みを入れたくなった。 なぜヨシュアといいこの人といい、高次元の存在に近い人たちはもう少しオブラートに包むということを知らないのだろう。 心配になって思わず隣の彼の様子を窺ってしまったけれど、表情は読み取りづらくとも特に気にした様子もなく静かにコーヒーカップに口をつけていた。羽狛さんと彼の関係はいまいち掴めなかったけれど、どうやら冗談が通じる程度には気の置けない仲、であるらしい。 一応消滅していなかったことはヨシュアの口から聞いて知っているけれど、まさか羽狛さんと一緒にいるとは思わなかったので驚いてしまったのだ。 「まあ、色々あってな。今は俺が預かってるんだ」 「ふうん……」 なんだか羽狛さんは説明するのが面倒だというような素振りだったので、あまり深く追求することなくそれで納得することにした。まあ今の俺にとって指揮者の彼の存在は特に害があるわけでもないし、と羽狛さんに差し出されたコーヒーカップを受け取り、砂糖とミルクを投入してから口をつける。 預かっている、という言葉の意味がいまいちわからなくて、少しばかり首をかしげてしまったけれど。 彼はカウンター席に腰掛けながらも、特に羽狛さんと話込むわけでもなく、ただごく自然にそこに座っているという体を崩さずに、羽狛さんと俺の会話を邪魔しないよう無言で促しているようだった。 彼がそんな様子だったので、俺もすぐにこの空間に慣れて、いつものようにくだらない話を羽狛さん相手にぽろぽろと喋ることが出来る。 大抵は俺が話すことと言えばヨシュアのことだし、俺が羽狛さんに会いに行くのも普段さほど多くは顔を見ることのできないヨシュアの様子を探るため、というのが大きい。 そんなこともあって、最近またヨシュアが疲れた顔をしている気がする、羽狛さんからも少し言ってやって欲しい、というようなことを愚痴っていたら、それまで静かに俺と羽狛さんの会話を眺めていた隣の彼が唐突に口を開いた。 「ネク君、と言っただろうか」 「へ、あっ……はい」 「そのことで、少し君に頼みがあるんだが」 「え……は、はあ」 まともに向かい合って話すのはこれが初めてだったせいか、声を掛けられてやたらと緊張してしまう。 けれど彼の低い声音と落ち着いた喋り方はどこかこちらを安心させてくれるようで、聞いているうちに段々と警戒心を解いてしまった。なるほど、コンポーザー直属の部下だけあって、その辺りはヨシュアそっくりだ。 話によると、彼もヨシュアの様子はここ最近ずっと気になっていたらしい。元々仕事中毒のような気があるというか、仕事に関してはのめり込むと妥協を許さないらしく、休暇中でも仕事に手を出してしまうことがよくあるのだとか。いくら人ならぬ身とは言え、指揮者の彼から見てもそれがやはり心配の種なのだという。 「コンポーザーほどの方とは言え、気を張ってばかりでは身体にもよくないだろうと思うんだがね。たまには気分を和らげることも必要だと思う」 「うん……まあ、それは確かに」 「所謂ガス抜きというやつだな。それを、君に頼めないかと思ってるんだ」 俺ではどうにも力不足なのが否めないからな、とこぼしながら相好を崩す彼は、手にしたカップを一端ソーサーに置くと、ポケットから取り出した何か小さなものを俺に渡してくれた。 それはゲーム中に嫌というほど俺の手に馴染んだバッジと同じ大きさのもので、白地に黒のスカルが描かれている。 彼の言葉を信じれば、それを持っていれば俺の意思でUGまでの高次元に行くことが可能になるという。 今現在俺が練ることのできるイマジネーションで行けるのがUGまでというだけで、俺次第でいくらでもその他の高次元を訪ねることさえできるようになるかもしれない、と補足があったけれど、なんだかそれは御伽噺じみていた。 どうやらゲーム中使用したバッジと同じく、彼の依頼で羽狛さんが作ってくれたものらしい。職権乱用じゃなかろうかと内心思ったものだけれど、もちろん言わずにおいたわけだが。 というか、あれか。わざわざこれを用意して待っていたということは、さもただの先客ですという体でここに座っていた彼は実際のところ意図的に俺を待っていたということか。なんだかそういうところは、ものすごーく誰かさんに似ている気がする。まあ、誰とは言わないけど。 「会いに行ってくれるだけでいいんだ。君ならきっとそれで十分だろう。あの方は少し自分を戒めすぎるところがあるから、きっと君が思っているよりあの方の休暇は多い。仕事熱心な方だからな」 「でも、俺がUGに行くとよくないって……」 それはヨシュアの言葉で、俺自身そんなの知ったことかと思っていたのだけれど、UGに属する二人を前にしているという建前上一応聞いてみた。 「それは……」 彼が口を開こうとするのを皿を拭く手を止めた大きな手が制して、続きはそのまま羽狛さんが引き継いでくれた。 「確かに、本来RGに存在しているおまえがUGに行くのは少なからず影響がある。UGはもともと死神のゲームを開催するためだけの空間だしな。それが悪影響かどうかは、まあ、主観の問題だ」 それが具体的にどんな内容の影響なのかヨシュアが教えてくれたことはないし、そのときの羽狛さんも深く言及してくれることはなかったのが一つだけ気がかりだけれど。 「なら、どうして」 「あの方はそれがおまえにとってよくないことだと思ってる。けどな、それはあの方が勝手に決めることじゃなくて、おまえが自分の意思で決めていいことなんじゃねーのか、と俺は思ってるわけだ」 「俺、の」 「UGに行けば当然ソウルの結合規律やら構成やらがUGに近くなる。それでも行きたいなら俺は止めないし、今のまま待ってるだけでいいってんならそんなバッジ受け取らなくていい。もうガキ扱いされるのもうんざりだろうしな、おまえの好きなようにするといいさ」 UGに近くなる、というのは具体的にはやはりよく分からなかったけれど、以前は視えなかったものがヨシュアといることで今は視えるようになったりだとか、そういうことなのだろうと思うと感覚的に理解することはできる。 どうしたものかと隣の彼を窺うと、相変わらず瞳の色は見えないものの口元は優しげに微笑んでいた。 「これはあくまで俺の『頼み』だからな。この後どうするかは、君に任せるよ」 一応目の前の大人二人の顔色を窺ってはみたものの、俺の意思などもうとっくの昔に決まっていた。受け取ったバッジをぎゅっと握ってから、有り難く貰っておきます、と小さく呟いてポケットに仕舞う。 そうすると、彼はほっとしたように息を漏らして再びカップを手にしながら、今日ももし会いに行けるなら行くといいと教えてくれた。本来休暇のはずの今も、ヨシュアはUGに篭もりきりなのだという。 考えてみたら、今仕事があったなら彼がこんなところで暢気にコーヒーを啜っているはずがない。それならヨシュアも手が空いているはずなのだ。 そのことに気が付いたらもういてもたってもいられなくなって、貰ったコーヒーを一気にぐっと飲み干すと、カウンターに小銭を置きながら「また来るから!」という一言だけを残して店を飛び出した。 よくよく後から考え直してみると、どうにも彼らの口ぶりはヨシュアと俺の関係を知った上で、という以外に考えられなくて、そのことに気がついてしまったらあまりの羞恥に頭を抱えて悶絶してしまったのだけれど、まあそれも今さらだろう。 結局その日はヨシュアに会うことは叶わず、というか、俺の訪問に気づいたヨシュアによって審判の部屋の扉を硬く閉ざされてしまったせいで、ヨシュアの部屋に足を踏み入れることは叶わなかった。 扉の隙間から一瞬だけちらりとヨシュアの顔が見えたけれど、それだけだ。頑なに扉を開けないヨシュアに負けじと俺も頑なに動かずにいたら、ヨシュアは強行手段として恐らくあのオレンジのケータイでだろう、俺を無理矢理RGに送り返したのだから。 あまりにつっけんどんなヨシュアの拒絶に落胆してしまって、その日はそれっきり大人しく家へと戻った。 まあ、ヨシュアは俺がUGと関わるのをよく思っていないから、諸手を挙げて歓迎してくれるだなんて甘い考えは持っていなかったけれど、ショックではなかったと言えば嘘になる。 数日後に俺の部屋を訪問したヨシュアには、そのことについてぶちぶちと小言をいくつも聞かされたものの、その程度で諦めるくらいなら俺は最初からヨシュアを探したりしていない。 そんなわけで今日は二度目の挑戦になる。無事にガード下をくぐって罪深きものの道へと出ることができたので、バッジはなくさないようにポケットに仕舞った。 本当は以前、ヨシュアに再会したばかりのころは元ゲーム参加者だったせいか、やはりヨシュアの波動の影響があったのか、UGに行く道が俺には見えていたことがある。 けれどそのときの俺はヨシュアのこともUGのことに関してもあまりに無知で、会いに来ないならヨシュアも忙しいだろうかと考えたし、無意識のうちにUGへの恐怖心を覚えていたせいか、自分から会いにいくことはなかった。 以前ヨシュアからの連絡が途切れた際、衝動的にガード下へと走ってしまったことはあるけれど、結局そのときも意図的に道は塞がれていて踏み入れるには至らず、それからしばらくするとヨシュアもそのことに気づいたのか、いつの間にか見えていたはずのUGへの道は完全に閉ざされてしまっていて、それっきりだったのである。 ついこの間、一度目にUGを訪問したときに感じた疑問を聞きに再び羽狛さんと指揮者の彼の元を訪ねたのだけれど、このバッジはそうやって俺をUGに行けないようにしているヨシュアの作った壁を無効化することができるらしい。そのついでに高位変換(低位同調の逆だ)もこなしてくれる優れものだと、羽狛さんが笑いながら教えてくれた。 ちゃんとした手順を踏んで高位変換しないと身体自体に支障をきたすと教えられて、それは以前に俺も身に染みて知っていたことだったから、その前にUGへと本格的に入り込むようなことをしなくてよかったなと思う。 ついでにゲーム時にはまた別の種類の壁がRGとUGの間に張られるらしく、その関係でゲーム中はバッジを持っていても入ることはできないから安心してくれと言われた。たしかにゲーム中のUGに踏み入るのは、ヨシュアが嫌がらずとも俺も御免被りたいので有り難いことだ。 念を入れたいなら、ヨシュアに会いに行く前にワイルドキャットに寄ってみるといいとも言われた。店に指揮者の彼の姿があれば、ヨシュアも同じく休暇だということになるからだ。ただ彼も仕事以外で外出しているときがあるので、これは本当に念を入れるなら、ということだったが。 というわけで今日は念を入れてワイルドキャットにも顔を出してみたけれど、案の定この間と同じように指揮者の彼の姿がカウンター席にあった。ということは今日もまたヨシュアはUGに引きこもっているということだ。 ヨシュアがRGに来るときは多少なりとも身体に負担を抱えているから、無理に会いに来いとは言わないけれど、それなら尚更俺が会いに行ってはいけない理由なんてない気がした。 ヨシュアに負担をかけずに済むどころか、会いに行って気分転換をさせてやろうと言うのだから(その上それを指揮者の彼に頼まれたのだから)もう少し前向きに迎え入れて欲しいものだと思う。 俺が会いにいくだけでヨシュアの気分を和らげてやることができるのだろうかと思うと少し不安にならなくもないのだけれど、そこはそれ、ずっとヨシュアと道を共にしてきた彼の言葉を信じるしかない。 それより何より、誰よりも俺がヨシュアに会いたいのだから、仕方ないではないか。 長い長い道を走って、床下と壁いっぱいに魚の泳ぐ部屋に入れば、前回門前払いを食らってしまった審判の部屋の扉がうっすらと見える。ドキドキする胸を押さえながら一応心持ち二回、小さなノックをしてみたけれど、何も返事がない。 そっと扉を押してみると、鍵はかかっていないらしく音も立てずに開いてしまったので、恐る恐る足を踏み入れた。色鮮やかな壁グラを横目に裁かれしものの道を早足で通り過ぎれば、すぐに審判の部屋だ。 本来、ゲームの勝者が審判を受けるべく入る部屋だけれど、指揮者の彼がバッジを渡してくれたのだから一応表向きのUG責任者の了承は得られているわけだし、何よりヨシュアに会わなければ話にならない。 壁も床も真っ黒な、やたらとだだっ広くて薄暗い部屋をこつこつと進んで緊張しながらその先の玉座を見据えてみたけれど、やはりそこに腰掛けているはずの人物は見当たらずもぬけの殻だった。 どこに行ったのかときょろきょろと見渡して、一度だけ俺も入ったことのあるヨシュアの寝室の扉に目が止まったけれど、あそこはヨシュアがいなければ扉が開かないはずだし、さすがに寝室にまでずかずかと入り込む気にはなれない。ここまで来ておいて、今更かもしれないけど。 今度こそ、と気負っていただけにやや拍子抜けだ。かといってこのまま帰るのもなあ、と未練がましくうろうろしていると、もう一つ知らない扉を見つけた。 部屋に入って正面からはすぐ見えない、玉座の裏側だ。寝室だけではなくて、ここにも部屋があったらしい。 一応ここもノックしてからドアノブを回すと、あっさりと扉は開いた。ここは何の部屋だろうという疑問を持つ間もなく、一目見ただけでヨシュアの書斎なのだとわかる。何せ本、本、本だらけというか、本棚と本しかなかった。 天井に届く高い本棚がずらりと並んでいて、だというのにまだ入りきらないのか床にもいくつか本の山が積み上がっている。 以前一度きりの記憶ながら寝室にも大きな本棚があったと思うのだけれど、あれはほんの氷山の一角であったらしい。 それ以外には大小さまざまないくつかの脚立がそこここに置かれていて、そのうちの一つ、一番背の高い脚立のてっぺんに目的の人物は優雅に腰掛けていた。 淡い色の髪がより一層映える暗色のスーツを身に着けたそのいでたちは、数える程度しか目にしたことのないヨシュアのオトナ姿だ。ピンストライプのスーツに水玉模様のネクタイとは、なんともヨシュアらしいチョイスだと思う。 今俺がいるここはUGなのだから、ヨシュアが低位同調をしていなくて当たり前なのだけれど、ごく自然にその姿をさらしているということが俺にはなんだか新鮮だった。 ぱら、と手にしたハードカバーの本のページを捲るしなやかなゆびの動きも、長い脚を折り畳んで脚立に腰掛けながら紙面を見つめる横顔も憎らしいくらい様になっていて、そのまま一枚の絵にしてしまえそうなほどの光景に思わずぼうっと見惚れてしまう。 と同時に、ヨシュアの姿を視界に入れた途端ずしりと身体が重くなるのを感じた。 しまった、すっかり波動の制限を解いたヨシュアから受けるプレッシャーのことを忘れていた。まだ少しヨシュアとの間に距離があるから、ぐっと足に力を入れて踏ん張れば我慢できそうだけど。 とりあえず部屋の中へと一歩足は踏み入れたから、この間のように扉向こうで締め出されてしまうことはないはずだ。 そう自分に言い聞かせてから、未だ手の中の本に夢中なヨシュアへと向かって、腹に力を入れながら声をかけた。 →次へ |