※性描写を含みます。ご注意ください。 ソファでくつろいでいるネク君の隣にいつも通り腰かけたら、なぜか逃げられた。 逃げられたというか、いつもならくっついて座るところを距離を空けられたというか。一瞬ちいさく肩を跳ねさせたかと思うと、僕から離れるように位置をずらした。 さほど広くもないソファに二人で座っているわけだから、ほんの数センチ程度だけれど。 珍しいこともあるものだと、首をかしげてネク君を見つめる。 「おまえの声、なんか……」 もごもごと、口ごもりながら呟かれた言葉は語尾が弱く、最後まで聞き取れなかった。僕はネク君を見てるのに、ネク君は僕を見てくれない。落ち着かない様子でうろうろと視線を泳がせている。 「うん?」 促すつもりで声をかけると、またネク君の肩が跳ねた。どうしたんだろう。なんだか、様子が変だ。 「僕の声がどうかした?」 俯いて何も言ってくれないネク君の顔を覗き込むように、空けられた数センチの距離を詰める。すると途端にネク君の身体は逃げ出そうとしたけれど、すぐにソファの端に阻まれて追い詰めるのは簡単だった。 ダメ押しに、自身の膝の上をうろうろしていたネク君の手をそっと握る。手を重ねた一瞬またびく、と身体を震えさせたものの、捕らえるようにゆびを絡めるととうとう観念したらしい。 「なん、か……やらしい」 消え入りそうな声でやっと吐き出された言葉の意外さに、さすがに驚いた。次いで、どう反応していいのか分からずに困る。 「それは……褒められてるのか、貶されてるのか、判断がつかないんだけど」 僕の声が好きだと、何度かネク君に言われたときは素直に嬉しく思ったものだけれど、こんなことを言われたのは初めてだ。 「あ、ち、ちがっ……あの、貶してるとかじゃ、なくてっ」 やらしい、なんて褒め言葉ではまず使わないだろう。けれど悪口を言っている風でもなくて、余計にどう捉えていいのか分からない。ネク君は無意味に僕を悪く言ったりしないし、というような自惚れた考えも頭をもたげる。 ネク君自身どうしていいのか分からないとでもいうように、おずおずと視線を上げると、必死に言葉を選んでいる様子でぽつぽつと口を開いた。 「今日、洗濯物取り込んでるとき……歌ってただろ」 「う、ん? そうだっけ」 「歌ってたんだよ。洋楽、あんま分かんないけど……」 言われて、思い返すと確かに歌っていたかもしれない。鼻歌ならよく歌っている自覚はあるけれど、そう言われると今日はなんとなく気分がよくて口に出してしまっていた気がする。殆ど意識していないから、覚えていないのだけれど。 最近の曲でも、演歌でも、童謡でもなんでも歌うけれど、今日は洋楽だったらしい。 「それ、聞いてたら、なんか……」 「なんか?」 「……」 それ以上は言葉が見つからなかったのか、またネク君は俯いてしまった。 一生懸命説明してくれたネク君には悪いのだけれど、正直先ほどから僕が喋るたびに身体を震わせるのが面白くてしょうがない。 ゆびを絡めて握った手を、そっと引っ張る。 「ふふ」 「っ……」 思わず漏れた笑い声に、ネク君は何かを我慢するようにぎゅっと目を瞑った。 「ね、おいで」 反対の手で赤くなった頬をするすると撫でると、ネク君はもう抵抗する気をなくしたようで、腕を引かれるままに素直に僕の膝の上に座る。 「僕の声でやらしい気分になっちゃったんだ?」 膝にかかる重みと熱を愛しく思いながらわざとらしく耳元で囁くと、ひく、とネク君の頭が揺れた。 「う、るさいっ……」 強がりを漏らしながらも、その声も身体も震えていては、僕からすると微笑ましく感じられるだけなのだけれど。 「でも、僕は普通に喋ってるだけだし。やらしいのはネク君のほうじゃない?」 「そ……んなの、ちが……」 膝の上で身じろぎながら、ともすれば今にも逃げ出しそうな腰をぐ、と捕まえる。ネク君の汗ばんだ手を離して、そのまま下肢にゆびを滑らせた。 「あ、勃ってきちゃったね。まだ何もしてないのに」 「ん、んくぅ……っや……」 強い性感を与えないように服の上からそっと撫でると、既に形を成しているものが感触で分かる。 ふるふると揺れる頭が肩口に押し付けられるのを感じながら、窮屈そうなネク君のズボンを下着ごと脱がせた。 既に殆ど立ち上がってしまっているものが露になると、ネク君の声はますます泣きそうなものになる。 「ぁ……さわる、なぁ……」 漏れる先走りを掬うようにゆびを這わせると、なけなしの力で阻むようにネク君の手に押し返された。 形ばかりの抵抗なのは見ていれば分かることだけれど、押し返されたそのままに屹立から手を離す。 「ほんとに? 触らなくていいんだ?」 「え、ぁ……」 あっさりと離した手を、ネク君の視線が名残惜しそうに追った。こういう反応は素直なのに、ね。 「ほら、いっぱい漏れてきちゃったよ」 耳たぶに口づけながら囁くと、分かりやすくネク君の身体は揺れて、また先端からとろりと先走りが零れる。 「ふ、ぅく……やだ、ぁ……っ」 「いいの? ひくひくしてて、触って欲しそうだよ」 「や……いや、ぁ……んく……も、しゃべんな……!」 僕の一言一言にいちいち反応するように腰を跳ねさせながら、ネク君は僕の口を塞ぐように手のひらを押しつけてきた。 はぁはぁと息を荒げながらのいじらしい抵抗に、思わず笑いが漏れてしまうのが自分でも分かる。震える手首を掴んでほんの少し引き剥がすと、指先に口づけた。 「んっ……んん……う、ゃ」 「僕が喋ると感じちゃう?」 「や、ら……や……っ」 ぴく、ぴく、と痙攣しながら逃げ出そうとする手は強く掴んで、ゆびのまたをじっくりと甘噛みする。小指の方から順々に歯を立てながら、空いた手をネク君のシャツの裾から差し入れた。 するすると胸に這わせていくと、既につんと尖って指先に当たるものを押しつぶすように撫でる。 「ここも硬くして、女の子みたい」 「んく、うぅ……やだ……やだ、ぁっ……!」 くに、くに、と弄くるたびに腰を震わせていては、嫌だなんて言われても何の説得力もないのだが。 ネク君の唯一自由な手は必死に僕の胸を押し返そうとしているけれど、ろくに力の入っていないそれはただしがみついているようにしか見えない。 ネク君と僕の間で揺れる彼の屹立に目をやると、既に白っぽくなった先走りでべたべたになっていた。 「あは、もうこんなに白くなっちゃってるよ。出ちゃいそうだね」 僕の言葉に、ネク君の顔が泣きそうに歪む。一通り舐め終わった手のひらを離すと、力の抜け切ったそれは寂しそうにぱたりと脇に落ちた。それと同時にまたネク君の頭が肩口に押し付けられて、荒く乱れた呼吸の熱を直に僕に伝えてくる。 自由になった手で、つ、と震える屹立を撫でた。 「あ、うぅっ……ん、んん……!」 「ほら、触らなくていいのかい?」 胸への愛撫も続けながら、焦らすようにかりかりと先端の括れをくすぐると、我慢できないようにネク君の腰が跳ねた。 「だ、め……だめぇ……っはぁ、あぅっ」 「どうなの?」 「ん、んっ……さわ、さわって、ぇ……! おね、おねがい……っ」 泣きじゃくりながら腰を擦りつけようとするネク君に笑いかけて、ぱ、と屹立から手を離す。 「だめ。もうこのまま出せるでしょ?」 「あ、ぁっ……やだっ、やぁぁ……」 既に断続的に痙攣しているネク君の身体は、なにもせずともこのまま達してしまいそうだ。 「いいよ、ほら。いってみせて」 それでもこのまま放り出してしまっては可哀想かなと思い、せめてもに囁いた耳元へ柔らかく噛み付いた。 途端にネク君はびくん、と大きく身体を跳ねさせて、あっけなく射精する。 びゅ、びゅ、と吐き出された精液の量が少ない気がするのは、直接的な快感を得られないまま達してしまったせいかもしれない。 「ふ、ぅ……く、う……ぇ」 ぐったりと僕の身体に凭れて呆然としていたネク君は、徐々に状況を理解したのか、くちびるを噛み締めてぽろぽろと泣き出した。 「ネク君?」 「ば、か……ばか、っしゅあ……!」 悪態を吐きながらも、ネク君の腕はぎゅうっと僕の身体にしがみつく。 「おれ、こんな……の、やだ……っ」 「うん?」 「ひ、く……ちゃ、と、さわって……ちゃんと、しろ……よっ……」 嗚咽を漏らして震える背中を撫でながら、思わず苦笑してしまった。 「触るなって言ったの、ネク君なのに」 泣いている子どもに、少しこれは大人げなかったかもしれないけど。 「だ、って……おれ、さいご、に……ちゃんと、言った、っのに……」 ますます泣きじゃくる声に、さすがに苛めすぎたかなと少し反省する。ろくに触られもしないまま射精してしまったのは、さすがにショックが大きいようだ。 「うん、ごめんね」 素直な気持ちで謝罪すると、しがみつく腕にまたぎゅっと力が込められた。 しばらくぽんぽん、と優しく背中を撫でる動作を繰り返していると、ようやく涙が止まったらしいネク君がまだ少ししゃくりあげながらも顔を上げる。 「ふ……お、れ……ヘン、なんだ」 唐突に落とされた呟きに、思わず首をかしげた。 「ヘン?」 「な、んか……ヨシュアのこえ、聞くと……おかしく、なっちゃ」 しゃくりあげる声は揺れていて、不安そうにくちびるが震えている。何よりもまた泣き出しそうなネク君の表情が頼りなくて、そっと頬に手を添えた。 驚かせてしまわないように、震えるくちびるにやんわりと口づける。 「いいよ? ヘンになっても」 「よ、しゅ……」 「僕の声で、気持ちよくなってくれてるんでしょ……?」 ちゅ、とついばむように口づけながら囁くと、またぴくりと肩を震わせる痩せっぽちな身体がたまらなく愛しい。 所在なさげに僕の膝の上に座り込む腰を、そっと抱き寄せる。 「今度は、ちゃんとね」 なるべく優しく聞こえる声音になるようにと祈りながら囁くと、胸の中でネク君が小さくうなずくのが分かった。 →次へ |