※性描写を含みます。ご注意ください。




 今日もUGは平和だ。
 つい先日開催したゲームもつつがなく終了、順調に参加者全滅、死神の子たちには休暇が出ている。
「ふ……や、だ……」
 とはいえ、下っ端は休みでも僕も一緒にお休みです、とは行かないのが管理者の悲しいところだ。
 糸目をつけなければ、僕の仕事など腐るほどある。
 とはいえそんな業務は今日も順調、コンポーザーの座を狙って僕の元に奇襲を仕掛ける輩も本日はなし。
 神、空にしろしめす、なべて世はこともなし……なんて誰の言葉だったか。
 まあ、神様なんていないんだけどね。
 いるのは自分たちの理想、という名目を借りた娯楽を追い求め、それらを下界に押し付ける天使。それに日々搾取と蹂躙に励む死神だけだ。下位次元の人間なんて、僕にはさながら実験動物にしか見えない。
「ヨシュ、ア……」
 そして、僕のペットは今日も可愛い。とても平和だ。
 じゃら、という耳障りな金属音は頼りなげで、その振動は跳ね返る壁にたどりつくまでもなく広がって消えた。
 彼がちっぽけな自分の存在をそれでも知らせるかのように、ささやかに身じろぎをしたらしい。
 広々としたこの審判の間には、それはとても弱々しいだけのものだ。
「ふ、ぇ……ぅ……」
 視界を覆い隠す布を濡らしながらぐす、とすすり泣く声を漏らす彼は、ただいまお仕置き中なのである。

 眷属としての契約を済ませ彼をここに連れてきたのは僕とはいえ、残念ながら四六時中構ってあげるわけにはいかない。僕には僕のお役目というものがあるのだ。
 それは僕が彼と過ごす平穏な時間の権利を得るための義務でもあることは最初に強く言い含めているし、聡明な彼にはきちんとわかっているはずである。
 コンポーザーとはいえど、死神たちに与えられたポイント制度の制約からは逃れられない。役目が違うのだから得られるポイントの大小は比べられないけれど、役目を果たさなければ消滅、それは変わらないのである。
 コンポーザーの役目はというともちろん、ゲームの開催だ。
 僕がこの役目を負ったときに制定したルールを吟味し、ときに改定を重ね、ゲームを開催する。ゲーム開催前の準備として参加者の選定も行わなければいけないし、それを任せる部下に指揮者を通して指示、新しい死神の教育を任せる部下にも指揮者を通して指示、準備がつつがなく終了し開催の運びとなれど、ゲーム中のトラブルへの対応だってもちろんしなくてはいけないし、ゲーム終了後の見返りはコンポーザーの能力なくしては成立しない。
 最低なゲームだと彼に罵られたこともあるけれど実際このゲームがなくてはUGもRGも回っていかないし、大人数を動かすのだからゲームの開催、と一口に言ってもやることは前にも後にも山ほどあるのだ。
 とはいえ死者の数もその時々によって変動するため、暇を持て余して毎日のように彼を愛でるときもあれば、一ヶ月も二ヶ月も構ってあげられないときもあった。
 UGの住人となってしまった今、時間の経過の意識は希薄になりがちではあるけれど、それでも自分が業務に徹しているときは彼も暇を持て余すことになる。
 低位同調の仕方はUGに招いてすぐに教えたからRGに遊びに行ってもいいし、UG内はどこでも歩き回って構わないと言っておいた。
 とはいえRGに行くのになかなか踏み切れないらしい彼は、出歩くときはもっぱらゲーム中に顔見知りになったらしい死神によく遊んでもらっているようだ。RGに出向いて、生前の知人やかつてのパートナーだった子たちに遭遇するのを恐れているのかもしれない。合わせる顔がない、と自嘲しながらそれでも彼は僕についてくることを選んだ。まったく、可愛いったらないよね。
 それでも、暇を持て余しているだろう彼が出歩く頻度はとても低く、大抵はこの部屋で、僕の横に大人しく座っている。
 遊びに行かないの? と時折促してはみるのだけれど、彼はただゆるゆると首を振って玉座の隣にぺたりと座り込む。たまに広々とした部屋の中をうろつくことはあるけれど、大体の彼の定位置はそこである。
 そうして大人しく僕の傍を離れまいとしている彼はとても可愛いし、仕事の邪魔になるほどのことでもない。僕からしてもそれは歓迎すべきことだから、何も言わずにいた。
 その彼が、今日はどうしたことか、書類とにらめっこしている僕にちょっかいを出してきたのである。
 ちょっかいと言ってもささやかなもので、珍しく自分の定位置を離れた彼はそっと玉座に座る僕の膝に乗り上げ、キスをねだってきた。それだけといえばそれだけなのだけれど。
「なあに? 何かのお誘い?」
「え、あ……ご、ごめんなさ……い」
 軽く触れ合わせただけのくちびるが、すぐに離れる。
 謝るということは、彼にもこれが悪いことだというのは分かっていたらしい。我慢できなかったのか、それとも故意犯なのだろうか。
「僕お仕事中だって、見ればわかるよね」
 首をかしげてやんわりと尋ねたのに、びくりと肩を跳ねさせる彼はとても可愛い。そう、可愛く思っていなければ、こんな悪戯どうということもないのだが。
 残念ながら少なからず自分も彼に対して好意を寄せている。その彼にこんな風に可愛くねだられては、気が散ってしょうがないのだ。
 ペットの躾は始めが肝心と僕は心得ているので、お仕置きはきちんとする方針である。
 見れば彼の下肢はすでに屹立しているのが服の上からでも分かった。やれやれ、えっちな想像でもしちゃったのかな。
「そんなにこの椅子に座るの好き?」
「ち、ちが……」
 見当違いの僕の質問を彼は律儀に否定しようとするけれど、そもそも意味がないので無視。膝の上で居心地悪そうな彼を抱き上げて床に下ろすと、僕も立ち上がる。
「いいよ、座って」
 促すように顎で指し示したけれど、これは命令だ。彼は僕の機微をとても敏感に感じ取るので、びくつきながらも逆らったりせず、素直に従う。
 書類はいつも傍に置いている小ぶりなテーブルの上に一端乗せ、ネク君の元へ屈みこんだ。
 彼のベルトに手をかけ、かちゃかちゃとバックルを外す僕の様子をネク君は期待のにじんだ視線で窺っている。
 その期待を裏切るように、ベルトを引き抜くとさっさと立ち上がった。
「手、頭の上にして」
「えっ」
「早くしてよ」
 命令口調に怯えながらも僕の言葉通りに、ばんざいをする形で彼が腕を上げた。その両腕をまとめるようにベルトをぐるぐると巻きつけて、金具を留める。
 そんな僕の動作を不安そうに、その青がこぼれ落ちてしまいそうなくらい瞳を揺らす彼はやっぱりとても可愛かった。

 周囲に設置されている鎖の一つを引っ張ってきて、ぐるりと玉座の背に回すと、そのままベルトに通して固定する。
 玉座に座りながらつながれる形になった彼は、時折身じろいで金属音を立てることはあるけれどそれ以上の身動きはできない。両手を自由にしておくと、どうにも我慢のきかないらしい子どもの彼は自分で触ってしまうからだ。ついでに僕の胸元から引き抜いたネクタイも、目隠しとしてプレゼントしておく。
 始めはやだやだと泣きじゃくっていた彼も、無言でしばらく放っておいたら大人しくなった。
 これで心置きなく仕事に専念できると、書類に目を通しながら今に至るわけである。
「ヨシュア……どこ……?」
 泣き疲れて涙声で僕を探す彼に、優しく声だけは返してあげることにした。
「ここにいるよ」
 ようやく聞こえた僕の声に、一瞬彼がほっと安堵したのが窺える。でもしばらくすると、彼はまたぐずぐずと嗚咽を漏らし始めた。
「ぅ、うく……うぅ……」
 声だけで返事をして、触れてこない僕が彼は不安なのだろう。
 やれやれ。どうあっても今日の彼は僕に構ってほしくてたまらないらしい。
 やっとすべてに目を通し終わった書類の束の末尾にサインを入れると、まとめてテーブルの上に放り投げた。
 泣きじゃくるネク君の元に歩み寄りそっと膝をつくと、その肌にはなるべく触れないように下着ごとズボンを脱がせる。
「ヨシュア?」
 見えなくても、少なくとも服を脱がされたのだろうことは分かるらしい彼が、こちらを窺うように声を上げた。
 あらわになった彼の熱は放って置かれたにも関わらず、それでも勢いを失わずに勃起している。僕の視線を感じたらしいそこが、とろりと先走りを漏らした。
「縛られてるだけなのに感じちゃったの?」
「や、やだ、ちが」
「違わないでしょ、こんなにして。やらしー」
 くすくすと漏れる笑いで赤くなる彼をからかいながら、上着を探ってケータイを取り出す。見慣れたオレンジのそれをいつも通りに片手で操作すると、ヴーヴーと振動を始めた。規則正しく震えるケータイをパタンと閉じると、彼の太腿を掴んで大きく脚を広げさせる。
「さて、ここで問題です」
 至極明るい声音で告げたのに、彼の体が強張った。
「今からネク君の下のおくちが咥えこむものはなんでしょう?」
 露になった後孔に振動を続けるそれをあてがう。
「ひっ」
「まあ、答えなくていいよ。聞いてみただけだから」
「やだ、やめ……ぁ、あぁぁ……!」
 拒絶する声は無視して、そのまま押し込んだ。
 僕に慣らされた彼の身体は、その小さな機械を易々と飲み込んでいく。最近のケータイは優秀で生活浸水くらいなら故障しないから、便利になったものだよね。
「や、ぁ、やだぁ……あっあ……こんなの、ゃ」
 ぶるぶると頭を振りながら、それでも彼はケータイが振動するたびに声を上げる。ナカのものを締め付けるたびにぐちゅ、と音を立てるそこを見ると、全く説得力がない。
「ふ……ぅ、あ……よしゅ……こわ……こわい……!」
 ネク君の腕が何かを求めるように動いて、がしゃがしゃと鎖をならす。うん、怖くないとお仕置きにならないでしょ?
「僕の代わりにそれ貸してあげるから、いい子にしててね」
 泣き喚くネク君の頭に手を乗せて優しく撫でると、頭の中でこんこん、と丁寧なノックが聞こえた。
 凛と尖った、女性らしい気配。
「ミツキ君か。いいよ、入って」
「失礼致します」
 涼やかな声と同時に、見えない扉を開けて彼女が部屋に足を踏み入れる。
「コンポーザー、お茶が入りました」
「ああ、ありがとう。そこに置いといてくれる?」
 はい、と従順な返事を返して二人分のカップを乗せた盆を手に、彼女は小さなテーブルに歩み寄る。かちゃ、と微かにせとものの音を立てながらソーサーごとカップをそこに置くと、ミツキ君はちらりと玉座に腰掛けるネク君を一瞥した。
 それでも特に反応を見せることなく、彼女はなんでもないように僕に視線を戻す。
「先日の経過の件について、ご報告申し上げてもよろしいでしょうか」
「うん、聞かせて」
 続けて報告を口にする彼女の凛とした声は、途切れ途切れに漏れるネク君の喘ぎ声に遮られることもなくしっかりと届いた。
 彼女には現在、ここUGの指揮者として職務を任せている。
 ネク君が参加したあのゲームで、ほとんどの幹部が消滅を余儀なくされた。彼の手によって。渋谷UGとしては前代未聞の異常事態である。
 優秀な部下が減ると負担が増えるのは当然僕なので、当時は非常に困った。一人二人なら替えがきくかもしれないけれど、もはやそういう問題ではない。
 困った末、なんだか面倒になった僕は消滅した彼らのソウルを掻き集めて、全員復活させてあげることにしたのだ。一度は参加者に敗北したことに目を瞑ってあげたんだから、感謝して欲しいよね。
 中には身体の一部が禁断化しちゃった子もいるみたいだけど、使い物になるなら僕は気にしない。
 ミツキ君はその中でもキレイにソウルが集められたみたいで、とくに不自由しているような点は見当たらなかった。
 彼女を指揮者にしたのはそれが理由でもあるし、優秀なのはもちろんなのだけれど、何よりも一番の理由は前指揮者の復活が叶わなかったから、である。
 ソウルを集めた際、一番に探した彼のソウルは不自然なほどキレイに、どこにも見当たらなかった。まるで誰かが持ち去ったかのように。
 その誰かの見当はすでについているのだけれど、特にその人物を問い質すようなことはしていない。
 なぜなら僕にも多少の弱みがあるからだ。そして、その弱みを上に報告することができる唯一の存在が、件の人物なのである。
 RGの優秀なイマジネーションを備えたネク君を僕の眷属に迎え入れたことは、上にとっては好ましくない大きな損失であることは間違いない。そのことを上に悟らせるつもりなんて毛頭ないけれど、僕だって危ない橋は渡りたくないのだ。
 僕のこの行為も規律違反ではあるけれど、件の人物の『ソウルを隠した』という行為も規律違反だ。
 そのことを彼も分かっているのだろう、暗黙の了解としてお互いに口をつぐんでいるのである。
 唯一の上にばれる可能性を無事に潰した僕は、彼女を指揮者に迎え悠々と今日も業務をこなしている、というわけだ。
 彼女は秘書としても優等生なので、そちらの業務も兼ねてもらっている。こんな些細なお茶汲みも嫌な顔一つせず毎日こなしてくれて、とても優秀だ。何よりミツキ君の淹れるお茶は妥協を感じさせず、とても美味しい。
「以上です」
「ありがとう、もう下がっていいよ。あ、それとそこの書類もう目を通したから、持って行ってくれる?」
「かしこまりました」
 乗せるもののなくなった盆を抱え、書類を手に取ると確認するようにぱらぱらとめくる。
 その彼女が、一瞬だけ何か物言いたげに視線を寄越した。
「なに?」
「いえ……」
「いいよ、言ってごらん」
 促すように首をかしげると、書類をまとめ直した彼女が口を開く。
「……ただ、最近は熱心に職務に精を出してくださっていて、こちらとしてはとても助かるな、と。それだけです」
 やだな、それじゃ前まで僕が不真面目だったみたいじゃないか。
 彼女はこんなことも物怖じせず、自分の感じたとおりに口に出すので僕は気に入っている。
 僕がネク君のために仕事を頑張ってるのがおかしいとでも言いたいのかな。まあ、それは本当のことだけれど。
 可愛いペットが僕の仕事が終わるのを毎日隣で待っていてくれるんだから、そりゃ精も出るでしょ。もちろんそんなこと彼女には分かっているのだろうし、言わないけど。
 思わず笑い声を上げた僕に対して、彼女は相変わらず無表情だ。笑いを堪えながら、用件の済んだらしい彼女に退室を促すようにひらひらと手を振る。
「それでは、失礼致しました」
 ぴんと伸びた背筋で軽く会釈をすると、ミツキ君は静かに退室した。
 気になっていた報告も受けたし、渡しに行こうと思っていた書類もミツキ君が持って行ってくれた。手間が省けたね。
 そういえば、今まで途切れ途切れに喘ぎ声を上げていたネク君が、気づけば静かになっている。
 ひょい、と覗き込むと、どうやら設定していたバイブが止まってしまったらしい。ネク君の口からは、は、はと荒く吐き出す呼吸の音だけが聞こえた。そういえば昨日充電するの忘れてたっけ。
「よ、しゅあ……ごめ、なさ……」
 僕の動く気配が伝わったのか、ネク君が嘆願するように弱々しい声を上げる。一度達してしまったらしく、下腹部から太腿にかけて白く汚れていた。
 その声はもう掠れてしまっていて、少し苛めすぎたかなとそっと濡れた頬に手を添える。ゆびが触れた瞬間、びくりと怯えるように震えたけれど、すぐにすり寄せるような動作をする彼がいじらしい。
「も、これ、取れ……とって……」
 彼の視界を遮っている布地を指先で弄ぶ。泣き濡れているだろう青がいつまでも見えないのは、僕としても不満だ。
「もうお仕事の邪魔したりしない?」
「し、しないっ」
「次は、ちゃんと大人しく待てる?」
「ぅ、うんっ、うん……」
 こくこくと頷くネク君の頬をひと撫ですると、目隠ししていた布を取り払う。
「いい子だね」
 赤く濡れそぼったまぶたに優しくキスすると、潤んだネク君の目にまた涙が溢れた。
「よしゅ、あ……ヨシュア……」
「うん」
「ぉ、おなか……冷た……」
 もうとっくにネク君の体温に馴染んだであろうそれが冷たいはずはないのだけれど、充電の切れた無機質な機械をそう称した彼が可愛くて、そっと後孔に指をもぐりこませる。
 内部を犯す機械を少しずつ引き抜くと、そのたびにネク君の身体が震えた。
「あ……っぁ……!」
「ほら、抜けちゃうよ」
「んん、んーっ……」
 全部は引き抜かず、中途半端にくわえ込ませたままの状態でケータイをいじると、びく、びくと痙攣するように腰が跳ねる。
「あっ、やだ……やっ、あ」
「抜けそうなくらいが、一番気持ちいいでしょ」
「ゃ……いや……」
「抜いちゃってもいいの?」
 意地悪くそのままで遊ばせていると、乞うようにネク君の濡れた瞳が見上げてきた。
「よ、ヨシュアのじゃない、と……やだ……っ」
 ふるふるとネク君が首を振るたびに、鎖の音とは別にちゃり、とその細い首に回った首輪が鳴る。
 ゲームに関わらず、ポイントを稼がないネク君が(彼は僕のポイントに依存する形をとっているのだけれど)UGをうろついていると他の死神の士気に関わるため、僕が着けてあげたものだ。
 彼は僕の眷属なのだと分かりやすく周囲に示すためだけのものではあるけれど、紫紺に光るそれはネク君にとてもよく似合っている。
 可愛いことを言って僕をねだるネク君に思わず緩む頬を許してやると、無粋な機械はすぐに引き抜いた。
「ふ、ぅ……」
 安心したように息を漏らすネク君に気をよくして、彼の腕を拘束している鎖もベルトも外してあげた。うっかり力加減を間違えてぱき、と鎖が割れる音がしたけれど、まあ後で直しておこう。
「ヨシュア……!」
 拘束が外れた途端、すぐにネク君の腕が僕の首に回って、引っ張られるように玉座のふちに膝をつく。
 ぎゅうっとしがみつきながら、胸元に額を擦り付けるネク君はそれこそお留守番をしていた犬みたいだ。
 そのまま声も上げずに泣きじゃくるネク君を抱き締め返すと、安心させるように優しくその背中をぽんぽんと叩いた。
「ヨシュ、ア」
「うん」
「あ、の……仕事は……?」
 心配そうにこちらを窺う彼の額に、笑いながらキスを落とす。
「今日はもうおしまい。ミツキ君が来てくれたからね」
「ほ、ほんと……?」
「うん。だから」
 期待をにじませる瞳に、とっておきの笑顔で言ってあげた。
「今日は、いっぱい遊んであげるよ」
 囁くようにそう告げると、零れそうな夜色の目に欲望を宿らせる彼は、やっぱり、どうしようもないくらいに可愛い。

 そういえば。
「どうして今日はあんな悪戯したの?」
 僕の質問に、なぜかネク君はその細い肩をびくりと大げさに震わせる。
 理由も聞かずに叱りつけてしまったのはよくなかったかもしれない、なんて思いながら質問してみた、のだが。
「だ、だって、一生懸命仕事してるヨシュア見てたら、なんか変な気分になってきて」
 ああ、なんというか。
「ヨシュアの横顔、キレイだったから……」
 ペットが可愛すぎるのも問題かもしれないとか、ミツキ君のお茶冷めちゃうなぁとか色んな思いが頭をよぎったものの、素直な欲求には逆らえずにそのままネク君のくちびるを塞いだ。



20081007

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