※性描写を含みます。ご注意ください。




 こんな行為にはもうとっくに慣れていてもいいはずなのに、ついばむようにくちびるを触れ合わせただけでネク君はすぐに赤くなる。
 今日この椅子に座っているのはネク君で、いつもとは逆の体勢にどういう風にしようかな、なんて暢気に考えていると、彼のほうからご要望があった。
「よ、ヨシュア」
 く、とネク君の手が控えめに僕の背広の襟をひっぱる。
「どうしたの?」
「あの、今日、ここじゃなくて……ベッドがいい……」
 言葉と同時に僕の左手側に向けられたネク君の視線をたどると、大きな柱のようなものがある。一見するとそれが何なのか分からないほどにこの部屋に馴染んでいるけれど、ちゃんと扉のついた僕の寝室だ。
「あのベッド、おまえの匂いするから……好きだ」
 あまりに可愛い物言いに、思わず笑みがこぼれる。
「うん。じゃあ、僕の部屋行く?」
 こくりと頷くネク君がもう歩けないのは分かっているから、震える身体をそっと抱き上げた。

 何もない部屋で唯一存在を主張しているベッドに彼を下ろすと、何やら急に恥ずかしくなったらしくネク君はもぞもぞとうつぶせになって、手繰り寄せたシーツに顔を埋めている。
 ネク君が来るまでほとんど使っていなかったから僕の匂いがするのかどうか定かではないのだけれど、彼にはちゃんと分かるらしい。
 その仕草は飼い主の衣服と戯れる犬のようで、愛らしさにとても苛めたくなる。
 一緒にベッドに乗り上げ、自分のベルトを外してさっさと前をくつろげると、ぐ、とネク君の腰を掴んで膝を立てさせた。
「あっ……な、なに」
 四つん這いで高く腰だけを掲げるような格好に、驚く声を上げた彼は分かっていてやっているんだろうか。ここまできて今更『なに』などと言われても困るのだけれど。
「ひっ、ぅ」
「あんまりネク君が可愛いから、勃っちゃった」
 覆いかぶさるように手を重ねて彼の脚の間に勃起したものを滑り込ませると、びく、とその背中が震える。
 そのまま太腿に擦り付けるように、わざとらしくゆっくり動かした。
「だから、ちゃんと慰めてよ」
「あ、なにっ、ぁ……やめっ、ゃ」
 先ほど彼自身が出したものと次第ににじむ僕の先走りで、動かすたびにぬる、と滑る感触がする。どうやら太腿だけでなく彼のものの裏側にも擦れるらしく、そのたびに抱え込んだ細い腰が跳ねた。
「ゃ……いや、ぁ……」
 男の子でも素股って気持ちいいものなんだろうかと少し疑問だったのだけれど、僕が動くごとにふるふるとシーツに額を擦り付ける彼の様子を見ると、そう悪いものでもないらしい。
 後ろから彼の耳元にくちびるを寄せて、囁いてみる。
「ふふ、こんなのでも気持ちいいんだ?」
「ぅ、あ……ちが、ちがう……!」
「あ、腰揺れてるね。ウソツキだなぁ」
 くすくすと吐息を漏らすたびに声を上げる彼が可愛くて、その耳に光るピアスに噛み付いた。指摘されてもなお動いてしまうのが止められないらしい身体はとても正直だ。
「よしゅ、ヨシュアっ」
「うん?」
 そんな身体とは正反対の不満そうな声に、彼からは見えないのを分かっていてもつい首をかしげてしまった。
「か、顔……見えないの、やだっ」
 どうやら先に目隠しされたことを引き摺っているらしい。それでなくても彼は後ろからされるのをなぜか嫌がる。一度いわゆる正常位の形でしてから、ネク君はその体勢がいたくお気に召したらしい。
 どうしてそんなに僕の顔が好きなのかはよく分からないけど、まあ僕はどちらでも構わないのでネク君の望みどおりにしてあげることにした。
 一端身体を離して、仰向けになる彼を手伝う。脚の間から僕のものが抜けていく際、名残惜しそうに腰が動いたのを彼は自分で気づいているだろうか。
「ん、ん……っ」
 露になった、下腹部で揺れる彼のものはもう完全に勃起していて、先ほどの余韻でびくん、びくん、と全身が痙攣している。
 普段しないことをしたせいか、震えが止まらないようだ。
「そんなに気持ちよかった?」
「ゃ、やぁっ……」
 再び彼の屹立に僕のものを押し付けると、逃げるように彼の脚が動いた。でもそうすると屹立だけでなく彼の内腿にも擦れることになって、跳ねる身体にネク君は泣きそうな顔をする。どうやら彼は太腿も弱いらしい、というのは新しい発見だ。
 逃がさないように手首を捕まえてシーツに縫いとめると、もう片方の手はそっと彼の胸に這わせた。
「ひゅっ」
 その胸の中心から少しずれたところで存在を主張する傷を撫でると、ネク君は呼吸の仕方を忘れたかのように息を詰まらせる。
「だめっ……だめ、ぇ」
「何が? ネク君、ここ好きでしょ」
「あっ、い、いっしょにさわっちゃ」
「一緒に? こう?」
「やぁ、やあぁ……!」
 赤くなった傷をなぶるゆびはそのままで、押し当てた屹立を擦り合わせるように腰を動かした。ぶるぶるとネク君が頭を揺らすと、目尻に溜まった涙がぱたぱたと零れる。
「え、ぅ……ふ、うぅ」
 感じすぎてしまうらしく、泣きながらはぁはぁと嗚咽交じりで喘ぐネク君の呼吸は荒い。そんな彼になんとなく庇護欲をそそられて、薄く開いたくちびるに優しくキスをした。そのために乗り出すようにすると、ますますネク君と腰がくっつく。
 ふと、身じろぎする彼の首元に目をやると、定位置からずれた首輪の下が赤くなっている。向こうの部屋で遊んだときに少し暴れていたから、擦れてしまったらしい。
 特に意味もなくその赤くなった首筋を舐めると、ネク君がむずがるように声を上げた。
「な、ぁ……なにっ」
「ここ、痛くない?」
「ん、んー……よ、よく、わかんな……」
 どうやら見た目ほど痛みはないようだ。後で何か塗ってあげよう、と忘れないように頭の中にメモする。
「よしゅあ、よしゅあ」
「うん?」
「も、もう……」
「欲しい?」
 再びくちびるを触れ合わせながらいつも通りに問いかける僕に、ネク君が少し不思議そうな顔をした。
「ょ……ヨシュア、も……?」
 僕はネク君のように直接触られることなく自然に勃起してしまう、ということがあまりない。でも今日はそれが違ったらしいということに気がついたネク君は、少し期待まじりの青で僕を見上げてきた。
 無邪気なその様子に、思わず苦笑が漏れる。
「僕が聞いてるんだけど?」
「あっ……」
 擦り合わせていた屹立を離して後ろに滑らせると、ひくつく入り口をくすぐった。無粋な機械に一度犯されたそこはもう慣らす必要はなさそうだ。
「ほ、ほし、い……っ」
「本当に?」
「ぅー……ウソ、ついても……しょうがないだ、ろっ」
 いつでも全身で僕を欲しがってくれる彼が可愛くてつい聞いてしまうのだけれど、今日は怒られてしまった。
「僕のじゃないとやだ?」
「あ、当たり前、だ……」
 先ほどケータイで少し苛めてしまったことを、やっぱりまだ根に持っているらしい。やれやれ、ご機嫌ナナメかな。
「好きだよ」
「えっ」
「ネク君、好き」
「……ん」
 小狡く囁きながら捕らえていた手首を離すと、観念したようにネク君の腕が僕の首に回る。そんな彼の背中を抱き返しながら、先ほどから開閉を繰り返す後孔に少しずつ屹立を押し込んだ。
「う、あ……ぁっ……!」
 やっと待ち望んでいたものを与えられて、逃がすまいとでも言いたげに内部がぎゅう、と収縮する。
「は……ぅ、や……」
 その反動か、全部を押し込んだ途端ネク君は達してしまったようで、がくがくと腰を震わせながら泣きそうな顔になった。その様子に、思わず首をかしげる。
「ぉ、おれ……ヘンだ……っ」
「どうして? 気持ちよかったんでしょ?」
「うー……」
「怒ったりしないよ」
 そっと宥めるように乱れた前髪を梳くと、それでもやっぱりネク君は泣きだしてしまった。
「だ、だって、俺……」
「うん」
「ヨシュアの、こと……好きすぎ、て、ヘンだっ」
 内部のものを食い締めてしまわないように、途切れ途切れの声はやっぱり濡れていて痛々しい。なのに、この内容とのギャップはどうだろう。
 ネク君には悪いけれど、つい少し笑ってしまったことを許して欲しい。
「ヘンじゃないよ」
 予想外のとんだ告白に、そろそろじっとしているのが苦になってきたので、ネク君の濡れた目尻を舐めながらゆっくり突き上げた。
「あっぁ……!」
 突き上げられるたびに我慢しきれないのか、少しずつ大胆になるネク君の動きに合わせて、強く揺さぶる。
 再び反応し始めた彼の屹立に触れると、また泣きそうな声が上がった。
「ゃだ、よしゅ……こわ、こわい……!」
「? どっか、痛い?」
「ちが……ゃ……」
「もう、やめる?」
「ちが、ちがう……ぅ……」
 怯える彼が不可解で動きを止めると、ネク君は嫌がるように僕の腰に脚を絡めて、しがみつく腕にぎゅっと力を込めた。
「きもち、くて……こわぃ……!」
 過ぎる快感が怖いのだと、そううったえる彼はまるで泣きじゃくる子どもで、思わず口元がほころぶ。
「怖い? ふふ、こういうのとか?」
 ぐい、と震える脚を抱え上げて彼の身体を折り曲げるように更に腰を押し付けると、内部が強く痙攣した。
「や、あぁぁ……っいや、いやぁ……!」
 ナカの普段は当たらないところに擦れるらしく、ぎゅうぎゅうと締め付けられるのは僕も気持ちいい。自分の欲求に正直に、そのまま強く腰を動かす。
「ヨシュア、ヨシュアっ」
「うん」
「よしゅあ……っ」
 揺さぶるたびに何度も僕の名前を呼ぶネク君の声を聞きながら、こみ上げる欲望をそのまま吐き出した。

「美味しい?」
「ん……」
「そう、よかった。ミツキ君のお茶だからね」
 彼女のお茶は冷めても美味しい。淹れたてを持ってきてくれた彼女には悪いと思うけれど。
 救急箱を探しに行った通りがかりに、ついでにテーブルに置き去りにされていたカップも持ってきたのだ。
 ちなみに僕の分は先ほどその場で飲み干してしまった。だってほら、喉渇いてたし。
 ベッドの上でぼんやりとカップを両手に持つネク君を後ろから抱っこする形で、最中頭の中にメモしたとおり彼の首に軟膏を塗っている。
「痛くない?」
「ああ」
「ホントに?」
 先に聞いたときとは違って、冷静になった今ネク君のその回答はとても疑わしい。
「……少し、ひりひりするけど、平気だ」
 やっぱり。
「しばらくこれ、外しておくかい?」
 ちゃり、と正面の鑑札を鳴らしながら尋ねると、彼は少し焦ったようにゆるゆると首を横に振った。
「やだ」
 予想外の返答に少し驚く。
 その様子が不思議で横から顔を覗き込むと、ほんのり頬が赤い。
「おまえが、着けてくれたから……」
 外したくない、と口ごもりながら呟く彼は、どこまで自分を惑わせれば気が済むのか。
「いい子だね」
 思わず苦笑しながらそんなことを口にしてみたけれど、本当は悪い子かもしれない。
 とりあえず塗り終わった軟膏を脇にのけると、彼の手にしたカップからお茶が零れないように、お腹に回した腕で優しく抱き締めた。



ちなみに鑑札にはご主人さまの名前がきっちり入っています。 20081009

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