※性描写を含みます。ご注意ください。




 身体が熱い。
 押さえつけるように被せた布団も、先ほどまで冷たかったシーツもなんらこの熱を下げる役割を果たすことなく、今はただ生ぬるい。
 もぞもぞと身じろぎしながら、結局耐え切れずに掛け布団を跳ね除けた。
 身体の動きを制限するものがなくなると、何も考えずに下肢に手が伸びる。
「ふ……ぅ……」
 迷うことなく下着の中に手を入れて、乱暴に扱いた。すでに勃起しているものが苦しくて、先走りのぬめる感触が気持ち悪い。
 ぎゅ、ぎゅ、と強く握っていれば簡単に快感が身体を支配して、もっともっとと勝手に手が動いてしまう。荒くなる息を苦しく感じながら、とにかく早く楽になりたいとそれしか考えられないくらい、切羽詰まっていた。そんな状態ではあっという間に射精感がこみ上げてきて、うつ伏せで膝を立て、焦れた手で下着ごとパジャマをずり下げる。
「ん、んんーっ……」
 このままだとシーツが汚れる、という考えにいたる間もなく射精して、吐き出した精液が手のひらから零れ落ちた。
「ん、う、ぅ」
 確かに身体を渦巻いていた熱は吐き出したはずなのに、未だ疼く身体にゆるゆると頭をシーツに擦り付ける。手のひらを汚す白濁は貯蔵量の少なさを表すかのように薄く、ここ最近はずっとこんな状態だ。
 それもそのはず、情けないことに、ここのところ毎晩のように自慰にふけっているのだから。

 きっかけは些細なことだったように思う。
 日に日にヨシュアに会うまでの間隔の短くなる俺に、ヨシュアが言ったのだ。
「今のネク君はきっと、僕に一週間も会わなかったらどうにかなっちゃうね」
 あの日以来、会いたいと思えばあまりにこいつは簡単に会いにくるものだから、自分ではまったく意識していなかった。だからこそその指摘があまりに恥ずかしくて、咄嗟に言ってしまったのだ。
「べ、別に、二週間でも……三週間くらい空いたって平気だし」
 三週間。奇しくもあの連続開催された死神のゲームの開催期間と同じだ。特に意識したわけではなかったのだが、なんとなく頭の隅に引っかかっていた数字だったのかもしれない。
「へえ?」
「つか、そんなことでどうにかなるわけないだろ」
 むしろ、会うたびに俺の身体はUGのものに近くなっているのだから。こちらの側の世界の人間としては、会わないほうが正しい判断である。まあ、今更そんなことも関係ないのだけれど。
 あまりに自信満々なヨシュアが悔しくて、まさしく売り言葉に買い言葉だった。
「そう」
 ヨシュアが端正な顔に微笑を浮かべながら、意味深にそう囁いた姿を思い出すたびに、なぜあの時ばかり自分の負けず嫌いが顔を覗かせてしまったのかと頭を抱えたくなる。
 その日を最後に、ヨシュアは姿を現さなくなった。

「ふ、く……うぅ、ぅ」
 三日くらいは平気だった。四日、五日はヨシュアのことばかりやたらと考えた。六日目にはもう寂しくて、八日目に我慢しきれず自慰をした。
 それから日を増すごとに間隔は短くなって、以前は一度きりだったのが、二回、三回する日が続いた。今日でちょうど三週間目だ。
 どんなに会いたいと思っても、ヨシュアは知らぬ存ぜぬという態度を見せつけるかのように何の反応も示さない。手元に残っているようなあいつの痕跡など何もなくて、自慰の手がかりさえ記憶に頼るしかなかった。
 強気で三週間くらい平気だと言い切ったくせに、情けないくらい身体はずっと正直だ。ただ熱を吐き出すだけでは満足できずに、慣らされた身体がヨシュアを欲しがる。
「ん、ん……」
 自身の精液でぬめるゆびで、そろそろと後ろに触れた。反射的にびく、と怖気づく身体を宥めすかして、思い切って中に潜り込ませる。
「あ……っは、ぅ」
 ぎゅ、と浅ましく締め付ける内部を振り払いながら、なるべく奥へ奥へと探った。それでもヨシュアの器用で長いゆびとは比べるまでもなく、物足りなさにすぐ二本、三本とゆびを増やす。
「う、うぅー……っ」
 四本目、が入った時点であまりのとめどなさに泣きそうになったが、やめることもできず、ひくつく自分の内部を引っ掻き回さずにいられなかった。
 それでも、どんなに指先を粘膜に擦りつけても満足するということはなくて、逆にどんどんと物足りなさに焦燥感ばかりがつのる。こんなのは嫌だ。ヨシュアのが欲しい。
「ふ……ヨ、シュア」
 こんな風に自分の身体が誰かを求めるなんて知らなかった。身体どころか心はもうとっくに悲鳴を上げていて、もしかしてもう会えないんじゃないかと考えるだけで涙が出た。
「ぅ、ゃだ……っヨシュアぁ……」
 ぐずぐずと嗚咽を漏らしながら、ナカを掻き回すゆびは止まらない。でもじりじりと焦燥感が増すばかりで、終わりが見えなくて、情けなくしゃくりあげるしかできなかった。
 意地悪なスミレ色の瞳が恋しくて、声だって聞きたいし、あの大きな手のひらでたくさん撫でてほしい。
「よしゅ……ごめ、なさ……」
 ヨシュアはまだ俺の声を聞いていてくれるだろうか。それとももう俺のことなど忘れてしまっただろうか。取り留めのないことばかり考えてしまって、ずきずきと頭は痛いし、吐き出す息は熱くて、涙の味がした。
 ふと、微かに頬をくすぐる感触にまばたきをして、視界を遮る涙を振り払う。
 ふんわりと舞う、白い羽。

「その身体が誰のものか、そろそろ分かった?」

 気づけば、ずっと会いたくてたまらなかった人物その人が、俺に覆いかぶさるようにベッドの端に腰掛けていた。
 呆然と見上げながら、何度まばたきしてもその姿は消えたりしない。うつぶせの体勢から身体を起こし、へた、と座り込む。
「よ、しゅあ」
「うん」
 柔らかく微笑むスミレ色に、鼓膜を震わせる優しい声に、また勝手に視界が潤んだ。
「ヨシュア」
「そうだよ」
「ヨシュアっ」
「ふふ、なあに」
 そっとヨシュアのゆびが目元を撫でる。ずっと求めていた体温に我慢できず手を伸ばそうとして、ぐちゅ、という音に内部に埋めたままのゆびを思い出した。
「あっ、ゃ、やだっ」
 視線を感じて咄嗟に抜こうとすると、ヨシュアの手で押し留められる。そのまま、咥えこむもので広がったふちをそっと撫でられた。
「僕のこと考えながらするの、気持ちよかった?」
「ゃ、いや……っさ、さわんな、で……」
 そっと肩を押されて、片手の自由にならない身体はあっけなく仰向けに押し倒される。がくがくと震える身体に、ヨシュアは構わずそのままゆびを押し込んだ。ぎち、と後孔が悲鳴をあげる。
「ひっ、ぁ」
「名前、呼んでたでしょ。ちゃんと聞こえたよ」
「あ、だめ、ぅ、ぅごかしちゃ」
「ネク君やらしいもんね」
 限界まで広がった内部をヨシュアの骨ばったゆびが容赦なくえぐる。そのまま押されて、元々咥え込んでいたゆびが奥まで入り込んだ。
「もうこれくらいじゃ満足できないんだ?」
「や、ぁ、あぁ……!」
 ぐぐ、とされるがままに身体が跳ねる場所を強く押してしまって、気づけばまた熱を吐き出していた。
「は……ふ、ぁ……」
 反動でぎゅう、と内部を食い締めるのが苦しくて、ゆるゆると頭を振る。ずる、とヨシュアのゆびが出ていくと、痙攣する身体にどうしていいのか分からず戸惑う俺のゆびも、一緒に抜いてくれた。
「随分薄いね。ずっと、一人でしてたの?」
 揶揄するように笑いを漏らしながら、ヨシュアが白濁で濡れた俺の下腹部を撫でる。ぬるりとした感触に泣きそうになりながら、もう強がりなど言えなかった。
 絶対にヨシュアは全部知っているのだ。夜になるたびに俺が何度ヨシュアを求めたか、何度名前を呼んだのか、ヨシュアが知らないはずないのに。
「だって、俺の身体、こんな風にしたのヨシュアなのに」
「うん」
「自分で、何回しても、おさまんなくて」
「うん」
「ど、していいか、わかんなく、て……」
 こみ上げてくる嗚咽に言葉が途切れて、情けなくしゃくり上げる。でも。
「でも、俺があんなこと言ったから」
 ヨシュアがいないと、俺なんて簡単にどうにかなってしまうのに。
「ご、め……なさ……」
 ぎゅ、と目をつぶって身体を強張らせていると、ふわりと優しく頬に触れる手のひらの感触に、恐る恐るまぶたを上げた。
 慈愛に満ちたスミレ色が優しく見下ろしていて、でもその視線はどこか俺に畏怖を感じさせる。
「素直な子は好きだよ」
「ふ……よしゅ、ぁ……」
「それで、どうして欲しいの?」
 そっと指先で涙を拭いながら優しい声音は問いかけの形を取っているけれど、これは命令なのだ。ヨシュアの望む答えを口にする以外、俺に選択肢など与えられていなかった。
 ひとつひとつ丁寧に俺の自由を潰しながら、優しく縛りつけるように与えられる支配に、俺は逆らえない。
「も、ヨシュアの、欲しい……」
 疼く体はもう限界で、ヨシュアによく見えるようにそっと脚を開いた。
「ふぅん。だから?」
 くすくすと笑いながら落とされる冷たい言葉に、びくりと身体が竦む。
 それでも、これがヨシュアの望む言葉だと間違っていないことを信じて、震える声で続けた。
「だ、だから……俺の、こと」
 びくつく身体を、ヨシュアは楽しそうに眺めている。
「全部、ヨシュアの、に……して……くださいっ」
 最後はもう涙声になってしまって、怖くてヨシュアの顔が見られなかった。ぎ、とベッドのスプリングがきしむ音に目を開けると、俺の顔の横に手をついたヨシュアが覆いかぶさるように見下ろしている。
 そのままふわりとキスされて、優しい感触にまた視界がにじんだ。
「いいよ」
「よ、しゅ」
「全部もらってあげる」
 優しく細められたスミレ色は射抜くように鋭くて、とてもキレイだった。

 本当はすぐにでもヨシュアが欲しくて、疼く身体は焼けるように熱かったのだけれど、ヨシュアの準備がまだだ。
 そっとヨシュアの胸を押して、壁にもたれるヨシュアと向かい合う。
 ずっと触れたくてたまらなかったヨシュアの体温に、我慢できずすがりつくように腕を回すと、その首筋に口付けた。
 何度も吸い付きながら、ネクタイをほどいて、ボタンを外す。あらわになった白い胸にも、同じようにくちびるを寄せた。
 歯を立てるとほんのり赤く色付く肌をゆびで撫でると、とく、とく、と心臓の音がする。
 生き人ではないこいつにもちゃんと鼓動があることは前から不思議だったけれど、それはとても俺を安心させる音で、ないよりはあったほうが絶対にいいから、いいんだと思う。
「自分の身体くらい自分で好きにできるからね。僕の身体が死人みたいに冷たかったら、ネク君抱きつきたくないでしょ?」
 いつも俺よりは少し低めに感じるヨシュアの体温だけれど、それでもちゃんと温かい。
 ヨシュアの体温が本当になかったらなかったで俺はきっとやっぱり抱きついてしまうと思うのだけれど、ヨシュアがこれがいいっていうならそれでいいのだ。
「ん……」
 ヨシュアに触れるたびに、優しいゆびが応えるように頬を撫でてくれる。その感触にぎゅ、と胸がいっぱいになるのを感じながら、そっとベルトに手をかけた。
 かちゃかちゃと鳴る金具の音も、ファスナーを下ろすときのやけに耳に残る音も、何度しても慣れない。
 さっきから稼動限界を超えっぱなしの自分の鼓動をうるさく感じながら、取り出したヨシュアのものを思い切って咥え込んだ。
「ん、んぅ……む……」
 一生懸命唾液を絡めながら舌を動かすと、ぴちゃぴちゃとはしたない音が出てしまうのだけれど、他のやり方なんて分からないからじっと羞恥に耐えるしかない。
 ちょっとした悪戯心で、ほんの少し甘噛みするように歯を立てるとヨシュアが身じろぎしたのが分かった。
「悪い子だね。歯は立てたらダメって教えたでしょ?」
 く、と喉で笑いながら、ヨシュアのゆびがすっと背中を撫でる。反射的にびくりと震える身体に構わず、ヨシュアはそのまま滑らせたゆびでひくつく後孔のふちに触れた。
「ん、んー……! ひゃ、ら……ぅ、や」
 あくまでナカには挿入せずに入り口回りをくすぐるように撫でられて、もどかしさに思わず咥え込んだ屹立を離す。びく、と身体が跳ねるたびに、ぴた、ぴた、とヨシュアのものが頬を叩いた。
「ほら、がんばらないとご褒美あげられないよ」
 からかうように耳元を撫でる手に身体の震えは大きくなるばかりだったのだけれど、それでもなんとか口を開けて先端を口に含む。どんどんと大きくなるものに必死で舌を絡めて、両手を使って扱いた。
「ふ、ゅ……も、もう、いぃ……?」
 がくがくと力の入らない顎にヨシュアの屹立を扱いかねて見上げると、いいよ、と優しい指先に口元を拭うように撫でられる。
 早く疼く身体を慰めて欲しくて、力の入らない身体に鞭打って起き上がろうとすると、そっと大きな手のひらに押し留められた。
「今日はいつもと違うかっこでしようか」
 覆いかぶさるようにヨシュアに押し倒されて、ぐ、と膝の裏を掴んだ手に脚を持ち上げられる。大きく広げられた脚も、ぱさりと落ちて頬をくすぐる淡い色の髪も、真正面からヨシュアに見下ろされるこんな格好はそういえば初めてのとき以来で、ドキドキした。
 そのまま押し当てられるヨシュアの熱を欲しがって、ぎゅう、と内部が収縮する。
「ん、んん」
「ここ、ひくひくしてる。可愛い」
 からかうように押し当てた屹立で後孔をくすぐられて、もどかしさに、は、は、と息が荒くなった。
「や……っは、はやく……」
「欲しい?」
「ゃだ……いじわるっ……」
「ね、言って?」
 くすくすと笑いながら尚も問いかけをやめないヨシュアに、身体が熱くてどうにかなってしまいそうだ。
「ほ、ほしぃ……」
「そう」
「な、んか、このかっこ……」
「うん?」
「どきどき、する……っ」
 ぎゅっと首に回した腕でしがみつくと、浮いた俺の背中に、ヨシュアもそっと手を差し入れて抱き締めてくれた。
「僕もだよ」
 言葉と同時に一気に突き入れられて、悲鳴のような声が出てしまった。
「ぁ……あぁ……!」
 ずっと飢えていたものが満たされる感触に、勝手に涙が溢れた。
 びく、びく、と身体が痙攣して、また射精してしまったのだろうかと恐る恐る下肢に目をやる。それでもそこはただとろとろと白濁を緩く漏らすばかりで、貯蔵量の少なさに、勢いよく吐き出すまでに至らなかったらしい。
「またいっちゃったの?」
 けどヨシュアがそれに気づかないはずはなくて、そっと濡れた屹立を撫でられる。きゅ、と少し強く握られただけでまた身体が跳ねて、それでもやっぱり何も吐き出せなかった。
「あ、だ、だめ……っゃ、も、でな……っ」
「出せないの? 苦しい?」
「ふ、ぅ、うぅ……」
「辛いならやめようか?」
 そっと落とされた言葉は優しくて、でも全然優しくない。
「やだ、やぁ……! やめな、でっ」
「大丈夫かい?」
 問いかける声音は少し笑っていて、試されてるのかなってなんとなく思った。そんなことしなくても、俺の身体はずっとヨシュアを欲しがってるのに。
「だいじょ、ぶ……っだから……いっぱい、してっ」
 俺の言葉にヨシュアは満足げに笑うと、そのくちびるでキスをしながら掴んだ腰を強く突き上げた。揺さぶられるたびに漏れる声に、全身を駆け抜ける快感にふるふると首を振る。
 そのまま快楽の波に飲まれそうなギリギリを彷徨っているとまた、ふわりと頬を撫でる不思議な感触がして、閉じていた目を開いた。
 花びらのようにゆらゆらと舞って、瞬く間に消える。その向こうを見据えれば、ヨシュアの右肩からそっと広がる大きな白い羽。
 それが何かとか、どうしてヨシュアに、とか考える前に、気づけばそれに手を伸ばして触れていた。
 風切り羽と思われる大きな箇所に触れると思っていたよりも硬くしっかりした触り心地で、滑らかなそれは何度も撫でたくなってしまう。
「ああ、ごめん。出ちゃった」
 何でもないように言うヨシュアは、やっぱり何でもないように俺を揺さぶるのもやめなかった。
「う、ぁ……よしゅ、あっ……」
「でもいいよね。ネク君にはそのうち見せようと思ってたし」
「っそ、れ……?」
「うん、僕のだよ」
 無邪気に微笑むヨシュアは、でもすぐに困ったように眉尻を下げる。
「ああ、もしかして気持ち悪い?」
 ヨシュアは何を言ってるんだろう。だって、こんなに。
「ん、ん……なんか、きれ……い、だ」
「そっか」
 安心したように額にくちびるを落とすヨシュアがくれる快感に、今はもう溺れてしまいたくて、もう一度ぎゅっとその首にしがみついた。
 無意識に背中まで手を伸ばすと、右肩には大きな羽の根っこの感触。でも左肩はふわふわと羽毛が覆っているばかりで、短く突き出した羽がときどき当たる程度だった。
 まるで、元々あったものをもいでしまったような。
「う、ゃ……あ、あぁ……!」
 強く突き上げられると、ヨシュアが動くたびに小さな羽毛が舞う。その頬を撫でる感触がむずがゆくて、あとはもう何も考えられずに擦り付けるように強く目の前の身体にしがみついた。



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