「桜庭くん、なんか変わったよね」 がやがやとにぎわう店内で、隣に座る女子に言われた。 その子はランダムに腰掛けた結果たまたま隣になった子で、ジュースの入ったグラスを両手に持ちながらにこにこととても楽しそうだ。 ランダムに、とは言っても俺は自分から真っ先に端の席に座ったから、半分故意ではあるのだけれど。 さっきから小まめに話しかけてくれるのだが、ぽつぽつとしか返事のできない俺と話して何か楽しいんだろうかと少しばかり疑問に思う。 「そう、か?」 「うん。なんか優しくなったっていうか……柔らかくなった?」 ふわりと笑う彼女の名前が思い出せなくてさっきから困っているのだけれど、そんな風に言われるとますます今更名前なんだっけ? なんて聞けるはずもない。 「そうそう! 桜庭クンいつもクールで近寄り難かったんだけど、女の子たちみんなかっこいいって言ってたんだよっ」 彼女から見て俺の側とは反対隣の女子が、彼女の肩に寄りかかるように身を乗り出す。 やわらかい印象の彼女とは対照的に、活発な印象を受けた。あー、この子もなんて名前だっけ。 教科書の内容を覚えるのは得意でも、元クラスメイトの名前などきっと半分も分からない。 シキ辺りに言ったら呆れられそうだな、と思う。 そんな風に周りを拒絶しながら過ごしていたあの頃の俺に、自分でも呆れているのだから。 「あんたいつも桜庭クンかっこいーって言ってたもんね」 「だって、ホントにかっこよかったんだもん。あ、今はもっとかっこよくなったけど、ね?」 くすくすと無邪気にこちらを見つめられても、よく分からない。 きゃっきゃとじゃれ合う彼女たちは華やかで、とても楽しそうだが。 今日は俺の小学校時代の同窓会で、ここはその会場である何の変哲も無いファミレスだ。 同窓会とは言っても所詮現高校生の催しなので、ただ単に大部屋を予約したファミレスで飲み食いし、少しばかり騒がしく話をするだけのささやかなものだが。 元クラスの全員が集まっているのかどうかは分からないけれど、教室に詰まっていた人数には少し足りない程度に見える。 それでも十分なほどに騒がしいが。 本来ならこんなに大人数が集まるような場所は苦手で、招待状代わりの葉書を受け取ったときも行くべきかどうか相当迷った。 以前までの俺なら考えるまでもなくその葉書はゴミ箱行きだっただろうけど、今は多少なりとも、状況も心持もちがうのである。 思えば、小学生のころは少しばかり嫌がらせのようなものを受けていた。 とはいえそう頻繁ではなく、時折思い出したようにペンや消しゴムがなくなったり、下駄箱から消えた靴が中庭から発見されたりというような些細なもので、やっているのはごくごく一部の男子だけだった。 親が塾通いをさせていたこともありあまり遊ぶ時間がなかったことと、同世代のやつらがひどく子供じみて見えていたせいでクラスメイトとの交流は上手くなかったのだ。 今考えれば、自分こそそいつらと大差ないほどに子供だったのだと分かるのだけれど。 「くだらない話には付き合いたくない」が口癖の、嫌な子供だった。 勉強は嫌いではなかったので、成績もさほど低迷した記憶はなく、その辺りも一部のやつらには気に食わなかったのかもしれない。 些細な嫌がらせとはいえ、当時は強がっていたもののやはりショックだった。 それでも先生や女子は理解を示して味方をしてくれたから、何でもない顔をして強がっていられたのだけれど。 そんな、あまりいいとはいえない小学生時代だったけれど、その記憶をそのままにしておくのは忍びない気がして。 今を楽しむ、というのは理解できない人とぶつかって少しでもその人のことを知りたいと思うことだと、あのゲームで色んな人が教えてくれた。 だから、以前の自分とは少しでも変われたのだと自分で確かめたかったのかもしれない。 それでもやはりよくない記憶が邪魔をして、迷う心と行ったり来たりだった。 そんな中、決定打になったのはヨシュアの一言だ。 「行ってくれば?」 葉書とにらめっこする俺にあっさり言い放つと、「今のネク君なら大丈夫だよ」と頭を撫でられた。 ヨシュアのそんな言葉に背中を押されて、すっかり迷いが吹っ切れてしまう自分は少々単純すぎるんじゃないかと思う。 そんな風に決断して集合場所のハチ公前に行ったときは、やはり緊張した。 俺を目の敵にしていた男子の筆頭が真っ先に目に入ったからである。 こちらが見ていれば当然向こうも俺を見るわけで、目が合った。 緊張に一瞬身を硬くしたものの、目が合ったからには挨拶くらいするべきだろうとおもい、簡単に声をかけた。 すると相手もあっさりと「ああ」と返事をしたので、俺も気が抜けてしまったのだ。 それからなんとなく隣に落ち着いて、少しばかり話をした。 俺は特に親しい間柄のクラスメイトもいなかったし、集合時間まで余裕があったせいか向こうも普段つるんでいた相手が見当たらず、手持ち無沙汰だったのだろう。 どうしてた、とか高校どこ? とか、特に当たり障りのない会話しかしなかったのだけれど、大体の人数が集まり移動するとなったとき、相手がぽつりと「悪かったな」と呟いた声が印象的だった。 その後そいつはようやく到着したらしい相手の元に行ってしまったし、俺は俺でなぜか移動中女子のグループに話しかけられて対応に困っていたので、特に会話はしていない。 ただ、それだけで今日ここに来られる自分であってよかったな、と思った。 行ってくれば? といつもの笑顔で背中を押してくれたヨシュアに多少なりとも感謝したことを、まあ悔しいながら認めてやろうと思う。 「ね、さっき二次会の話してたの聞いてた? カラオケだって」 「桜庭くんも、行く?」 水の入ったグラスの氷を揺らしてぼーっとしていると、しばらく周りの女子とじゃれていた彼女にまた話しかけられた。 すでにほとんどの連中が食事を終えていて、辺りは騒がしくなるばかりだ。 その二次会とやらが少しばかり困り物なのである。 今日は母親は夜勤、父親は短期の出張で家には俺しかいない。 だから、もし来られるならいつもみたいに日付の変わる前ではなく早くても大丈夫なのだと、そうヨシュアに伝えたのだ。 どう考えても俺がヨシュアに早く会いたいみたいに思われるだけで、実際そうなのだけれど、わざわざそんなことを伝えている自分が大層恥ずかしかった。 それでも、じゃあネク君に早く会えるように頑張ってお仕事しないとね、とヨシュアは笑ってくれて、ああ俺やっぱりこいつのこと好きだな、とか恥ずかしいことを考えてしまったのだけれど。 まあ、それはどうでもいいとして! それなら、とヨシュアにこれくらいには帰る、と伝えた時間がもうすぐ差し迫っていて、久しぶりに騒がしい空気に触れたせいもあっていささか疲れてしまった。 本当ならすぐにでも帰りたいのだが、言葉にしないまでも『行くよね?』とこちらに選択を迫る彼女の瞳が少し気になる。 その話を始めた途端、周りの女子の視線がこちらに向いているように感じるのもなんだか怖い。 なんだろう、これは。 適当に言葉を濁しながら携帯を取り出そうとポケットを探ると、タイミングよくメール着信を告げる振動が伝わってきた。 まだこちらを見ている彼女に、ごめん、と一言断ってから携帯を開く。ヨシュアだ。 『迎えに行くね』 件名なしの、そっけないメール。 めったに来ることはないけれど、ヨシュアがほんの気まぐれを起こしたとき目にする、いつものヨシュアのメールだ。 とはいえ今日は親がいないからと、なんとなく大体の帰る時間は伝えたけれど、迎えに来いとは言っていない。 迎え? ヨシュアが? 思わず首をかしげる。 むしろ今はまだ普段会う時間よりも随分早いのだけれど、コンポーザーの仕事はいいんだろうか。 そもそも本当に今日来るつもりだったのか、などなど突然のメールにぐるぐると頭を悩ませていると、不意に回りの喧騒の空気が変わった。 一部の女子から、キャーという黄色い声が上がる。 驚いて顔を上げると、いた。 大部屋と一般席の仕切りから覗く、ふわふわとした白いいでたち。 にこにこと人好きのする微笑を浮かべながら、その白いものがひらひらとこちらに手を振る。 フェアリーブロンドとも、メロンイエローともとれる髪の毛はファミレスの安っぽい電灯に照らされるにはいささか不似合いで、射抜くようなスミレ色の瞳は相変わらず悪戯な色を浮かべていた。 「ネク君、迎えに来たよ」 そのムカつくほどにこやかな顔に、思わず手にしたグラスを投げつけそうになった。最悪だ。 その後はあの人誰、どういう関係? という女子の怒涛の質問攻めを振り切り、会計はさっき幹事が席を回って回収に来たおかげで済んでいたので、鞄を引っつかんで早々に退散しようとしたものの、桜庭が出るなら俺らも出ようかという流れになぜかなり、結局大量の好奇の視線に見送られることとなってしまった。 「俺、もうあのクラスの同窓会には行けない……」 「どうして?」 くすくすと漏れ聞こえる笑いが一層腹立たしい。 さっきの女子の興味津々と言わんばかりの(オマケに黄色い声の混じった)囁き声と、ぽかんとした男子の視線をこいつは何だと思っているんだろうか。 「お前は何もしてなくても目立ちすぎるんだよ!」 「そうなの?」 さっきの女子の黄色い叫びを聞いただろ! 「っつーか、店の中まで来るなよ! せめて外で待ってるとか……そもそも迎えに来るなんて聞いてないっ」 苛々を隠さずそのまま荒げた声に乗せると、まったく悪びれていない様子のヨシュアは平然と答える。 「だから、メールしたじゃない」 返事をする間も与えずに行動に移すなら、メールの意味をなしていないと思うのは俺だけなのだろうか。 あまりにもこいつが飄々としていて、自分ばかり盛り上がっているのがなんだかばかばかしく思えてきた。 はぁー、と思いっきり溜息をついてやっても、ヨシュアは涼しげな笑いでそ知らぬ顔だ。 さっきから何度ついても足りない溜息が、そろそろ品切れになりそうだった。 ヨシュアは相変わらず律儀に俺のヘッドフォンを愛用しているようで、空になった充電を補充しに毎回忘れず持ってくる。 やわらかい髪の毛が遊ぶ、今は首にかけられたその色をやっぱり似合わないなと思った。 でもポケットからぶら下がるプレイヤーのトランスミッターをいじるこいつの仕草はむかつくくらい様になっていて、俺は単純に、元々自分の身体の一部だった色をこいつが身につけていることが、気恥ずかしいだけなのかもしれないと最近は認識を新たにしつつある。 いや、認めない。認めないぞ。もうそれ以上はなるべく意識しないように、その群青の存在を視界の端に追いやった。 「とにかく、自分の容姿くらい自覚しろよ……街中ならまだしも、あんな知り合いだらけの同窓会なんか目立つに決まってるだろ」 特に、俺と同世代の女子などからはヨシュアは少しばかり大人びて見える。 こんな俗世離れした色素と整った目鼻立ちでは、女子の注目の的だろう。 ふーん、と当のヨシュアはどうでもいいと言わんばかりだが。 あまつさえ、 「んー、僕って王子様タイプだから」 などとさらっと言われてしまえば、何も反論する気になれない。 まともに相手をしていたら、こちらが疲れるだけだ。 「……ここまで歩いてきたのか?」 もうこの話題はやめようと、話の矛先を切り替える。 俺は歩ける距離だったからここまで歩いてきたのだけれど、ヨシュアがタクシーも拾わずに歩き出したところをみると、このまま歩いて帰る気らしいということに気が付いて、聞いてみた。 こいつ、ゲーム中は散々歩き回るのを嫌がっていたから、てっきり自分の足で歩くのは嫌いなんだと思ってた。 というか、そもそも普段こいつが俺の家までどうやって来ているのかということを俺は知らないのだが。 「まさか、もちろんタクシーで来たよ? まだ深夜料金もかからない時間だし」 もちろん、ということは普段からタクシー使いなのだろうか。 こいつならお抱えの運転手の一人や二人いても全然驚かないけど。 でもいつも俺の部屋に来るときは車の音なんてしないから、夜中だしきっとサイキックでも使っているんだろうと思う。 「帰りもタクシーだと、ネク君怒るでしょ?」 「当たり前だ、歩ける距離なのに」 このまま行き先は当然俺の家だとさりげなく振ってみたのだけれど、否定するそぶりなど欠片も見せず、サイキックだと僕限定だしねーとなんでもないように呟くヨシュアに、今日はこのままUGに帰るつもりはないらしいということにほっとした。 その言葉が嬉しくて、同時にああやっぱりと思う。 「ネク君を送ったりできなくもないけど、自販機みたいに扱われるの嫌でしょ?」 当たり前だ、と睨み返すと対照的な微笑で返される。 こいつがにこやかに喋るたびに、俺の声はどんどんぶっきらぼうになる。素直になるなんて到底無理なのだ。 迎えに来てくれて、こんな風に会えてうれしい、なんて。 思い至った自分の感情に思わず首を振る。 嬉しくない、あんな風に元クラスメイトの好奇の視線にさらされることになって、全然嬉しくない。 「たまにはネク君と夜の散歩も悪くないかなって思って」 柔らかく振り向く表情に、自然と頬が熱くなる。 辺りはもうすっかり暗いけれど、渋谷はその分たくさんの街灯の光が照らしていて、ばれてしまわないか少し心配だ。 ゲームの間、ずっと俺の後ろを歩いていたヨシュアが、今日は一歩先を歩いている。 その後姿は見慣れないもののようで、だからいつもよりドキドキしてしまうんだと自分に言い訳をした。 そういえばゲームが終わってからは俺の部屋で会うしかできなかったので(だって俺からは会えないし)こんな風に外を一緒に歩くなんて本当に久しぶりだ。 いつも日付の変わる少し前から夜明けまでのごく限られた時間しか会うことが出来ないから、こんな早い時間からこいつと過ごせることに浮き立つ心を抑えるのがやっとだった。 「王子のくせにタクシーなのか」 動揺を悟られないように自分から切った話題を蒸し返す。強がると、勝手に憎まれ口が出た。 こんな俺だから、いつもヨシュアに子ども扱いされてしまうんだろう。 「白馬に乗ってくるべきだったかな?」 それでもヨシュアはそんな俺に気づかないふりで、口車に乗ってきてくれる。 負けっぱなしだなあ、と思う。 「言ったらお前は本当に乗ってきそうだからいい……」 これは半分冗談、半分本音だ。 「やだなぁ、白馬は車道走れるんだよ?」 にこやかに返された言葉に、前言撤回。ヨシュアはやると言ったら間違いなくやるヤツだ。 このご時世、馬で車道を走るのなんて総理大臣か皇族くらいだっての。 「お前一人でやるなら止めないから、俺を巻き込むなっ」 こっちが誤魔化していたはずなのに、いつの間にかこいつのペースに巻き込まれている。 やっかいだ。本当に厄介なヤツだ。 どんどんと歩くうちに、ふわふわと軽やかに歩くヨシュアの足とはなかなか歩幅が会わなくて、自然と早足になる。 ヨシュアが歩を進めるたびに、街灯を反射する淡い色の髪の毛が柔らかく揺れるのがキレイだ。 いつもこいつは億劫そうに俺の後ろをついて回るだけだったから、こんな風に歩くなんて知らなかった。 でも、それだけじゃなくて、本当は早く見送りの同級生が見えなくならないかなって思ってる。 「折角迎えに来たのに、冷たいね」 やれやれ、と言いたげなヨシュアの溜息はそれでもどこか楽しそうだ。 本音を言うと今すぐにでも手を繋ぎたかったけれど、まだ背中の遠くの方から二次会に動きだそうとする同期たちの賑々しい喧騒が聞こえている。 そわそわしながら、もう見えないかな、まだダメか、と距離を確かめて歩いた。 もう本当は、ヨシュアはとっくに気が付いているんだと思う。 でも、ヨシュアからは手を取ってくれなくて、俺は後ろが気になって、どうしていいのか分からなくて、ただちらちらとヨシュアの様子を伺っていた。 「どうしたの? 僕に何かついてる?」 ヨシュアは俺が早足になる理由も、物言わぬ視線も気付いているはずなのに、歩幅を緩めてくれない。 素直じゃない俺に対する罰みたいに。 いつものペースで歩けなくて、ヘンな歩き方になった。 足が、痛い。 「もっ……ま、待てよっ。脚の長さ違うんだからもっとゆっくり歩け!」 俺はもうたまらなくて、気が付いたらヨシュアのシャツの裾を掴んで、泣きそうな声を出していた。 繁華街からはもう外れていて、静かな細い道に入っている。背中からの喧騒は、既に遠い。 数の少なくなった街灯に、今の俺の表情がばれなければいいと思う。 ぴたりと止まった足に、勢い余ってヨシュアの背中に鼻をぶつけた。 ふう、と柔らかい吐息が聞こえて、ヨシュアが振り返る。 「はぐれても探してあげないよ?」 ほら、と言葉と共に差し出された手を、反射的に握った。 逃がすものか、とか、こいつの気が変わらないうちに、とか思っていたのがばれたのかどうかわからないけれど、あまりに慌てた様子がおかしかったのだろう。 くすくすと漏れる笑いが悔しくて、でもせっかく繋いだ手を離せるわけもなくて、とにかくぎゅう、と力を込めて強く握った。 「ん……む、迎えにきたくせに……おいてくな……」 ぼそぼそと零れたつぶやきはまるっきり子供のそれで、言ってしまってから後悔した。 けど、ヨシュアは今度はからかうような笑い方をせずに、そうだね、とただ柔らかく微笑む。 それだけで、俺は今この場で抱きつきたい衝動を堪えるのが大変だった。 誤魔化すように、俺の口はどうでもいい言葉をぽんぽんと放り投げる。 「お前、ちゃんと仕事片付けて来たんだろうな」 「うん。ほどほどにやって、ほどほどに投げてきたよ」 「投げるな!」 「僕の新しい部下も優秀だからさ。大丈夫だよ」 「それでこんな風にフラフラしてるのか? 俺に会うより仕事優先だろっ」 やいのやいのと言い立てる俺の言葉は正論なはずなのに、ヨシュアはそんなの気にしないというそぶりであっさり言い捨てるのだ。 「だって、お仕事も大事だけど、こうやってネク君の手を引くのも僕の役目でしょ?」 柔らかく細められたスミレ色の瞳があまりにも優しくて、俺はもう何も言えなくなってしまった。 本当は、ヨシュアが仕事を放ってまで俺に会いに来たりしないって分かってる。 こいつはこいつなりに、いつだってこの街と自分の役目に誇りを持って動いているのを知っているから。 いつも待ちぼうけをくらわされている俺が言うんだから間違いない。 そのヨシュアが今ここにいるということは、本当に俺に会うためにその仕事とやらを片付けてきてくれたということなのだ。 恥ずかしさと嬉しさで詰まってしまった胸をむりやり押して、精一杯の声でなんとか一言だけ呟く。 「バカヨシュア……」 それでも、優しく触れるこの手を離すなんて出来なくて、いつのまにかゆっくりになっていた歩調に俺はまた泣きそうになりながら家路を辿った。 →次へ |