※性描写を含みます。ご注意ください。 「……?」 起きたらヨシュアに抱き締められていた。 背後から俺のお腹に腕が回されていて、ぴったり寄り添うように抱き込まれている形である。 「!」 頭の後ろにこいつの寝息を感じるやら、回された腕やくっついた背中から伝わる体温を徐々に理解して、一気に身体が熱くなった。 なんでこんな格好で寝てるんだとか、昨日どうしたんだっけと必死に考え、記憶を掘り起こす。 昨日は週末だからいつも通りヨシュアがきて、いつも通りぽつぽつとくだらない話をして。 だけど、いつも通りベッドに押し倒されるような(あるいは俺が引き倒すような)ことにはならなかった。 今日は疲れたから一緒に寝てもいい? と言われて、普通にベッドに入ったのだ。 週一、どころかそれ以下の割合でしか会えないのだから残念に思わなかったかと言われれば嘘になるけれど、こいつの負担になるようでは全然意味がないから何も言わずに頷いた。 それで結局一緒に寝たものの、こいつの寝顔は俺にはすこし刺激が強すぎて、とても直視なんてできなくて、途中で背を向けてそのまま眠ったんだっけ。 目を瞑れば関係ないといわれても、ふとしたときに目を開いてこいつの寝顔が一番に飛び込んできたら俺は一瞬どころでなく心臓が止まるかもしれない。 情けないかもしれないが、それくらい俺はこいつの顔に弱い自覚はあるのだ。 ……まあそれはどうでもいいとして、今の問題はこの体勢だ。 別に今までだってベッドも一緒にしてるし、もちろん抱き合ったまま眠ることなんてざらなのだけれど、これは、なんというか、くっつきすぎじゃないだろうか。 ヨシュアの吐息は俺の髪を通して地肌にぬるく熱を与えるし、規則的に上下する胸の動きを背中に感じるし、なんだってご丁寧に脚まで絡まってるんだ。 こんな状態では些細な身じろぎでもこいつを起こしてしまいそうで、気が気じゃない。 暴れだしてしまいたい両腕を抑えつつ、ドキドキと過剰な動作を始めた心臓を諌めようと深呼吸する。 寝起きのボケた頭から少しずつ冷静さが戻ってくると、今の状況はものすごく貴重なんじゃないかと思えてきた。 いつも同じベッドに入っていたとしても、俺の目が覚めると大抵こいつはいなくなっている。 隣にあったはずの体温はもぬけの殻でシーツは冷たくなってるし、こいつが入ってきたはずの窓もぴっちり閉められてカーテンも身じろぎ一つしない。 ベッドを汚すような行為をしたときでも、ご丁寧に何事もなかったかのように全部が綺麗になっているのだ。 UGが本籍のこいつがRGに与える影響とか、こいつの立場とか、単純に俺の寝具の洗濯の都合とか、色々あるから仕方ないのは分かるし、正直とても助かるのだけれど。 どうしたって、俺のほうは、寂しくなってしまうのだ。 こいつと俺を繋ぐものなんて目に見えて分かるのは俺のヘッドフォンくらいだけどそれはこいつが持ってるし、そもそもこうやって会えるのだってこいつの都合に全て任されているのだ。 そんなこいつが来たら来たで、別れるときにはまるで自分なんていなかったかのように痕跡一つ残さない。 俺からは会えないし、待つしか出来ない。 こいつの立場は少しなりとも分かっているつもりだし、負担になるのも嫌だ。 けど、起きてシーツが冷たくなっているたびに、寂しく思ってしまうのは自分でもどうしようもないわけで。 「ん……」 こいつがどういうつもりなのかは分からないけれど。 こんな風に、目が覚めたときにこいつの寝言が聞けるような状態にあるのは、なんというか、まあ…… 正直、嬉しかった。 こみ上げてくる気持ちに胸が詰まって、ぎゅうと布団を握り締める。 「ネク君……?」 寝言だと思ったものは、起きぬけの声だったらしい。 こいつが起きたらとかまだ全然考えてなかったから何の心の準備もできなくて、大げさに身体が跳ねてしまった。 「おはよ」 「お、おはよう」 どぎまぎとした返事は、なんだか変な声になった。まあ、寝起きだし。 朝っぱらから一人で何挙動不審になってるんだと言われても困る。とても困る。 なので、頑張って平常心を保ちたいと思う。無駄に終わるかもしれないが、努力は認めて欲しい。 「なんでそっち向いてるの」 お前こそなんでそんなにくっついてるんだ。 と声を大にして言ってやりたかったけど、ボロが出そうなのでぐっと堪えた。 こんな状態でこいつの顔を見るなんて、こいつに顔を見られるなんて、自殺行為だ。 絶対オモチャにされる。 「なんでもいいだろ」 頑なに拒否する声で言った。 なんだってこいつは、人が一番言われたくないことを的確に言い当てるんだ。 後から考えると、こんな風に言えばヨシュアはもっと面白がるのだと分かるのだけれど。 「こっち向いてよ」 「向かない」 ぐ、と腹に回された腕に力がこもって、ヨシュアの唇が耳に寄せられたのが分かる。 「ねぇ」 「断る」 「ネク君」 湿った空気が耳を熱くする。なんか、声、掠れてて。 「や、やだっ」 寝起きのこいつの声がこんなにタチが悪いなんて、初めて知った。 できれば知らない方が幸せだったに違いないと思う。 「かたくなだなあ」 くすくすと吐息が鼓膜を揺らして、背中が震える。 ぞくぞくと駆け上がってくるものを堪えようと、ぎゅっと目を瞑った。 「耳、真っ赤だよ」 「っ!」 思わぬ指摘を受けて、びくりと肩が揺れる。ああ、もう俺、バカ。 「ふーん」 楽しそうなような、それでいて冷たいような、こいつがこんな声を出すときは絶対ろくなことがない。 ろくでもないこいつの指が、するりと俺の腹を撫で上げた。 「んっ……」 あまりに不意打ちだったので、うっかり声が漏れてしまった。 慌てて口を押さえるけれど、そんなのこいつは全然お構い無しだ。 「よ、しゅあ……!」 容赦なく服の上から胸を探られて、探り当てた突起を押される。 「っ……!」 やんわり撫で回されたり、ぐりぐりと押しつぶされたり。 びくびくと身体が震えるのは、俺が女の子じゃなくたって全然変じゃないのだ。こいつが触ってくるからなんだ。 だって昨日はしてないし、しょうがないじゃないか! そんな間にもヨシュアの唇は俺の首筋をたどって、柔らかいところに噛み付いて、そのたびに堪えきれない唾液が手のひらを濡らした。 じりじりと熱を上げる身体を持て余していると、一端離れた手のひらがするすると裾を捲り上げる。 それだけの動作にもいちいち身体が震えて、びくびくと跳ねる。 胸の上まで捲られると、今度は直に弄られた。 ぶるぶると頭を振っても、ヨシュアは手を止めてくれない。 もう押さえてるだけじゃ声が漏れそうで、自分の指を噛んだ。 途端に咎めるような声が飛ぶ。 「ネク君、怪我するよ」 俺が噛んでいる指のことなのだろうけれど、こいつが手を止めるまで俺から外す気はない。 「ネク君」 なおも拒む姿勢を崩すまいとすると、ふー、と溜息が聞こえる。胸をなぶるゆびが離れて、手首を掴まれた。 力技ではこいつに敵わないので、あっさり咥えていた指が外される。 それでも声は上げたくなくて、なお下唇を噛んでみせると、ヨシュアの指にこじ開けられた。 「どっちにしろ噛むなら、こっちにしておいて」 入り込んだヨシュアのゆびが舌を撫でて、歯列をなぞる。 噛めって? こいつのゆびを? そんなの俺が出来るわけないって、こいつは分かっててやってるんだ。 戸惑う間にもヨシュアのゆびが口内を愛撫して、堪えきれない声が漏れる。 「ふ、ぅっ……」 「噛まないの?」 「んっ、ん!」 ふるふると首を振ると、なぜか笑われた。 「変な子だね」 ちゅ、と耳たぶにキスをされて、もうすっかり力の入らなくなった俺の手を離して暇だったらしいヨシュアの右手が、ウエストのゴムを引っ張る。 臍のぐるりを辿って、下腹を撫でられると嫌でも腰が震える。 「むっ……うぅ……!」 直接触られてもいないのに上がる息は押さえられなくて、は、は、と吐くたびに唾液がこいつのゆびを汚した。 「ね、こっち向かないの」 今一番見られたくない顔をしているに違いないのに、できるわけないだろ……! 抵抗の意を表そうと、痛くない程度にヨシュアの指に歯を立てた。 「強情だね」 どうでもよさそうに言いながら、ウエストにゆびを引っ掛けたまま、腰骨を撫でられる。 「ッ!」 がくん、と大げさなくらいに腰が跳ねた。 「ぅ、うぅ……やっ……!」 骨の形に沿うように何度も撫でられて、がくがくと身体が揺れる。ずり下がってきた服の布地に胸が擦れて、むずむずする。 身体の奥に溜まるような快感を逃がしたくて身じろぎすると余計に擦れて、もっと身体が熱くなった。 舌をなぶるゆびに唾液が零れる。 「や、やら……よしゅ……!」 やばい、やばいやばいやばい。 「なあに」 「も……やば、ぃ、から……」 「何が?」 「ほ、ほんとに……っも、もう……!」 「もう?」 ヨシュアの笑う吐息が鼓膜を震わせる。 「も、ぁ……あっ……っ!!」 腰骨のへこみをなぞられた瞬間、爆ぜてしまった。 びくびくと身体が震えて、自分の体液が下着をじんわりと濡らして行くのを感じる。 ずるずるとこいつの指が口内から抜けて行くと、段々と事態を把握して、まぶたが熱くなった。 直接に触られてもいないのに達してしまうなんて情けなくて、恥ずかしくて、隠れるように掛け布団を引っかぶる。 布団にさえぎられてても分かるくらい、大げさな溜息を吐かれた。 「ネク君の強情は筋金入りだね」 思わずかっとなって言い返した。 「だ、から……っやだって言った……!」 言ってから涙声になってしまって、後悔した。 もうこれ以上醜態を晒すまいとくちびるを噛み締める。 「ネク君」 うるさい。 「ごめんね」 謝るなら最初からするな。 「ね」 無言。 「こっち向いてよ」 まだ言うか。 「ネク君の顔、まだちゃんと見てないよ」 知るかバカ。 「キスしたいな」 ……。 布団を剥がされて、肩を掴まれたと思ったらごろん、とヨシュアの方に向かされた。 なんて強引な奴なんだ。 「ネク君、ヘンな顔」 うるさい、じゃあ見るな。 昨晩ぶりに見たこいつのスミレ色はやっぱり笑っていて、ムカついたので俯いてこいつの胸に頭突きしてやった。 「痛いよ」 「バカ、バカヨシュア」 「ふふ」 なんで嬉しそうなんだ。バカ、ばかめ。 そのまま俯いてこいつの匂いに顔をうずめていると、前髪にくすぐったい感触。 それはヨシュアのくちびるで、額に、頬に降りてくる。 だから、こんなので騙されないっての。 「キスしてもいいかい?」 「もうしてるくせに」 何だその顔。そんな目で、見んな。 「うん、だから、ちゃんとくちにだよ」 見つめてくるスミレ色があんまりにも柔らかで、落ち着かなくて、目線が逃げる。 勝手にしろ。 「勝手にするよ」 ちゅ、と合図のように軽く触れて、そのまま食むように口づけられた。 下唇を噛まれたり、舐められたりして、だんだん騙されてもいいような気になってくる。 ああもう、バカは俺だ。 「ん、んっ」 徐々に物足りなくなってきて、でもヨシュアは俺が仕掛けるまで先に進まないから、思い切ってヨシュアのくちびるを割って舌を絡めた。 ふふ、と笑いになり損ねた吐息がくちびるをくすぐって、舌を甘噛みされる。 ひく、と身体が震えて、ヨシュアにしがみついた。 無意識のうちにヨシュアと身体をくっつけて、密着させる。 「ふっ……ん、ん」 勝手に腰が揺れて、ヨシュアの脚に擦り付けるように動く。 口付けながら膝で押すように返されて、びくっと腰が跳ねた。 「ん、はっ……ぁ……」 「ネク君、また勃ってる」 離れるくちびるを名残惜しく思っていると、形をなぞるように触れられて、背筋が震える。 かーっと顔が熱くなって、俺今どんな顔してるんだろうって思ったけど、今更かもしれない。 「今日はなんかネク君のこと触ってたい気分だから、ごめん」 暗に最後まではしないと言われて、ちょっとへこんだ。 でも、ヨシュアがここにいるだけで十分だと思い直す。面倒だって思われるのは嫌だ。 「次、は……」 ヨシュアの首にしがみつきながら、言いかけた言葉に驚いて慌てて口を噤む。 「な、なんでもない」 ヨシュアは次を約束しない。 約束するのはいつも、また、とか今度、とか。 俺はいつも、その約束を待っている。 「また……今度ね」 また今度。 やっぱりとは思っても、分かってはいても、心が沈む。 ヨシュアの肩口に顔をうずめて、こっそりと柔らかな髪に触れた。 「ネク君のこと縛りたくないんだよ」 ぼそりと言われた言葉は、こんなに近くにいるのに俺のところまで届かなかった。 「何?」 「なんでもないよ」 耳元で遊ぶ髪を掻き上げられて、その感触に溜息が出そうになる。 いいんだ。ヨシュアがこんな風に俺に触れるなら。 そのためなら、これからも懲りずに俺はヨシュアに騙され続けていくんだろうな、と、そう思った。 いちゃいちゃさせたいなと思っていたら、なぜかエロになりました。 20080627 →次へ |