※性描写を含みます。ご注意ください。 午前零時。日付が変わった。 俺の部屋の窓は施錠されたままで、カーテンの布地はぴくりとも動かない。 あいつはいつも土曜日、日付の変わる少し前に現れるので、今日みたいに時計の針がてっぺんを回ってしまえば、その週はもうあいつに会えないということだ。 そう明言されたわけではないけれど、いつのまにか暗黙の了解になっている。 すっかり気候は夏で、ベッドの上で膝を抱えながら、薄い肌がけに変わった布団をぎゅっと握り締めた。 毎週毎週あいつが来られるわけではないと分かっているはずなのに、会えないと分かるこの瞬間はいつまで経っても慣れそうにない。 来ないと分かった途端にがっかりしてしまうのはどうすることもできなくて、なんだか、自分ばかりが会いたがっているようでものすごく悔しい。 あいつの立場上、なかなか都合をつけるのは難しいと分かっているから、無理をさせたいわけではないのだけれど。 あいつに会いたがっているという自分を改めて突きつけられるのは正直、恥ずかしいのだ。 今まで極端に他人を避けてきたから、自分がこんな風に誰かに執着するようになるなんて考えたこともなかった。 時々自分でもコントロールできなくなる感情に振り回されて、どうしていいのか分からない。 それでもヨシュアが好きだという気持ちは疑いようもなく、あいつに接するときはいつでも手探りなのだ。 手探りで稚拙な、子どものようなやり方しかできない俺の手を引いてくれるヨシュアは、いつも優しい。 早くそんなヨシュアの優しさに報いられるようになりたい、とぼんやり思う。 複雑な立場でありながらそれでも都合をつけて俺に会いに来てくれるのは、まぎれもなくあいつの気持ちだと分かっているから、疑うなんてもってのほかなのだ。 とはいえ、寂しく思ってしまうのはどうすることもできないのだが。 この間もこんなこと考えてたな、俺。 「はー」 ぼすっと倒れこんで、枕に顔を埋める。 クーラーで冷えた部屋の中で、少し場所をずらせば寝転がったシーツもひんやりと気持ちいい。 気持ちいいのだが、こんなときばかり一人であることを実感させられて、少々恨めしかった。 いつもなら、口では暑いからくっつくなと言いながら本当は寄り添っていたい俺を、ヨシュアは笑って強引に抱き締めてくれる。 素直じゃない自分を後から考えてはいつも恥じるのだが、あいつを目の前にすると勝手に憎まれ口を叩いてしまって、うまくコントロールできない。 子どものように天邪鬼な言動しかできない俺に、僕がこうしたいんだよと言ってくれるのはヨシュアなのだ。 ヨシュアは気ままに振舞っているように見せて、いつも俺の願いを汲み取ってくれる。 時々、ヨシュアはしたいようにしているのか、そう見せかけて俺の望みを叶えているだけなのかわからなくなる。 俺の望むことが、少しでもあいつの望むことと重なればいいなと思うのだが、それはあまりにも贅沢すぎるだろうか。 「ん……」 優しく触れるヨシュアのゆびを思い出して、ぎゅう、と肌がけを抱き締めた。 先週のことだって、やっぱりあれはヨシュアの優しさだったのだ。 俺はそういうことに関する経験はまだ浅いけれど、健全なる一般男子なので、色々な欲求も人並みにある。 ヨシュアとの関係が関係ゆえ、まあ、欲求不満にだってなるわけで。 疲れているからと前の晩に俺に応えられなかった分、少々強引なやり方ではあったが、あいつは俺に触ってくれたのだと思う。 終わってから気付く程度にしかそういうことを匂わせないやり方は、呆れるくらいヨシュアらしい。 一度出したあとにまた反応してしまった俺も、結局面倒見てくれたし。 思い出すと、かーっと顔が熱くなる。 そこまで面倒見てもらいながら、結局最後まで出来なかったことはやっぱり不満で、なんとなくくすぶったままだった。 どうせ今日はもう来ないしと思うと、無意識に下肢に手が伸びる。 生理的な欲求と羞恥の間で揺れながら下着の中に手を入れると、恐る恐る握った。 ヨシュアと関係を持つまでにも、もちろん自慰をすることはあったけれど、そこまで旺盛な方ではなかった。せいぜい人並み程度……だと思いたい。 それなのに最近あまり我慢がきかなくなってきたのは、明らかにヨシュアのせいだと思う。 触りながら、無意識にヨシュアのゆびを真似てしまう自分が恥ずかしくてたまらないのだが、もう他のやり方がわからない。 一生懸命記憶をなぞってもなかなかあいつのゆびみたいに器用にできなくて、もどかしかった。 「っ、ふ……」 それでも完全に勃起すると、服を汚さないように下着ごとずり下げて、うつぶせのまま膝を立てる。 枕に額を擦り付けながら、いつもこうして額や頬をくすぐるのはヨシュアの柔らかい髪なのになとぼんやり思った。 ヨシュアの感触や声を思い出せば、稚拙な自分のゆびでも簡単に反応する。 あ、やばい、出そう。 そろそろ枕元のティッシュに手を伸ばすべきだろうか、と考えたのだが。 こんこん。 窓ガラスを叩く、聞きなれた控えめなノック。待ち焦がれていたその音。 さっきまでは。 あまりにも予想外の事態に、頭が真っ白になる。 なんで? 一瞬体の動きが停止したものの、かといってそのままでいるわけにもいかないので、咄嗟に肌がけを手繰り寄せて頭まで引っかぶった。 カタン、と施錠が外れる音がして、続けて窓が開けられる音。 裸足で床を歩く音に、ぎゅうと身を縮める。 衣擦れの音がすぐ横まで来て、止まった。 「もう、寝ちゃったのかい?」 俺がもし眠りについていたら起こす気など毛頭ないのだろう、というくらいかすかな囁き。 ずっと聞きたかった声だ。今日はもう聞けないと思っていた。 「遅くなって悪かったね」 かすかに漏れる吐息に、苦笑しているだろう表情が頭に浮かぶ。 布越しに、優しく頭に触れる手の感触。ひく、と揺れそうになる身体を必死で堪える。 なぜか、それだけで泣きそうになった。 「おやすみ」 呟かれた言葉に焦る。続く言葉は、簡単に予想できた。 「お邪魔しました」 だから、離れようとする気配に、咄嗟に手を伸ばした。 「っ、ネク君?」 ぎゅ、と握った手首は相変わらず白い。 驚いて見開かれた瞳は、そうするとまるでウサギみたいだ。 「ま、だ寝てないっ、から……帰るなよっ」 自分の状況など完全に頭から抜け落ちてしまって、とにかくヨシュアを帰すまいと思った。 精一杯吐き出した声は、喉に引っかかって情けないものになる。 それでも必死にヨシュアの手首をひっぱっていると、ウサギのような丸い瞳が徐々に困惑の色に染まった。 「えー、と……ごめん。本当にお邪魔だったみたい、だね」 気まずそうに逸らされる視線と、跳ね除けた肌がけ。 一気に自分の状況を思い出した。 反射的に手を離して、また掛け布団の中に舞い戻る。 バカか、俺は! 馬鹿だ、もう、それは、とんでもなく大馬鹿だ。 ばれた。見られた。絶対引かれた。 こんなことをしていたとバレたことも、醜態をヨシュアの目に触れさせてしまったことも、何から恥じればいいのか分からない。 穴があるなら入りたいとはまさにこの状況のことかと思う。決して、身をもって知りたくなどなかったのだけれど。 残念ながらこの部屋のどこにもそんな穴はないので、とにかく布団の中で丸くなるしかなかった。 「ネク君、ごめんね」 なんで見せられたヨシュアのほうが謝るのかわからない。 ヨシュアは何も悪くないのだ。いつでも勝手に鍵を開けて入ってこられるのにノックは欠かさないし、寝ているふりをした俺を起こさないようにしてくれていた。 それを、わざわざ自分から知らせるように引き止めたのは自分なのだ。 でも俺がこんなことをしているのはヨシュアのことを思い出してしまったからで。ああ、もう、よくわからない。 あまりに恥ずかしくてどうしていいのか分からないのに、それでもヨシュアが帰ってしまうのは嫌だった。 でも今の自分の状況ではこのまま引き止めるなんてとてもできなくて、泣きそうになる。 「っ……ヨシュア」 帰るね、と今にも放たれそうなその言葉を聞きたくない一心で、勝手に口から名前が零れた。 名前を呼ばれたって、ヨシュアからしたら困るだけと思うのに。 「う、ぅ」 あまりにも自分が情けなくて、漏れそうな嗚咽を必死で噛み締めた。 これ以上ヨシュアを困らせたくないのだ。 ヨシュアは、呆れてもう帰ってしまっただろうか。また、変わらずにここに来てくれるだろうか。 頭の中がぐちゃぐちゃでどうしようもないことを考える。 と、ぎし、とスプリングがきしむ音と、マットの揺れる感覚。 身を守っていた掛布がそっと取り払われて、視界がひらけた。ベッドに乗り上げたヨシュアが、俺の顔を覗き込んでいる。 「ネク君」 困ったように笑うスミレ色は、まっすぐこちらを向いてた。 「ぅ……ぁ、や、やだっ」 予想もしていなかった展開に混乱する。 「み、見るな……!」 とにかくその視線に耐えられなくて、咄嗟に両腕で顔を覆った。 「ネク君?」 「見ないで……ぇ……う、うぅ」 バカ、泣いたらヨシュアが困るだけなのに。 それでも勝手に涙はこみ上げてきて、嗚咽が漏れる。なんで、こんな子どもみたいな泣き方。 ただヨシュアの挙動が怖くて身を固くしていると、顔を覆う腕をやんわりと退けられる。わけが分からなくて動けずにいたら、ひりつくまなじりに優しくくちびるが落とされた。 そのまま頬に、額にキスされて、固まった身体から、ゆっくり力が抜けていく。 「ごめん、このまま帰って欲しくなさそうだったから」 どうして名前を呼んだだけなのに、そこまで分かるんだ。 お前がそんなに優しいと、俺はどんどん甘えてしまいそうになるのに。 「お、お前が……っぅ、うー……お前がわるいっ……」 ヨシュアは悪くないのに、俺の口はいつも天邪鬼な言葉ばかり吐き出す。甘えっぱなしの子どもなのだ。 でも、今ヨシュアに触れられたせいで、ヨシュアの声が鼓膜に響くせいで、萎えかけたものがまた勃ってしまったのはヨシュアのせいだと思う。 そっと頬を撫でるゆびにすら、びくびくと身体が震えた。 「僕が? なら……どうしてほしいの?」 そのまま脇に手を差し入れるとぐ、と上体を起こされて、咄嗟に掴んだ肌がけで局部を隠す。 ベッドに座るヨシュアに、子どもみたいに後ろから抱きかかえられる体勢になる。お腹に回された手が悪戯に動いた。 「ふっ……ゃ、だ……っさわんな……!」 ふるふると首を振っても、きっと拒絶を表す説得力はないだろうなと自分でも思う。 「僕のせいなんでしょ? なら……僕がきちんと見てあげないと、ね?」 耳元に寄せられたくちびると、そのまま外耳を舐める感触に身体が跳ねる。 布を掴む手に、ぎゅうと力がこもった。 その手に、そっとヨシュアの手が重ねられる。 「かわいいところ、見せてよ」 いやいや、と頭を揺らしても、どこかでヨシュアの言葉を期待しているのだ。 「それとも、……僕に手伝って欲しい?」 「は……う、ぅゃ」 耳元に落とされる声に、ずるずると力が抜ける。 そのまま肌がけを取り払われても、抵抗できなかった。 「自分じゃ……うまくできな……」 背中を包むヨシュアの体温に、心臓が壊れそうなくらいドキドキする。 耳の後ろをくすぐる柔らかい髪の感触に、ねだるようにヨシュアの首筋に頬をすり寄せた。 「仕方ないなぁ……でも、素直に言うこと聞ける子は好きだよ」 ちゅ、とすり寄せた頬に口付けられて、くすくすと肌を舐める吐息に背中まで快感が走る。 優しい手つきでヨシュアが下肢に触れると、ぬちゅ、と濡れた音が聞こえた。 一度いきそこねてまた勃起したそこは、すでに先走る液でべとべとだった。はしたない自分を自らヨシュアに見せ付けているようで、泣きそうになる。 足が開きそうになっても、膝の辺りで引っかかっている下衣が邪魔で、もどかしい。 「や、あぅ、ぁっ」 もぞもぞと身じろぎしていると、ヨシュアが脱がせてくれた。 屹立を握る、拙い自分の手とは違う紛れもないヨシュアのゆびの動きに勝手に腰が揺れる。 その感触にあっけなくこみ上げてくる射精感が信じられなかった。 「あ、だめ、で、ぅ出ちゃっ……」 「もう? まだ何もしてないよ?」 「ふ……やだ、やだぁ……!」 そのままぬめる先端を擦られて、首を振る間もなく、がく、と身体が揺れた。 吐き出される白濁と一緒にびくびくと腰が跳ねる。 あまりに簡単に達してしまった自分が恥ずかしくて、ぎゅうと目を瞑るとうつむいた。 「ぅー……」 「僕が手伝わなくても大丈夫そうだったね」 「う、るさ……」 ふふ、と耳をくすぐる声にますます羞恥を煽られる。できればもう一度穴があったら入りたい。 お前が触ったからこうなったんだなんて、絶対に言えないと思った。 「じゃあもう帰ったほうがいい?」 明らかに笑っているであろう声で落とされる言葉は、意地が悪い。 逃がさないように、ぎゅっとヨシュアの服の端を掴む。 「誰もそんなこと言ってないっ」 「でも、うるさい僕はいないほうがいいでしょ?」 「っいじわる……!」 「意地悪じゃないよ。ネク君はどうしたいのさ」 ちゃんと言って、と囁く声は優しい。俺がどこで素直になればいいのか、ヨシュアはいつも教えてくれるのだ。 「最後まで……っ」 「うん」 「す、するに決まってるだろ!」 「したいのかい?」 いちいち聞くな! 「この間、しなかっただろ……お、俺だけで」 「うん」 「だから……」 言おうとして、今日もヨシュア疲れてたらどうしようと思う。 拒絶されたらと思うと怖くて、声が震えた。 「よ、ヨシュアも」 けれどいつだって、ヨシュアはそんな俺の気持ちを宙に浮いたまま放り出したりしないから。 「うん」 「……」 「僕も、したいな」 落とされた言葉がじんわりと耳に残って、嬉しくて、心臓が飛び出しそうだ。 寄りかかったままだった上体を起こして、逆にまたがるようにヨシュアと向き合うと、そのまま抱きついた。 「ヨシュアも」 「なあに」 「俺と、したいのか?」 おうむ返しのようにこんなことを聞いている時点で、子どものように喜んでいる俺はばればれだと思うのだけど。 ぽんぽんとヨシュアが背中を叩く振動はやさしくて、そのためなら俺はまだしばらく子どもでいたいと思う。 「したいよ」 望みどおり囁かれる言葉に、抱きつく力が加減できない。 「そ、か」 自然と口から漏れた声は、自分でも泣きそうだなと思う。 「そうだよ」 「ヨシュア」 「どうしたの?」 さっきから子どものような物言いを繰り返す俺に、ヨシュアは笑って付き合ってくれる。 「好き」 「知ってるよ」 「好き、だ」 「分かってるってば」 「すき」 尚も開こうとした口は、ヨシュアのくちびるに塞がれてしまった。 「続きは、たっぷり可愛がってから聞いてあげるよ」 内部に留まるヨシュアの熱が、どんどんと俺から思考を奪っていく。 ベッドヘッドにもたれて座るヨシュアをまたがるこの体勢は、親の膝に乗せられている幼い子どもを彷彿とさせて恥ずかしい。 膝の力が抜けてしまった今では、俺の体重に任せていつもよりも深くヨシュアのものが入り込むので、気持ちよすぎて苦しいのだ。 「ふ、ぁ……ゃ……」 だから、本当なら早く意識が飛んでしまうくらいまで強く揺さぶって欲しいのに、今日のヨシュアは動いてくれない。 自分から動こうとしても意地悪な腕に腰から抱え込まれて、じれったく揺らす程度にしか許してくれなかった。 そんな状態で、ヨシュアは先ほどからキスばかり繰り返す。 額に頬はもちろん、首筋まで余すところなく触れて、二の腕や指先など他愛もない場所にまで至った。 時折思い出したようにくちびるに触れても、ついばむだけだったり、しつこく舌を絡めたり、ばらばらで、あまりにも気まぐれな動きにもはや声も出せない。 ぺろ、とくちびるを舐めると、そっけなく離れて今度は耳の後ろをくすぐられる。 「んっ……んん……」 そのまま耳たぶに噛み付かれるとひく、と身体が跳ねて、内部の粘膜までひくついた。 それでもヨシュアはお構いなしで、肩まで滑ったくちびるは、ヨシュアの首にしがみつく腕の裏のやわらかい皮膚をたどる。 手首を掴まれて、動脈のあたりに念入りに口付けられた。ぺろり、と舌が手のひらを舐めると、腕全体に震えが走る。 「ふ、ゅ……や、いやぁ……」 先ほどから繰り返される無体な刺激に、ゆるゆると頭が振れた。 ヨシュアのくちびるが身体に触れるたびに、中をぎゅうぎゅうと締め付けてしまって、粘膜にヨシュアのものが擦れる。 それでも湧き上がる快感が逃がせず、緩く腰を揺らすしかできないなんて、拷問に近かった。 敏感な指先の一つ一つに歯を立てられて、喉をひくつかせると、ヨシュアのキスはまたくちびるに戻ってくる。 繰り返されるキスの回数が増すたび、ヨシュアと繋がっているところからずくずくと溶けてしまいそうだ。 「は……ぅ、よしゅ……ん、んぅ」 濡れた舌が擦れる感触に、満足に名前を呼ぶことも許されない。 何度も食まれ、絡まる舌は痺れて、零れた唾液で顎までべたべたになった。 普段こんなキスをすることは滅多にないから、呼吸の仕方すらわからず、されるがままにヨシュアの唾液を飲み込んだ。 「ネク君、続きは?」 「ふ……な、に」 唐突に落とされた問いに、刺激に耐えるように閉じていた目を開く。 息継ぎの合間に囁かれる言葉は吐息と共にくちびるをくすぐって、背筋がぞくぞくする。 「さっきの続き」 「んっ、んー……」 「僕のこと、好き?」 上目遣いで覗き込んでくるスミレ色に逆らう手立ては、俺にはなかった。 「す、き……」 「ホントに?」 「すき……んっ……」 なおも問いかけながら、ヨシュアはキスをやめてくれない。 「もう一回言って」 「ふぅ……っも、きす、ゃ」 「好き?」 痺れる舌に、もうまともにろれつも回らないのに。 「ぅ……よひゅ、ぁ……っふ」 もはやヨシュアに答えるその言葉すら分からなくなって、触れるくちびるから逃げるようにふるふると頭を揺らした。 と、内部に留まっていた熱が引き抜かれる感触。 「ひ、ぅあっ」 突然の刺激に、抜けそうになるものを逃がすまいと粘膜が収縮した。 ヨシュアに持ち上げられた腰がそのまま落とされる。 「あ、あぁぁっ」 先ほどまで散々焦らされてぐずぐずになった身体にはあまりにも強すぎる快感に、どこから出たのか分からない声が上がった。 「ぁ、やだ、まっ」 ボタンの外れたヨシュアのシャツをひっぱっても、何の抵抗にもならない。 「ね、好き?」 「やぁ、あぁ」 「ちゃんと言って」 こんなときに発揮されるヨシュアの囁きの威力は、とんでもなく凶悪だった。 動くたびにヨシュアの腹で擦れる屹立の切ない感触に、ぎりぎりとヨシュアのシャツに爪が食い込む。 「ふ、ぅっ……だめっ、よしゅ」 「ほら、抜けちゃうよ」 「やだ、やぁぁっ……! は、ぅあ……あぁ」 何度も繰り返される快感の波に、気が付くと自分とヨシュアの腹を白いものが汚している。 「あれ、もういっちゃったの?」 くすくすと笑う声に眩暈がした。 びくびくと痙攣する内部を宥めるように、突き上げる動きが緩やかになる。 それから俺が本格的に嗚咽を漏らして泣き出すまで、ヨシュアはあまりにも無体な、緩慢な責めを繰り返した。 くたくたになった身体で、それでも眠ってしまわないようにヨシュアにしがみついている俺は、呆れるくらい子どもに見えるんだろうなと思う。 だってこのまま寝てしまったら、確実にこいつはいなくなってるだろうし。 「ネク君、眠い?」 「んー」 「子守唄でも歌ってあげようか」 戯れに呟かれるその声自体が子守唄のようにやわらかで、心地よい響きなのをこいつはきっと知らないのだろうと思う。 「今日」 「うん?」 「なんで、来るの遅かったんだ」 遅くなったことを責めるつもりはないけれど、今後のために聞いておきたい。自分の諸々の都合も合わせて。 というかヨシュアに会うに当たって、暗黙の了解が多すぎて少々やりづらいのだ。 なんとかならないのか。メールとか。携帯まだ持ってるだろ。 「ああ、そういえばネク君僕のアドレス知らないんだっけ」 当たり前だ。ゲーム中は携帯の連絡機能は死んでたんだし。 こいつだけは堂々と羽狛さんに電話していたけど。 こんな関係を持ってからも相手のアドレスを知らないことを不満に思って睨むと、じゃああとでメールするね、と返る声の気軽さが嬉しくて、少し機嫌が直った。 ヨシュアが俺のアドレスを知っていても別に驚かない。見も知らぬ参加者にメールを送るなど、死神にだって造作もないことなのだから。 ただ、その連絡手段を今まで使わなかったことは不満ではあるけれど。 「でも僕、あんまりメール好きじゃないんだよね」 「は?」 「打つの面倒じゃない」 あれだけ四六時中携帯をいじっておいて、何を言い出すんだ。 「アポーツとかの媒介にはしてるけど、普段からいじってるのにメールまで打つの面倒なんだよね」 そういうものか? 「電話の方が早いし、好きだよ」 「ふーん」 「でも電話するより、会いにきたほうが早いでしょ」 ……要するに、今後も事前連絡はないってことか? 胡乱な視線をやっても、ヨシュアはそ知らぬふりだ。こいつの中で今の話題はもう終わったものらしい。 「今日もいつもの時間に来るつもりだったんだけど、ちょっとうたた寝しちゃって」 その言葉に、思わず眉間を寄せる。 「じゃあお前、今日も疲れてたんじゃないのか」 こいつのうたた寝は、俺のようなRGの人間のそれとはわけが違うのだ。 「そんなことないよ」 読めない瞳でのたまう、こいつのこういう言葉ほど信用できないものはない。 「うそつき」 「自分の管理くらい自分でできるってば」 苦笑するヨシュアに、俺の立場からはそれ以上言えることなどないのだけれど。 そうしてまで俺に会いたいのだと、こいつは言っているのだから。 「今日も少しネク君と寝て行くから大丈夫だよ」 「本当に?」 「ネク君が寝たらね」 先ほどから襲い来る睡魔と必死で抗戦中なことは、とっくにばれていたらしい。 なんとなく悔しく思いながらも、促されるままにまぶたを閉じる。 「じゃあ、寝る」 「うん、いい子だ。おやすみ」 子ども扱いするな、と言おうとしながらも意識は眠気にさらわれて、優しく額に触れるくちびるの感触だけが残った。 いつも名残惜しく思う、ヨシュアと過ごすこんな時間を、また無事に迎えられますように。 ネクは高校生になってもうつ伏せで一つ(自慰的な意味で) 一部ネタを高樹さんとのメッセからいただきました。ありがとうございます! 20080806 →もどる |