置いて行かれる。
繋ぎとめる。

ま、こいつなりに色々あったんだろう

だがな

「バカか、てめぇは!!」

知ったこっちゃねぇ!


「繋ぎとめるための覚悟だ?なんだそりゃ?」

正直、ムカついてしょうがねぇ

「そいつな何か? 縋り付いて情けを乞う覚悟ってか?」

正直、イラついてしょうがねぇ

「そんなもん、あってたまるかよ!!」

だから、思いっきり殴りとばす
右の肋骨辺りを思いっきり

・・・いけね、今、左はマズイんだったか
ま、いいか、少し気が晴れた。

「昔、どこのだれがお前を置いて行ったかは知らねぇ」

へたり込んで起き上がってこねぇロジェに向かって歩く

「場所も、状況も、何も知らねぇ」

刺さりっぱなしの剣を抜いて、目の前に放る
反応がねぇ、だめだな・・・ しゃあねぇ

「それで何か? そいつは、騙し、たぶらかし、その気にさせて、いらなくなったら捨ててったって?」

ひでぇやつだな と言い切る前に左肩が燃えあがる。


「・・・何、知ったたふうに言ってんだよ」

押えられた怒気と、すすり泣きと

「何にも知らないくせに、何にも知らないくせに!」

合せた叫びと、魔力と、共に立ち上がり睨む

「あのひとの事を、何も知らないくせに!!」

その魔力は槍となり襲いかかり、拳に宿り襲いかかる。

槍を防ぐためにかざした腕をくぐり、ロジェの拳が腹に直接魔力を叩き込んでくる。

とっさの防御術では防ぎきれねぇ


「あぁ、知らねぇ」

なら、仕方がねぇと左肩を掴んで砕きにかかる。

「だがよ」

指が沈み込み、ロジェの悲鳴がひときわ大きくなった瞬間、右腕の感覚を失う

黒いモヤが腕を覆ってやがる。

「お前が好きだった奴なんだろう?」


肩の拘束が緩んだすきに、ロジェは蹴りを繰り出し、間合いを離す。

左腕はうまく使えねぇみてぇだな お互い様と言うにゃ、こっちがやられ過ぎだがよ

「なら、なんで信じてやんねぇんだよ」

右腕は、 まだ動くな、なら 

「そいつは、最高の奴だった お前だけでも信じてやんな」

うつむいていて、その表情は見えない

左腕は動かないのか、だらんと下げたまま

「だから、そいつには行くべき理由があっただけだ」


右腕は息があがり上下する左肩をかばうように押さえている

両脚は力なく震え、立っているのもやっとって感じだ

「お前にも、多分そいつにも、どうにかならねぇ理由があっただけだ」

しかし、ロジェは次の方陣をまとった。

だろうな、許せねぇよな、随分なこと言っちまった。

「なぁ、ロジェ 惚れてたんだろ? だったらな、そんくれぇは信じてやんな」

何も知らねぇで好き勝手にだ。

まぁ俺でも切れる、ぶん殴る

「そいつと、そいつに惚れた自分の気持ちをよ 信じんだよ、受け入れんだよ」

だからよ、その侘びと言っちゃなんだが、受け入れてやんぜ、ロジェ

間違っちまってるダチとして、てめぇを受け入れて、ぶん殴ってやる

最後まで、解るまで、殴って、殴られてやる

「そいつがな、覚悟ってやつだ」


言いたいことだけ言い終えて、殴り掛かる 

反論など、待たない そんな余裕は俺には無い

補助術を挟む余裕も、牽制を入れる体力も無い

ただ、まっすぐに、全力で

ロジェの方陣が収束する。

当然、大槍を避けてる暇も無い

ただ、まっすぐに、全力で

ロジェの左頬を、打ち抜いた・・・




お互い結構派手に吹っ飛んで、床に転がった

起き上がって、壁に背を預けて座りなおす俺と

大の字になって、起きてこないロジェ

起きれねぇって事は、俺の勝ちでいいのかね。

ざまあみろ、クテラとデートなんかするからだ。

「おい、ロジェ聞こえてっか?」

朦朧とした頭で、話しかける。
返事は多分返ってきてないんだろう。

「実は俺もな、置いてかれてるんだ」
「クテラにだよ」
「あいつな、里では会うたびに俺のこと忘れてやがったんだ」
「2度や3度じゃねぇぞ」

ひでぇだろ?
普通なら、怒る、嘆く、引いちまう。
だがよ、俺はクテラを信じ切った。
その覚悟を決めた。
だから

「ま、その度に惚れ直させてやったがな」

自慢だし、惚気だ。
ダチなら、その位聞きやがれ。
でもな、覚悟ってのは、そういう事なんだぜ?ロジェ


「それとな」
「もう少しユハの事信じてやれよ、それとユハを選んだ自分もだ」
「おまえは知ってんだろ?あいつが、ユハが、ここまで一緒にやってきた奴に、何も思わずにいられるヤツかどうか」

「だったら、信じてやんな」
「ユハは、お前が邪魔だなんてちんけな理由で、お前を置いて行ったりしねぇ」
「そんで受け入れな」
「あいつと共にいたいと思っている自分の願いを」

『一緒にいてください』

「だから、お前が言うべき言葉はそれじゃねぇ」
ただ、ともにある事が当たり前とばかり

『じゃぁ、一緒に行こうか』

と手を伸ばせばそれでいいんだ。



それから、さらに少して、ようやくユハが様子を見に来た。

俺はいいからロジェを頼むと告げ

意識があるんだか無いんだか、解らないロジェを担いで帰らせた。


「何とか間に合ったな・・・」

無駄話で意識を繋いで、精霊術で傷をごまかして

やっぱり、最後の大槍はまずかった

こんな大穴あけられたんじゃ、俺の治癒術じゃ止血が精一杯



途端、左わき腹が血に染まっていく

精霊力が尽きた。体力も尽きた。

やべぇな、これで死んだら、さすがにカッコつかねぇや

まったく

また、あいつに傷つくっちまう訳にはいかねぇんだからよ

傷を抑えて立ち上がろうとして