※性描写を含みます。ご注意ください。 義弥に導かれるままに渋谷川まで連れられて、あの日足を踏み入れた不思議な部屋までやってきたけれど、ざわざわと俺を急き立てる胸騒ぎはやまない。 道すがら見たまるで三途の川のような下水の様子も、まるで奈落の底に続いているかのような長い通路も、未知のものに対する恐怖を掻き立てるのに十分だったし、こんな下水道の奥にあるキレイな水槽に囲まれた白い部屋も浮いて見える。 これ以上踏み込んではいけないと頭の中で警報が鳴り響いているような感覚がずっと止まらないのに、俺の手を引く義弥の繊細な指先を振り払うことはどうしてもできなかった。 水槽の部屋から更にもう一つ、宇田川町にあるものと酷似した壁グラが彩る道を通り過ぎると、どうやらここがようやくの終着点らしい。薄暗い黒い部屋の奥にはあのときと同じ大きな椅子があって、義弥はなんの迷いもなくそこに腰掛ける。優雅で洗練された動作に相変わらず俺の視線は釘付けになってしまうのだけれど、義弥に手を離された俺はどこに身体を落ち着けていいのか分からずに立ち尽くすしかできない。 「こ、こは……」 「僕の部屋だよ。前にも来たでしょ?」 「ふえ、う」 「渋谷を管理するものがこの玉座に座るって、前に話したじゃない」 玉座、といわれたその椅子に、それでは義弥が座っているというのは一体どういうことなのだろう。王者然とした態度で当然のように振舞う義弥のその姿はこの上なく似合っていたけれど、華奢な身体つきにはその椅子は少し大きすぎるように思えるのが気になった。 一世一代の告白のつもりで身を投げておいてなんだけれど、俺は自分でも驚くくらいに義弥のことを何も知らない。前回のマブスラ大会決勝まで勝ち上がった参加者で、俺だけでなく多くのマブマニ読者から絶大な支持を得ているコラムの執筆者で、かと思えば飄々と人を食った態度で相手を振り回して、俺の理解の外にある話をしては混乱させる。 けれど金とも銀とも言えない不思議な絹糸のような髪も、白い指先が紡ぎだす極上の仕草も、腕のいい職人が長い時間をかけて削り出した飛び切りの彫刻品ともいえるほどに完成された体躯のパーツ一つ一つまでが、俺の目を惹きつけてやまない。 何よりも夜明けを思わせる、あるいは夜の訪れを知らせる夕暮れのように、冷たく澄み切った瞳の奥に隠された昏く深遠な闇の匂いにどうしようもなく魅了されてしまうのだ。 「さて、それで?」 「っ、う?」 「ネク君は僕と一緒にいたいなんて簡単に言うけど、何を、どこまで僕に差し出してくれるつもりなのかな?」 ネク君、とその言葉の聞きなれない響きに、今日初めて彼に名前を呼ばれたことに思い至る。更に何かのどの奥に引っかかっているような違和感を感じて記憶を掘り返していくと、まさに今日この部屋と同じ場所で俺は全く同じ違和感を感じたのだった。 俺は彼にまだ一度も名前を教えたことがない。ラーメン屋で揃って自己紹介をしたときも遮られて、結局言えずじまいだった。けれど彼はなんの迷いなく俺の名前を口にする。 その不気味さと不可思議さにますます義弥自身が分からなくなるのだけれど、それと同時にとらえどころのない雲のような危うい一面を感じるたび、どうしようもなく彼に惹かれてしまう俺はどこかがおかしくなってしまったのだろうか。 「それによって教えてあげられる範囲が変わるんだけど」 「お、れが……義弥に」 「うん?」 義弥の意図を確かめるようにぽつりと反芻した言葉で、彼は唐突に首をかしげた。不自然なその反応に俺のほうも思わず首をかしげてしまう。 「ネク君、もう一回言って」 「え?」 「僕の名前」 予想もしていなかった質問に、取り繕うこともできないままあからさまに戸惑った。一度しか聞いていない名前だけに、間違えて覚えていたらどうしようと後ろめたく思っていたこともあって余計にうろたえる。 「よし、や……」 「よしや?」 「あ、う……」 「あれー? なんか発音が妙だなって思ってたけど……僕そっちの名前しか教えてなかったんだっけ」 うーん、とどこか芝居ががった動作で首をひねる義弥に、俺の中の不安がみるみるうちに膨れ上がっていく。 「あ、の、俺……何か……」 「ああ、大丈夫だよ。別に間違いではないから。でも僕の名前、正確にはヨシュアっていうんだよ」 「よ、しゅあ?」 あまり馴染みのない横文字の発音に戸惑いながらもなんとかつっかえつっかえ口にすると、彼は満足げにふんわりと微笑んだ。 「区長もマコト君もそう呼んでたでしょ? 初対面で名前が横文字だと色々聞かれて面倒くさいから、普段は和名で名乗ってるけどね」 「そう、なのか……」 ひとまず、俺が粗相をしたわけではないらしいことにほっとする。それと同時に、ここに来てようやく本名を教えてもらえるだなんて、ますます前途多難だと嘆息してしまったけれど。 「呼ばれ慣れなくて変な感じするから、今からそっちの名前で呼んで」 「ヨシュ、ア」 「うん。それで、ネク君はどこまでを僕にくれるの?」 膝の上で手を組んだ義弥……もとい、ヨシュアは所在無く立ち尽くす俺を悠然と見上げて、一度変な方向に持って行った話を相変わらずの唐突さで本題に戻した。 どこまで、と言われても、恋愛方面(今の状況をそう言ってしまっていいのか分からないが)の経験なんて皆無に等しい俺には酷な質問だ。 「見てのとおり僕は男でネク君も男の子だし、そのネク君がどの程度の気持ちなのか分からないと僕も身の振りようがないんだよね」 「あ……」 「何せ僕も少しばかり特殊な立場だし、教えるにしてもネク君の方から示してもらえないとフェアじゃないでしょ」 「えっ、と」 なんだか煙に巻くような言い方で先の見えない霧の中へ誘われているような気がしたけれど、暗に俺の選択次第なのだと言ってくれているのは分かったから、勇気を振り絞ってヨシュアの元へおずおずと足を踏み出した。 「よく、わかんない、けど……ん、く……こ、ゆ、こと……か?」 気を抜けばすぐにびくびくと怯えてしまう手をそうっとヨシュアの肩に乗せてから、ぎゅっと瞼を閉じて整えた心の準備が綻びてしまわないうちにちょん、と目の前のくちびるに口づける。 とてもヨシュアの顔を見ながらなんて勇気はなかったし、キスをするときは目を閉じるものと思っていたけれど、そうするとよっぽど相手との距離が把握できていない限りは狙った位置に口づけるのは難しい、ということを初めて知った。 少しばかりずれて口端に口づけるような形になってしまったけれど、やわらかくてほんのりと冷たいヨシュアのくちびるの感触は俺の思考を支配するのに十分な衝撃だった。 「へぇ、童貞君はキスもしたことないんだ?」 「う、えう」 「随分積極的だと思ったけど、もしかして何もわからないままついてきたのかな」 「んっ、んん……」 ぺたりと俺の頬に当てられたヨシュアの手がするすると顎のラインをなぞるように滑って、俺の意思とは関係なしにぴくぴくと身体が勝手に跳ねる。ただでさえばくばくと早鐘を打つ自分の鼓動のうるささに翻弄されている真っ只中だというのに、断りもなくそんな風に触れられたらもうまともな思考など保っていることができない。 「た、しかに……初めて、だけど」 「うん?」 「じゃ、じゃあ、うまくなるまで、する」 経験のないことを揶揄されたのはたまらなく恥ずかしかったけれど、それ以上にすぐ離れてしまったヨシュアのくちびるの感触をもう一度味わいたい気持ちの方が強くて、もどかしく思いながらも目の前の男の許しを待つ。 「ふぅん? なら頑張って」 俺の提案にヨシュアは少しだけ驚いたように目を丸くしたけれど、すぐに楽しげに笑って俺の愚行を受け入れてくれた。 ヨシュアの承諾が取れると待ちきれない気持ちがじりじりと俺のことを内側から追い立てて、酸素を求めて喘ぐ金魚のように口を開いてやわらかなくちびるに吸いついた。 「ん、く……ふ、ぅ、うに」 「僕とキスするときは目閉じないで、ちゃんと見てて」 「ふ、え……ん、うん……っ」 くちびるを触れ合わせたまま直接囁かれる指摘にそろそろとまぶたを持ち上げると、近すぎて見えない距離にヨシュアのスミレ色がぼやけている。彼の視界も俺と同じようにぼやけているはずなのに、見られている、と感じた途端にぞくぞくと甘い痺れが背筋を駆け上がって、気を抜くと膝に力が入らなくなって座り込んでしまいそうだ。 「んっ……ん、っ……」 「あし、震えてるけど。無理しないで座ったら?」 「は、え」 ヨシュアのその言葉に、どこに、と質問を返す暇もなく骨ばった腕に腰を抱き寄せられて、気づけば玉座に腰掛けるヨシュアの膝の上にぺたりと座り込んでいた。 慌てて腰を浮かせようとしてもしっかりと抱き込まれてしまっていて、ヨシュアの細い身体に体重をかけてしまっていることに気が引けたけれど、どうにも身動きがとれない。 「う、ぁ、よしゅ」 「それに、このままネク君に任せてたらキスだけで日が暮れちゃいそうだから、僕が教えてあげるよ」 「ふえ、ぇ……ぅ……ん、く……ん、んに」 「ちゃんと口ひらいて、舌出してて」 ふわりと細められたスミレ色に見据えられながら指図されるとどうにも抵抗するだなんて頭はなくなってしまって、力が抜けて元々閉じられない口からのろのろと舌を差し出した。 するとヨシュアは如才ない仕草で俺の顎を掬ってだらしなく開いた俺のくちびるに口づけると、何度かついばむように食んでからぬるりと舌を滑り込ませて絡めとる。 くちゅくちゅと音を立てて舌を擦り合わせたり、他人のぬるついた舌に口内のあちこちを舐められるだなんて初めてのことで、びりびりと身体中に広がって思考を苛む得体の知れない感覚に恐怖を覚えるのは時間の問題だった。 「う、ゅ……ん、く……くうぅん……ふ、え、よしゅ、うぅ」 「うん?」 「あう、ぅ……えうぅ……お、れ、なんか、へんっ……こわ、い……」 必死の思いでヨシュアの胸を押し返したものの、離れたくちびるから唾液が糸を引くのが泣きたくなるくらいにいやらしくて、ひくつく喉ではうまく喋ることもできずに声が震える。 なのにヨシュアは俺のくちびるから垂れる唾液を親指の腹で優しく拭ったかと思うと、再びくちびるを寄せて何度も食むように吸いついた。下くちびるを引っ張って強引に口内に割り入ると、怯えて縮こまる舌を暴いてぬるぬるとしつこく絡める。 「ふ、きゅう、ぅん……んく、くぅん……ふえ、んぅ」 尖った歯でやんわりと舌を甘噛みされたり、敏感な上あごを舌先で何度もくすぐられているうちに、分け与えられる唾液をただこくこくと無心に飲み込むことしかできなくなってしまって、情けなく鼻から抜ける犬のような声が自分のものだなんて信じられない。人間の上あごがこんなにも感じやすい部位なんだということすら初めて知った。 飽きずに蹂躙を続けていた舌がようやく口内から抜け出て、ヨシュアのものに成り果てていたくちびるが自分の意思で動かせるものに戻ると、永遠に続くかと思われた口腔への責め苦から介抱された安堵に、ぐったりと力の抜けた身体をヨシュアの胸にもたれさせた。 「うに……うー、ふうぅ……わぅ……ふー……っ」 「キスの仕方、少しはわかった?」 「ん、に……んんぅ、うぅ……よしゅ、あ」 「なあに」 「はふ、あぅ……はぁ、はぅ、おれ、ぇ……もう、うぅ、きす、こわ、い」 ひくん、ひくん、と俺の意思を無視して何度も痙攣する身体が怖くて、縋るものを求めてヨシュアの肩口に額を擦りつける。身体のどこかが壊れてしまったかのように全身が焼けるように熱くて、顔を埋めたシャツからヨシュアの匂いを吸い込むたびにじくじくとわけのわからない疼きで胸が苦しくてたまらなかった。 「こわい? じゃあもう、一緒にいるのやめる?」 「う、ぁ……ちが、う、やめ、ないっ……やじゃない、からっ!」 「そうなの?」 「んく、んくぅ……で、も……きす、こわい……」 「ふふ、そう。じゃあ今度はこっちを教えてあげようか」 今にもヨシュアが離れてしまいそうなのが怖くてぎゅうっと服を掴んでいると、そんな俺を宥めるようにヨシュアの手は俺の制服を辿ってベルトにかかる。かちゃかちゃと器用に外しながら、こんなときでもヨシュアのゆびの動きは洗練されていてキレイだと思った。 「もうこんなになってて、苦しそうだし」 「わ、ぅ……! あ、ぅ……よしゅ、あっ……なにっ、ぁっ」 くたりとだらしなく緩んだズボンを下着ごとずり下げると、露になった屹立をヨシュアの手がやんわりと握りこむ。 いつの間にかぴんと背を伸ばして勃起していた性器に対する羞恥心と、生まれて初めて他人の手に、それもヨシュアの手で触れられるという動揺にどうしていいのかもわからない。 俺が一人で戸惑っている間にヨシュアは手慣れた様子で屹立を扱き始めて、すぐに漏れ出した先走りがゆびに絡んでくちゅくちゅととんでもなくいやらしい音を立てた。 「やぁ、あぅ……えう、うぅ……よしゅあ、なん、でぇ」 「なんでって?」 「ふに、うぅー……うく、あう、だってぇ、そんな……とこっ……」 「だって、このままじゃ苦しいでしょ?」 それを言われると確かにそうなのだけれど、ヨシュアのゆびが動くたびに何度も身体が跳ねてしまうのが恥ずかしくて、漏れ出る先走りがキレイな手を汚している罪悪感にいてもたってもいられなくなる。 「ん、くぅん……んに、んく、あぅ……わうぅ……よしゅ、はなし、てぇっ」 「どうして? 気持ちよさそうなのに」 「ふ、うく……うにゅ、きもちい、からぁ、だめっなの……!」 ふるふると首を振りながら懇願しても、ヨシュアは俺の性器を弄くってオモチャにするのをやめてくれない。 何度も何度も痙攣してしまう身体に、もう込み上げてくる衝動を堪えるのは限界だった。 「う、く……ふえ、ぇ……よしゅ、おれ、もうでちゃ、でちゃうぅ、よぉ」 「そう」 「も、もぉ、ほんと、に、や、あう、わあぁん……!」 びく、びく、と大きく震える自分の身体が怖くて、無我夢中で目の前の体躯にしがみつく。華奢な見た目に反してしっかりと俺を支えてくれる揺るぎない感触に心底安堵するのを感じながら、びゅくびゅくと情けなく射精してしまった。 「え、う、ぅん……はぁ、はぅ……はふ……」 「いっぱい出たね。ほら」 「う……ぅ……そんな、の、いじるな、ぁ……」 手のひらを目いっぱいに汚している精液を指先にまとわりつかせてぬちぬちと遊ぶヨシュアに、堪え切れなかった罪悪感と泣きたい気持ちでいっぱいになる。 自慰ならば今までに何度もしているけれど、人前で射精したのなんて初めてだ。しかもヨシュアのキレイな瞳が一部始終を見守っている中で、ヨシュア自身の手でなんて。 ヨシュアはまるで平気な様子で涼しい表情を崩さないけど、そのことがますます俺の惨めさを煽り立てる。 「よしゅ、あ……うぅ……なんで、こんな、するん、だよ……っ」 「だって、気持ちよかったでしょ?」 「は、え」 「ネク君は、僕に気持ちよくしてもらうのいや? 僕に触られるのいやなの?」 頭の追いつかないことを立て続けにされて混乱するばかりだったけれど、そう問われてじっと思い返してみると、ヨシュアが俺にすることはどれも気持ちがいいと感じるものばかりだ。 ヨシュアは俺を気持ちよくしてくれているんだ、と思ったら、俺に気持ちいいって思って欲しいのかな、もしかしたら触りたいと思ってくれているのかな、と都合のいい考えがみるみるうちに頭の中をいっぱいにして、首をかしげてこちらを窺っているヨシュアに慌てて首を振った。 「や、じゃない……き、もち……よかった……」 「そう。じゃあ、まだ一緒にいる?」 「う、うんっ」 勢い込んでうなずくと、ヨシュアは薄く笑ってまた一言そう、と呟いてから、ぬめる精液をまとったままの手で俺の尻たぶをつい、と撫でた。 「ひゃ、う」 「痛くしないから、大丈夫だよ」 「ん、くっ……ふぅ……うゅ……」 予想もしなかった場所へ唐突に触れられて驚いてしまったけれど、びくりと震える背中をヨシュアの手のひらが優しく宥めるように擦ってくれたから、ヨシュアが大丈夫と言うなら何も心配することはないんだと思い、そうっと身体の力を抜く。 ぬるぬると何度か尻の割れ目をなぞった後、ヨシュアのゆびはゆっくりと俺の体内に入り込んだ。 「ふ、あっ……わう、ぅ……んく、ふにゅ……しゅ、あ」 「少しいきんだ方が楽だと思うから、自分でいいように力入れたり、抜いたりしてごらん」 「う、く……ふぅ、んん……むぅ」 ヨシュアのゆびがぬちぬちと少しずつ、けれど着実に奥まで入り込んで粘膜を探る感覚に段々と俺の頭は思考を放棄し始めて、言われるままに体内のゆびの動きに合わせてお腹に力を入れた。そのたびにぎゅ、ぎゅと食い締めてしまうヨシュアのゆびの硬さがありありと感じられて、なんだか自分のしていることがものすごくはしたないことのように思える。なのに、ヨシュアの言葉通りいきむたびにずるりとゆびが奥へ進んで、じりじりと頭を焼く羞恥は確実に身体の疼きに変わっていった。 「ふぅ……う……こ、う……? うぅ、よしゅあ」 「そうだね。上手だよ」 「え、く……お、れ、おしり、ぃ」 「うん、ネク君のお尻に、僕のゆびが入ってるよ」 理解しがたい感覚に無意識のうちに自分がされていることを自覚できずにいたけれど、はっきりと言葉で突きつけられたその余りの淫らな響きにぐずぐずと俺の理性は形をなくして溶解していく。 「うゅ、うにゅ……ふぅぅ……お、れ……おれぇ……」 「あれれ、ネク君お尻気持ちいいの?」 体内に咥え込むゆびが三本まで増やされたところで、ヨシュアの指摘にひくりと背筋が震えた。 恐る恐る自分の股間に目をやると、もう誤魔化しようがないほどに勃起した性器が先走りを垂れている。 「ん、くぅんっ……! や、ぁ……こん、なぁ」 じくじくと体内を支配していた感覚の正体を突きつけられて、今まで築き上げてきた自分と言うものがガラガラと崩れていくような錯覚に陥った。 「ふうぅ、うえぇ……あ、あんっ……こんな、うそだぁ……おれ、おれぇっ」 「初めてなのに気持ちよくなっちゃうなんて、やらしいね」 「うぇ、えん……ち、が……ちがぁ、う……だ、ってぇ」 こんなの俺じゃない、こんなはずないって頭の中ではいくらでも叫べるのに、俺の身体はぬちぬちと体内をいじくるヨシュアのゆびで紡がれる快感から逃れようとはしなくて、ただ目の前の男にしがみついてゆるゆると肩口に押しつけた頭を揺らすことしかできない。 「う、っく……ひ、ぐ……ふ、ぇえ……」 「ふふ、大丈夫だから。そんなに泣かないで」 ヨシュアはみっともなくすがりつく俺の肩をそっと押すと、ぼろぼろと頬を伝う涙をくちびるで優しく拭ってくれて、そうして初めて俺は自分が情けなく泣きじゃくっていることに気がついた。 「男の子はお尻に気持ちいいところがあるから、おかしなことじゃないんだよ」 「ふ、ぅ……いぅ……お、れ……へんじゃ、っんん……ないの、か……?」 「へんじゃないよ。ほら、ここ気持ちいいでしょ?」 できの悪い生徒に優しく諭す教師のような声でここ、と言いながら、ヨシュアはもぐりこませたゆびでお腹側の壁を押すようにくい、と折り曲げる。 ちょうど性器の付け根辺りのその場所を押された途端、あまりにも強すぎる刺激にがくん、と身体が跳ねた。 「う、あぁ……! あ、あんっ……あぅ、わぁ、あぁ……!」 「ね?」 「やぁ、だぁ……! っよしゅ、あうぅ、それ、それぇやらぁっ!」 「こういうときは、いや、じゃなくて、もっと、って言うんだよ」 「あ、あぅ、あん、わうぅ……わあぁんっ! ……ふぐ、ふえぇ……や、だ……ぁ」 ヨシュアのゆびがしつこく何度も何度もそこを行き来するたびに、びくんびくんと俺の意思を離れて震える身体が怖くてたまらない。少し前まであまり強く抱きつくとヨシュアの身体が折れてしまいそうな気がして心配だったのに、今はもうそんなことすら気にしていられなかった。僅かばかりも揺らぐことなく支えてくれるヨシュアの体温が何よりも俺を安心させてくれて、ただ一つこの場で縋りつけるものの全てだったから。 「えう、ぅん……あう、わぁ、あうぅ……ん、きゅ……ふきゅ……くうぅん、っ」 「お尻だけでもちゃんと気持ちいいみたいだから、射精もできるように練習しようか」 「ふ、え……えう、うぅん……」 やわらかな声音で囁かれる言葉の意味をもう理解することが難しくなってきているのだけれど、この上何をされるのだろうかとびくびくと身体が怖がる。それと同時に、ヨシュアの手で与えられる未知の快感への期待が胸の内から湧き上がるのもわかって、ドキドキと胸を高鳴らせている自分との矛盾に怯えた。 「や、ぁ……よしゅ、うぅ……もう、さわ、ゃ」 「ここも、また出したくなってるでしょ?」 ひく、ひく、と痙攣する身体を持て余していると程なく、くちゅくちゅと尻穴をほじりながらヨシュアの反対の手が当然のように俺の屹立を握って扱き始める。 「よしゅあ、ぁ……ふゅ、んく、んんぅっ……いま、さわっちゃ、ぁ、やだっよぅ……!」 「ふふ……ネク君のナカ、ぎゅっぎゅってしててかわいい」 「うぅ、ぅん……だ、て……らってぇ、よしゅ、がぁ……あぅっ、あぁんっ」 俺がいくら反論しようとしても、ヨシュアのゆびがまるで始めから俺の性感帯を知っているかのように先端のきわをしつこく擦ったり、割れ目をくじったと思えば裏筋をいやらしく辿ったりするものだから、そのたびにぎゅうぎゅうと何度も体内のゆびを食い締めてしまって何の説得力もない。 身体中を暴れまわる快感が神経を焼いていくような気がして、段々と頭が真っ白になってくる。 「あは、白いのが出てきちゃったね。もう出すの?」 「あ、ぅ……ふえ、えぇ……お、おれ、ぇ、また、でちゃっ……でちゃうぅ、よぉっ」 「うん、いいよ。好きなときに出して」 「ごめん、なさっ……ごめ、なさいぃ……ふぇ、あぅ、んんぅ……!」 もう込み上げてくる射精感を堪えることができずに達する瞬間、どうしてか謝罪の言葉が口をついて、それが誰に対してのものなのかは俺にもわからなかった。不浄の快楽で極まってしまう罪悪に対して、神様に許しでも請うたのかもしれない。 「んく、んくぅん……は、はぁ……はうぅ……」 びゅるびゅると射精する間、何度も何度も体内のヨシュアのゆびを締めつけてしまって、それが苦しくてたまらない。早く終わって欲しいと思うのに、どうしてか精液は小刻みにしか放出されずに繰り返し俺をむせび泣かせた。 「ぅ、く……よしゅ、あ……ふう、ぅ」 「さっき出したばっかりなのに、またいっぱい出たね。そんなに気持ちよかったんだ?」 「ふぅ……に……お、れ……おれぇ……」 長い時間俺を苛んだ絶頂がようやく終わりを迎えて、ぐったりとヨシュアの身体にもたれこむ。今までに経験のないまるで未知の領域の快楽に、もうこのまま気が狂うのではないかと思った。 「は、ふ……うく……よ、しゅあ、ん、に」 絶頂を終えてからもひく、ひく、と痙攣の止まらない俺を宥めるように、ヨシュアは優しく頬を撫でてから、子どもにするような優しいキスを繰り返し俺のくちびるにくれた。 やわらかでどこかくすぐったいような感触にどうしようもないくらい安心してしまって、気がつけばぽろぽろと安堵の涙が頬を流れる。 「ふに、うにゅ……う、んく、んくぅ……ん、ちゅ、んむぅ」 「ね、気持ちよかったでしょ」 「ん……ふ……う、ん……うんっ……きもち、ぃ、かった……」 「そう」 しっとりと吸いつくようなヨシュアのくちびるは何度触れ合わせても足りないほどに心地よくて、いつまでも口づけていたいと思ったのだけれど、ヨシュアはぺろりと俺の上くちびるを舐めてから素っ気なく離れてしまった。 「よ、しゅ、ぅ」 「でも、今日はここまで」 名残惜しさに思わず追いすがろうとした俺を制して、体内にうずめられていたヨシュアのゆびもゆっくりと抜き取られてしまう。 「さあ、もうこんな時間になっちゃったね。おうちに帰らなきゃ」 言いながら、ヨシュアが胸ポケットから半分だけ顔を覗かせたケータイのサブディスプレイに目をやると、もうとっぷりと日が暮れてそれなりに経ったであろういい時間だった。 「よしゅ、あ……やめちゃう、のか……?」 既に俺の身体をポケットから取り出したウェットティッシュで拭って乱れた制服まで整え始めているヨシュアに、あまりの唐突な幕切れに頭のついていかない俺は物足りなさから言いようのない寂しさを感じていた。 もっと、ヨシュアに触って欲しい。 もっと、たくさん教えて欲しい。 そう感じていることを徐々に冷静になり始めた頭で考えると羞恥でいてもたってもいられなくなりそうだけれど、誤魔化しようのない俺の本心だった。 「ふふ、一度に全部教えちゃったら、つまらないでしょ」 優雅な仕草で手際よく、あっという間にベルトの金具まで留め終わったヨシュアの手は、不満を露に見上げる俺の髪をさらさらと撫でる。 「まあ僕が飽きるまでは付き合ってあげるからさ」 「ん、く……」 「始めに言ったとおり、もちろんこの後もネク君の選択に任せるよ?」 するりとうなじを辿って耳の後ろまでをくすぐる指先の感触に思わず首をすくめながら、視線だけは間近で見るヨシュアのスミレ色の美しさに釘付けになっていた。 ヨシュアはそんな風に言うけれど、この世のものではない崇高さで、神聖で優艶な目の前の男の紡ぎだす蠱毒に魅せられてしまっては、俺のような矮小な生き物が逆らえるはずがないというのに。 「だから、これからも僕と一緒にいたいって思うなら」 すう、と優美に細められる、沈みきる直前の夕暮れの光に囚われてしまっては。 「また連絡して」 思考も、抵抗も、反論も拒絶も全てを放棄して、ただ本能が求めるままにこくんとうなずいていた。 ちょっとおバカでナヨナヨしているアナザーネクちゃんは調教に持ってこいですね。 20120121 →もどる |