※性描写を含みます。ご注意ください。 「ヨ、シュア……」 火照る身体を我慢できずにもぞもぞと身じろいでみても、ヨシュアはぎゅっと背中に回したその長い腕の拘束を解いてくれない。 「なあに」 呼べば何度でも優しい声で答えてくれるけれど、実際俺がされている仕打ちは全然優しくなかった。 ヨシュアは仕事から帰ってきて疲れた顔をしていると、大抵は俺を抱き枕にしてベッドでしばらくごろごろするのがストレス解消というか、疲労回復に役立っているらしく、俺もヨシュアの温かい胸に顔を埋めて力強い腕にぎゅっと抱き締められるのは全然嫌じゃない。むしろどんどん積極的に抱き枕として活用して欲しい。 いつでも死と消滅と隣り合わせの日常を送るヨシュアのために、それだけのことで役に立てるならお安い御用だ。 でも、ベッドに仰向けに寝転がったヨシュアの上にまたがるようなかたちで寝そべって長い時間抱き締められていたら、彼に飼いならされた身体が不埒な欲望を抱いてしまうのはしょうがないことだと思うのだ。炭酸水を飲んだらげっぷがでる、くらいのもはや必然だ。 そんなのヨシュアが一番わかってるのに。 「うう、俺っ……ぁ、したいの、わかってる、だろ……んく、ふぅ……いじ、いじわるっ」 いっそのこといつもみたいにヨシュアのスラックスを下ろしてフェラチオになだれ込みたいくらいの気持ちなのだけれど、ヨシュアはぎゅうぎゅうと俺を抱き締めたままで離してくれる気配がない。 そうなってしまうともう俺は些細な身じろぎで固くなり始めた股間をヨシュアの身体に擦りつける以外に術がなくて、下着の中で完全に勃起してしまった今もそれは変わらなかった。 何をされたわけでもないのにどんどんと上がってしまう呼吸が恥ずかしくて、なのに俺を縛りつけるだけ縛りつけて何もしてくれないヨシュアが憎たらしくて、せめてもに辛うじて自由な右手を伸ばしてヨシュアの滑らかなほほをきゅっとつねる。 「ふふ、何するの。痛いよ」 俺はヨシュアにひどいことなんてできないのだからそこまで強くつねったわけでもないのに、そんなことを言うヨシュアはとことん俺を煽って遊びたいらしい。 俺の身体に回していた腕の片方を解くと、頬をつねるゆびをあっさりと解かせて、俺の手の甲に手のひらを重ねるみたいにして包み込んだ。抱き締めるのは片腕だけになったというのに、ぎゅっと腰を固定されると自由を封じられてしまうから先ほどと状況は何も変わっていない。 「悪い子。め、だよ」 身体と同じくあっさりと絡めとられた指先にちゅ、と音を立てて口づけられて、そのままゆびの股まで舌を這わせられる。濡れたその感触だけでひくりと喉がびくついてしまうのに、ゆびの一本一本を丁寧に愛咬されてしまってはじわじわと湧き上がる快感にもうヨシュアの舌とくちびるの感触だけで頭がいっぱいになってしまう。 キスしたい。手じゃなくて、ちゃんとくちびるにしてほしい。 「ヨシュアっ……」 ぎゅっと俺を縛りつける腕の僅かな隙間を突いてなんとか少しだけ身体をずり上げると、俺の手を包みこむヨシュアの手の甲にちゅ、とくちびるを押しつけた。この手さえどいてくれればヨシュアとキスができるのに、と思うといつも優しく触れてくれる大きな骨ばった手が愛しくて憎らしい。 「くすぐったいじゃない、どうしたの」 「ん、んんぅ……よしゅ、き、す」 「うん?」 ぺろぺろと必死で白い手を舐めていると、ヨシュアはわざとらしくちゅう、と音を立てて俺の手のひらに吸いつく。手のひら越しのキスはもどかしくて切ない気持ちでいっぱいになるのに、どんどんと強くなる身体の疼きは止まらない。 「キス、うぅ……したい、のっ」 「キス? キスなら今してるよ、ネク君のここに」 「や、だ……て、じゃ、やなの……! ちゃんと、くちびるに……」 はぁはぁと息を荒げながら涙交じりで懇願した末に、ヨシュアはようやくやわらかいため息をつきながら俺の手を離してくれる。 「よしゅあ、よしゅあっ……!」 ついに阻むもののなくなったヨシュアのやわらかなくちびるにはやる気持ちのまま吸いつこうとすると、ヨシュアはわざとつい、と顔を逸らせてきちんとしたキスをさせてくれない。 口の端や、頬や、顎にくちびるで触れるだけで滑らかなヨシュアの肌の感触にたまらない気持ちになったけれど、今俺が何と引き換えにしても一番欲しいものはヨシュアのくちびるなのに。 「ん、くぅ……は、あふ……うぅ」 「ふふ……くちびるにキス、したいんじゃないの? ネク君ってこんなにキス下手っぴだったっけ?」 そんなことを言って楽しそうに笑うヨシュアは、とっくに分かっていたことだけれどもうどうしようもなく意地悪だ。 「や、らぁ……いじ、いじわるっしない、でっ」 ひ、ひ、と痙攣してしまう喉と焦らされすぎたせいでガクガク震え始める身体を抑えきれずに(あまりやりたくはなかったのだけれど)伸ばした手でヨシュアの髪を引っ張って必死で哀願すると、さすがに目の前の生き物を哀れに思ったのか、ヨシュアのほうからそうっとくちびるに触れてくれた。 「そんなに僕とキスしたいなんて、かわいい子」 「ふ、ぅ……ぁ、んく、んん……んむぅ……っ」 くすくすと笑いを漏らすくちびるの薄く開かれた隙間からぬるりと舌を入り込ませると、今まで欲して与えられなかったものを貪るようにヨシュアの口内を舐めしゃぶった。 つるつるの歯の表面をなぞって、恐ろしく整った歯並びを舌先で確かめて、奥に潜むぬめった粘膜と豊かな唾液を味わうだけで頭の芯から痺れるような快感がとめどなく湧いてくる。 当のヨシュアは、必死に口腔を貪る俺の舌の表面を時折機械的に撫でる程度で、俺の求めるような呼吸もままならなくなるくらいのキスをくれたりはしないけれど、それだってただ俺の身体の火照りを加速させるだけの要素にしかならない。 ヨシュアは知っているのだ。俺がどうされたいのか、どうすれば一番感じてしまうのか、俺の知らない気持ちいいところまで全部。 「はぁ、はぁ……ふ、あっ、あくぅ……んん、ふぅ……よしゅ、あ」 ヨシュアにキスするために身体をずらしたおかげで、腰を揺らすとちょうど俺の尻とヨシュアのものが当たって擦れる位置にある。洋服越しに感じるその愛しい感触に興奮を抑え切れなくて、しつこくヨシュアのくちびるを求めながら何度も身体を揺らして擦りつけた。 尻に当たるヨシュアの感触が徐々に硬くなるのが嬉しくてたまらなくて、同時にヨシュアの下腹で擦れる性器からもどかしい刺激が走る度に、もうどうしたって我慢なんてできない。 「ふあ、ぁ、っあうぅ……! よしゅあっ、よしゅあ……!」 「あは、ネク君があんまりすりすりするから僕も勃っちゃったじゃない」 「ほし、い……よしゅあ、おれ、ほしいよぉっ……! いれて、いれてっいい?」 はふはふと必死に呼吸を紡ぎながらヨシュアを見上げると、端整でえもいわれぬ美しさを湛えた造作に薄く笑いを浮かべながら、俺の腰を抱いたまま身体を起こしてくるりと体勢を反転させた。 すとんと背中がシーツについて柔らかいマットに身体が沈む感覚と同時に、俺を押し倒す格好になったヨシュアの髪がするりと滑って頬をくすぐる感触でどうしようもなく胸が高鳴る。 「ここで入れたらダメって言われても、僕のほうが困っちゃうんだけど」 戯れのように囁いてから、ヨシュアの器用な指先がするすると俺の下着を下ろす。その言葉の意味を理解してぼっと熱くなる頬にワンテンポ遅れたものの、俺もヨシュアのベルトに手を伸ばしてスラックスの中で苦しそうなヨシュアの屹立を取り出した。 「あれ、ネク君のねばねばしてる。もしかしてさっきのだけで出しちゃったの?」 「あっ……う、だ、だって……よしゅ、が……いじわるする、から」 まとわりつく精液でぬちゃ、と音を立てながら屹立を撫でられて、羞恥と快楽でぴくぴくと身体が揺れる。 そうっとヨシュアの股間に目をやると、カリの張った屹立が硬く反り上がる様に思わずごくりと喉が鳴った。雄の象徴のような性器とは対照的に聖母のような優しい表情のまま、ヨシュアはその先端を俺の尻に擦りつける。 「ここに、欲しいんでしょ?」 「あっ、ほし、ほしい、れすっ……あぅ、ほしいですっ」 「なら、いい子のネク君は、ちゃんとおねだりの仕方知ってるよね?」 ぬるぬると先走りを漏らしながら俺の尻穴を擦るヨシュアが愛しくて、もどかしくて、憎らしくて、は、と形のいいくちびるから漏れる吐息の熱さに興奮するなというのが無理な話だ。 「よ、よしゅあのっ、よしゅあのぉっ」 「うん」 「かたくて、おっきいおちんちんっ……あ、はあぁっ、ヨシュアの、よしゅあのおちんちんっ……!」 「ふふ……そんなに焦らなくていいから、落ち着いて。ゆっくりでいいよ」 こんな状態で落ち着けだなんて、ヨシュアは相変わらず平気な顔でひどいことを言う。 「お、おれの、おしりに、ほしっ……ほしぃ、です……!」 「そう」 「おなかのなか、よしゅあでい、いっぱいにしてぇ……いっぱいぬぽぬぽして、きもちよく、きもちよくなって、ほしいんです、ぅ……! はあぁ……あふ、はう、ぅ」 言葉にしているうちにもうわけが分からなくなってしまって、ただヨシュアの体温を求めてふわふわの毛先が絡まる細い首にぎゅっとしがみついた。俺のその行動で満足したように笑いをこぼすと、ヨシュアは優しく抱き締め返してくれながら、ゆっくりと俺の中に入り込んだ。 「あ、あぁぁっ……! はぁ、あっ、うあぅ……っ」 太い先端でめりめりと粘膜を掻き分けられて、反射的に身体を強張らせる暇もなく長い刀身が身体の奥まで犯す生々しい感覚に、ぶるぶると頭が振れる。 「はぁ……っあ、ネク君のナカ、あったかい、ね」 「うぅ、あふ、あうぅ……っよしゅ、よしゅあぁっ」 「ん、そんなに締めつけなくても、逃げたりしないってば」 気持ちよさそうに眉を寄せて綺麗な顔を歪ませるヨシュアに、じっとされるがままになっているなんて俺にはできなくて、ヨシュアが動くのに合わせて何度も腰を揺らした。 「よしゅあっ……よしゅあっ、よしゅあぁ……! あふ、うぅ……おっき、あつ、いぃ」 「うん」 「おれ、おれ……! よしゅ、のこと、待ってるあいだ……っ、ずっとよしゅあのこと、考えててぇ」 「うん」 「よしゅ、あに、さわってほしくて……よしゅあが、ぁ、ヨシュアが欲しくてっ」 「うん……」 うわ言のようにわけもわからないまま声を上げる俺に、ヨシュアは律儀に何度もうなずいて、返事をくれる。それだけでもう、身体の奥のヨシュアになぶられているところからどろどろに溶けていってしまいそうなのに。 「僕も、ネク君のこと考えてたよ」 掠れた声でそんなことを言ってのけるヨシュアは、もう俺を殺してしまうつもりなんじゃないかと思った。 「ほ……んと?」 もうとっくにお腹のナカはヨシュアのものでいっぱいなのに、その上胸までヨシュアへの気持ちでいっぱいになってしまって、他のものが俺の中に入り込む隙間なんてこれっぽっちもない。ただ、胸が詰まって上手く言葉が出てこないことだけがもどかしかった。 「僕が嘘つくと思う?」 おどけたヨシュアの声音が鼓膜を揺らすだけで、もうどうにも目の前の男が好きでたまらないと思う。 「ヨシュアは、ふ、うぁ……うそつき、だろ」 「ふふ、よく知ってるね。正解」 でも、嘘だっていいのだ。ヨシュアが俺を喜ばせるためにそう言ってくれたことが、何よりも嬉しいのだから。 そんなヨシュアが好きで、俺は離れることなんてできやしないのだから。 「よしゅあ、すきっ……すきぃっ、なの……!」 「知ってるよ?」 「うぅ、ふえぇ……す、き……うぅ、すき、ぃ……!」 気まぐれなヨシュアは何度俺がその言葉を繰り返してもただそんなの当たり前でしょ、という顔で微笑むだけで、俺の求める言葉は返してくれなかったけれど、そんなヨシュアに抱かれて揺さぶられるのが、俺はやっぱりどうしようもなく気持ちよくてたまらないのだ。 俺が何回も極まって泣いてしまう度にキスをくれるヨシュアのくちびるのやわらかさが全てなのだと、ちゃんと知っているから。 おフロから上がってほかほかのヨシュアに再び抱き枕にされている間も、どうにも俺の身体の反応と対照的に欲望の発露が曖昧なヨシュアとの差が納得いかない。 俺はヨシュアとしたくなるともうどうにも止めようがないのに、どうしていつもヨシュアは涼しい顔をしていられるのか。 「ネク君は若いから性欲旺盛なのもしょうがないし、僕のほうが抑え目になっちゃうのはしょうがないでしょ」 こう見えて僕もおじいちゃんだからねー、とヨシュアはのほほんと微笑むけれど、この男が絶倫以外の何物でもないのは俺が一番よく知っている。 「ずるい……」 まさにオトナの余裕、というものを振りかざす男に、そのヨシュアのために成長を止めてしまった俺は永遠に追いつけるときなんか来やしない。 「でもその分ネク君の可愛いところいっぱい楽しめるわけだから、これもオトナの特権だよね?」 自信満々にそんなことを言ってのけるヨシュアの表情はやっぱり俺を惹きつけてやまなくて、腰から優しく抱き締めたまま顔のあちこちにキスをくれるくちびるは魅力的というほかない。 「やっぱりずるい……」 なんとなく釈然としないものを感じながらも、ヨシュアの与えてくれるものを拒むだなんて選択肢は俺の中にも、この渋谷のどこにも存在しないのだけれど。 「また明日も、僕のためにいっぱい気持ちよくなってね」 そんな風に王者然とした振る舞いで命令を下されてしまっては、俺は喜んでこう答えるしかないのだ。 「……はい、ヨシュア」 ヨシュアはまた明日なんて言ったけれど、日付が変わるまでにまたしたくならずにいられる自信はどこにもないのだが。 いちゃいちゃすることしかしてなくてすみません。 20101210 →もどる |