※性描写を含みます。ご注意ください。




 先ほどから、どうにも今日のネク君には落ち着きがないと感じていた。
 仕事中僕の横でブランケットの上に座り込んでいる間もなんとなくそわそわしているようだったし、仕事を片づけていつものように彼を膝の上に招き乗せた今もうろうろと視線を泳がせている。
 不可解な挙動を繰り返す彼をいい加減不審に思って首をかしげてみせると、ネク君は怯えたようにびくりと肩を竦ませた後、それでも意を決したようにぐっと顔を上げてこう言った。
「お、俺、もう……しばらく、ヨシュアとえっち……しな、い」
 意外すぎる内容に、思わずネク君の顔をまじまじと見つめる。
「どうして?」
 普段はなんやかやと理由をつけて、僕が仕事中のときでもお構いなしにねだってくるくせに(まあ彼の身体をそうなるようにしたのは紛れもなく僕なのだけれど)そのネク君の口からそんな台詞が出てくるとは。
「ぅ……したく、ない、から……」
 返ってきたネク君の言葉は、質問に対する返答としては一番厄介な部類に入るものだ。そんなのは先の言葉を聞けば分かるというのに。ついぎゅっと眉をひそめてしまいそうになるのを、なんとか堪えてもう一度質問を投げた。
「どうしてしたくないの?」
 先ほどはすぐに答えが返ってきたのに今度はそういうこともなく、逡巡するようにうろうろと視線を泳がせた後、もごもごと口ごもりながらネク君は恥ずかしそうに口を開く。
「……こわい、から……」
「え?」
「よ、ヨシュアとえっちすると、気持ちよすぎて怖い、からっ」
 きょとん、と。今僕が浮かべているであろう表情を言葉で表すなら、まさしくそれそのものだっただろう。
 なんというか、これは、反応に困る。
「うーん、と?」
「だって、俺、いつもワケわかんなくなって、どうしようもなくなっちゃって……こ、怖い……」
 おずおずとこちらを見上げてくるネク君の揺れる青い瞳をじっと見つめ返していると、気まずくなったかのように弱くなった語尾と同じくすいっとそらされてしまった。
 気持ちよくないから、嫌だからしたくない、と言われるならまだ分かるけれど、気持ちよすぎてしたくないとは。
 そんな風に言われては何も反論することなどできずに、ただうなずくしかできない。
 まあ、僕としては特にそれで困るということもないし。ネク君がしたくないというなら、無理にするつもりはなかった。彼に求められていないのなら、それは何の意味もない行為だからだ。
「んー、そっか」
「……」
「じゃあ、ネク君がいいって言ってくれるまでしないから、安心して?」
「う、ん……」
 一つ問題があるとすれば、彼と僕の間ではソウルの受け渡しを性行為で行っているということだけれど、それは単純に肉体を深く繋ぐことで力の行き来をスムーズにしているだけなので、問題ないといえば問題ない。
 こうして彼を膝に乗せてただ触れ合っているだけで、今も僕のソウルは緩やかに彼の身体に流れ込んでいる。まあ、それよりも直接身体を繋いでしまった方が手っ取り早いので普段はそうしているだけで、しばらくは長く留守にするような用事もないから大丈夫だろう。
 ほっとしたように、いつもの様子でぎゅっと僕の身体に抱きついてくる彼の柔らかな前髪を持ち上げてから、あらわになった額にそうっと優しく口付けた。


 それから何日か、ネク君とは身体を重ねない日が続いた。
 いつも通りじゃれる目的で身体に触れたりキスをしたりはするけれど、それだけだ。今まで長期の留守以外ではほとんど毎日抱き合っているようなものだったから、ただ寝る前におやすみのキスをしてベッドで一緒に寝るだけ、というのはなかなか新鮮だった。
 ネク君から言い出したものの、どうなることやらと内心半信半疑だったのだけれど、彼は普段どおりきちんといい子にしている。果たして彼の身体は言葉通りに我慢が出来るのだろうかと首をかしげていたけれど、それは僕の杞憂だったらしい。
 と、一人納得しかけていた日のこと。彼の件の言葉から、一週間経つか経たないかというころだろうか。
「……ヨ、シュア……」
「うん?」
 その日はいつもより少しだけ残業して、ネク君が物言いたげにこちらを見ているなとは思いながらも最後の書類を捲っているところだった。痺れを切らしたように名前を呼ぶ彼に目をやると、彼はまだ何か言いたそうに身体に巻きつけたブランケットを玩びながらも、再び口を噤んでしまう。
「どうしたの? もう眠くなっちゃった?」
「ん、と……」
「僕もすぐに行くから、先にベッドに入っててもいいよ」
 普段ならとっくに自由時間を満喫している時間帯だから、床に座り込んでばかりの彼は少し疲れてしまったのかもしれない。それを慮って気遣ったつもりだったのに、うなずくネク君の様子はどこか落胆しているようにも見えた。
「うん……」
 ブランケットを手放し、ゆっくりと立ち上がって寝室へと向かうネク君の背中は、とぼとぼ、という状態副詞がぴったり合いそうな空気を醸し出していて、気にならなかったと言えば嘘になる。
 けれどこれだけは明日までに片づけておかないと、と目の前の書類に集中しているうちに、ネク君はもうとっくに眠りについたものだと思っていた。
 ようやく書類の最後にサインを入れて伸びをしてから、普通に歩けばコツコツと響く音を立ててしまう固い床に気をつけながら寝室に向かい、本がつっかえて中途半端な閉まり方をするドアを開ける。
 そうっと寝台まで歩いて行くと、眠っているとばかり思っていたネク君の瞳はぱっちりと開かれていた。
「ヨシュア……」
「まだ寝てなかったの?」
「ん……」
「先に眠っちゃってもよかったのに」
 さらさらと彼の頬や額を流れる髪がくすぐったそうで、そうっと掻き上げて耳にかけてやると、気持ちよさそうに目を細める様子が愛しい。
 常の通り僕の入るスペースをきっちりと空けてベッドの隅に寝そべる彼を早く抱き締めてあげたくて、上着と靴を脱いでから掛け布団を捲り、ベッドの中に入り込む。
「よしゅ、あ」
「なあに」
 いつものように寝る前の儀式をしようかと彼の身体を抱き寄せると、細い肩が寒がるようにぴくん、と震えて、ゆるゆると揺れるつむじは俯いてしまった。
「どうしたの、寒い? 布団足りなかったかな? 出してこようか」
「あ、の……ち、がくて……」
「うん」
 もぞもぞと身じろぐネク君のくちびるから漏れる吐息がどことなく熱く感じられて、覗き込んだ夜色の瞳は今にも泣き出しそうに潤んでいる。
「んっ……んく、ぅ……っ」
「ネク君?」
「は、ぅ……ふ、ごめ、なさ……おれ、もぉ……」
 腕の中の身体が唐突に僕にしがみついてきたかと思うと、太腿の辺りにネク君の腰が押し付けられるのを感じた。
「も、がまん……できなっ……」
「うん?」
「う、うぅ……ふ、ぅ……したい、のっ、ヨシュア……! お、れ……した、い……」
 むき出しの脚を僕のそれに絡ませて、既に熱くなって硬く形を成している股間をネク君はぐいぐいと僕に擦り付けてくる。泣きそうな声で懇願する彼の背中を思わずそっと撫でてやると、それすらも耐えられないかのようにひくん、ひくんと痩せっぽちな身体が震えた。
 彼と肉体的な交わりを絶って、もうそろそろ一週間になる。一日の殆どと言っていい時間を僕と過ごしている彼は自慰もできず、射精もままなっていないはずだ。
 そんな彼の限界をわかっていながらも、つい何も知らない振りで首をかしげてしまうのは、僕の悪い癖だろうか。
「何が?」
「っ……!」
「何がしたいって? ネク君は」
「あ……う、ぅ……」
 ふふ、と思わず漏れてしまう笑いの吐息にすら感じてしまうのか、ネク君はびくびくと肩を跳ねさせながらもその濡れたくちびるをわななかせて、涙声で欲望を口にする。
「え、えっち……した、い……よ、ヨシュアと……」
「へぇ?」
「したい、のっ……ヨシュアと……セックス、したい、の……!」
「そうなんだ」
「ふ、ぅ……うく、うぅ……お、ねが……よしゅあ、っ」
 我慢しきれないように、ネク君は僕の脚に擦り付けたままの下肢へと自身の手を伸ばして、下着の中に潜り込ませた。そのまま拙い手つきで高ぶってしまっている屹立を弄り始める彼の痴態を、くちゅくちゅと立ついやらしい音と共にのんびりと見守る。
「よしゅあ、よしゅあぁ……っお、おねがい、だから……! あふ、うく、ぅ」
「したくないって言い出したの、ネク君の方なのにね?」
「はふ、うぅ……って、だって、ぇ」
「だって?」
 ぐずぐずと駄々をこねる子どもの顔を上げさせて覗きこむと、今にもこぼれそうな雫を目尻に溜めて泣きそうに歪む顔が可愛くて仕方ない。
「だって、しゅあ、いつも意地悪、して……っひどいことする、から」
「うん」
「っ……やぁ、なのっ……!」
 幼子のようにいやいやと首を振ってごねる彼は、それでもその幼さと不釣合いな不埒な手の動きを止めたりはしない。
「ほ、ほんとぉ、は……もっと、やさしくして、ほし……」
 はぁはぁと荒く息の漏れるくちびるから吐き出されるその言葉が嘘だと、僕に分からないとでも思っているのだろうか。
「ホントに?」
「えっ……」
「本当に嫌なの? 僕に意地悪されたり、酷いことされるのが」
 途端にぐっと言葉を詰まらせて、視線を彷徨わせる彼を見てやっぱりと確信する。
「素直に言ってごらん。本当に、嫌なの?」
「あ……う……」
「本当のことちゃんと言えたら、ネク君が好きな風にしてあげるよ?」
「あっ、やぁ……!」
 先ほどから自分の手で一生懸命慰めている彼の屹立に指先を滑らせると、下着の上からくりくりと先端の割れ目に当たるであろう部分を弄繰った。
 咄嗟にびくん、と跳ねて逃げようとした彼の身体を、背中に回した手にぐっと力を込めて拘束する。
「ほら、どうなの?」
「ふ、あ……あぁ、やあ、あぅ……しゅあ、よしゅあ……っら、め」
「ダメじゃないでしょ。ねえ、早く言ってよ」
「あ、く……うぅ、ごめん、なさ……」
 ぴく、ぴく、と震えながら僕の腕から逃れたいかのように身じろぐ彼は、それでもそのくちびるから漏れる声が濡れてしまっていることに自分でも気づいているはずだ。
「ふ……ぅ……す、き……」
 従順に僕を喜ばせる言葉を口にする彼に、思わず口元が綻ぶ。
「なあに? 聞こえない」
 けれど消え入りそうな声でぼそぼそと呟いてやり過ごそうとする彼が気に食わなくて、わざと棘を含んだ声音で促すと、彼はより一層いやらしい表情になって身をくねらせた。
「うぅ……すきっ……なの……!」
「ふぅん」
「はぁ……はぁ、あふ……よしゅ、ヨシュアに、意地悪、されるのも……ひどい、こと……されるのも、ぉ……!」
 それがどうしたの、と首をかしげてやりながらくちくちと先端のきわを苛め続けていると、身体のどこかの機能が壊れてしまったかのようにがくがくと腰を跳ねさせながら、ネク君は半狂乱になって大きな声を上げた。
「だいすき、ぃ、なの……! あく、あうぅっ……よしゅ、よしゅあの、おちんちん、以外のもの、お尻にいれられるの、も……!」
「うん」
「お、おしっこの穴、ぐちゅぐちゅされるの、も……ほ、ほんとぉ、は……だいすきなのっ……!」
 はしたない言葉を、溢れる涙を湛えた瞳でまっすぐに僕のことを見つめたまま口にする彼に満足して、焦らすように責め立てていた手をすっと離した。
 そのまま彼の揺れる頭を優しく撫でてやると、ぐしゅぐしゅと鼻を啜ってネク君は本格的に泣き出してしまう。
「うく……うぅ……ふ、うえぇ……うく、えぐっ」
「ふふ、ちゃんと言えたね。いい子」
「ふ……ぅ、で、でも……」
「?」
 泣き濡れた頬を指先でやんわりと拭ってみせると、ネク君は恥ずかしがるように僕の胸元に額を擦り付けて、ぽつぽつとくぐもった声を落とした。
「いちばん、好きなのは……ヨシュアのおちんちん、入れてもらうのが、いちばん……好き……」
 恥ずかしそうに呟きながら、ぎゅっとこちらに抱きついてくるネク君の身体が小動物のように温かくて、湧き上がる愛しさを隠すことなくやわらかく抱き締める。
「そっか」
「ん……ぅ、よしゅ……あ」
「なら、ネク君が一番好きなこと……してあげないとね?」
 驚いたようにこちらを見るネク君の頬にちゅ、と一つ口づけを落としてから、身体に被さる掛け布団を退けてゆっくり身体を起こした。
 自分のベルトを外して下肢を露にしてみると、知らない間に僕もなんだかんだで勃起していたらしい。手間が省けたなあ、と思いながら寒がるように身体を丸めるネク君の脚を開かせて下着を脱がせると、そこは漏れる先走りで十分に濡れそぼっていた。
 きゅうきゅうと可愛らしくひくつく後孔は、もう慣らさなくてもちゃんと僕の形を覚え込ませてある。
「あは、僕も久しぶりだから勃っちゃったみたい」
「んん……っよしゅ、あ……」
「欲しいんだよね、ここに。ネク君も」
 ぱくつくフチに先端を擦りつけるようにすると、求める塊を取り込もうと必死に開閉する様がいじらしく、つい悪戯心がむくむくと膨らんでしまう。
「ふ、あっ……ほし、ほしい、れす……よしゅあの、よしゅあのぉ……!」
「そう、よかった」
「ん、んんぅ……は、ぁ、じらさないで、ぇ……うぅ、はや、はやく、ぅ……っ」
 ふるふると首を振りながら腰をくねらせる彼のそこからわざとずらして、ぱんぱんに張り詰めた睾丸を先端でつついて遊んでいると、ネク君は身体を痙攣させてひ、ひ、としゃくり上げるような嗚咽を漏らした。
「だめ、ぇ……だめえぇ……! ヨシュア、おねがぃ……っいじわる、しない、でぇ」
「うん。でも、ホントは好きでしょ?」
「ふ、うぇ……」
「こんな風に、焦らされて、苛められて……ギリギリまで追い込まれるのが、ネク君は大好きなんでしょ?」
 子どものように泣きじゃくりながらも、僕の性器の先端から漏れでる先走りを纏わせるようにくちゅくちゅと音を立てて腰を揺らすのをネク君はやめない。いや、やめられない、と言ったほうが正しいのか。
「す、き……っだいすきぃ……! よしゅあに、いじわるされて、あ、はぁ……あふ、はぁ、はふ……いじめてもらうの、だいすき、なのぉ……!」
「そう」
「は、はふ……は、く……いっぱい、じらされると、おれ、わけわかんなくなって、でもっ……すごい、きもちくて、すきぃ……っ」
「知ってるよ」
 てっきり、いつも意地を張ってなかなか素直にならない彼はまだごねてみせるものだと思っていたのだけれど、一週間ぶりでよほど切羽詰っているのか、思いのほか従順に質問に答えてみせるものだから、なんとなくつまらない気持ちになってそのまま宛がった屹立をひくつく内部に押し込んだ。
「あ、あはぁっ……! あぁ……あ、あうぅ、うく、ぅ」
 途端にびゅく、びゅく、と彼の性器はあっけなく射精してしまったのだけれど、僕は特に咎め立てるつもりもなかったし、ネク君はネク君で自分が射精したことにすら気づいていないくらいそれどころではないようだったので、そのことを気にする人間はこの場には誰もいなかった。
「はぁ、はく……あぅ、う……よしゅ、よしゅあぁっ」
「ふふ……気持ちよさそうだね。よかった」
「きもちい、きもちいいのっ……! はふ、あふぅ……よしゅあ、きもちい、よぉ……っ」
 びくびくと収縮する内部に僕のものが馴染むのを待ってゆっくりと動き出すと、それに合わせるようにネク君も一生懸命腰を振ってくる。いつにも増して素直な言葉と恥じらいのない行動に、彼にとっての一週間はよほど長かったらしいことが窺えた。
「うく、うぅぅ……ふぇ、えく……はぁ……あうぅ……っよしゅ、あの、おっきい、ぃ」
「うん」
 久しぶりでナカが狭くなっているのか、引き攣れる粘膜にぷるぷると首を振る彼をあやすつもりでやんわりと肩を抱いてから、とろとろとよだれを垂らすくちびるにキスをする。そうするとネク君は分かっているのかいないのか、何も疑うことなく口を開いて、ちゅうちゅうと僕の舌に吸い付いた。
「あ、あふ、ぅ……よしゅ、ので……おなかのなか、いっぱい、だよぅ……んく、んんぅ」
「ずっと我慢してたんだ。ごめんね? 気づかなくて……ネク君素直でいい子だったから、今日はいっぱいしてあげるね」
 そう言ってくちゅくちゅと絡ませた舌を遊ばせると、嬉しそうに甘い声を上げる彼はまだ僕の言葉を理解できてはいるらしい。
 自身の唾液は口端から溢れるに任せたままのくせに、僕の口から流れ込む唾液はこく、こく、と音を立てて一生懸命に飲み込みながら、なおもねだるように彼は僕の腰に脚を絡ませる。
「いっぱい、いっぱいして……! ヨシュアのねばねば、いっぱい……飲ませて、ぇ……!」
 それそのものがソウルの塊のようなものだからか、彼はよくこうして僕の精液を欲しがる。UGでの本来の役目を持たない彼は自身でソウルを生成できないせいで、本能的にいつもソウルに飢えているのだ。だからこうして傍にいるだけで、僕の身体から自然に放出されているソウルをも貪欲に取り込むことができる。
 体内に直接ソウルを注ぐのが早いからといつもナカに出していたけれど、最近のネク君はその行為自体に快楽を感じ始めているようだった。最初の頃は慣れない様子だった上の口での飲精も、すぐに口腔での奉仕含めて積極的にやりたがるようになった。
 人間のような種の保存という目的を持たない僕の精液がどうして存在してるのかは知らないけれど、そんなネク君のためだけに僕の身体はそれを作り出しているのだとしたら、結構悪くはないな、と思う。
 ネク君はその存在全部が僕のためにあるのだから、僕が持っているものの一つくらいは彼のために存在していてもいいと思うのだ。
「よしゅあ、すきっ、すき……だいすき、なの……!」
「うん」
 なんて思ってみたものの、よくよく考えてみると僕の喉はネク君の名前を呼ぶために声を発するわけだし、僕のゆびはネク君に触れるためにきちんと十本揃っているわけで、この腕だってネク君を抱き締めて安心させてあげるためについている。
 無駄な長さのある脚はネク君が困ったときにすぐ駆けつけてあげられるようにここにあって、変な色の髪だってネク君の拙い手つきでそうっと撫でてもらうために存在しているのだと思うと、もしかしたら僕の存在そのものがネク君のためにあるのかもしれなかった。
「はふ、はぅ……っすき、ぃ……」
「うん……」
 そう思うと、壊れたレコードのように何度も何度も舌足らずな告白を繰り返す彼が尚更愛しく思えて、今日はいつもよりほんの少しだけサービスしてあげようかという気分になる。
「僕も……好き、だよ」
「ふ、ぇ……ほ、ほんと……?」
「うん。ネク君、大好き」
 なるべく優しく聞こえるように囁きながら乱れた前髪を整えてやると、ネク君は今自分が興じている行為などとはまるで無縁のようなこの上なく無邪気な顔で微笑んだ。
 そんな無垢な表情も見せるくせに、体内の一番敏感な場所を強く突き上げた途端快楽に喘ぐ表情に取って代わる彼の痴態に煽られて、与えられる快感から逃れたいかのように反らされる細い喉元に噛み付いた。


「ヨシュア、俺のこと好き?」
 普段はネク君に催促されても当たり障りなく誤魔化してしまう僕の告白に味を占めたのか、布団の中で僕の腕に収まっている彼はもぞもぞと身じろぎしながらも控えめに聞いてくる。
「好きだよ」
「本当に?」
「うん。好き」
 でも僕のこのたった一言だけで嬉しそうに頭を揺らして胸元にじゃれついてくる彼はとても可愛かったので、素直に何度も言葉にして囁いてあげることにした。
「よ、ヨシュア、は」
 けれど、そんな無邪気な様子から一転して、おずおずと不安そうに口を開く彼に思わず首をかしげる。
「俺がしたくないって言ってから、したくなったりしなかった?」
「え?」
 分かりづらい物言いに反射的に聞き返すと、揺れる青い瞳がますます心細げになった。
「い、一回も、したいって思わなかった……?」
 不安も露にぼそぼそと落とされる声に、ようやくネク君の意図を理解する。大方、僕にとってのネク君は精々一週間くらい、身体なんて繋がなくても平気な程度の価値しかないのではないか、というようなことでも考えたのだろう。とはいえ、もともとそんなに性欲が旺盛な方ではないのだけれど。
「んー……」
「……」
「まあ、ネク君とキスしてるときとか、無防備に抱きつかれたりしたときに、全然ムラムラしなかったって言ったら嘘になるけど」
「へ……」
「ネク君はしたくないんだなって思ったら、勃つものも勃たないじゃない?」
 僕は僕がしたいことを彼にもしたいと思っていて欲しくて、そうでないならば何の意味もないのだと、そう言いたかったのだけれど上手く伝わっただろうか。
「う、あ……ごめん、なさい」
「ふふ、いいよ。ネク君もどうしていいかわからなかったんだよね」
 申し訳なさそうにうつむく彼の少しいびつなつむじを、子どもを宥めるようによしよしと撫でてやる。そうすると酷く心が満たされる心地がして、僕自身はネク君をあやしているつもりだけれど、本当は僕の方こそが彼から安心というものを貰っているのかもしれなかった。
「で、でもっ……もう」
「うん?」
「怖くても、いいから……いっぱい、して欲し、い」
 そう言ってから、僕の腕の中で一生懸命伸び上がって詫びるようにそっと頬にキスをくれるネク君はやっぱりどうやっても可愛くて、愛しくて、大事に大事に苛めてあげたくなる。
 だって、あれもこれも、嫌だ嫌だと言いながら本当は好きなんだと言われてしまっては、もっと彼の身体に色んなことを教えてあげないわけにはいかないではないか。
「いいよ。ネク君がしたいなら……ね?」
 お返しのように彼の前髪を持ち上げて額にキスを落としてから、恥ずかしそうに僕の服へと顔を埋めるネク君のちいさな身体をぎゅっと抱き締めた。



ネクの調教生活は続く。 20100327

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