なんとなく今日のネク君はぼんやりしてるな、とか、顔が赤いな、とは思っていた。 彼はよく僕の顔を見て不思議なタイミングで顔を赤くしていることはあるけれど、直感的に、それはいつものものとはちょっと違うように感じる。 「ネク君、なんか顔赤くない? どうしたの?」 「んん、そ、か……?」 玉座に座る僕の足元という定位置で、いつもどおりに座りこんでいるネク君の頭が、心なしかふらふらと頼りなく揺れていた。 「ん……でも、なんか……頭、痛い、かも……」 「大丈夫?」 「風邪、かな……きもち、わる」 い、と小さくこぼした次の瞬間には、ネク君の細い身体は糸の切れた人形のようにあっけなく床に倒れていた。 「ネク君!」 頭で考えるよりも先に身体が動いて、咄嗟に床に膝を突く。上体を支えるように抱きかかえると、ネク君の痩せっぽちな身体はなぜだかものすごく熱かった。こんなの今までにはなかったことで、突然の事態にさすがの僕も混乱する。 とにかくどこかに寝かせなければと思い、彼の負担にならないように慎重になりながら、驚くほど軽い身体をそうっと抱き上げた。 「カゼ?」 「はい」 急いでネク君を寝室に運んでベッドに寝かせたものの、ヒーリングをかけてみても一向に彼の具合はよくならなかった。今のUGの身体で病気なんかになるわけないし、外傷も見当たらないから僕はどうしていいのかわからず、苦しそうなネク君を前に一人途方にくれてしまった。 けれど、元々が人間であるネク君の身体について元天使である僕は知らないことも多くて、一縷の望みをかけて彼と同じ元人間であるミツキ君に泣きつくことにしたのである。 「なにそれ」 「コンポーザーはお召しになったことがないかもしれませんが、身体の免疫機能によって起こる現象の一つです」 もちろんそんなものにはなったこともなければ、聞いたこともない。ああ、でも、ネク君が倒れる前にちらっとそんなことを言っていたような。 「体内に入り込んだウイルスを排除するために体温が一度〜二度上昇し、ほとんどの場合身体の機能に不調をきたします。人間の中ではごくごく一般的な現象で、季節の変わり目などには特に多くの人に起こり得ます」 「ふぅん……」 「ウイルスの影響による咳嗽、頭痛、倦怠感、発熱などが主な症状でしょうか」 その説明を聞いて、思わずきょとんとしてしまう。ウイルスが入り込んだくらいで体調を崩して、その上自ら熱を出しあんな風に倒れ込んでしまうとは。人間の身体はそんなに面倒くさいのかと、思わず顔をしかめる。 「季節の変わり目以外にも、十分な着衣を身に着けずにお眠りになった場合などにも引き起こしやすいようです」 ああ、なんだか、それはとても身に覚えがあった。 「今の身体でもそんな風になったりするの?」 ふとよぎった疑問に、首をかしげた。今のネク君は完全に僕のソウルに依存していて、身体もUGのもののはずだ。 「私にも少し分かりかねますが……死という段階を経ずに直接RGからこちらにいらっしゃいましたので、ソウルの構成が私たちのように完全ではないのかもしれません」 なんということだろう。それでは完全に僕の失態ではないか。実際に彼の身体の成長は止まっているし、UGの力も十分に行使することができるようだからこちらで過ごす分には問題ないと思っていたのだけれど、そんな盲点があったとは。 「ネク君、ちゃんと治る?」 「ええ、適切な処置をすれば二、三日で大分よくなるかと思いますが」 適切な処置。その言葉に、思わずため息が出そうになる。 「ミツキ君……それわかるかな。僕看病なんてしたことないから、どうしていいのか」 自分でも情けない声を出してしまったな、と自覚するくらい、弱気な発言だった。彼女は相変わらずの無表情を保っていたけれど、ほんの少し、その一瞬だけかすかに優しく笑ったように見えたのは気のせいだろうか。 「ご命令でしたら、出来うる限り善処させていただきます」 彼女のことは心から信頼しているけれど、このときほど頼もしく思ったことはなかったかもしれない。大げさだけれど、そのくらい僕には途方もなく先の見えない事態に思えたのだ。 「ありがとう。じゃあ、お願い」 「かしこまりました」 仰々しく一礼をした彼女は、早速看病の準備を始めてくれたらしく、てきぱきと脱衣所からタオルと水を張った洗面器を持ってきたり、ネク君のベッドの脇に椅子を引っ張っていったりと忙しなく動き始めた。何をするのかすら分からないものだから、ただ動き回る彼女の様子を見ていることしかできない。 「僕、居ないほうがいいかな?」 思わずそんなことを言ってしまった僕のことを、驚いたような瞳で見つめた後、ミツキ君は少し考えるように顎に細いゆびを当ててから言いづらそうに口を開いた。 「そう、ですね。もしかしたらコンポーザーは桜庭様と同じ部屋にいらっしゃらないほうがいいかもしれません」 「どういう意味?」 口ごもるような彼女の言い方が珍しくて、思わず首をかしげる。 「身体が弱っていらっしゃる今、コンポーザーの波動は多少なりともこの方の負担になるかと思いますので」 予想だにしなかった言葉に、少なからず驚いた。もうすっかりネク君は僕の波動に慣れてしまったものだから全然意識していなかったけれど、確かに瘴気とも言える僕の波動の大きさは今の彼には少し毒かもしれない。 「そっ、か……じゃあ大人しく仕事に戻ろう、かな」 「恐縮ながら、そうしていただけると助かります」 「うん。ミツキ君は、今日はネク君の看病にだけ専念してくれればいいから」 恐れ入ります、と再び頭を下げる彼女に手を振りながら、ちらりと窺ったネク君の表情は相変わらず苦しそうで、なぜだか妙に胸がざわめく。不安になる、だなんて、いつぶりの感情だろうか。上からUGに落とされたときだって、こんな気持ちには少しもならなかった。それでも今この部屋で僕にできることは何もないからと、名残惜しい気持ちを振り払いながら審判の部屋へと続くドアをくぐりぬけた。 もう何度も目を通して飽きてしまった書類を、ぽい、とすぐ傍の丸テーブルの上に放り投げる。RGではもうとっくに日が暮れて、渋谷の街の明かりが輝いている頃合だろうか。 ネク君のことはミツキ君に全て任せきりになってしまうので、結局彼女の分まで仕事を請け負うことにして作業を進めたものの、驚くくらい淡々と仕事ははかどってしまって、今日までに片付けなければいけない案件は全てつつがなく終了してしまった。 時間外労働の嫌いなミツキ君が、退勤を命じた際珍しく名残惜しそうにしていたけれど、定時も過ぎてしまったので少し前に彼女は退室している。彼女は随分とよくやってくれたようで、帰りがけに開いたドアの向こうに見えたネク君の表情は朝よりもずっと落ち着いているように見えた。 僕はと言えばミツキ君に言われたことが気がかりで寝室に戻ることもできず、審判の部屋で一人時間をもてあますばかりだった。 無事に仕事が終わって明日の休暇は確定なのだけれど、そうなるといかんせんやることがない。本でも読もうかと思っても寝室の本棚まで行くことはできないので、面倒ながら書斎まで足を伸ばしてみたものの、どれも読む気になれずに結局手ぶらで戻ってきてしまった。 いつもなら仕事終わりのこの時間はネク君と過ごしているのが常で、書類を放り出して伸びをした途端痺れを切らしたように彼が僕の足元に擦り寄ってきて、僕はそんな彼を愛しく思いながら仕方のない子、と抱き上げて。 今の自分とのギャップに、情けなくて思わず笑いがこみ上げてきてしまう。ネク君がいないと僕はこんなにも暇な男だったのだろうか。退屈でつまらない時間を持て余すだなんて、僕の一番嫌いなことのはずなのに。 いつものように休息代わりにスイッチを切ってしまえばすぐに明日の朝を迎えることができるのだけれど、扉向こうのネク君に何かあったらと思うとそれもできない。自由に出入りできるように、ドアにはつっかえ代わりの本が挟まったままだし。どちらにしろ今晩はこの部屋で過ごすつもりでいたので、仕方なく持て余した時間に対抗するためにいつも携帯している文庫本を取り出そうとポケットに手を突っ込む。 と、ポケットから文庫本が顔を覗かせる前に、寝室のドアがキイと開く音がした。驚いて目をやると、ドアの横にもたれるようにして、黄昏色の明るい髪を揺らしながらネク君が立っている。 「よ、しゅあ」 「ネク君?」 予想外の事態に一瞬思考が停止したものの、今にも倒れてしまいそうな彼の様子に慌てて我に返り、ばたばたと駆け寄った。途端にその細い腕を伸ばして抱きついてくる彼を、思わず支えるように抱きとめる。足元のおぼつかない彼は見るからに不安定で、抱きとめた身体は熱い。 「ヨ、シュア……っよかった……よしゅあ……」 「ネク君、どうして」 「どっか、行っちゃったのかと、思って……俺……」 ぎゅうぎゅうと必死でしがみついてくる彼の腕を拒むような酷なことはしたくなかったのだけれど、今のネク君に僕が近づくことは悪影響以外の何物でもなく、それ以上の何かを与えるとはとても思えない。 「どこにも行かないよ。ずっとここにいるじゃない」 「ん……だ、って」 「ダメだよ、ちゃんと寝てないと」 「やだ、俺……一緒じゃなきゃ……」 小さな肩を押して彼の身体を引き剥がそうとしたのだけれど、それ以上に切実な力でぎゅっと強く抱き締められて、乱暴にすることもできずに彼の身体を受け止めるしかできなかった。 「ヨシュアと、一緒がいい……っ」 「でも、僕といるとネク君の負担になるから。何か欲しいものがあれば、すぐ呼んでくれれば」 「うう、ぅ、いっしょじゃなきゃ、やだ……!」 ぶるぶると首を振って全身でいやいやをする彼に、困り果ててしまう。 「ネク君……」 「俺は、苦しくてもいいからっ」 「けど」 「辛くても、がまん、できるから……!」 ぐす、とちいさく鼻をすする彼は、もしかして泣いている……のだろうか。 「一人に、する、な……」 「っ……」 「ふ、ぅ……よしゅあが、いなきゃ……やだ……やら、ぁ」 腕の中で小さな身体を震わせる彼にそんな風に涙声で囁かれて、うなずく以外僕に何が出来ただろう。いつもならこんな風に彼が僕の意向に反旗を翻すことなんて滅多になくて、そのことが尚更彼の切実さを表しているようで、とても跳ね除けることなどできなかった。 その日、僕は生まれて初めて誰かのために波動を制限する、ということをした。 そもそも波動を制限したこと自体が数える程度しかないし、以前ゲーム中に低位同調をしたときだって、ネク君をRGに迎えに行っていたときだって、周りに怪しまれないようになどの打算に打算を重ねた上でだった。誰かの負担にならないように、だなんて、少し前の僕なら考えもしなかっただろう。 どの程度まで波動を落とせば今のネク君の負担にならないのかが分からなくて、結局限界まで自分の力を抑えなければいけないというのは、長時間制限することに慣れていない僕にとってはとても苦しい作業だった。ネク君を腕に抱いてベッドに入ってからまだ一時間ほどしか経っていないというのに、既に身体のあちこちがくたくただ。 それでもようやく腕の中で眠りに落ちた彼の身体は未だに熱を持ったままで、とても気を緩めることはできない。小さな身体から放出される熱の大きさに、元々体温の低い僕の手は火傷するのではないかという錯覚すら抱いた。きっと、今の僕は両手が焼け爛れてしまったとしても、彼の傍から離れることなんてできないと思うけれど。 とはいえ、さすがにそろそろ一息つかなければ身体が持たないと思い、ネク君を起こさないようにそうっと身を起こし、枕元のナイトテーブルにラップをかけて置いてある、リンゴの乗った皿を引き寄せた。ミツキ君がネク君のために剥いてくれたらしく、食べやすいように小さく切り分けられている。さすがに時間が経ったせいで色が変わり始めていたけれど、一欠けらを口に放り込んで噛み潰すと、じんわりと口内を濡らす果汁が喉に染み入った。なぜリンゴなのかはよく分からなかったけれど、今の僕にはとても美味しく感じられたから、きっとネク君も美味しく食べられたことだろう。 一時間試行錯誤しながらも制限を続けたおかげで、なんとなく身体も慣れてきた気がする。先ほどのように時間を持て余しているときよりも、苦しいながらも今のほうが満たされた気持ちになっている自分を不思議に思っていると、すぐ隣で寝入っていたネク君がもぞもぞと身じろいだ。 「……しゅ、あ……?」 目を擦りながら、ぱちぱちとまばたきをするネク君はカゼで弱っているせいで余計にそう見えるのか、ますます幼い子どものようだ。 「ん、どうしたの? 何か欲しい?」 「んん、ちが、くて……」 「うん?」 「よしゅ、あ……離れる、な……っ」 手を伸ばして掴んだ僕の服を引っ張るネク君に促されるまま、再び布団の中に寝そべって目の前の子どもを抱き締める。普段はあまり我儘を言わないネク君の素直な要求が愛しくて、途端に胸元に擦り寄ってくるやわらかい髪の毛を壊れてしまわないように優しく撫でた。 「ちゃんといるよ」 「んん、ん」 「寒くない……?」 「ん、うん……ヨシュア、あったかく、て……きもち、い」 「そっか」 「でも、っ……離れると、さむい……から……」 「うん」 「離さない、で……ほし……」 苦しそうに声を漏らしてからけほけほと咳き込むネク君の背中を、不安な気持ちに蝕まれながらも恐る恐る撫でる。宥めるように軽くぽんぽん、と叩いてやると、ほう、と大きく息をつきながらも落ち着いたようだった。 「よしゅあ、もっと」 「なあに」 「もっと、ぎゅってして、て……っ」 僕以外にすがるものが見つからないかのように、眉を寄せて苦しそうに息をしながら擦り寄ってくる額にちいさく口づけを落としてから、痩せた身体を包み込むようにぎゅっと両腕に力を込めた。 「これでいい?」 「うん……うんっ……」 こくこくと頭を揺らしながら身じろぐネク君は、ようやく僕の腕の中で居心地のいい場所を見つけたらしく、大人しく僕の胸に額を押し付けてくる。 「よ、しゅあ……よ……しゅ、ぅ……」 段々と不明瞭になる声でぼそぼそと呟きながら、ネク君は再び眠りに落ちてくれたらしい。 「おやすみ、ネク君」 穏やかになる寝息にほっとため息をつきながら、どうかその眠りが悪夢に変わることがないように、悪夢からネク君を守るのは僕でありますように、とこっそり願った。 朝起きたら腕の中にネク君がいなくて、慌てて飛び起きた。どこに行ったんだろうとか、なんで気づかなかったんだろうとか、いつの間にか寝入ってしまっていた自分に激しく自己嫌悪しながら審判の部屋への扉を開けたのに、エプロンをつけたネク君がいつものようにきょとんとした顔で玉座の横のテーブルに朝食を並べていたのを見たときには思わず拍子抜けしてしまった。 「おはよう、ヨシュア。血相変えてどうしたんだ?」 「……おはよう。ネク君こそ、何してるの?」 「へ……だって、今日は休みだって言ってたから、朝ごはん」 律儀に僕の我儘とも言える約束を守り続けるネク君はとても可愛かったのだけれど、今ばかりは少し可愛くない。こんなときにまで絶対そうしろだなんて、誰も言っていないのに。 「そうだ、ヨシュア。昨日は、ありが、と……」 あまつさえネク君は昨日ミツキ君が着せてくれたらしい温かそうなパジャマは脱いでしまったらしく、いつもどおり僕の持ち物であるシャツの一枚を身に着けただけという軽装だった。思わず不機嫌になる足音を抑えきれないまま歩み寄ると、昨日から着たままだった背広を脱いで、その細い肩に無理矢理かけた。 「う……? あの、ヨシュア?」 「寝てなきゃダメだって、僕昨日言わなかったっけ?」 「え、う……けど、もう頭も痛くないし、たぶん熱も」 「治るのに何日かかかるってミツキ君が言ってたよ。またすぐにぶり返したらどうするの?」 とげのある口調で少し強く咎めると、ネク君は主人に叱られた犬のようにしゅんとうなだれてしまった。彼に柴犬のような三角の耳が生えていたら、きっとぺったりと情けなく垂れてしまっていたに違いない。 「で、でも……せっかく作った、のに」 ぐう、とカエルの鳴くような奇妙な音がして、僕は腹の中に虫を飼っていたりはしないから、それがネク君のお腹が鳴った音だと少し遅れて気がついた。テーブルの上にはベーコンとサラダの添えられた目玉焼きがつやつやと皿の上で光っていて、一緒に置かれたトーストからはバターのいい香りが漂っている。グラスに注がれたオレンジジュースにも食欲をそそられて、昨日ミツキ君が退室する前に『よく食べて、よく寝かせて差し上げたらちゃんと治りますよ』と言われたのを思い出したので、仕方なく、本当に渋りながらも折れることにした。 ネク君のお腹が空いているのはわかったけれど、言ってくれれば食べ物くらいいくらでも持ってこさせるのに、どうしてこの子はこうなんだろう。 「……せっかく作ってくれたんだし、もったいないから食べるけど」 「う、うんっ」 「食べたら、すぐベッドだからね?」 「うぅ……は、い……」 揺れる青の瞳をぎゅっと覗き込むと、困惑した様子ながらもこくりとうなずくネク君にようやく満足したので、ひとまず玉座に腰掛けながらその細い身体を抱き寄せた。 朝食を食べ終わったあと、まだ片づけが、と渋るネク君を、あとで片付けさせるからとずるずると寝室まで引っ張っていって、素足がむき出しなままの彼に無理矢理ズボンをはかせた。それから肩にかけた上着と僕の腕で包み込むように抱きかかえながら布団の中に潜り込んで、ようやく落ち着くことができる。 ネク君の体調も多少は戻ったようだったので、波動の制限も苦しくない程度に少しだけ緩めた。 「ヨシュア、スーツしわになる……」 「先にパジャマ脱いじゃったのはネク君でしょ?」 「うぐっ」 未だ落ち着かない様子でもぞもぞと動いているネク君を、身じろぎできないようにぎゅっと強く抱き締めたら大人しくなった。 「今日はもう、何もしちゃダメだからね」 「えぇー……」 「えー、じゃないの。えっちも禁止」 頭の後ろにガーン、というコミカルな文字が見えそうなほど落胆した表情になったネク君に、思わず苦笑してしまう。 「うぅぅ」 「僕のパンツ、脱がせたってしないからね」 「……ケチ」 子どものように口を尖らせるネク君に、念を押すつもりでめっ、と額をぶつけるとようやく観念したらしい。 「んん……じゃあ」 「何?」 「おやすみのキス、してくれたら……ちゃんといい子にできる、かも」 あまりに控えめなネク君の我儘に思わず低く笑いを漏らしながら、薄く開いたそのくちびるにちゅ、と触れるだけのキスを一つだけ落とす。子どもにするような口づけが不満だったのか、ネク君は納得いかない様子で顔をしかめていたけれど、仕方なくサービスで頬にもキスをしてやると、渋々といった体で、未だ熱っぽく潤んだ瞳をそっと閉じてくれた。 もはやデレッデレなコンポーザー。 20090929 →もどる |