※性描写を含みます。ご注意ください。 何やってるんだろ俺。 はぁ、と何度目かも分からないため息がまた口から勝手にこぼれてしまった。キッチンの棚の戸を開けて新しいはちみつ瓶を取り出しながら、一人うなだれる。 食器を落として割る、なんて、まるで小さな子どもではないか。ヨシュアの手も煩わせてしまったし、そもそもヨシュアは俺のことを心配してくれたけれど、彼の方こそ怪我はしなかっただろうか。本当はあの場で真っ先に自分が確認しなくてはいけなかったのに、みっともなく取り乱して逃げ出してきて、ホントに情けない。 そもそもの原因であるこの奇妙な格好も早く着替えたかった。自覚してしまった今、よもや裸エプロンとでも言うべき格好はこの場で暴れだしてしまいたいくらいに恥ずかしい。暴れた結果がさっきのあれなので、やめておくけれど。 それに今は着替えるよりもヨシュアのご飯の再開が最優先だし、とにっちもさっちもいかない気持ちが頭の中をぐるぐると回るばかりだった。ヨシュアに美味しい朝食を食べさせてあげたいだけなのに、まったくもって、上手くいかないものだ。 と、突然ぺたり、と背中にひんやりした感触がして思わず飛び上がった。 「ひゃ、あっ」 「おっと」 咄嗟に取り落としそうになったはちみつ瓶を、ひんやりとした大きな手に支えられる。後ろを振り向くと、頭一つ分高い位置に当たり前のようにヨシュアの顔があった。いつもと変わらぬ美貌を湛えるヨシュアの姿に、ほっと安堵のため息をつく。 「よ、ヨシュアか。びっくりした」 「戻ってこないから、どうしたのかなと思って」 「ご、ごめん。新しいはちみつ、見つかったか、ら」 優雅な仕草で俺の手からはちみつ瓶を取り上げたヨシュアは感情の読めない瞳でじっとこちらを見つめていて、そちらとは反対の手でぎゅっと俺の手首を掴んだまま、離してくれない。 「ヨシュア?」 「……」 「な、に……あっ」 吸い込まれてしまいそうなヨシュアのスミレ色の瞳を思わず見つめ返していたら、今度は大きな手のひらに両手首を一纏めに掴まれて、すぐ後ろにあった冷蔵庫に、とん、と押しつけられた。頭上で吊るすようなかたちで押さえつけられて、ヨシュアとの身長差のせいで爪先立ちになってしまい、足元がおぼつかない。 「よ、よしゅ、あ?」 「細っこい腕」 「へっ」 「こんなところむき出しにして、みっともない格好」 「え、う……ご、ごめん、なさ」 突然の冷たい言葉に、反射的にびくりと肩が跳ねる。どうしよう。自分でも恥ずかしい格好だと思っていたけれど、そんなにヨシュアの気に障ったのだろうか。 「あの、俺すぐ着替えてくる、から……なんなら、ヨシュアは先に食べ」 「……目に毒だね」 「うっ?」 瓶を手にしたままのヨシュアのゆびが器用に俺の腕の裏を撫でて、薄い皮膚越しの感触にぞく、とえも言われぬ感覚が背筋を走る。 「ふ、ぁ」 「ネク君って見るからに痩せっぽちで、美味しくなさそう」 「うぅ、あ……な、なに、ヨシュ」 「はちみつでもかけたら、ちょっとは美味しくなるかな」 くる、と手品のように片手で瓶の蓋を回すヨシュアの優美なゆびが、床に落ちてころころと転がっていく蓋の動きが、まるでスローモーションのようで動けずに見ているしかできなかった。 「ひ、っ……」 骨ばった白い手によって傾けられた瓶からとろりと冷たい液体が二の腕の裏を伝う感触に、思わずヨシュアの顔を見上げてから、漏れかけた悲鳴を思わず飲み込む。 うう、やばい、ヨシュアの目、完全に据わってる。 先ほどからの意味不明な言動に、不可解な行動で寝ぼけているのは明白だった。仕事以外のこととなると、ヨシュアはあまり寝起きがよくない。朝食を食べれば目が覚めるだろうと思っていたのだけれど、中途半端に中断したせいでその間にまた眠気を呼び込んでしまったのだろうか。 「や、あ、ぁ……っよ、よしゅあっ」 「腕だってこんなにがりがりだし」 とろとろと腕を流れる金色をぺろりと舐め取られて、はちみつがべたべたするのが気持ち悪いのに、ヨシュアの滑らかな舌が撫でる感触に変な声が漏れてしまう。 「あまい」 そりゃそうだ、だってはちみつだもの。けれど、重力に従って流れ落ちたはちみつを追ってヨシュアの舌が俺のわきを舐め始めたときには、信じられない気持ちで頭が真っ白になって、闇雲に暴れた。けれど、寝ぼけているくせにヨシュアの手はぎゅっと俺の腕を押さえつけてぴくりとも動かない。 「ふ、ぅあ……あっ、やだ、やらぁっ」 しつこくわきのくぼみを舐めながら、しょっぱい、などとぼんやりした声音で呟くヨシュアに泣きそうになる。先ほど走ったせいで汗をかいているかもしれないのに、それでもくすぐったさとは違う感覚でびくびくと跳ねてしまう自分の身体が一番信じられなかった。 「う、ぅ……やら、しゅあ……そ、なとこ、きたなっ、ぃ」 「どうしたの? びくびくしてる」 「はぁ、あぅ……はうぅ……っ」 いやいやと必死に首を振ってみても、みっともなく震えている身体が快感を得てしまっていることはあきらかだ。腋窩のふちの盛り上がった部分にかぷりと噛み付かれて、ひ、とみっともなく喉が引き攣れる。 「ひぁ、う……!」 「おっぱいもないし」 「ぃ、んっ」 そんなの女の子じゃないんだから当たり前だ、と言いたかったけれど、寝ぼけたヨシュアの前でそんな言葉は限りなく無力なのが分かっていたから、口には出せなかった。とろりと再び傾けられた瓶から、新たに胸元へとはちみつが伝っていく。エプロンの隙間から胸の間に流れたはちみつが布地とくっついて、奇妙な感触にぞわぞわと背筋が震えた。 「でもおっぱいはないのにここは気持ちいいんだよね」 「やっ……ち、がぁ……うゃ、なめっ、ちゃ」 「女の子みたい」 ヨシュアはまるで俺の声なんて聞こえていないみたいに、ぽつぽつと落とされる言葉もほとんどが独り言のようだった。それが寂しくて悲しい気持ちになるのに、エプロンをずらしながらべたべたの胸元に舌を這わせてはちみつを舐め取る動きに、ぴくん、ぴくん、と肩が跳ねてしまうのが堪えられない。舌先でくにくにと乳首を撫でられて、かり、と歯を立てられたときには、みっともなくはしたない声を上げてしまった。 「くぅ、ん……う、しゅ、あ、ここじゃ、やだっ……するなら、部屋、っで」 「あは、でもここはちゃんと元気なんだね」 「ひ、ぃ」 普段は指揮者の彼女が使っているこの部屋で行為に及ぶのはさすがに抵抗があって、せめて審判の部屋までは戻りたかった。なのにヨシュアは抵抗する俺のことなどお構いなしで、既に下着の中で勃ちあがってエプロンの布地を押し上げる性器を、手にしたはちみつ瓶でつんつん、とつついてくる。それから一端瓶をすぐ傍のシンクの上に置くと、ぺろ、とフリルを掻き分けエプロンの裾を捲って持ち上げた。 「なんだ、ちゃんとパンツ履いてたんだ」 「んん、ぅ、や、だ……っ」 「でも邪魔だから取っちゃおうね」 とろんと寝ぼけたままの無垢な瞳で微笑みながら、ヨシュアは長いゆびを一本ウエストのゴムに引っ掛けて、そのまま有無を言わせずずるずると引きずり下ろした。途端にエプロンの布地を押しのけてぴんと立ち上がる性器が露になって、あまりの羞恥に脚が震える。かかとのつかない足元が不安定で、ヨシュアの手に腕を掴まれていなかったらすぐにでもその場に座り込んでしまいたかった。 それからヨシュアは再び手にしたはちみつ瓶を、俺の屹立の上でゆっくりと傾ける。 「ふ、ぁ……つめ、た」 「ふふ、ぴくぴくしてる。やらしいんだ」 はちみつの金色と透明な先走りが混ざってとろとろと流れる屹立を、ヨシュアのしなやかなゆびが優しく撫でて、その度にくちゅくちゅと情けなく立つ音に耳を塞ぎたかった。 だって、朝からあんないやらしいキスをされて一生懸命我慢していたのに、こんなの感じるなという方が無理ではないか。泣きたい気持ちになりながらも、ヨシュアのゆびがそこをくっくっと押すたびに息が荒くなってしまう。 「うぁ……あぁ、よしゅあっ……も、でちゃ……!」 「あ……勃っちゃった」 「へ、っ?」 もう少しで射精できる、という直前、ぽつりと呟いたヨシュアは掴んでいた俺の腕を突然ぱっと離した。そうされると、今更かかとをつくことができても既にがくがくと力の入らない脚では立っていることができなくて、ずる、とその場にへたり込む。中途半端に放り出された屹立が切なくうずいて、もどかしさにふるりと腰が震えた。 「よしゅ、あ……?」 恐る恐る頭上のヨシュアを見上げると、髪の毛に寝癖をつけたままの子どものような表情で、ふんわりと微笑んでいるのが見える。 「ほら、勃っちゃった」 見て見て、と無邪気に寝巻き代わりのコットンパンツに包まれた自分の下肢を指し示すヨシュアに、思わず、ぼっと音がしそうなくらい顔が熱くなった。 「だから、ちゃんと面倒見てね?」 そんな風に言われて、その場に四つん這いになる以外俺に何が出来ただろう。わらわらと集まってくるガラスの床下の魚たちをなんとも言えない気持ちで見つめながら、おずおずと床に手を突いた。 「ふぅ、う……うく、うぅ……っ」 「やれやれ、背中も丸出しじゃない。はしたない子」 ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音を立てて、べたべたとした液体をまとったヨシュアのゆびが後孔を出入りする。俺の体内に塗り込むついでのように背中にも垂らされたはちみつがとろとろと背骨のくぼみを伝って、それをヨシュアの舌が追いかけて舐め上げる度に、喉から引き攣れた声が漏れた。エプロンの脇から差し入れられた手で、後ろからやわやわと胸を揉みしだく感触にすら泣きそうになる。 「うー、胸焼けしたかも」 自分の身体のどこもかしこもから甘ったるい匂いがして、動くたびに嗅覚をくすぐる慣れない香りが落ち着かない。あれほど執拗に弄んでいたくせに、言葉通りヨシュアはもうとっくにはちみつには飽きてしまったようで、既に蓋の閉められたはちみつ瓶が床の上に放り出されたように置かれていた。 「はぁ、もういいよね。お口直ししないと」 よく分からないことを口にしながら、ずるりとヨシュアのゆびがそっけなく抜けていく。その代わりのように熱いものが後孔に押し当てられたのがわかって、期待する身体が勝手に腰を揺らした。 「んん、んぅ……しゅ、あ……よしゅあっ」 「ふふ……そんなにがっつかなくても、すぐあげるってば」 「や、はや、くぅ……ふ、あっあぁ……!」 耳の後ろにやわらかくキスを落とされたかと思うと、間髪入れずに、ずぶ、とヨシュアの太い性器が後孔に押し込まれた。あまりに強い衝撃に、中途半端に放り出されたまま限界まで高ぶっていた屹立は、あっけなく射精してしまう。ぱたぱたと床に落ちる精液にあっという間に床下の魚たちが群がったのが見えて、情けなく泣き出してしまいたい気持ちでいっぱいだった。 「ねえ、お魚さんいっぱい集まってきたよ。ほら」 「うぅ……うく、ふ、えぇ……」 「ネク君のおちんちん、つんつんしてる。かわいい」 がくがくと力の入らない膝では身体を支えきれずに、うずくまるように腰を落としたせいでぺたりと床につく俺の性器を、ヨシュアが言うとおり小さな魚たちがガラスの床越しにつついている。 それだけでも羞恥からじわりと込み上げてくる涙が堪えられないというのに、床下の魚をガラス越しに愛しげに撫でるヨシュアの指先を見てしまったら、浅ましい嫉妬がみるみるうちに胸の中をいっぱいにして、ぽろぽろと涙になってこぼれた。今ヨシュアが抱いているのは俺なのだから、ちゃんと俺だけ見ていて欲しいのに。俺以外のものなんて、何一つ可愛がったりしないで欲しいのに。 「うあ、あ……あー、あぁっ……はぁ、はぁあうっ……あうぅ」 「んん……ナカ、なんかべたべたしててちょっと動きづらい、かも」 「あふ、はうぅ……うぅ……」 それでもヨシュアの大きな手のひらに腰を強く掴まれて、高く腰だけを突き出すように抱えられたかと思うと、無遠慮に動き出したヨシュアが体内を擦る快感で、何もかもがわからなくなる。 今の体勢ではヨシュアの口づけを受けることの出来ないくちびるが寂しくて、気づけば何かを求めるように裏側で魚の群がる床の冷たいガラスをぺろぺろと舐め始めていた。けれどそれだけでは物足りなくて、口元にやった自分のゆびにもちゅうちゅうと吸いつく。 「ん、んんぅ……はふ、んく……ん、ちゅ……ふ、ぅ」 けれど、どこか呆れたようなヨシュアのため息が、はぁ、と背後から聞こえて、そうっと咥えてたゆびを離した。 「よ、ひゅ……?」 「お魚さんとじゃなくて、僕とキスしてよ」 そのまま肩を掴まれたかと思うと、腰ごと回されて仰向けにひっくり返された。内部を暴れるヨシュアの屹立の硬い感触に、声も出せない。 「ひ、ぃ……っは……!」 「ほらぁ、口開けて」 「んん、んー……! んく、ふ、うくぅ……ふぁっ」 ぐ、と強く腰を押しつけながら強引な指先に口をこじ開けられて、乱暴に舌を暴かれた。無遠慮に口腔を探るぬるついた感触が嬉しくて、ヨシュアのくちびるを求めて必死に舌を絡める。無意識のうちに伸ばした手で、気づけばヨシュアの頭をぎゅっと抱え込んでいた。細いながらもしっかりとした体躯を包み込むシャツの清潔な綿の匂いと、吸い込むヨシュアの匂いにそれだけで胸がいっぱいになる。 強く求めるキスをくれるヨシュアのくちびるはとても甘くて、当たり前だけどはちみつの味がした。 「んく、んくぅ……しゅあ、よひゅあぁ……っ」 「ふ……んは、ぁ。あ、もうでる、でるっ、出ちゃう。んん、出して、いい……?」 「はふ、うぅ、うん……うん……! して、だひて、ぇ……ふあ、あぁ……っ!」 とろんと潤んだ瞳で熱っぽくこちらを見つめるヨシュアを、はしたなく声を上げながらぎゅうぎゅうと抱き締めると、次の瞬間大きく突き上げられて、びゅく、と体内にヨシュアの精液が吐き出されたのがわかる。そのぬるついた感触に少し遅れて俺も射精した途端、ふわふわと行き場なく揺れていた意識は簡単にぷつ、と飛んでしまった。 ふっと途切れてしまった意識がようやく戻ったときには風呂場で、俺はヨシュアの手でキレイに隅々まで洗われている真っ最中だった。全身がべたべたのぐちゃぐちゃだったから、すっきりできたのは嬉しいしヨシュアとのお風呂はもちろん嫌じゃなかったけれど、指揮者の彼女の部屋でコトに及んでしまったことが俺にはショックで、情事のあとでぼーっとしているふりをしながら黙り込んでいた。 はちみつ効果か、やけに肌がすべすべしているような気がするけれど、この際そんなことは関係ない。 当のヨシュアは今はぱっちりと目を開いて、すっかり冷めてしまった朝食を食べ終わり、胸焼けしたという彼のリクエストで俺が淹れた紅茶を美味しそうにすすっている。 俺はヨシュアにされて嫌なことなんてないから普段は滅多にしないことなのだけれど、わずかな反抗心から今は固く膝を抱えて篭城中だ。ヨシュアの膝の上で、だけど。 きっと黙り込んだ俺を見て、俺の胸中なんてヨシュアには全部手に取るように分かったのだろう、膝に乗せたままぽんぽんと子どもをあやすように背中を撫でてくれてた。 「ごめんね、ずっと寝ぼけてて」 「……」 「ミツキ君の部屋でしちゃったのがイヤだったんでしょ?」 やっぱりヨシュアには、所詮俺の考えていることなどバレバレらしい。 「ホットケーキも、せっかく作ってくれたのに、あったかいうちに食べてあげられなくてごめんね」 「ん……」 カップをテーブルに置いて、優しく髪を撫でる手に早くも俺の打ち立てた壁は崩れ落ちてしまいそうだ。だって、よくよく思い返してみればそもそもの原因というと、俺になるわけだし。 「でも、冷めてても美味しかったよ」 「……ほん、と?」 「うん。ごちそうさま」 その言葉が聞きたくて一生懸命早起きしたのだから、嬉しくないわけなんてない。ちゅ、と頬に落とされる口づけに、ぎゅうっと胸が苦しくなって、もうとても頑なになどなっていられなかった。 「ん、と……じゃあ」 「うん」 「明日も、がんばって作るから、そしたら」 「うん」 「冷めないうちに、食べて、くれる……か?」 おずおずと澄んだスミレ色を見上げると、俺にはもったいないくらいの表情でふんわりと優しく微笑んでくれる。 「もちろん。約束、するよ」 そうしてやわらかくくちびるにもキスを落とされて、いとも簡単に落城してしまった俺は膝を抱えていた腕を解いた代わりにヨシュアの首へと絡みつかせ、ぎゅっと目の前の身体に強く抱きついた。 ネクのパンツはトランクス派です。 20090928 →もどる |