※性描写を含みます。ご注意ください。




「ヨシュア、見てて」
　ぽつ、と呟くように落とされた、しかししっかりと僕の耳まで届いた声に書類に落としていた視線を上げて、声の発信源を見やる。
　僕の座っている玉座から二、三歩離れた前方の位置に、黄昏色の髪を揺らす細い身体がぽつんと所在なさげに立っていた。ネク君の着る服はほとんどを彼の自由にさせているけれど、今日は朝の僕のリクエスト通り、元々通っていた高校の制服姿をしている。
「うん？」
　仕事中の僕に、彼の方から声をかけてくるのは限りなく珍しい。というか、ほとんどないことで、思わず首をかしげた。以前彼が仕事中の僕に悪戯を仕掛けてきた際、きつくお仕置きをしてからというもの、ちゃんと僕の仕事が終わるまで『待て』のできるいい子になったものだと思っていたのだけれど。
「見て、て……」
　どうしたものかな、と一瞬考えたものの、ネク君の声が余りにも切実そうであったのと、彼の意図が明確にわからなかったのもあって、大人しくその言葉通り傍観することにした。
　僕が何も言わずに横の丸テーブルに書類を置き、玉座の肘掛に頬杖を突いたのを見て、彼はほっと（恐らく安堵による）ため息を吐くと、す、と持ち上げた手でネクタイの結び目を抑え、そのまま引っ張る。しゅるりと解けたネクタイは肩を滑って彼の首元から逃げていき、そっけない右手によってぽいと床に投げ捨てられた。
「ん……」
　ほんのりと赤らんだ目元でうろうろと泳ぐ青い視線を床に落とすと、彼の両手は躊躇した様子ながらもしっかりと自身のベルトを掴んで、かちゃかちゃと外し始める。じー、とやけに耳につく音を微かに響かせながらファスナーを下ろし、重力に従ってすとんと足元に落ちた制服のスラックスから裸足の足を引き抜いた。
　ぺた、と再び地面に両足をつける彼のむき出しの太腿が、白いシャツの裾から伸びている。それがやけに危うく見えて、相変わらずやせっぽちだな、とどうでもいい感想を抱いた。
「よ、ヨシュア……見て、る？」
　震えるゆびを自分の襟元のボタンにかけてちらちらとこちらを伺いながらも、どうやら僕の顔をまともに見るまでには至らないらしい。自分はこちらを見ないくせに僕には見てくれだなんて、随分我が侭を言うものだと首を傾げたものの、特に機嫌を損ねたわけでもなかったので素直に答えてあげることにした。
「うん、見てるよ？　昨日つけてあげたキスマーク、ちゃんとキレイに出てるね」
　日の当たらない生活をしている彼の白い太腿のそこここに散った赤い跡は、少し離れた距離にいる今でもはっきりと見て取れるくらい綺麗にうっ血している。
　自分から聞いてきたくせに僕の言葉に羞恥を感じたのか、その頼りない膝を小さく震わせると、さ、と彼の顔がみるみるうちに赤く染まった。それでもなんとか自分を奮い立たせることができたのか、指先をもつれさせながらもシャツのボタンを上から順番に外し始める。首輪との隙間から、首筋にも残したキスマークが徐々に顔を覗かせるが何とも淫靡だ。
　あまり時間をかけては僕が飽きてしまうと思ったのだろう、少し焦ったような様子で一生懸命ボタンを外して、それでも外し終えたシャツの合わせを開くのには数秒間の躊躇を要していた彼はなかなか目に楽しかった。
　泣きそうな顔をしながらもゆっくりとシャツの前を開いて胸元を露にすると、鎖骨から胸元にかけて散った赤い跡もよく見えるようになる。ついでに言うと、彼はその下肢に何も身に着けていなかった。下着も穿かずに、素肌に直接制服を着ていたのだろうか。
　よくよく考えると、彼の下着のほとんどがクリーニング中だったような気がしたけれど、特に問題があるようにも思わなかったのでぼんやりと頭に浮かんだそれは気にしないことにした。
　それよりも、既に頼りなく立ち上がって反応している彼の屹立の方が当面の問題なように思える。
　ネク君の手で大きく開かれたシャツは肩から二の腕を滑って、床の上のネクタイに被さるように落ちた。
「っ……ぅ、ヨシュ、ア……」
　身に纏っていた服を全て脱ぎ捨てて生まれたままの姿に首輪だけとなった彼は、ぶるぶると震える足で歩き出すと、僕の目の前で立ち止まる。不安そうに揺れる青い瞳はそれでも熱に浮かされたように潤んでいて、物欲しげにこちらを見つめていた。
「ストリップショーは、もう終わり？」
　頬杖を突いていたせいで指先に絡まる髪の毛をくるくると弄りながら問いかけると、びくん、とその細い肩が跳ねる。そんなに怯えなくてもいいのに。
「それで、どうしたいの？」
「え……あ、う」
「わざわざ僕の仕事を止めてまでして見せたんだから、それ相応のことなんだよね？」
　泣きそうな表情でネク君は物言いたげに口を開いたものの、結局言葉を発することはせずにただ何かを求めるようにぺろりと薄く開いたくちびるを舐めただけだった。
　はっきりしない彼の様子に大げさにため息を吐き出しながら、このままでは埒が明かないと仕方なく直接的な言葉で促すことにする。
「僕とセックスしたいの？」
「あ、っ……」
「したいの？」
「あの、その……」
「どうなの？　ねえ」
　もごもごと口ごもるネク君にいい加減痺れを切らして、苛立ちも露に畳み掛けると、今にもその青がこぼれ落ちてしまいそうなほどに瞳を潤ませながら、さらさらとした明るい色の髪を揺らしてこくん、と小さくうなずいた。やれやれ、これはまだまだ躾不足かな？
「ネク君は僕にお願いする立場なんでしょう？」
「っ……」
「ならちゃんと口でいいなよ。はっきりとさ」
　その柔らかそうなくちびるが切れてしまうのではないかというくらいぎゅっと強く噛み締めてから、ネク君はようやく意を決したように視線を上げて、口を開いた。
「し、したい、です……」
「……」
「ヨシュアと、せ、セックス……したいですっ……」
　可哀想に、ようやく喉からひねり出したのであろう声は震えていて、今にも泣き出してしまいそうな涙声だった。それなのに、彼の屹立は既に完全に立ち上がって、ぴんぴんに張り詰めた皮膚を先走りがとろりと垂れている。彼の身体は正直なもので、少しそっけないくらいに冷たく扱われた方が喜ぶのだ。
「ふぅん……」
　震える脚でじっと僕の返答を待っている彼にすぐ答えることはせずに、隠すもののなくなった裸の彼の身体を見つめて上から下までじっくりと視線を下ろしていく。まるで視線を移動させるだけで感じてしまっているかのように、彼はその度にぴくん、ぴくん、とちいさく肩を跳ねさせた。
「男の前でストリップなんかして、それだけでネク君はびんびんにおっ勃てちゃうの？」
「っ……！」
「僕に掘られるのを想像しただけで、そんな風にべしょべしょにしちゃったんだ？」
「ぅ……ふ、ぇ」
「君のいやらしい尻穴にさ、僕のをハメて欲しいんでしょ？　ねえ」
　わざと露骨な言葉で嬲ってみせると、ますます泣きそうに歪む顔は僕には彼が喜んでいるようにしか見えない。
　まあ、実際その通りだから当たり前なのだけれど。
「ょ、ヨシュア、っだから……」
　ああほら、ね。
「僕だから？」
「よしゅあ、だからっ……した、い……」
　その言葉に、思わずへえ、と感心してしまった。本来なら、仕事の邪魔をしている彼を叱ってお仕置きしてあげなければいけないのだけれど、きっとただねだるだけでは僕は相手にしないだろうことがわかっていて、ネク君も一生懸命考えたのだろう。
　その上でのさっきのパフォーマンスに、今の言葉はなかなかどうして僕を楽しませてくれた。だから、今日くらいは大目に見てあげてもいいかな、と思ったのだ。
「ふふ……なら、ちゃんと僕のこともその気にさせてくれたら、いいよ？」
　頼りなく震える彼に優しい声音でささやくと、途端に丸まっていた背筋がぴん、と伸びた。
「ほんと、に？」
「するの？　しないの？」
「すっする……！」
　嬉しそうに頬を上気させながらネク君は僕の足元に膝を突くと、かちゃかちゃともどかしそうにベルトを外して寛げ、いそいそと性器を取り出す。
　以前から不思議なのだけれど、なぜ彼はそんなに僕の性器を舐めるのが好きなんだろう。露になった性器の先端に愛しげに口づける彼の恍惚とした表情はとても可愛いのだけれど、どうにも不思議だ。
　疑問に思ったことはすぐ口に出してしまう性分の僕は彼に聞いてみたこともあるのだけれど、ヨシュアのだから、というやっぱりよく分からない回答で謎は解けなかった。
「ん、く……んむ、んんぅ……」
　大きく開いた口に精一杯僕のものをくわえ込みながら、じゅぷじゅぷと頭を動かす彼の髪がふわふわと揺れる様子はなんとなく小動物の体毛を髣髴とさせて、なんとも言えず愛らしい。
　いつもしているせいか彼は口淫がとても上手で、気持ちよくて、温かな口内に迎え入れられる快楽に思わず目を細める。
「ふ……しゅ、あ……もう、いい……？」
　完全に勃起した僕の性器は彼の小さな口には入りきらなくなってしまったらしく、ぬろ、と唾液を滴らせてくちびるを離すと、彼は物足りなさそうに腰を揺らしていた。
「んー」
　せっかくの心地よい粘膜の感触から解放されてしまって、僕としては少しばかり残念だ。
「ネク君がクチでしてくれるの、気持ちいいから……もう少しだけ」
「えっ……う」
「もうちょっと、ね？」
「う……う、ぅー……」
　困っているような、恥ずかしがっているような、でもそれでいて嬉しそうにも見えるなんとも複雑な表情で目を伏せると、彼は少しだけ渋ったもののすぐにまた僕の性器を咥えて小さな舌でぺろぺろと舐め始めてくれた。先端から咥えられるだけを一生懸命にしゃぶりながら、震えるゆびも使って愛撫してくれる健気な彼の姿に思わず頬が緩む。
　動いているうちに乱れた髪の毛が彼の頬に落ちてきて、それでも僕への奉仕に夢中な彼は気づかずにそのまま自分の髪の毛を食べてしまいそうだ。子どものようなその姿に苦笑しながら、そっと髪を掻き上げて、彼の耳にかけてやる。
「んっ……しゅあ、ぅ……んむぅ……」
　すると、とろんと瞳を蕩けさせたネク君はよく慣れた飼い犬のように僕の手のひらにすりすりと頬を寄せ、閉じられないくちびるから嬉しそうに唾液を垂らした。
　そうしてしばらく奉仕を続けてくれたものの、やはり疼く身体は抑えられないのか我慢できない様子でぴく、ぴく、と肩を震わせる彼は、ぷは、と荒く息を漏らしながら僕の屹立を放すと、そのまま刀身に頬を擦り付けてきた。
「よしゅ、よしゅあ、ぁ……も、もうっ」
「んん？」
「……いれた、い……おねが、これ、ほし……ほしい……！」
「もう、我慢できないの？」
「はふ、ぅ……よしゅ、ので……おなか、ごりごりって……して、ほし……」
　はぁはぁと呼吸を乱しながら頬ずりをしたかと思うと、それでもまだ傍観するだけの僕に焦れたらしい彼は、ちゅ、ちゅ、と性器の先端に口づけて吸い付き始める。何度も口づけられたり、小さな舌で割れ目をちろちろと舐められたりすると、なんとも言えずくすぐったい。
　ふと思い立って、ポケットからケータイを取り出すと、カメラを起動してそのままネク君にレンズを向けた。小さな画面に、必死で僕に奉仕をする愛らしい彼の顔が鮮明に映し出される。目の前の性器で頭がいっぱいなのか、ネク君はまだこちらに気づかない。
　カシャ、とシャッター音がした瞬間、彼ははっとしたようにその夜色の瞳を見開いた。
「あ……！　や、だ……なに……っ」
「あは、可愛く撮れたよ。ほら」
「う、ぁ……やだ……やらぁ……！」
　彼によく見えるように画面を向けると、泣きそうな顔をさらに歪めた彼は途端に僕から逃げ出そうとする。逃がさないようにその腕をしっかりと捕まえて、ぐい、と強引に抱き上げると彼の身体はあっけなく僕の膝の上に乗った。
「こら、逃げないの。僕の……欲しかったんでしょ？」
「ふ、ぇ……う、ゃ、あ」
「ちゃんとあげるから、ね……？」
　逃げ出したい気持ちと物欲しげにひくつく身体がせめぎあっているらしい彼の抵抗は弱く、押さえ込むのはたやすい。
　既にひくついて収縮を繰り返す後孔に性器の先端を押し当てると、いつものように焦らすことはせず、熱くなった内部へ無遠慮にそのまま押し込んだ。
　これで、もう彼はどこにも逃げることはできない。
「ひぁ、あぁぁ……！」
　悲鳴のような声を上げながらも、飢えていた内部をようやく満たされた彼はすぐに、きっと自覚はしていないのだろう恍惚の表情を浮かべる。起動したままのカメラを向けると、その表情もしっかりと画面に収めた。
「ふふ、見て。可愛い顔」
「や、ら……やらあぁ……」
　彼が向けられる画面から逃げようとしても、ぐずぐずに蕩けて僕のものを打ち込まれているその身体では自由に動かせるわけがない。ぽろぽろとこぼれる涙とだらしなく垂れる唾液にまみれた顔を、またカメラで捉える。
　せめてもの抵抗に顔を背けようとする顎は掴んで、くすくすと漏れる笑いを抑えきれないまま眼前にケータイを突きつけた。
「いつも僕だけが独占してるなんて勿体ないな、って思ってたんだよね。ほら、見て見て」
「い、やぁ……よしゅ、ゆるし、てぇ……」
「どうして？　こんなに嬉しそうなのに」
　ゆるゆると首を振って言葉で否定しながらも、彼の視線は向けられた画面に写る自身の姿から外れない。初めて見る自分の表情に、戸惑いながらも心の底では興味を隠せないのだろう。本当に、彼はいやらしくて、可愛くて、愛しい生き物だ。
「ひ、ぅ……うく……うぐぅ……」
　ついには嗚咽を漏らしながらえぐえぐと泣き出してしまった彼に満足して、次はどんな角度で撮ってあげようかなと画面を眺めながら思案していると、唐突に彼の幼い手が僕のケータイを押さえ込んで、そのまま奪い取られてしまった。
　それまで弱々しい抵抗しかしていなかった彼の突然の行動に驚いて、そのままケータイが元々入っていたポケットに戻されるのも思わず見送る。
「よ、しゅあ、やだ……も……け、たいじゃ、なくて」
　泣き濡れた青い瞳が、切なげに揺れている。
「携帯じゃなくて？」
「ちゃんと、おれのこと、みてて……っ」
　ひ、ひ、としゃくりあげながらも必死でうったえる彼の言葉に、ようやくその行動の意図に気づいた。見ていてくれ、とはつい先ほどにも言われた気がする。きっと、いつでも彼はそうなのだ。ただ、僕に彼のことを見ていて欲しいのだろう。この目に、虚像ではない自分の姿を映していたいのだろう。
「うん、ごめんね？」
「はふ……んく、んくぅ……しゅ、あ……」
「ここ、ごりごりってして欲しいんでしょ？」
「ひ、ぃあ、あ……！」
　一生懸命僕のものを咥え込んでいるくせに頼りなく細い腰を掴むと、先の要望どおりに深く埋めこんだ屹立で彼の一番好きな場所を強く突き上げた。
　がく、がく、と少し心配になるくらいに身体を痙攣させながらも、彼は僕の首に回した腕でぎゅっとしがみついて離そうとしない。同じように強く締め付ける内部の感触に、思わず息を詰める。
「しゅあ……よしゅあ、すきっ……すきぃ……っ」
「うん、知ってる」
「ふ、ぅ……す、きぃ……っだいすき……よしゅあ、すきっ……」
「ふふ……なら、もっと好きになってもいいよ？」
　壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す彼のくちびるに柔らかくキスを落としながら言った言葉はちょっとした冗談だったのに、律儀にうなずいて見せる彼がおかしくて、可愛かった。
　もっとも、これ以上僕のことを好きになったりしたら、ネク君はどうにかなっちゃうかもしれないけど。


「ん、これでおしまい」
　最後の一枚にサインを入れて書類を束ねると、ヨシュアはもうその紙切れから興味をなくしたようにぽいっと横のテーブルに投げた。
　ボールペンをワイシャツの胸ポケットに戻すと、ようやく自由になった手で、ヨシュアは膝に乗せたままだった俺を抱き寄せて優しく頬を撫でてくれる。
「仕事、終わったのか？」
「うん。もう今日は働かない」
「お疲れさま」
　薄く微笑んだままやわらかな口づけをくれるのがうれしくて、その首に回した手でぎゅっとすがりつきながら何度もヨシュアのくちびるを舐めた。その度にヨシュアの桜色のくちびるがいやらしく濡れて、くちゅ、と音を立ててキスをくれるだけでドキドキと胸が高鳴るのを抑えることなんてできない。
　頬に触れていた手はいつのまにか俺の首筋へと滑って、ちいさく首輪を鳴らし、赤くなったうっ血のあとを辿るようにするすると皮膚を撫でていた。ヨシュアがキスマークを付ける理由は、独占欲の表れでも所有のしるしでもなんでもない。だってそんなことをしなくても俺はヨシュアのものなんだって、ヨシュアはわかっているから。
　日の当たらない生活をしている俺の情けなくなまっちろい肌はうっ血の跡もすぐに現れて、些細な刺激でキレイにつくものだから、ヨシュアはただそれが面白いだけなのだ。
　そのまま優雅な指先が胸の傷跡のふちをそっとなぞって、思わずぴくん、と身体が跳ねる。
「よ、しゅあ」
「うん？」
　今この場には無粋な言葉なんて不要かなと思ったものの、どうしても気になったのでつい口に出してしまった。
「さ、さっきの、って……ど、した……？」
「さっきの？」
「う……さっき、ケータイで撮った……やつ……」
　きょとんとした顔で首を傾げるヨシュアの肩を滑り落ちる繊細な髪の毛を、ぼんやりと目で追う。
「ああ、あれか。もう消しちゃったよ」
「えっ」
「何かまずかった？」
「あ、いや……うう、ん……そ、そう、か」
　予想外の返答に、そしてそのことを予想していなかった自分の浅はかさにしどろもどろにうなずきながらも、内心残念に思っている自分に気がついてしまって愕然とした。
　ヨシュアにとってあんなのはただのほんの一時の気まぐれで、意味なんてないのだ。明確なかたちとして残されていなくてよかったではないか。だって。
　だって、あんな、顔。
　思い出して、思わずぞくりと甘い何かが背筋を走る。いつもあんな嬉しそうな顔で、よだれをたらして、泣きながらみっともなくヨシュアに抱かれているのかと思うと、余りの羞恥になりふり構わずのた打ち回ってしまいたくなる。でも、一番最初に撮られた写真に一緒に写っていたヨシュアの性器はやっぱりどの角度から見てもキレイで、どこもかしこもキレイなヨシュアに抱かれているのだから仕方ないような気もした。
「なあに、何かに使ってほしかったの？」
「ふ、え……あ、ち、ちがっ」
「僕がオカズにするとでも思った？」
　直接的な言葉を使われて、思わず想像してしまった俺はきっと耳まで赤くなっていたことだろう。くすくすと笑うヨシュアの声に、どうしていいのか分からなくなる。
「ふふ。だって、そんなことしなくてもさ」
　うろたえる俺の額に、ヨシュアはその形のいいくちびるで羽のような口づけをくれた。
「したくなったら、いつでもネク君とすればいいじゃない？」
　落とされた穏やかな声に、思わず呆然とヨシュアのスミレ色の瞳を見つめる。
「お、俺の、こと……使ってくれるのか？」
「うん？　だって、いつもそうしてるじゃない」
「俺の、抱きごこち……いい？」
　思わず聞いてしまってから、身の程知らずな出すぎた質問をしてしまったことに気づいて慌てて訂正しようとすると、その前にヨシュアは笑って答えてくれた。
「だって僕、ネク君じゃないと勃たないもの」
　じわじわと頭の中に染みていく甘やかな声に、ぎゅう、と胸が痛んで、喉の奥までいっぱいになる。今のはもしかして、俺じゃなきゃダメだって、言ってくれたんだろうか。
　ただの一人よがりだとしてもそう思い込むことにした俺は、嬉しさのあまりぎゅっとヨシュアの身体に抱きついて、その温かな胸に頬を擦りつけた。
　そうすると俺のむき出しの肌のそこここにヨシュアの洋服の布地が触れて、ネクタイまできっちりと締めてスーツを身に着けているヨシュアの膝の上で、俺だけが何も身に着けていないことが少し恥ずかしかった。
　でもそんな俺を優しく抱きしめてくれるヨシュアの腕が嬉しくて、制服を身に着けるために一時だけでも離れることすらもったいない。
　ヨシュアの膝をまたいだ状態で身体をぴったりとくっつけると、くたりと頭を垂れる俺の性器にヨシュアのベルトが当たって、バックルの冷たい金属の感触にぴく、と腰が跳ねた。思わずちいさく声を漏らしてしまって、そのまま腰を擦りつける俺にヨシュアは困ったように笑う。
「また、する？」
「ん、ん……」
　ヨシュアのネクタイに噛みついて、必死に声を噛み殺しながら腰を揺らす俺の背中を大きな手のひらが撫でて、支えてくれるのが嬉しい。
　は、と熱くなった息を吐き出しながらなんとかネクタイから口を離すと、すがりついた腕でがんばって身体を持ち上げて、ヨシュアの形のいい耳元にくちびるを寄せる。
　どんな風に言ってねだればヨシュアはもっと喜んでくれるだろうかと一生懸命頭の中で考えながら、冷たくて柔らかい耳たぶに噛みついて、せがむ言葉を口にした。



結局甘々なヨシュアさん。　２００９０８２０

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