※性描写を含みます。ご注意ください。




 違和感はあった。
 夜も更け、コンポから流れる音楽だけが響く部屋で、一人寂しく机に向かって教科書とノートを突き合わせていたころだ。
 ふわ、と一瞬身体が浮いたような感覚がして一瞬たじろいだものの、それだけだった。眠いのかなとか、そろそろ寝ようかなとか適当なことを考えながら、シャーペンを手の中で弄ぶ。
 それだけで自分のいる場所がRGからUGに切り替わっていたことなんて、誰がわかるだろう。
 コツ、コツ、と微かな靴音が外から聞こえて、段々とこの部屋に近づいてくる。それから玄関のドアの前でぴたりと止まったかと思うと、こんこん、と控えめなノックが聞こえた。
 もう夜中と言っても差し支えない時間だから、やたらとうるさいこの部屋のインターホンを鳴らすのは遠慮したのだろう。それだけで誰が来たのかピンときた俺は、早々にシャーペンを机の上に放り出すと急いで玄関まで駆け出した。
 俺がドアに手を掛ける前に、がちゃがちゃと鍵を差し込み開錠する音がして、キイ、とドアが開く。その瞬間に、俺の身体はいとも簡単にがくりと膝から崩れた。
「おっと」
 聞き慣れた声と長い腕が、倒れこんだ俺をタイミングよくぎゅっと受け止める。ただ、その腕は俺の身体に馴染んだものよりもがっしりとしていて、受け止める胸の位置もいつもより高い。身にまとっているのはいつもの薄水色のシャツではなく、暗色のスーツ。
「ヨ、シュア……?」
 派手な柄のネクタイを辿ってその顔を見上げると、あどけなさの消えた怜悧な美貌を湛える、オトナ姿のヨシュアの顔があった。端正な顔立ちに、ピンストライプのスーツが嫌味なくらい似合っている。
「ああ、そっか……波動仕舞うの忘れてた」
 ぽつりと呟いた声は少しかすれていて、疲れているようにも聞こえた。けれどそれから身体がすっと楽になって、なんとか自力で立つことができるようになる。なのに、ヨシュアは腕をぎゅっと俺の背中に回したまま、離してくれない。
 まだろくな挨拶も交わさないままに、こんなことをされるのは初めてだ。いつもの柔らかな雰囲気をまとった穏やかな物腰が今のヨシュアには見えなくて、あどけない子どもの姿をしているわけでもない分余計に戸惑いが大きくなる。
「ヨシュア、そのかっこ……」
「うん、ネク君……ごめん」
 謝罪の言葉はどこか泣きそうなようにも聞こえて、でもその意味を問いかける前に大きな手で手首を強く掴まれ、痛いくらいに引っ張られた。そのまま奥の部屋にどんどんと歩いて行くヨシュアに、もつれる足でわけもわからずについていく。
「ヨシュア、なに……手、痛いって、ば……!」
「ごめんね」
 心ここにあらずと言った風に謝罪を繰り返しながら奥の部屋のソファの傍まで来ると、ヨシュアは大きな手で俺の肩をとん、と強く突き飛ばした。
「よ、しゅ……んん……っ」
 抗う術もなくどさ、とソファの上に倒れこんで、そのまま一緒に乗り上げてきたヨシュアに押し倒され、くちびるを塞がれる。有無を言わせない乱暴な口づけはいつものヨシュアの優しい触れ方とはまるで違って、全然違う人みたいに感じた。
「ん、くぅ……ふ、ゃ……ら……ん、んんっ……」
 大きく開いたくちびるで俺の口を塞ぎ、ぬめる舌で無遠慮に口腔を暴くヨシュアに、獲物のうさぎを喰らう肉食獣はこんな感じかもしれないと馬鹿なことを考える。
 いつもは俺のペースに合わせてあやすように優しいキスを繰り返してくれていたから、こんな風にされたらどうしていいのかなんてわからない。無意識に怖がって縮こまる舌を絡められ、くちゅくちゅと音を立てられるたびにびりびりと強引な快感が頭の中を犯していく。もはや抵抗すらできずに、ヨシュアに蹂躙されるままに与えられる唾液に必死で喉を鳴らした。
「は、ぁ……はぁ……あ、ぅ……しゅあ、やぁ……」
 ようやく舌を解放されて、必死に荒くなった息を整えようとしても、ヨシュアのくちびるは離れずに俺の口端や上くちびるのふくらみをしつこく舐めてくる。
 性感を煽る神経質な快感に、びく、と喉をひくつかせると、ヨシュアのくちびるはそのまま頬を滑って耳の辺りを探り始めた。吐息が皮膚を撫でるたびに、濡れた舌の感触が耳たぶをなぞるたびに、ぴくん、ぴくん、と身体が震える。
「ふ、ぁ……よしゅ、うぅ」
「ネク君、すごい……いい匂いする……せっけん、んー、シャンプーかな……?」
 すんすんと鼻を鳴らしながら肩口に顔を埋めるヨシュアに、なんだかよく分からないけれどとても恥ずかしい気持ちになった。風呂上りに面倒がって乾かさなかったせいで未だ生乾きの髪に、ヨシュアの長いゆびが挿し入れられて、優しい仕草ですっと撫でる。
 対照的に、スーツの隙間から漂ってくるヨシュアの匂いは、少し汗くさかった。いつも花のようないい匂いがするヨシュアとはまるで別人みたいだ。
「困ったな……止まらないや」
 呟く声に混じって、はー、はー、と少し荒くなったヨシュアの呼吸が間近に聞こえると、慣れない感触に身体が強張る。更にその瞳を見上げて、後悔した。いつもなら澄んだスミレ色を湛えているその瞳が、見たこともない、あえて例えるとするならば獲物を狙う肉食獣のような色で鈍く光っていたからだ。なんだろう、ヨシュア、もしかして興奮しているんだろうか。
 不恰好に倒れこんだまま不自然に立てられた俺の膝に、ヨシュアの腰が押し付けられる。
「……!」
 どうしよう。ヨシュア、勃ってる。
 そのままぐりぐりと股間を押し付けられてますます身体を強張らせると、唾液をまとわせながらゆるゆるとヨシュアの舌が首筋を撫でた。がり、と嫌な音がしたかと思うと反射的に走った強い痛みに、ヨシュアの鋭い歯が首筋に噛みついたのだと気がつく。
「よ、しゅあ……いた、っいたいぃ……!」
「うん……ごめん、ね」
 必死に肩を掴んで押し返そうとしても、いやいやと首を振ってみせても、ヨシュアはぎりぎりと柔らかい皮膚に噛みつくのをやめてくれない。ようやく離れてくれたと思ったら、今度は鎖骨に強く食いつかれた。
「ひ、く……いや、ぁ……あう、ぅ……」
 普段、ヨシュアはこんな風にアトが残るようなことはしない。キスマークのひとつすら、つけられたことがないのだ。
 なのに、今日はそんなのお構いなしだとでも言うようで、ますます別人のように感じられる。それでももしかしてこれは執着されているのではないか、という喜びと恐怖が頭の中でぐちゃぐちゃになって、いつしか痛みは快感に変わっていた。ぴく、ぴく、と痙攣する身体は快感によるものなのだと、ヨシュアにももう悟られてしまっているだろう。
「んくぅ……はぁ、はうぅ……」
 少しずつ場所をずらしながら何度も噛みつかれているうちに、かちゃかちゃと何かの金属音が聞こえる。そのことに気がついたときには、もう既に俺の身に付けていた下衣はヨシュアの手で剥ぎ取られていた。
 半勃ちになって情けなく頭をもたげる俺の性器をヨシュアの手がきゅっと握る。なのに、これから与えられるであろう快感への期待に身体を震わせると、そっけなくその手は離れてしまった。
「う、っ……?」
「ごめん、今日はちょっと……気持ちよくしてあげられる余裕ない、かも」
 れ、と自分の手に唾液を垂らしぬちゃぬちゃと指先に纏わせてから、ヨシュアはそのゆびでつつ、と俺の後孔を撫でた。
 予想もしなかった場所への唐突な感触に、びくん、と大げさに腰が跳ねる。
「え、あ……や、あぁ、あ……!」
 つぷ、と濡れた指先が体内に押し込まれて、衝撃に自分のものではないようなあられもない大きな声を上げてしまった。そのまま無遠慮に粘膜を広げ始めるゆびに、思わずぶるぶると首を振る。
「やあ、やぁぁ……! ま、って……しゅあ、そこ、はぁ……!」
「うん、ごめん……無理、かな」
 いつもなら一度射精したあと、弛緩した身体とぼんやりする意識の中で施される行為に、はっきりと意識を持っている今では体内をうごめくゆびの感触はあまりにも生々しい。ぬめる指先が動き回る音に、快楽と恐怖と違和感がごちゃ混ぜになって、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「ま、て……まっ、れぇ……はふ、うゃ、ぁ……!」
 ぐちゅ、と音を立てて粘膜を擦りながら間髪入れずにゆびを増やされて、もはやなす術もなくヨシュアの首にしがみつくことしかできない。
「はぁ、はふ、ぅ……や、ら……よしゅあぁ……っ」
「ああもう、可愛い声上げて……困るんだよね、そういうの」
「やら……やぁぁ……ひ、く……う、うぅ」
「すっごい、そそる、の……わかってる……?」
 ため息をついてからかすれた声で呟くと、ヨシュアは好き勝手に体内を探り回っていたゆびをずるりと引き抜いた。抵抗感からぎゅうぎゅうと強く締め付けてしまっていたせいで、ゆびが抜けていったあとも後孔がひくついてしまうのを堪えることができない。
「本当は、もう少し慣らしてあげたいんだけど」
「んく、んぅ……はぁ、は、うぅ……」
「ちょっと、僕の方が限界、みたい」
 吐息混じりのいやらしい声で囁きながら、かちゃ、とヨシュアは自分のベルトを外して前を寛げる。ぐっと脚を押し広げられて、既に大きく勃起した性器が後ろに押し当てられたのがわかっても、ただでさえヨシュアに性急に求められてぐずぐずになった身体では、どうすることもできなかった。
「う、あ……あぁぁっ!」
 そのまま躊躇いもなく一息に押し込まれて、満足に慣らされていない身体が悲鳴を上げる。今の姿のヨシュアの性器は普段のものとはもちろん大きさも違うから、慣れない圧迫感にますます息が詰まって、接合部からはぴりぴりとした痛みが走った。
 こんな痛みを感じるのは、まだ行為に身体が慣れていなかった最初のころ以来だろうか。
「い、たい……よしゅ、いたぁい、ぃ……!」
「は、っ……ごめ、ん……ね……?」
「ま……って……まって、ぇ……」
 ぎち、と接合部から嫌な音がして、体内を貫くものに内側から壊されてしまいそうな錯覚を覚える。いつも頭の中までどろどろに溶かされて、散々ねだってからようやく与えられるのが常な身体には、その痛みは恐怖以外の何ものでもなかった。
 なのにヨシュアはそんな俺にはお構いなしで、俺の膝を抱え上げるとそのまま大きく動き始める。
「っ……すごい、ナカ……せ、ま……」
「うあ、あぁ……ふ、ぇ……しゅあ、ぁ……」
「んっ……そんなに、締め付けない、で」
 そんなことを言われても、今の俺に自分の身体を制御することなんてできるわけない。荒い息遣いで耳元に囁かれた声に反応してぎゅ、と強く締め付けてしまって、体内でどくんと脈打ってますます大きくなるものに、ぶるぶると頭を振った。
「はぁ、はく……はう、ぅ……」
 それでも、動くたびに肩口を湿らせるヨシュアの息遣いが激しく乱れるのを聞いて、もしかしてヨシュアも余裕ないのかな、なんて思ったらもう俺にできることなんて、必死で目の前の身体にしがみついて今の行為を受け入れるだけだった。
「あ、も……やば……出ちゃう、かも……っ」
 そう言って、ヨシュアらしくない声音で言葉尻を跳ねさせながら大きく突き上げられた瞬間、びゅく、びゅく、と体内に温い感触が濡れ広がるのがわかった。
 衝撃につられて、俺もワンテンポ遅れて射精してしまったようで、ぬる、と粘ついたものが俺とヨシュアの腹を汚している。
「ん……んく、ぅ……んん」
 ぴく、ぴく、と身体を揺らす俺に覆いかぶさる形で肩口に突っ伏しているヨシュアは、はぁはぁと上がってしまった息を一生懸命整えているみたいだった。ヨシュアの射精のタイミングも、いつもより全然早い。
 部屋の中がお互いの息遣いだけで満たされて、狭いソファが二人分の体重に耐えられないように時折、ぎ、と鳴る。
 普段は余裕な態度を崩さないヨシュアの見慣れないその姿と丸いつむじが愛しくて、首に回していた手をそっとずらしてから、恐る恐る背中を撫でてみた。
 スーツの背広はボタンすら外さないままで、きっちりと締められたネクタイは動いているうちに出てきてしまったのか、今は俺の胸にぺたりと垂れて、くすぐったい。
 どうしてヨシュアがいつもの姿じゃないのかは分からないけれど、上着を脱ぐ余裕もないくらい、ネクタイを緩める間も惜しいくらい、俺を求めてくれたのだとしたら。
 だとしたら?
「っ……ネク君のナカ、すごく熱くて、んん、あったかく、て」
「よ、しゅ……あ」
 ほう、とため息を尽きながら落とされた言葉に恐る恐る顔を上げると、普段なら射抜くような鋭い光を湛えているスミレ色の瞳が、とろんと熱っぽく潤んでいた。
「でもぎゅ、ぎゅ、って一生懸命締めつけてくれて、キツクて……」
「よしゅあ」
「すごい、きもちい、い」
 うわ言のように呟きながらヨシュアはその濡れた舌で、だらしなく口を開いたままの俺の上くちびるの裏をぺろ、と舐める。
「ふっ、あ」
「ん……ごめ、ん、また……おっきくなりそ、う」
 ヨシュアのその言葉を聞いたときには、体内の屹立はもう既に再び硬くなっていた。
「ひ、ん……!」
「ナカ、やわらかくなって、きたね」
 そのままずるりと抜けそうになるくらいまで引いたかと思うと、強く突き上げられて、がくんと腰が跳ねる。
「や、ぁ……っまって、おねが……ねが、あ、あぁ……!」
「だから、無理、だってば」
 達したばかりの敏感な身体にはあまりに無体な仕打ちに、思わずしがみついていた手を離して腰を引こうとした。けれど、頭上のソファの布地を掴んで逃げを打った手首は、あっさりとヨシュアの大きな手に捕まえられてその場に縫いとめられ、逃げられない。
「は、ぅや……あ、あ……い、ったばっか、だから、ぁ……やら、ぁ……っ」
「うん……ナカ、すごいびくびくしてる、よ」
「ひぅ、うー……やらぁ、まっ、れぇ……こわ、こわいん、だってばぁ……! い、やぁ……」
 射精の余韻で未だに痙攣のおさまらない内部を容赦なく擦られて、それでも掴まれた手はぴくりとも動かせず、逃げることもできないままに咽び泣くしか術がなかった。何度も律動を繰り返されているうちに、また先ほどのようにだんだんと頭の中が真っ白になってくる。
「ふぇ、え……やら、こわ、い……っでちゃ、でちゃうよぉ……」
「もう、出すの?」
「う、く……ぅ、でちゃ、あぅ」
 涙声で射精をうったえると、困ったように笑うヨシュアの手でぎゅっと屹立の根元を握られて、無慈悲にも塞き止められた。
「あと少し、だから……我慢、できるかな」
 その途端にがくん、と腰が跳ねて射精したときのようにびく、びく、と全身が痙攣したかと思うと、まるで達し続けているかのような快感と震えが止まらない。
「あー、あぁ……あ、あっ」
「ネク君、身体震えてる」
「ひゅ、ぅ……ふゃ、あうぅ……」
「辛い……?」
 落とされる優しい声へ返事をすることもままならない俺にヨシュアは恍惚とした表情で優しく口づけると、そのままちゅ、ちゅ、とついばむようなキスを繰り返した。
「かわいい、ネク君」
「ん、んん……んー……っ」
「ねくくん……好き」
「ふ、ぅ……よ、しゅあ……よしゅあぁ……!」
「すき」
 そうやって甘えるような、一言一言を噛み締めているような、ともすれば涙声のようにも聞こえる声でヨシュアは泣きじゃくる俺に何度も囁くと、残酷に塞き止めていた手をそっと離す。
「一緒に、ね……?」
 その言葉と同時に強く揺さぶられて、辛うじて捕まえていた頼りない意識は簡単に飛んでしまった。


「ああ、そういえば僕……お風呂入るの忘れてた」
 数十秒間意識を飛ばしていたらしい俺が再び目を開けたときに呟かれた第一声はそれだった。
「……」
 そこは大した問題じゃないだろとか、それ以外に色々と忘れていることがあるだろ、といった感情を込めて恨めしげな視線を送ると、ヨシュアはようやく『いつもの』困ったような表情で苦笑した。
「冗談だよ。だって、ネク君があんまりいい匂いさせてるから」
 そういってこつん、と額を合わせられて身体を密着させられると、やっぱりヨシュアは先ほどと変わらず少し汗くさい。けれど、紛れもなくヨシュアの身体から漂うその匂いに、ドキドキと胸が高鳴るのはどうしてかなんて今更考えるまでもなかった。
「おまえ、なんでそのかっこ……」
 何から尋ねればいいのかわからなかったけれど、とりあえず一番に気になっていた疑問を率直に口にすることにする。
「ああ、そっか。まだRGに戻してなかったっけ。ごめんね」
 そう言って笑いながら、す、とヨシュアの手が俺の視界を覆って、反射的に目を閉じた。
「少し、目つむってて」
 それから何秒も経たないうちにヨシュアの手がどかされると、もう目の前にいるのは見慣れた子ども姿のヨシュアである。ということは、先ほどの俺の部屋はUGで、今はもうRGに戻ったということだろう。まるで手品か何かのようだが、今更こんなことで驚いていてはヨシュアと付き合ってなどいられない。
 これだけじゃ誤魔化されないぞ、と睨むようにそのスミレ色を見上げると、優しい手つきでさらさらと髪の毛を梳かれた。
「うん、んー……説明するとちょっと恥ずかしいんだけど」
 いつでも図々しいというか、無遠慮な態度を崩さないヨシュアにも恥ずかしいと思う気持ちがあっただなんて、初耳だ。
「向こうでね」
「んん」
「早くお仕事終わらせてネク君に会いたいなーとか、この間のネク君可愛かったなーとか考えてたら」
「……」
「なんか、うーん。したくなっちゃったんだよね」
 だんだんと、聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。
 女の子のような白くて細い手に戻ったヨシュアのゆびが、汗で俺の額にくっつく前髪をそっと払う。その優しい仕草に安心して、思わずため息を漏らしてしまった。
「それでタイミング悪く現場のお仕事が入っちゃって」
「現場って……ゲームのか」
「うん。前、人の生死に関わる仕事をしている人は性欲が強いって話、しなかったっけ?」
 言われて、そんなようなことを言われた記憶が薄ぼんやりと蘇った。
「それで、終わった後はなんだかもう、いてもたってもいられなくって」
 そんな風にかわいこぶって首をかしげたって、誤魔化されないぞ。誤魔化されたくない、のに。
「そのまま、ここまで来ちゃった」
 子ども姿の愛らしい表情で笑うヨシュアは、絶対に全部わかっていてやっているに違いないのだ。
 要するに、ヨシュアは低位同調する余裕もないくらい、俺としたかったらしいわけで、その原因は俺のことを考えたり、思い出したりしてたからなわけで……
「扱いかねるくらいの性欲なんて、もう僕には残ってないと思ってたよ」
「……」
「ちょっと若い気持ちを思い出しちゃった」
 要するに、俺に欲情してくれたからなわけで。
 ヨシュアはずるいのだ。俺はヨシュアが好きなのだから、そんな風に言われたらどうしたって嬉しくなってしまうではないか。いつも俺ばっかりがしたいみたいで、寂しく思っていたのだから、尚更。
「今日みたいにがっついてる僕なんて、嫌? キライになる?」
 だから、そんな風に意地悪く尋ねるヨシュアに、俺はその身体にしがみついて首を振る以外の選択肢なんて最初から残されていなかった。
「じゃあ、怖かった……?」
 その言葉も、ふるふると頭を揺らして否定する。最中は確かにわからないことだらけで恐怖も感じたけれど、俺の胸を満たしている感情はそれだけではなかったから。
「……なら」
 最後の質問を落とす前に、その身体にぎゅうぎゅうとしがみついて胸に顔を埋める俺の頭をふんわりとひと撫でしてから、ヨシュアが少しだけ楽しそうに笑ったのがわかる。
「気持ちよかった?」
 全部がヨシュアの思惑通りなことに多少の悔しさは感じたものの、続けられた言葉はまぎれもない事実だったので、ヨシュアに嘘の一つもつけない俺は小さくこくん、とうなずいた。



ピカさんとの会話からネタいただきました。ありがとうございました! 20090716

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