※性描写を含みます。ご注意ください。 背中に回した腕でそっと抱き寄せた身体は、行為の直後だというのにひんやりと冷たい。いや、行為の最中からそうだった。彼の屹立も辛うじて立ち上がってはいるけれど、達した形跡がない。 「ネク君、ずっと無理してたでしょ? えっちしてたのに、身体冷たいよ」 「そんな、こと……ん、く」 「ほら、今日はキスだってしてないし」 薄く開かれたくちびるに触れるだけのキスを一つ落としてから、楽な体勢が取れるように少しだけ横に身体をずらした。壁に凭れるように背中を預けてから、僕と彼の身体の間で頼りなく揺れる屹立に指を絡める。 「ん、んんぅ……や、よしゅ、ぁ……さわっちゃ」 「ここも。今日、まだ一回もいってないでしょ?」 手のひらで柔らかく包み込みながらゆっくりと擦り上げると、どこか心細げだった屹立が手の中で段々と硬さを持ち始めた。 「はぁ……はぁ、あぅ、う……う、ゃ」 「ネク君には、気持ちいいことだけしててあげたいんだよ……?」 「んく……ぅ、はふ……う、あっ」 「ね、もっと口開けて。舌出してごらん」 くちくちと漏れ出る先走りを絡めながら先端をくすぐると、ネク君は従順にその赤い舌を差し出す。ゆるゆると絡め取りながら徐々に口づけを深くしていき、歯列をなぞり、存分に口内をねぶりまわした。 「んぅ、んっ……ん、んー……」 濡れた指先を動かすたびに、くちゅくちゅと舌を擦り合わせるたびに、ぴく、ぴく、とネク君の身体は堪え切れないように小刻みに揺れる。ぬめる舌に歯を立てながら、弱い先端の割れ目をくじるように爪の先を滑らせると、びくん、と一際大きく身体を跳ねさせて、ネク君は僕のくちびるから逃げるように首を振った。 「ぷは、ぁうっ……やら、それぇ……や、いやぁ……」 「嫌? これのこと?」 ぶるぶると子どものように首を振るネク君に笑いかけながら、割れ目へ食い込ませた爪にく、と少しだけ力を入れる。 「やあぁ……! ひは、あうぅ……め、だめぇ……!」 途端にびく、びく、と腰を跳ねさせる彼の顎を反対の手で捕まえながら、震えるくちびるの端をべろりと舐めた。 「ほら、ダメだよ。逃げないで」 「いや、ぁ……も、きす……やめ、ぇ……」 「ふふ……でも気持ちいいでしょ?」 「も、もぉ……め、でちゃ……れちゃうぅ……」 ひゅうひゅうと変な呼吸を漏らしながら泣きじゃくるネク君の口を僕のそれで無理矢理塞いで、絡め取った舌をしつこく擦り付けながら、きつく握った屹立を強く扱き上げる。がく、がく、とネク君が身体を震わせるたびに内部の粘膜がうごめいて、ぬちゅ、と先ほど吐き出した僕の精液が淫猥な音を立てた。 「ッ……!!」 ぎゅち、と音がするくらいに強く先端へ爪をめり込ませると、がくん、と大きく痙攣したネク君の屹立から勢いよく精液が飛び出した。触れ合わせていたくちびるが離れても声を上げることすらできず、びゅく、びゅく、と射精しながら、その度に腰が揺れてしまうのが抑え切れないらしい彼の顔が泣きそうなものになる。 「はふ……っはぁ、はぁ……う、ゃ……お、れ」 「気持ちよかった?」 「んく、んぅ……は、ぁ……なんか、ヘン……っへん、だよ、ぅ」 ぎゅ、と僕の首にしがみついて涙声でうったえながらも、ネク君はくちゅくちゅと音を立てて腰を揺らすのをやめない。 「うん、僕もまた大きくなっちゃった。ネク君のナカがあんまりぎゅうーってするから」 くすくすと笑いながら、肩口に顔を埋めているネク君の耳元で囁くと、いやいやをするように向日葵色の頭が揺れる。 「て、ない……そ、なの……してない、ぃ……」 「ほんとに? でもね、今もぎゅ、ぎゅ、ってしてるよ? わかるでしょ……?」 「ひっ……や、らぁ……はふ、はぁっ、さわ、さわっちゃ、ぁ……!」 前を弄る手を離してするりと後ろに回すと、再び勃起した僕の性器に圧迫されてぎちぎちになった入り口のふちを、めくるように撫でた。ゆびを動かすたびに、うごめく内部からこぼれ出る精液との摩擦でにちゅ、とぬるついた音がする。 「さわ……ゃ……め、だってばぁ……はぁ、はうぅ」 「ほら、そんなに腰揺らして……やらしい子」 「ちが、ちがぁ……ふ、ぇく……えぐ、ぅ……しゅあが、よしゅあが、する、からぁ……!」 ぐすぐすと嗚咽を漏らす子どもに苦笑しながら、宥めるように、ちょんと鼻の頭に優しく口づけた。 「全部僕のせいなの? 我侭なご主人さまだね……」 「んく、んー……ぅ、よしゅ、あ……?」 す、とネク君の額に貼りついた前髪を梳いてやると、何かに気がついたらしい彼は、震える手を持ち上げて僕の手首を弱々しく掴んだ。 「うん? どうかした?」 「て……いた、いたい……か……?」 「手?」 言われて掴まれた自分の手をまじまじと見てみると、手錠をかけられていた部分がうっ血して、皮膚の擦り切れた部分からは血が滲んでいた。ごく少量の出血だったから、もう血は渇きかけていたけれど。 「ああ、こんな風になってたんだ。気がつかなかった」 「ん、く……いたそう、だ……ごめん……」 「ううん、今まで気がつかなかったし、痛くないから。大丈夫だよ?」 心配させたくなくて笑って言ったのに、申し訳なさそうに曇ったネク君の瞳の色は晴れなかった。どうしたものかと頭を撫でていると、ふとネク君は何かを思いついたかのように僕の手首を引き寄せて、くちびるを添わせた。 「んっ……」 ぺろ、と小さな赤い舌が労わるようにそろそろと傷口を撫でる。驚きで目を見開くと、ぺろぺろと傷口を舐めるネク君の動きが徐々に大胆になった。大きく口を開いて舌全体でべろりと舐めたかと思うと、ちゅ、ちゅ、とくちびるで弱く吸い付いてみたりもする。そのうちに、またゆるゆると腰を揺らし始めたのにも、彼はまだ気づいていないのだろうか。 「ふふ……ネク君、今すごくやらしい顔してるの。わかってる?」 「は、ふ……ぅく、ん、ん」 「すごく……嬉しそうだよ」 もう僕の発する言葉の意味が理解できていないのか、存分に手首を舐め回して僕の手を唾液でべたべたにしたあと、ネク君の手は既にもう片方の僕の手にも伸びていた。同じようにうっ血している手首へ舌を這わせる彼の媚態に、思わず緩む頬を許してやりながら、唾液の渇く感触ですーすーと冷える手で細い腰を掴むと、ゆっくり突き上げる。 「ふ、ぁ……! あぅ、ん、んぅ」 「いっぱい、気持ちよくなってね……?」 僕の手を強く掴んだまま、手のひらに頬を擦り付けて手首にちゅうちゅうと吸い付くネク君の姿は、少し目に毒だ。 「ん、ちゅ……んく、んん……! ふ、うゅ……う、よしゅ……あっ」 「ん?」 「なか、で……いっぱい、だして……なか、もっと濡らして、ぇ……っ」 思わぬネク君からのおねだりに少しだけ驚いたものの、これも彼が先ほどまで抱えていた不安の裏返しかと思うと、どうやっても愛しさしか湧き上がってこない。 「ナカで? ふふ、今もこんなにぐちゃぐちゃなのに……?」 「う、うぅー……も、っと……もっと、よしゅあの、飲ませてぇ……!」 たらたらと自身の口からよだれを垂らして僕の傷口に奉仕する彼は、ゆるゆると揺さぶるたびに瞳を蕩けさせて甘い声を上げる。上手に僕を煽ってみせた御褒美に、僕の精液を欲しがる彼をこれからじっくりと時間をかけて、緩慢な快楽でじりじりと追い詰めてあげるのは実に楽しそうだ。そう思うと、思わず声を上げて笑い出してしまいたい衝動を抑え切れなかった。 「僕はどうしたって足がついてれば歩きたくなっちゃうし、ネク君以外のものだって目がついてたら視界に入るのは仕方ないことなんだよ」 「……うん」 「それでも、このままで大丈夫?」 くたりと疲れきったままで僕の身体に凭れるネク君の背中の羽を柔らかく撫でながら、一つ一つの言葉を諭すようにネク君に言い聞かせる。相変わらず羽の出し入れの制御が上手くできない彼は、最中にまたその白い力の証を顕現させてしまった。疲れきって仕舞うのも億劫らしく、結局今もその背中で休めるように畳まれたままだ。 「ああ」 「本当に?」 「大丈夫、だから……あの、さっきの、は……ちょっと、興奮して、つい……言っちゃっただけ、だからさ」 うつむいて表情の見えないネク君の言葉は、それだけでどこか嘘の気配を漂わせているのが僕にはわかった。 「だから?」 「だ、から……忘れてほしい、っていう……か」 その言葉こそは完全に嘘だと、彼はどうして僕がそのことに気づかないと、わからないと思えるのだろう。 「でも、ネク君の本当の気持ちだから、『つい』出ちゃったんでしょ」 「っ……」 「ネク君の気持ちなのに、どうして忘れて欲しいなんて言えるの?」 今の僕の全ては彼によって構成されている、というのは過言でもなんでもなく、まごうことなくただあるがままの事実だというのに。 「だから、聞いたの。僕をこのまま野放しにしておいても、大丈夫?」 野放しというのはすこし語弊があるかもしれないけれど。事実、彼のソウルに依存している僕は彼なしでは自分の存在を保つことすらできない。 それでも、彼の不安を拭うことができないというなら、自分にできることはあと何があると言うのだろう。 「さっき、ヨシュアが言ってくれたこと……」 おずおずと顔を上げてぽつぽつと話し始めたネク君の言葉に、聞き漏らすことがないようにと真摯に耳を傾ける。 「ヨシュアの身体の、どこでもくれるって言ったの……びっくりしたけど、ホントは嬉しかった……から……」 「うん」 「だから、そこまで言ってくれるヨシュアのこと、俺は……信じてるから……」 「そう?」 「ああ……だから、大丈夫」 そう言って弱く笑うネク君がきっと今後も似たようなことを繰り返すだろうことは容易に想像ができた。強引な方法で僕を手に入れた彼の心は、この街全体を管理できるほどの力を手に入れた代わりにとても弱くなってしまったように思う。けれど彼はこれから永遠に僕のパートナーなのだから、今は自分も彼のその言葉を信じるしかないではないか。死すらも、僕らの魂を別つことなどできやしないのだ。 「ふふ、どこでもあげるっていうか、もう全部ネク君のなんだけどね」 「そ、それは、そうなんだけど!」 そういうことじゃなくて、気持ちの問題だし……などとぽつぽつとこぼしながらむくれる彼の細い身体を、改めて回した腕でぎゅっと抱き締めた。 ネク君はたまに、僕とこんな関係になったことをどこか後悔しているようにも見える。僕の望みは別のところにあったのではないかと、この選択は間違っていたのではないかと自分を責めている。そのことがずっと彼の中で不安の種になっていて、いくら芽吹いた芽をつんでも、根づいたそれは消えることなく彼の心にあるのだ。 そんな風に彼が僕のことで思い悩む必要などないと言うのに。今となっては彼の望みこそが、僕の望みなのだから。ただネク君が望むままに、この身体も、ソウルも、心も全部を彼自身のために使ってくれればいい。 そうでなければ、こんなソウルの残りかすに一体何の意味があるだろう。今の僕に意味を持たせてくれるのは、ネク君しかいないのだ。僕の幸せが彼の幸せだというのならば、彼のために尽くすことこそが僕の幸せだ。 彼の望むものならば何でも、快楽でも愛情でも、苦痛以外のものを求められる限りあらゆる手段で与えてあげたい。ぐずぐずに甘やかして、蕩ける青色を見るのが僕は何よりも好きなのだ。 「ネク君、かわいい」 うとうとと僕の膝の上で船を漕ぎ始めた未熟な子どもを、明日はどんな風に可愛がってあげようかと長い休暇に想いを馳せながら、触れるたびにほろほろと小さな羽毛を落とす白い羽を優しく撫でた。 ぶっ壊れかけでもやっぱりラブラブ。 20090630 →もどる |