※性描写を含みます。ご注意ください。 もしかしてサイズが合わなければ、この事態から逃れうるだろうかという最後の希望は無残にも打ち砕かれた。 きつくもなく、緩くもなく、言い換えればぴったり、としか表現しようのないことが恐ろしい。 始めはどう着たものかとしばらくワンピースを上から下から眺めていたのだけれど、どうやらスカート部分に頭を入れて下から被るのが(多少抵抗はあったものの)一番効率が良さそうだ、と分かってからは問題なく袖が通り、ボタンを留め終えたあとはもはや機械的に作業を進めるのみだった。 やたらと装飾的なエプロンも着けたし、同じくふりふりのカチューシャもどきも頭に乗せて、首の後ろでリボンも結んだ。太腿まで丈のあるやたら長い靴下も穿いたし、本当に躊躇したのだけれど下着もちゃんと交換した。 男の俺が女性物の下着を穿くのはさすがに無理があって試行錯誤したものの、なんとか収まった……と思う。 あまりの恐ろしさに、鏡を見ることは本能的に拒んだ。 「よ、ヨシュア……」 そう名前を呼びながら、彼の待つ部屋へと通じるドアを開けるのに俺がどれだけの勇気を必要としたか、果たしてヨシュアは分かってくれるだろうか。彼のことだから、分かっていて楽しんでいるのかもしれない、というのは十分に考えられることだけれど。 それでもあまり待たせては機嫌を損ねてしまうかもしれないと、思い切ってドアを押すとおずおずと歩み出た。 「あ、ちゃんと着られた?」 玉座の肘掛に頬杖をついていたヨシュアの瞳が、まっすぐにこちらへと向けられる。スカートの丈がやけに短くて脚はすーすーするし、穿き慣れない下着はさきほどからずっと変な感じで正直苦しいし、その上ヨシュアの視線に晒されるなどもはやどうしていいのか分からない。 やたらと膨らむスカートは、どうやら別素材の布が下に仕込まれていたらしく、変に太腿に触る。一刻も早く、この場から逃げ出してしまいたかった。 「ふぅん」 値踏みするように、スミレ色の視線が上から下まで俺を舐め回す。そうして、しばらくじっとこちらを見つめながら何も言ってくれないヨシュアに、脚が震え出してしまいそうなのを必死に堪えた。 「ネク君、こっちおいで」 ふ、と微笑んだヨシュアに優しい声音で手招きされて、恐る恐るヨシュアの傍に歩み寄る。 正面に立つと、す、と伸ばされた指先に思わず肩が跳ねてしまった。 「ヘッドドレス、曲がってるよ」 「へ……」 そういって頭の上のフリルを撫でているらしいヨシュアの手に、どうやらあのカチューシャもどきはヘッドドレスというちゃんとした名前があったらしいことを知る。 「襟も」 「あ、ご、ごめ」 「スカート捲れてるし」 「えっ、あっ」 指摘しながら、ヨシュアの手は俺の襟を正したり、脇で捲れたスカートを撫でたり、最後には結び忘れていたらしい胸元のリボンを結んでから満足したように離れた。 「うん、可愛い」 ふわり、と思わずこちらが見惚れてしまうような極上の笑顔で囁かれた言葉に、ぼ、と火がついたように全身が熱くなる。男に対する褒め言葉ではないけれど、ヨシュアにそう言われると俺は物凄くうれしい。 「あの、ヨシュア、これ……」 「うん?」 は、と我に返って、忘れないうちにと手に握り締めていたものをヨシュアに差し出した。 「どこに付けるのか、よく分かんなくて……」 黒いレースのあしらわれた細身のベルトらしきものを、白い指先が摘み上げる。手に取ってから、ああ、と納得したようにヨシュアはうなずいた。 「ガーターベルトか」 「ガーター?」 首をかしげる俺に、ヨシュアはなぜか楽しそうに笑っている。 「そっか。ネク君はまだ分からないよね」 「……?」 「女の子が、下着の下に着けるものだから」 言われた言葉と、意味深な微笑みに、隠された意図をようやく理解した。絶対に、今の俺は耳まで真っ赤になっている。 「え、あ、う」 「ふふ、じゃあ着けてあげるから。スカート持ち上げてくれる?」 続けられた言葉はもっと理解不能だった。 「なっ、なん、で」 「だって、腰回りに着けるものだから。言ったじゃない、下着の下にって」 下着って、下着って。 俺が今穿いているのは、女の子用の下着で、かなり無理に穿いたから見せられるような状態じゃなくて。 しかも、自分でスカートを持ち上げるなどと、あまりに酷い仕打ちにぐるぐると目が回ってしまいそうだ。 「ネク君?」 それでも、有無を言わせぬ笑みで命じられては、おずおずとスカートの裾に手を伸ばすしかなかった。 そろりと気持ち程度に、自分ではめいっぱいのつもりで裾を持ち上げる。 「もっと。それじゃ見えないよ」 けれどヨシュアの言葉に容赦などなくて、泣きそうになりながらも思い切ってスカートの膨らみを助ける布地ごと抱え込むように捲り上げた。 「あ、ちゃんと穿けたんだね」 言葉と共に注がれる視線から逃げ出してしまいたくて、どうしようもなくて、ぎゅうと手にした布地を抱き締める。なのに、悪戯をするようにヨシュアのゆびが下着のウエストのラインをなぞって、大げさなほどに腰が跳ねてしまった。 「やっ……!」 びく、と引きかけた腰を、ヨシュアの手が逃がさないように掴む。 「ほら、動いたらダメだってば」 「ふ、ぅ……うー……」 「うん、そのままね」 そう言って、ガーターベルトを持つヨシュアの手が俺の腰を抱くように後ろに回る。回したベルトの金具を背中の方で留めているらしい。こんな格好でヨシュアと密着する形になって、うるさいくらいに心臓が飛び跳ねた。 腰回りにベルトが巻かれると、今度はそこから下に伸びた細いベルトをヨシュアのゆびがつまむ。 太腿に向かってベルトを下着の下に通してから、先端の金具で靴下の端を挟んでぱちん、と留めた。仕上げに金具の上のリボンを被せて前面のベルトを両方留め終わると、後ろ、というより脇寄りに伸びたベルトも同じようにされる。 「んっ……んぅ……」 作業が終わるまで、下着の下から太腿の微妙なところをヨシュアのゆびが行ったり来たりして、そのたびにぴく、ぴく、と脚が震えるのが止まらなかった。 ヨシュアは前にもこんな風に女の子の下着を着けてあげたり、脱がせたりしたことがあるのだろうかと考えたけれど、女の子にもてるヨシュアのことだからないはずがない。実際、着け方を知っているのが何よりの証拠だ。それだけなのに、想像しただけで胸が苦しくてたまらなくなった。 「はい、おしまい」 そう言ってぽん、と太腿を撫でる手と、ヨシュアの声にはっと我に帰る。怖いもの見たさで視線をやった先は、なんとも奇妙な光景だった。なるほど、こうやって着用した形で見ると、映画などで女性が身に着けているのを自分も目にしたことがあるものだと分かる。それを自分が身に着けている光景というのは、なんというか……言葉にするのは困難だった。 おしまい、とは言われたけれどスカートを下ろしていいとは言われなくて、どうしていいのか分からずにヨシュアを見つめる。するとベルトをなぞっていた指先がするりと滑って、下着の中のふくらみを布の上からそっと撫でた。 「や、ぁっ」 「窮屈そうだね。ここ」 「あ、やだっ、よしゅ」 くり、くり、と形をなぞるように弄くられて、震える膝から崩れてしまいそうなのを何とか堪える。 じわり、と下着を濡らすものが漏れ出す感触に泣きそうになった。 「はぁ、あぅ……や、ら……やぁ」 「嫌?」 ぐぐ、と下着を押し上げる先端に、容赦なくヨシュアの親指の爪が食い込む。 「ひゃ、あ……!」 「嫌ならこんな風にならないでしょ?」 「あ、うぅ……う、ごかさ、な……で」 「ほら、どうなの?」 ぐりぐりと抉るように爪をねじ込まれて、がく、がく、と腰が跳ねるたびに内腿が痙攣した。 「ふあぁ……! ぅ、く……きもち、ぃ……きもちいですっ……!」 「そう、じゃあもっとしてあげるね」 ぎゅう、とそのまま押し上げられて、堪えきれずにあっけなく達してしまう。 「や、あぁっ……! はぁ、はふ……うぅ」 震える膝はとっくに限界で、かくん、と崩れると、その場にへたりこんだ。ふわりと膝にかかるスカートがくすぐったい。はぁはぁと息を荒げながら、下着に圧迫されて満足に射精できなかったせいで体中をじわじわと苛む疼きに耐える。 「誰が座っていいって言ったの?」 「ぁ……ご、ごめ、なさ……」 頭上から冷たく落とされる声に、力の入らない脚に鞭打って必死で立ち上がった。 「んっ……んっ……」 それでも、がくがくと笑ってしまう膝はもう役に立たなくて、何度立ち上がろうとしてもへたりこんでしまう。 泣きそうになりながらヨシュアを見上げると、ふー、と呆れたように吐き出される溜め息に身が竦んだ。 「ご……ごめん、なさい……」 「まあいいけど。ならそのままでいいから、舐めて」 強く咎められるかもしれない、と怯えていたから、やんわりとかけられた言葉にほっとした。組んでいた脚を解くヨシュアの膝に手を乗せて、おずおずと顔を近づける。 ベルトを外すのも、ファスナーを下ろすのも、もう何度もしているから慣れてしまった。けれど、こんな格好でするのはもちろん初めてで、冷たい床にスカートの短さが心許ない。 「ん、んぅ」 取り出したものを咥えて少しずつ舐め始めると、ヨシュアの手が優しくヘッドドレスのフリルを撫でてくれる。けれど、そっちじゃなくて本当は頭を撫でて欲しいのに、と思っても口には出せなかった。不満は押し隠して、ヨシュアの気持ちいいところを探すようにくちびると舌で必死に愛撫する。 「は、ふ……んく、んんぅ」 徐々に大きくなって咥えきれなくなるものを、じくじくと焦燥感の募る身体に早く打ち込んで欲しくて、無意識に腰が揺れてしまった。止めようとしてもゆるゆると勝手に動いてしまう腰を見て、ヨシュアが楽しそうに笑いを漏らす。 「欲しいの?」 「ん、ん……ほし、い、です」 ヨシュア相手に嘘なんてつけないのは分かっているから、正直に答えた。 「そう。じゃあ、自分で慣らしてもいいよ」 自分で触ってしまわないように、ヨシュアの屹立にくちびるとゆびで愛撫することでなんとか我慢していたから、許しを得られたのが嬉しくてするするとスカートの中に手を滑り込ませる。 脱いでいいとは言われなかったから、下着を横にずらすようにして後孔にゆびを押し込んだ。そうすると引っ張られる布地で前が少しきつくなって苦しかったけれど、すぐに内部を探るのに夢中になる。 「ふ、ぅ……よしゅ、よしゅあっ」 くちゅくちゅとヨシュアが入りやすいように後ろを慣らしながら、熱くなった屹立に舌を這わせていると、目の前のものが体内に押し込まれたときの快感を思い出してどうしようもなく身体が疼く。 早くヨシュアが欲しくて、咥えるのを止めると思わず頬を擦り付けた。 「ふふ、それじゃくすぐったいってば」 本当にくすぐったそうにするヨシュアの声はなんとも言えずいやらしくて、耳の近くで先走りの粘つく、くちゅ、と直接響く音と共に鼓膜を犯す。 「よしゅ……も、おねがぃ……」 「なあに」 「うー……これ、ちょうらいっ……」 「うん、いいよ」 優しい言葉と共に、先走りで濡れた頬を指先で拭ってくれるのが嬉しい。ぬちぬちと自分で後孔を弄っていたゆびを引き抜いて、甘えるようにヨシュアの膝に凭れる。 何とか脚に力を入れて膝の上によじ登ろうとすると、ヨシュアの腕に押し留められた。 「ヨシュア……?」 「んー、いつもの体勢だとよく見えないんだよね」 「?」 「せっかく可愛い格好してるんだから」 膝に手を乗せたまま首をかしげると、天使のような無垢な表情でヨシュアは言う。 「そこに四つん這いになって」 告げられた言葉に、え、と引き攣れた声が漏れた。 「どうしたの?」 命令に従わず、動けずにいる俺を見てヨシュアの美しい曲線を描く眉が顰められる。 「う、後ろから、する、のか?」 「僕、今そう言ったと思うけど。するの? しないの?」 ヨシュアがそう言うからには俺に拒否権などない。今にも機嫌を損ねてしまいそうなヨシュアに、慌てて背を向けて犬のように床に手をついた。 本当は正面からヨシュアの顔が見えて、思い切りしがみつける体勢が好きだ。後ろからされるのは、恐怖心の方が勝ってしまってあまり好きじゃない。けれど、俺の不満などヨシュアにはどうでもいいことだからと、高く腰を上げさせるように掴むヨシュアの手にされるがままになる。 後ろからされるのは慣れないし怖かったけれど、このまま最後までせずに放って置かれてしまうのはもっと嫌だった。 「あは、いい眺めだね」 ひやりと下肢を撫でる空気に、ひら、とヨシュアの手でスカートを捲られたのが分かって、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。 「や、ぅ……ん、んぅっ」 結局最後まで下着は脱がせてもらえなくて、ずらした下着の隙間からヨシュアのゆびがくちゅくちゅと後孔のふちを弄る。 そのまま俺に覆いかぶさるようにくっつけられる体温を背中に感じながら、ぐりゅ、とヨシュアの屹立が後孔に押し付けられた。 「は、ぁう……しゅあ、よしゅあっ……」 先端で入り口をくすぐられるだけで、物欲しさに粘膜が収縮する。 「ぁ、は、はやく……うぅ……!」 「お願い、は?」 「や、ぁ……ぉ、おねがい……しま、すっ」 浅く押し込まれる感触に期待で身体が震えると、そっけなくまた抜けそうなところまで引いて、というのを繰り返されて、もどかしさに何度も腰が跳ねた。 「いや……いやぁ、ぁっ……」 「ほら、お願い。それだけじゃダメでしょ?」 「ふ、ぇ……よしゅ、ヨシュアの、ぉ……」 「うん」 「おっきいの、な、ナカに……」 「ナカに?」 涙声で消えてしまいそうになるのを、ヨシュアの吐息が優しく慰めてくれる。 「いれて、くださ……はぁ、あぅ……ください、ぃ……!」 何度も引き攣れる喉で必死に懇願すると、ようやくヨシュアの熱が体内に入り込んだ。 ずぷぷ、と一気に奥まで貫かれて、満たされる内部に声も出ない。 「入れたよ?」 「は、ぅや……やぁ、う……」 ヨシュアのものでずらされた下着に引っ張られて、もはや小さな布の中にはおさまりきらない自身の屹立がきゅう、と圧迫される感触が切ない。 びくん、びくん、と痙攣する粘膜に、突き入れられたもので体内を擦られる快感を期待して身体が震える。 けれど、内部の痙攣がおさまってもヨシュアは一向に動いてくれようとはしなくて、ただその存在を何よりも主張しながら内に留まっているだけだ。 「ぅ……よ、しゅ……?」 「うん?」 様子を伺おうと首を捻ってみても、ヨシュアの顔を見ることはできない。もどかしく腰を揺らそうとすると、強く腰を掴む手に阻まれた。 もしかして、お願いはまだ続いているのだろうか。じわじわと込み上げる焦燥感に、濡れた視界が不明瞭になる。 「……ら、や、ぁ……しゅ……おね、が」 僅かな身じろぎで擦れる粘膜だけではもう満足できなくて、まともに声も出せない。 「うん。だから?」 それでもガーターベルトのふちを撫でて太腿を震えさせるゆびと、淡々と落とされる意地悪な声に、何度も咳き込みながら泣いて懇願した。 「ゅ、あの、で……ナカ、かきまわし、て」 「誰ので?」 「ふ……よ、しゅあの……で……!」 「うん、僕ので?」 「ぉ、奥……いっぱい、ついて、ぇ」 「それから?」 「は……ぁふ……はぁ、はぁぅ……」 言葉を途切れさせると、その度に緩く振動を与えられて呼吸もままならない。 「ナカ、ぁ……ぐちゃぐちゃにしてぇ……!」 もはやわけの分からなくなってしまった頭でようやくそれだけを口にすると、内部に留まっていたヨシュアが大きく動いた。 「ふゃ、あ、あぁ……!」 「よくできました。いい子だったから、ご褒美あげるね」 そう言って頬にキスを落とすと、言葉通りに強く突き上げられる。何度も何度も繰り返される律動に、散々焦らされた身体が逆らう術はなかった。 「ふ……えぁ、あぁ……」 内部を強く擦られるたびに、ふわ、ふわ、と意識が浮くようで、どこかに落ちてしまいそうな快楽が怖くてたまらない。 ヨシュア。ヨシュアはちゃんと俺の中にいるだろうか。 「……よしゅ、ねが……」 「ん?」 「て、にぎって……ぇ」 かり、と力なく投げ出された手が冷たい床を引っ掻く。ヨシュアにしがみつけない両手はどうしていいのか分からなくて、顔を見ることも叶わないのが寂しかった。 「こ、こわいっ……こわぃ、から……」 これで何度目のお願いだろう。あまりにわがままの過ぎる俺の願いなど、ヨシュアはもう聞いてくれないんじゃないだろうかと、それが何よりも怖い。 「こう?」 だから、手の甲に手のひらを重ねて、ゆびを絡めるようにヨシュアが俺の手を強く握ってくれたときは、安堵のあまり子どもみたいに泣きじゃくってしまった。 「よしゅあ、よしゅ」 「うん」 「よしゅあぁ……」 しつこく名前を呼ぶ俺を慰めるように、ヨシュアは何度もうなじに口づけてくれる。 「ネク君、可愛い」 そう言ってくすくすと笑うヨシュアの声に、わずかに残っていた意識のひと欠片までさらわれてしまった。 徐々に浮上する意識の中で、身体を包む心地良い温度に安心する。 薄らぼやける視界に何度か瞬きすると、すぐ近くにヨシュアのキレイな顔が見えた。 「あ、起きた」 「ぅ……ヨシュ、ア」 段々と頭がはっきりしてきて、ここはまだ審判の部屋の玉座で、自分は今ヨシュアの膝の上に乗せられているらしいことに気がつく。 もうあの短いスカートのメイド服は着ていなくて、身に着けているのはいつものヨシュアのシャツだった。 どこもべたべたしていないし、何となくすっきりした気分だからヨシュアがおフロに入れてくれたんだろうか。全然覚えていないけれど。 「ベッドに寝かせてあげようかなって思ったんだけど、ネク君あったかくていい匂いがするんだもの」 なんか勿体無くて、と言いながらヨシュアは読んでいたらしい文庫本をポケットにしまった。それで、湯たんぽ代わりに抱いていてくれたんだろうか。そうなら、すごく嬉しい。 ヨシュアは街中を出歩くのも好きだけれど、同じくらい読書をするのも好きらしく、空いた時間はこの椅子に座って本を手にしていることが多い。寝室の大きな本棚にも、本がたくさん入っている。 寝ている間もずっと一緒にいてくれたヨシュアが愛しくて、衝動に任せてぎゅっと抱きついた。 「どうしたの?」 優しい声と共に、そっと背中を撫でてくれる大きな手のひらの感触でぎゅっと胸がいっぱいになる。 「だって……さっき、出来なかった、から」 「そっか」 柔らかく笑う吐息が耳元を掠めて、ヨシュアの手がぽんぽん、と頭を撫でる。さっきまで邪魔をしていたヘッドドレスはもう乗っていない。 「も、っと」 「うん?」 「もっと、頭……撫でて欲しい」 ヨシュアが優しくしてくれるときは素直に甘えた方が喜んでもらえるから、衝動的に湧いてきた欲求を率直に口にした。言ってから、少し恥ずかしくなったけど。 「ふふ、甘えたさんだね」 でも、長い指先で丁寧に髪を梳いてくれる感触はため息が出そうなほどで、そんなちっぽけな羞恥心なんてどうでもよくなる。 満たされた気持ちでいっぱいになったのに、ふと目をやった先の、玉座の脇にキレイに畳まれたメイド服が置かれているのを見つけてしまった。 忘れていたのに、最中にもやもやと胸を覆っていた気持ちがまた頭をもたげてくる。 「ヨシュア、は」 しがみついていた腕を緩めて、少しだけ身を離す俺にヨシュアが首をかしげた。 「俺、女の子の方がいいのか?」 ますます不思議そうにするヨシュアに、不安で思わず視線が泳ぐ。 「意味がよく分からないんだけど」 「だ、だって、あれ、女の子の服だろ」 どう伝えていいのかわからない。ただ、なんでヨシュアは俺にあんな服を着せたのか分からなくて、生まれ持ったものはどうしようもないから、もしそのどうしようもない部分をヨシュアが不満に思っていたらと思うと怖かった。 んー、とどこかのんびりした声でヨシュアが口を開く。 「男の子とか、女の子とかじゃなくて」 ヨシュアの手は相変わらず俺の頭を優しく撫でていた。 「ただ、ネク君が着たらきっと可愛いだろうな、って思っただけだよ」 「……」 「それじゃダメ?」 ヨシュアはずるいのだ。いつも俺を不安にさせるくせに、大事なところではちゃんと俺をぎゅっと捕まえて離してなどくれないのだから。 「だ、め……じゃない……」 嬉しさと照れが入り混じって熱くなる頬を、ヨシュアの胸に無理矢理押し付けた。 「今度は僕が着せてあげるからね」 次に囁かれた言葉への返答には、さすがに困ってしまったけれど。 次回、メイドネクお給仕をするの巻。たぶん。 20090202 →もどる |