※性描写を含みます。ご注意ください。




 きっちりと彼の首元に巻きつく青いネクタイをほどくと、しゅる、と聞き慣れない音がする。
 以前は僕が部屋に訪れる時間にはちゃんと寝巻きを身に付けていたし、最近でさえ彼が制服を身につけている平日に行為に及ぶことはあまりない。
 だから、僕からすると少し息苦しそうに感じるくらい几帳面に締められたネクタイを目にするのも、ほどくのも、なんとなく新鮮だ。
 細い首筋に口づけながら上から順にシャツのボタンを外していると、そういえば脱ぎ捨てられたブレザーがソファの上に置き去りにされていたのを思い出す。あとでちゃんとハンガーにかけておかなくては。
「ん、っ」
 合わせから滑り込ませた手で胸を撫で上げると、ネク君の身体がひく、と震えた。ぎゅ、と僕の服を引っ張る仕草に気をよくして、指先に触れた突起を緩くつまむ。
「う、ゃ……!」
 そのまま逃げようとする身体を押さえながら、強くつまんでみたり、押し潰すように撫でてみたりを繰り返した。身を捩じらせて声を上げる彼の反応はとても素直だ。
 反対側の乳首にもくちびるを寄せて、べろりと舐めてみる。
「やぁ、やだっ」
「やなの? どうして?」
「ふぅ……それ、ぁ、やだっ……」
 ぴちゃ、と音を立てて舐めるたびにひくひくと痙攣する身体は正直なのに、抵抗する彼の言葉は素直じゃない。
 硬くなって健気につんと立ち上がるそこに歯を立て、きゅ、きゅ、と指先でもつまみながらたまに引っ掻くようにすると、震える喉から泣きそうな声が上がった。
「も、やだ、ってばぁ……!」
 それだけではぁはぁと息を荒げる彼が可愛くて、なおもこり、と歯と爪で赤くなった乳首をこねくり回す。
「よしゅ、おねが……」
 引き攣れた声で懇願する彼に、顔を上げて首をかしげた。
「なあに?」
「あっ、ぅ……はぁ……は、ぅ……」
 促すようにぐりぐりと指先を遊ばせると、ふるふると物言いたげにくちびるが震える。我慢できないように、揺れる腰を僕の脚に擦り付けた。
「そ、こじゃ……なくて」
「じゃなくて?」
「ちゃん、と、さわって……!」
 ん、ん、といやらしく吐息を漏らしながら、必死に押し付けられるそこはもうすでに硬くなっている。
 胸を弄るのをやめてするすると脇腹をくすぐりながら下肢に手を伸ばすと、彼のものを確かめるように服の上からゆっくりと撫でた。
 ぴく、と反応する彼の窮屈そうなそこを、指先で制服越しに押し上げる。
「あっ、やぁっ」
「嫌なら、こんな風にならないよね」
 そのままくに、くに、と弄くる度に、かすかに漏れる粘液の音がした。はしたなく聞こえる音で泣きそうな顔をする彼に、くすくすと笑いを漏らしながらベルトを外して下着ごとずり下げる。
「ん、んん……!」
 漏れ出した先走りで下着との間に糸を引くそこを柔らかく握ると、ゆっくり擦り上げた。くるくるとまるく先端を撫でるたびに大きく腰が跳ねて、とろ、と後から後から透明な粘液が零れる。くちゅ、くちゅ、と部屋に音が響くのが嫌なのかネク君が緩く首を振るけれど、彼の手は抵抗する様子もなく僕にしがみついたままだ。
「ふ、うぁ……っは、あぅ……よしゅ、ヨシュアっ」
 先ほどから達しそうなのか、何度も身体を震わせる彼が急に探るように僕の下肢に触れてきた。かちゃかちゃとベルトを外す手を不思議に思って首をかしげる。
「ネク君?」
「う……も、欲しいっ……」
 そのまま僕のものを取り出すと、ネク君の手は拙い動きで愛撫し始めた。どこか焦っているような彼の様子に、ますます不思議に思う。
「よ、しゅあ……!」
 手を止めた僕を咎めるように名前を呼ばれて、戸惑いながらもそうっと後ろにゆびを滑らせた。
「いいの?」
「ん、く……は、はやく……」
 ねだるように腰を浮かせる彼の後孔をやんわり撫でただけで、そこがもどかしそうにひくつく。促されるままに押し込むと、わずかばかりの抵抗であっさりとゆびを咥え込む内部はもう熱くなっていた。
「ネク君、もしかして」
「ぅ……?」
「僕が寝てる間、一人でした?」
 半信半疑で聞いたのだけれど、それ以外に思い当たることがない。何度も行為を繰り返しているせいか、普段とは明らかに違う彼の身体の変化はすぐに分かってしまった。
 ぴた、と愛撫を止めた彼の手を見て、当てずっぽうで言ったことが的を射ていたらしいことに自分でも驚く。
「っ……」
 それでもまだ赤くなった顔をうつむけて、黙り込もうとする彼はなかなか往生際が悪い。思わず苦笑を漏らしながら、埋めたゆびを浅いところまで抜いて入り口付近を撫でる。
「ぁ、や、だ……っ」
「ね」
「やぁ、ぅ」
「した?」
 もどかしく揺れる腰を押さえつけて、尚もくちゅくちゅと浅いところを弄るとネク君の声に嗚咽が混ざった。
「ふ……し、した……っ」
「へぇ。どこで?」
「ぅー……うぅ……」
「どこ?」
 少しでもゆびが抜けそうになると、内部がぎゅうっと収縮する。
「と、トイ……レ……」
「ふふ、ここも弄ったんだ。自分で」
 こくこくと従順にうなずく動きに、ずぷ、と奥までゆびを突き入れた。
「ひ……! う、ぁ」
「自分だと、ここ届かなかったんじゃない?」
「や、ぁ……だめっ……だ、めぇ」
 僕の性器を愛撫していた手はとっくに床に落ちて、ぎゅ、と頼りなく毛布を握り締めている。
 く、く、と内部のゆびを押し上げるとネク君の身体は面白いように跳ねた。
「ゃ、ら、ぁ……あっ……おしちゃ、ぁっ」
「ここ、一番好きなのにね」
「だめ、ぁ、でちゃ……でちゃうぅ……!」
 射精の波を堪えるように、何度もナカの粘膜が強くゆびを締め付ける。ぴく、ぴく、と痙攣する脚が弱々しく毛布を蹴った。
「やめ……ぁっ……ふあぁ……!」
 ぐぐ、と強く押した途端、腹の上で揺れる彼の屹立がびゅく、と白濁を吐き出した。
 はぁ、はぁ、と荒く息を吐く彼に構わずまたゆびを動かすと、震える腕が伸びて僕の首にしがみつく。
「よしゅ、も……ゆび、やだ……」
「やなの?」
「ぉ、ねが……あっ、ぁ……ヨシュア、の」
 いれて、と消え入りそうな声で囁かれて、泣きそうな顔をする彼の頬に笑いながら口づけた。ずるりとゆびを抜いてから、ネク君の愛撫で勃起したものを押し付ける。
「欲しかったんだ?」
「ぅ、うん……うん……!」
 くちゅ、と押し当てただけで誘うように開閉するそこに、一気に奥まで突き入れた。
 声も上げられなかったらしいネク君の身体が、びくん、と強く跳ねる。
 ぎゅ、としがみついてくる彼の背中が痛そうで、回した腕で宥めるようにぽんぽんと撫でる。もどかしそうに頭を揺らす彼の呼吸に合わせて動き出そうとすると、かつ、と玄関の外から誰かの靴音が聞こえた。
 アパートのこの階の住人が帰ってきたのかもしれない。奥の部屋ならまだしも、遮るものが扉一枚しかない玄関先はまずい。
「ごめんネク君、少しだけ我慢して」
 小声でそう囁いてから、声が漏れないようにネク君の口に手を当てて塞いだ。
 階段を上り終えたらしい靴音がこつこつと近づいて、扉の前を通り過ぎる。息を潜めている間、ぎゅう、とネク君が強く締め付けてきて、危うく僕の方が声を漏らしそうになった。
 かすかに扉の開閉音がして、遠くなった靴音もそのまま消える。ほっと息を吐いてネク君の口を解放すると、ひく、と小刻みに身体が痙攣していた。彼のお腹を汚す精液が、先ほどよりも多く飛び散っている。
「あれ、今のでいっちゃったの?」
 純粋に疑問に思って聞いただけなのだけれど、あまりに簡単に達してしまったことへの羞恥にか、ネク君は泣きだしてしまった。
「ふ……う、ゃ……」
「ああ、泣かないで。次は一緒に、ね」
 ほろほろと涙のこぼれるまぶたにキスを落としながら、震える背中を撫でて慰める。子どものようにすがりついてくる彼を、今度はゆっくりと突き上げた。


「ごめ……ん」
「……」
「ごめんなさい」
 行為のあと少しの間意識を飛ばしていた彼は、目を覚ました途端泣きそうに顔を歪めてそう言った。一瞬、自分がベッドに寝ていることと、枕元に腰掛けている僕に驚いたようだけれど、すぐに枕に顔を埋めて表情を隠してしまう。
「俺、平気だから」
 何を根拠に言っているのか分からない。意地の悪い僕は、鏡でも持ってきて彼に自分の顔を見せてあげようかと思ったけれど、やめた。
「ヨシュア、もう行かないと」
 だから、僕はそこまで冷血でいられるつもりはないというのに。
「ネク君がそんな顔してるのに、置いて行けないよ」
「……」
「また一人で考えてたの?」
 黙り込む彼の頭を、驚かせないように優しく撫でる。先ほどの彼は明らかに冷静ではなかったから、あえてワンクッション置いたつもりだったのだけれど、逆効果だっただろうか。いつも、僕の仕事の邪魔をしてしまうことを心配していた彼が初めて引き止めるようなことを言ったものだから、ただ事ではないと思った。
 僕を引き止めてしまっているという罪悪感に悩んでいるらしい彼が、早く口を開いてくれるのを祈るのみだ。もう今日の予定は組み直してしまったから、僕の時間は特に問題にならないけど。
 根気強く、急かさないようにただ優しく髪を撫でて待っていると、そろそろとネク君が顔を上げた。
「おまえ、が」
 しばらく沈黙を守っていた彼が口火を切るのに、思っていたよりも時間を要さなかった。
「人手が増えたって、言ってから」
「うん」
「ずっと嬉しそうだったから」
 ああ、やっぱりそのことか、と思う。多分ネク君も気づいてはいるだろうと思っていたけれど、彼のことはネク君の中でそんなに深く根差していたのだろうか。自分の失態がいつまでも足を引っ張っていることに、申し訳なく思う。
「ヤキモチ妬いたんだ?」
「……」
 僕の言葉に顔を赤くするネク君の顔は、なんとも複雑そうだ。
「メグミ君は大事な部下だけど、それ以上でもそれ以下でもないよ」
 今まではわざわざ言うことでもないだろうと思って具体的には口にしていなかったけれど、僕が隠していることでネク君が不安になると言うなら、もう誤魔化す必要なんてなかった。
「知ってる、けど。でも、それも不安だったから、嬉しい、けど」
「けど?」
 彼も自分の感情が把握しきれていないのかもしれない。一生懸命考えをまとめているのか、枕の上に散らばる前髪を弄りながら口を開いた。
「ヨシュアは、いつも俺のとこに来てくれるけど」
「うん」
「低位同調すると疲れるって言ってたし」
 ああ、それを零してしまったのも自分の失態だった。僕は、伝えるべきことと伝えずにいるべきこととの取捨選択が、こんなにも下手だっただろうか。
「言われてみると、いつも疲れてたし」
「うん……」
「俺は、おまえの仕事のこととか、UGのことには何も出来なくて」
 それは当然だ。RGに存在する彼は、本来僕やUGと関わるべきではないのだから。
「けど、最近になって、おまえが楽になったみたいだから」
 まあ、確かに仕事としては単純に楽になったけれど。
「なのに、今日みたいにわけ分かんなくなって、おまえのこと引き止めたりして」
 ああ、これは。
「俺、何もできないのに、何なんだろって」
「……」
「思うだろ……」
 僕の手から逃げるように、ネク君の頭が離れる。ネク君は、そうやってすぐに自分が悪いと思うけど。
「違うよ」
 これは、完全に僕が悪い。
 僕が、これまでにちゃんとネク君に伝えておかなくてはいけないことだったのだから。
「ごめんね、ネク君」
「……なんでおまえが謝るんだよ……」
 ますます顔を伏せるネク君の服をそっと引っ張る。
「ネク君」
「なんだよ」
「こっち、来て」
「はぁ?」
 僕の言葉の意図を量りかねたらしい。ふてくされたような声を出す彼を尚もくいくい、と引っ張ると、渋々という体でネク君が身を起こした。
 そのまま、いつまでたっても痩せっぽちなその身体を抱き締める。
「よ、しゅ」
 彼は少しだけ慌てたようだけれど、ぎゅう、と腕の力を強めると何かを感じ取ったのか、それきり大人しくなった。
「ネク君は自分のこと、何も出来ないって言うけどさ。そんなことないよ」
 何も出来ないどころの話ではないのだ。だって。
「僕が今、こうしてちゃんとコンポーザーでいられるのも、ネク君がいるからなんだよ」
 あまりに予想外な言葉だったのか、腕の中のネク君が情けない顔で僕を見た。
「ウソだ」
「ウソじゃないってば」
 またそんな、身も蓋もないことを。
「UGの秩序を保つっていうことは、RGを守るっていうことなんだ。大変なことだから、UGもRGも守りたいって思えなきゃいけないし、UGにいる僕は特にちゃんとRGのことが見えてなくちゃいけない」
 コンポーザーになる前の僕は、RGになかった居場所をUGに求めた。けれど、そのことで僕がRGを守ることになるなんて、何とも皮肉なものだと笑ってしまったこともある。それももう、彼に話す必要のないただの昔話だけど。
 あれ、ネク君がヘンな顔してる。ちょっと難しいかな?
「少し前の僕は、ずっとUGにいてね、RGのことがよく見えてなかったんだよ」
「……」
「見えてなかったから、色々間違えたりもしたし、でもそのお陰でネク君に会えたんだけど」
 そういえば、日課だった渋谷の散策もあのころはほとんどしていなかった。
「今こうして、RGと僕を繋いでいてくれるのがネク君なんだよ」
 出てきた自分の名前に、ますますぽかんとするネク君に苦笑する。
「人間を忘れそうになる僕に、思い出させてくれるのもネク君だし」
「お、れ?」
「うん。コンポーザーなんてやってると、人間の嫌なところもたくさん見るけど」
 困惑する彼の背中をそっと撫でる。柔らかくて、温かくて、自分から見るとやっぱり彼はまだまだ子どもだ。
「ネク君がいるから、せかいを愛しいなって思えるんだよ」
 自分をこんな気持ちにさせてくれるのなんて、どの並行世界を探したって彼だけだろう。
 いつだったか、ネク君が望むならこの手を離しても構わないと思っていた自分を殴ってやりたい。彼がいなければダメなのは自分の方ではないか。今はきっと、泣いて頼まれたとしても離してなどやれないと思う。
 それは、この部屋の鍵を受け取った時点で分かっていたことだけれど。
「ネク君に会えるから、今日もお仕事がんばらないとって思えるわけ」
 ほら、これは彼にしかできないことではないか。
 今、彼に伝えたいことは全部言ったつもりだけれど、ちゃんと伝わっただろうか。
「ヨシュ、アが」
 ぽつりと呟かれた言葉をこぼしてしまわないように、おずおずと視線をくれる瞳の夜色を見つめる。
「うん」
「ヨシュアが好きなのは、俺だけってことか?」
 そう、その方が分かりやすいかもしれない。
「うん。だから、ネク君がいてくれないとだめなんだよ」
 簡潔だけれど、たぶん一番大事なことなのだ。ネク君は頭がいいから、ちゃんと噛み砕いて飲み込んでくれただろう。
「俺は、ちゃんとここにいればいいのか」
「うん」
「そ、っか」
 遠慮がちに、ネク君の腕が僕の背中に回る。そんな彼が愛しくて、そっと前髪にキスを落とした。
「ヨシュア」
 そうやって僕の名前を呼んでくれるのは、彼だけなのだ。

 そのまま眠ってしまっても構わないと言ったのだけれど、彼は律儀に玄関までついてきた。
 玄関の扉を閉ざしていたガムテープを自分の手で剥がす姿はどことなく面映そうだ。彼らしからぬ行動をさせるくらい、僕はネク君に思われているのだと、ちゃんと覚えておこうと思う。
「いってらっしゃい」
 舌足らずで、どこか僕を安心させるその声を聞きたくて、きっと僕は何度でもここに来てしまうとおもうから。
「いってきます」
 寂しい思いをしないようにと最後に彼を抱き寄せて、そっとキスをした。



要するに新婚さんです。 20090127

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