※性描写を含みます。ご注意ください。




 ぺちゃ、ぺちゃ、と間抜けな音が口内から耳を伝って鼓膜を震わせ、頭の中まで入り込む。
 自分が望んで立てている音なのに、ずるずると身体の中まで溶かしてしまうのではないかと思えるほど卑猥に響いて、眩暈がした。
「ん、ん……っ」
 先ほどからヨシュアの足元に跪いて、脚の間に顔を埋めては必死にその熱を舐め上げている。
 熱くなったそれは確かに硬く屹立してもう俺の口では咥えきれなくなっているのに、玉座に腰掛けたヨシュアはその視線を一度もこちらに向けてはくれない。
 彼の視線はその優美な手に支えられた小さな文庫本に一手に向けられていて、身じろぎするのは残り少ないページをめくろうとするときだけだ。
「ヨ、シュア……!」
 そのことが寂しくて、空いている手すら肘掛にかけられてこちらに触れてくれないことが悲しくて、涙声で名前を呼ぶ。口内で粘つく先走りやら唾液やらにひっかかって少し発音が不明瞭になったけれど、ちゃんとヨシュアにも届いたはずだ。
「うん、あとちょっとでおしまいだから。もう少し待ってね」
 それでもヨシュアの視線が俺に向けられることはなくて、そっけない返事に泣きそうになる。
 ヨシュアに放っておかれては、俺はもう目の前の屹立を愛でるしか術がなくて、愛しさに頬擦りしてしまいたいのを我慢しながら、ちゅ、と音を立てて吸い付いた。
「ふ、ぅく……んっ……んぅっ」
 口を開けて咥えているうちに、いつの間にか反応して勃起してしまった俺自身が苦しい。腰を揺らすたびに服の中で擦れて、もどかしさに余計に腰が動いた。
 俺の身体はもう限界まで高ぶってしまっているのに、何でもないような顔でそ知らぬふりをするヨシュアが悔しくて、ちょっとした意趣返しのつもりで咥えた先端に歯を立ててみる。
「っ」
 ぴく、と僅かにヨシュアの脚が動いて、ようやく視線がこちらを向いた。何の感情も乗せていないスミレ色に怯えながら、それでも嬉しくて名前を呼ぼうとすると、ヨシュアの形のいいくちびるが嘲笑うように歪められる。
 それに首を傾げる暇もなく、ぐ、と強烈に股間が圧迫される感触。
「ひっ、いぅ」
「待ってね、って……僕言わなかった?」
「ぁ、やぁ、あっ」
「そんな悪い子に躾けたつもりはなかったんだけど」
 ちょうど服の中の屹立を踏みつける位置で、ぎゅ、ぎゅ、とヨシュアのつま先が動いた。靴底の残酷な硬さに、ともすれば潰されてしまいそうな強さで踏まれて恐怖にがちがちと歯の根が合わなくなる。
「い、あ……ご、ごめなさ……っやだ、ゆるして……!」
 湧き上がる痛みと恐怖に泣きながら懇願すると、やれやれといった体で踏みつける力が軽くなった。
 ほっと安堵の息を漏らしたものの、ヨシュアのつま先は未だ俺の屹立を押さえつける位置に宛がわれている。
「なら、いい子にしててね」
 そう言うとヨシュアの視線はまた本のページに戻ってしまったのだけれど、革靴のつま先がくすぐるような強さで股間を押して、硬い感触にじわじわとまた痛みが走った。
「ふ、ぅ……あ、ぁっ……よしゅ、ヨシュア……!」
 それなのに絶妙な力加減で何度も屹立を踏まれるうちに、痛みが徐々に快感に変わっていくのが自分でも分かる。
「ぃた……い、たい……っやだぁ……」
「へえ? そんなやらしい声出してるくせに、説得力ないなぁ」
「ふ、ぇ……ちが、ちがうぅ……」
「ここもさっきから硬いままだし」
 言葉と同時に一際強く踏み付けられて、衝撃にびくん、と腰が跳ねた。
「ひゃぁ、あぁ……!」
「ほら、ネク君のここびくびく言って喜んでる。酷くされるのが好きなんでしょ?」
「やだ、っぅく……すきじゃ、なっ……」
 泣きながら抗議を口にしても、じくじくと熱を持て余すそこが感じているのがもはや痛みなのか快感なのかすら分からず、ぺたりと床に座り込んでしまっても上体が支えきれない。
 無意識にヨシュアのその長い脚に縋るように、膝に頭を乗せて頬を擦り付けた。
「ヨシュ、ア……っよしゅあぁ……」
「うん、あと六ページくらいかな」
「は、ふ……く……ゃ、おねが……」
 疼きの止まらない身体に呼吸すらままならずに請うと、ヨシュアはようやく手にした文庫本をぱたりと閉じて、困ったような視線を再び俺に向けてくれる。
「僕、後書きまでちゃんと読む主義なんだけど」
「ごめんな……さい……」
「仕方のない子だね」
 ふぅ、とヨシュアはひとつだけため息を吐くと、手にしていた本を背広のポケットに仕舞った。ずっと股間を圧迫していたつま先をそっと下ろすと、長い腕で優しく抱き上げてくれる。
 そのまま小さい子どものように膝に乗せられて、ようやく縋りつくことを許された身体にぎゅっと抱きついた。
「ん……んぅ……」
 密着するようにしがみつくと、お腹の辺りで俺のものとヨシュアの屹立が擦れて、勝手に腰が揺れてしまう。そのままキスをねだろうとすればヨシュアのゆびに押し留められて、べたつくくちびるを柔らかく拭われた。
「僕のおしゃぶりするの、気持ちよかった?」
「ふ……は、ぅ」
 口腔をなぶるゆびがくちゅ、といやらしい音を立てて、それだけで背筋が震える。
「ヨシュアの、舐めるの……すき……」
 優しく口内を掻き回すゆびに嘘なんてつけなくて、正直に答えた。そうするとヨシュアは機嫌よさそうに、ペットにするような優しい手つきで頭を撫でてくれる。
「そう……じゃあネク君のもしてみようか?」
 落とされた言葉に、え、と言葉を返す暇もなく、ヨシュアの手が俺の腰を掴んだ。かちゃかちゃとベルトを外されて、下着ごとずり下げられる。
 膝を立てる形で腰を浮かせてから、屈んだヨシュアのくちびるが躊躇いもなく俺の屹立を咥えるのをスローモーションみたいに見てた。
「ぃ、あ……や、あぁ……!」
 ぬる、と温かい粘膜に包まれて、舌で舐められる感触にやっと我に返った。びく、と身体が揺れて、駆け抜ける快感に余計混乱する。
 俺がヨシュアに口ですることはよくあるけれど、ヨシュアが俺になんて今までしたことがない。
 ヨシュアのキレイなくちびるが俺のものを咥えて、赤い舌でゆっくりと舐め上げている光景が信じられなかった。
「やだ、ヨシュア……! やだぁっ……」
 咄嗟に引き剥がそうとヨシュアの頭に手をかけたけれど、緩く髪を掴むだけで力が入れられない。逃げを打つ腰も、ヨシュアの手に掴まれて逃げることは敵わなかった。
 キレイなヨシュアの大事なものを汚してしまったような罪悪感に、がくがくと身体が震える。
「や……そんなの、汚、い」
「どうして? ネク君だってさっきしてたじゃない」
「は、ふ……っうく……えぅ……」
 ひ、ひ、としゃくりあげる喉と震える身体が止まらなくて、どうしていいのかわからない。それでも先ほどからなぶり続けられていたそこは簡単に限界をうったえて、じゅる、とヨシュアの口が溢れる先走りを啜る音に泣きそうになった。
「やぁ、よしゅ……でちゃぅ……はなしてぇ……!」
「いいよ、出して」
「やら……ねが……っひ、やあぁ……!」
 咥えた先端に舌をねじ込まれて、かり、と歯を立てられた瞬間に大げさに腰が跳ねる。
 びゅく、と白濁を吐き出した途端、俺が射精するタイミングとヨシュアが身構えるのがずれたのか、口内に迎え入れられなかった精液がヨシュアの顔に飛び散った。
「っ、と」
「あっ……あ……」
 射精の余韻にぺたりと膝の上に座り込んでから、ぽたぽたとヨシュアの頬から滴るものにはっと我に返る。
「あ、ご、ごめん……!」
 咄嗟に口をついた謝罪に、ヨシュアは何でもなさそうに俺の膝に落ちた精液を掬い取った。そのままねばねばと白い指先で弄ばれて、いたたまれなさに泣きそうになる。
 ああもう、俺のバカ。もうちょっとだけ我慢すればよかったのに。
「よ、ヨシュア」
「どうしたの?」
「ごめん、なさい……」
 飛び散ったものをそのままに首をかしげるヨシュアの頬に手を伸ばすと、反対の手に阻まれた。
「え、ぅ……あ、えと、タオルとか」
「いらないよ」
「えっ」
 今すぐヨシュアを洗面所に連れて行って顔を洗って欲しいくらいの気持ちだったのに、不可解なヨシュアの言葉に戸惑う。
「舐めてキレイにして」
 続けて囁かれた言葉はもっと不可解だった。
「ぅ、あ……」
 くちびるが触れそうなくらいまで顔を寄せられて、精液独特のにおいが鼻をつく。少しだけ躊躇したものの、そんなものがヨシュアの顔を汚しているのが嫌で、戸惑いながらも粘つくそれをぺろりと舐めた。
「んっ」
 ヨシュアのなら多少ヘンな味だろうと飲み込むのに抵抗はないのだけれど、自分のものだと思うとただ苦いだけで、気持ち悪い。
 それでも舐め取る合間に優しくキスをくれるヨシュアが愛しくて、少しずつ飲み込みながらその滑らかな頬や顎に舌を這わせた。
「キレイになった?」
「ん、んぅ」
「ふふ、もういいよ?」
 最初は躊躇っていたくせに、気がつくとヨシュアの顔を舐めるのに夢中になっていて、精液を全部舐め取ってからも頬に、くちびるに口づけるのが止められない。
 そうしているうちにいつの間にかヨシュアのゆびが俺のナカを探っていて、粘膜を開かれる感触に腰を揺らした。
「や、ぅ……よしゅ、よしゅあ……っ」
 もう身体はヨシュアを欲しがってとっくに蕩けてしまっているのに、悪戯に内部を掻き回すゆびは意地悪だ。
 抗議するようにヨシュアの屹立に俺のものを押し付けると、くす、と穏やかな笑い声が頬をくすぐってからゆびが引き抜かれる。
 それと同時に触れ合わせていたくちびるも離れてしまって、物足りなさに追いすがろうとするとヨシュアの手に阻まれた。
「キスと僕の、どっちがいい?」
「え、ぁ……なに……っ」
「どっちか選んで」
 いやらしい声で囁きながら、ヨシュアの熱が後孔をくすぐって、吐息が微かにくちびるを撫でる。
 どちらも与えられないもどかしさに気がふれてしまいそうで、それでもどちらかだけ選べなんてヨシュアは酷いことを言う。
「いや、っヨシュア……やらぁ……」
「どっち?」
「ふ、ぇく……ど、どっちもっ」
「へぇ……それってすごい欲張りじゃない?」
 我慢しきれずに腰を落とそうとしても、ヨシュアの手に強く掴まれて叶わない。くちゅ、と触れ合う場所から僅かに聞こえる水音にどうにかなってしまいそうだ。
「お願いするときはどうするんだった?」
 幼子に言い聞かせるように優しく問われて、勝手にくちびるが動いた。
「も、もっと……キスして……っ」
「キスだけでいいの?」
 再び降りてくる柔らかいキスの感触に、胸がいっぱいになる。
「う……は、く」
「ちゃんと言わないとわからないよ」
「ひ、ぅ……!」
 ぐりゅ、とひくつく場所に先端だけ押し込まれて、焦燥感に嗚咽混じりでうったえた。
「ょ、よしゅあの、おっおっきいの……なか、なかにください……!」
 俺の言葉にヨシュアは満足げに微笑むと、そのまま咥え込ませた屹立を内部に押し込んだ。
「う、あ……あぁっ」
「いい子だね、ネク君。ちゃんとおねだりできて」
「は、ぅゃ……ヨシュア、よしゅあっ……」
 いい子、と言ってまた頭を撫でてくれるのが嬉しいのに、内側から揺さぶられる快楽にずるずると思考が溶けていく。
「い、こな俺は、好き?」
「ん……? 好きだよ」
「ホントに?」
「うん。ネク君、好き」
 何度も返してくれる答えにほっとして、ヨシュアの甘やかな声を聞きながら、ぎゅう、とその身体にしがみついた。

「まだ抜かなくても平気?」
「ん……も、すこしだけ……あ、よ、ヨシュアは」
「うん?」
「ヨシュアは、やじゃない?」
 ヨシュアはくちびるも何もかも全部がキレイだから、先ほど自分のもので汚してしまったのが未だにショックだ。
 だからというわけではないのだけれど、達してからも離れずキスをねだる俺に、ヨシュアが呆れていないかどうか少しだけ心配になる。
「やじゃないよ」
 柔らかく、言葉と共に触れ合うくちびるが温かい。
 ヨシュアはいつも終わった後すぐ抜いたりしないから、嘘ではない、と思うのだけれど。
「ほ、本の続きは?」
「んー? ああ、そうだね」
 ポケットから顔を覗かせているそれが先ほどから気になっているのだけれど、そうだね、と言いながら今度はヨシュアのほうが俺のくちびるを捕まえたまま離さない。
「今はネク君のほうが優先」
 囁かれた言葉自体は嬉しかったのだけれど、さっきはそれで散々俺に意地悪をしたくせに、となんとなく釈然としない。
「ネク君のなか、あったかい」
 不意に言われた言葉に、どく、と心臓が高鳴る。まだ身体の中に受け入れたままだったものの存在を意識してしまった。
「そ、ゆこと、言うな……」
「……?」
 不思議そうに首をかしげられて、無垢なスミレ色の視線にうつむいてしまいたくなる。
「また……し、したくなるだろ」
 でも、そのスミレ色がすぐに欲望の色で染まるのを見逃したりなんてしないけど。
「もう一回?」
 ふふ、と笑う声になぶられながら、なんとか一度だけ小さく頷いた。



ヨシュアさんの靴は歩くとコツコツ鳴るやつが理想です。
佐倉さんとのメッセからネタいただきました。ありがとうございます! 20081211


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