※性描写を含みます。ご注意ください。




「ネク君、ソウルちょうだい」
 がたん、がたんと電車の通る音がガード下に響き渡る。
 けれど僕の声はちゃんとネク君に届いたはずだ。
 さ、と朱の挿すやわらかい頬も、未熟な体躯も、コンポーザーとして務めるには彼はまだまだ未熟だなあと思う。

 散歩に行こう、とネク君は言い出した。
 ゲームが終了してわずかに得られる貴重な休暇の、のんびりした昼下がりのことだ。
「散歩?」
 昼食を済ませて戻ってきたネク君をいつもどおり膝に乗せようと抱き寄せたら、やんわり拒否された。
 しぶしぶその腰に腕を回すだけで留めてから、首をかしげる。
「おまえ、ずっとこの部屋から出てないだろ」
「そういえばそうだね」
 部屋からどころか、この部屋の中ですら満足に歩き回っていない。うなずきながら、彼がこんなことを言い出したことに驚いた。
 何せ、自分をこの部屋から出られないようにしているのは彼自身なのだから。
 ネク君の眷属になってから、僕は彼のソウルに依存している。ポイントを稼ぐ役目がないため、自分ではソウルを維持することができないからだ。
 彼の傍にいれば最低限消滅は免れるけれど、人間が食事をするのと同じように定期的にソウルを供給してもらう必要がある。万が一長期間彼から離れるようなことになれば、僕はあっけなく消滅してしまう身の上なのだ。
 非常時のための補助用ソウルでも持っていれば好きに出歩けるのだけれど、残念ながらそれらしいものは渡されていない。そんな危ない状態で、ネク君から離れてフラフラと歩き回るような気には到底なれなかった。
 まがりなりにもコンポーザーになった彼がそのことに気づいていないはずはないのだけれど、きっと彼なりに僕が勝手にどこかへ行ってしまわないよう牽制しているのだろう。
 だからずっとこの部屋で大人しくしていたのだが、今頃彼の良心が呵責をうったえたらしい。
「たまには気分転換するのもいいかな……と思って」
 コンポーザーという立場になってからも、彼の舌足らずな喋りは変わらない。居心地悪そうに視線を彷徨わせる彼が可愛くて、揺れる髪をそっと撫でた。
 僕を動けなくしたいならソウルを供給しなければいいだけの話なのだけれど、そうまではしないところが彼らしいといえば彼らしい。
 まあ、僕がネク君からソウルをもらうための行為が彼は好きだから(ネク君に言ったらきっと顔を真っ赤にして否定するだろうけど)仕方ないことなのかもしれなかった。
「僕は構わないけど、それならちゃんとしるしつけないと」
 彷徨う夜色の視線を捕まえて見上げると、う、とネク君は困ったような顔をする。
 それからずっと握りこんでいた両手をおずおずと開くと、細身の首輪が一つ乗っていた。一応、彼もちゃんと準備はしていたらしい。
「他の子たちに示しが付かないでしょ?」
 暗黙の了解でまかり通っているとはいえ、僕のような半端ものがうろついているのは問題だ。人目につくところに出るなら、ちゃんとコンポーザーの所有物なのだと示してもらわなくては。
「でも、だって、ヨシュア犬じゃないのに」
 可愛いことを言ってくれる。コンポーザーの座を追われてなおUGに留まっている僕はまさしく犬以下だと思うのだけれど。
 でも本当はずっと、誰かが自分を引き摺り落としてくれるのを待ち望んでいた。人間として生まれながら、人としてよりもコンポーザーとして過ごした時間のほうが長すぎたからだ。
 このまま誰も自分に手の届くもののいないまま天使になるのだろうかとぼんやり思っていたから、ネク君が引き金を引いたときどこか安堵していた僕をきっと彼も知っているだろう。上のやつらと同じ天使になるなど、御免被る。
 まあ、ネク君が僕を眷属として迎えたことは少し予想外だったけど。こんなソウルの残りかすでも彼が使ってくれるなら、これ以上など望むべくもない。
「別に僕は犬でもいいけど?」
 そう言って笑って見せると、ネク君は眉根を寄せてごち、と額をぶつけてきた。痛いよ。
「あ」
「うん?」
「でも、ヨシュアの首キレイだから……他のヤツに見せたくない、から……いいかもな」
 何を言っているやら、と思ったけれど、ネク君がそれで納得してくれるならよしとしよう。
 そんなやり取りをしつつ、ネク君はごくごく丁寧に首輪をはめてくれた。つや消しで鈍く紫紺に光るそれはネク君の趣味なのだろうか。なんでもいいけど。
 一度は渋谷を支配していたはずの自分が、今はこの小さな手にすべてを委ねているなんてなんだか照れくさかった。

 ネク君に手を引かれて久しぶりに歩いた渋谷は変わらぬ姿で、やはり愛しく思う。とりあえずぐるりと一回りして、また駅を通って帰ってきた。UGの天気はいつも変わらないけれど、まともに浴びる日差しが少し眩しい。僕もすっかり日陰の暮らしに慣れてしまったなと思う。
 でもなんとなく覚えた眩暈は、残念ながら日差しのせいだけではない。
「こ……ここで、か?」
「だって、ネク君昨日くれなかったじゃない」
 耳元に寄せたくちびるで、冒頭のようにねだらざるを得なかったのはネク君のせいだとうったえた。誤魔化そうとしてもダメだってば。
 ソウルのやりとりをするのに一番手っ取り早いのは、いわゆる性交渉だ。肉体的に深く繋がることで、彼からソウルを分けてもらう。
 それを、いつもなら彼のほうから持ちかけてくるくらいなのに、昨日は応じてくれなかった。どうやらネク君が戻ってきた際、うっかり部屋の中をうろうろしていたのがお気に召さなかったらしい。
 さすがに暇を持て余して、本棚を少し物色しようかと久しぶりにベッドから降りただけなのだが。それだけ彼の関心が自分に向いているというのは嬉しいことだけれど、ソウルがもらえないのは困る。彼としてはちょっとした意地悪のつもりだったのだろうけど。
「へ、部屋戻ってから」
 彷徨う視線のまま逃げようとするネク君を、引き止める目的で後ろから抱き締めた。今の身体だと、腕の中でびくりと震える彼は随分小さく感じる。
「待てないよ。お腹空いちゃった」
「だって、こんなところで」
「見えないから大丈夫だよ。休暇でみんなRGにいってるだろうし」
「でもっ」
 僕の頭一つ分下、顎の位置で揺れる栗色は忙しなくて、なんだか小動物のようだ。
「ああ、でももしこっちに残ってる子がいたら、見られちゃうかもね?」
「ヨシュア!」
 ちゅ、とうなじにくちづけると、ネク君の身体は簡単に跳ねた。そんな風に声を上げる彼のゆるゆると振れる首は、まったく説得力がない。
「やだ、ゃっ……」
 薄暗いガード下はそれでも当たり前のように人通りがあるし、行きかう車の音は途切れない。夜でも昼でも渋谷は騒がしい街なのである。UGに慣れきってしまった僕はあまり気にならないのだけれど、どうやら彼はそうでもないようだ。
「やだ、ヨシュア」
 でも言葉ではそう言いながら、さっきからネク君は抵抗らしい抵抗をしていない。うつむいて見えない夜色は、きっと羞恥に隠して期待の色を滲ませているんだろうと何となく思った。彼は彼で昨日の不満を溜め込んだままなのだから。
「そこに手、ついて」
 それを証明するように、僕の言葉に彼はおずおずと従った。震えるゆびに心の中は羞恥と不安でいっぱいなのだろうけれど、身体はとても素直だ。
「ヨシュ、ア……」
 不安を隠さない声色は拒んでいるようにも、せがんでいるようにも聞こえる。難儀だなぁと思いながら、服の裾から滑り込ませる手は止めない。
 ひく、と逃げようとする身体を押さえ込むように、脚の間に膝を割り込ませた。そのままするすると胸元まで撫で上げれば、ネク君の身体は寒がるように震える。
 探るうちに自然とゆびに触れるふくらみを、そっとつまんだ。
「ぅ、あっ」
 途端に漏れた声を隠すように、ネク君はぎゅっと自分の服の襟を噛む。そんなの、どうせすぐ我慢できなくなるのに。
「声、聞かせてくれないの?」
 赤くなった耳を舐めながら囁くと、嫌がるように頭が揺れる。
「や、ら……」
「そう」
 まったくいじらしい。そのまま無理に彼の口をこじ開けるようなことはせず、胸をなぶる手はそのままにそろそろと彼の脚に手を伸ばした。今日のネク君は初めて会ったときのようにハーフパンツを履いているから、たくし上げてその肌に触れるのも容易だ。
 滑らかな太腿の内側を撫でて、付け根のきわをくすぐる。
「っ、ん……!」
 びく、と震える脚は僕の膝に邪魔されて閉じることはできない。
「んん、ぅー……ん、んっ」
 きわどいところを何度も爪の先で掠めるように触れるだけで、ネク君の身体は面白いように跳ねた。
「ふ……ぅ、やっ」
「我慢しなくていいのに」
「ん、んく」
 それでも一生懸命咥えた布を噛み締める彼は子どものようで、意地悪をしなくてはいけない気になるから困るのだ。
「やれやれ」
 こり、と押しつぶすように乳首を撫でると、またネク君の身体が跳ねる。
 せいぜいがんばって、ね?

「うぅ、っは……あぅ……」
 くちゅ、くちゅ、と粘膜が音を立てるたびに、可哀想なほどつっぱった太腿がぶるぶると震えた。ゆびを深く押し込むたびに、とろ、と透明な先走りが伝ってコンクリートを汚す。
 もはや咥えているのか舐めているのか分からない襟元は、唾液でべたべただ。
 空いている手でぐに、と硬く尖った乳首を弄れば、ネク君はいやいやをするように壁についた腕に額を擦り付けた。
「ぅ、や……だ……それっ」
「これ?」
「あ、ぅ……! っやあ、やぁ……」
 多少乱暴なくらいに爪で引っ掻くと、彼は一番いい反応をする。
「痛くされるのが好きなんでしょ?」
「やだ、ちが」
「こんなに硬くして、女の子みたい」
「ちが、ちが……うぅ……」
 必死に否定する声は快楽にまみれていて、そのギャップがますます嗜虐心をそそるのだと彼は知らないのだろうか。
「違わないよ。ほら、触ってごらん?」
「ひっ……ぃう、ぁ……」
 必死にコンクリートに爪を立てている手を片方取ると、そのまま彼の胸に導いた。一番わかりやすいゆびの腹が触れるように、掴んだゆびを押しつける。
「やっ……!」
 びくん、と跳ねる身体のままに、内部にもぐりこませたゆびがぎゅう、と食い締められる感触。
「ふふ、ナカまでびくびくしてる」
 そっと僕が手を離しても、ネク君のゆびはそのまま自身のふくらみを撫でていた。
「ふ、ぅ……く」
「自分で触るの気持ちいい?」
「うぅ……うーっ……」
「違うって言ってたのに、止められないんだ。やらしー」
「や……だ……こんなの、ちが……」
 頑なな彼に思わず漏れそうになる笑いを堪えながら、再び胸元で震えるゆびを捕まえて強く引っ掻く。
「やあぁっ」
 がくんと不自然に彼の腰が揺れると、ぴゅ、ぴゅ、と放っておかれていたはずの彼の屹立から白濁が吐き出された。体内のゆびを噛み締めながらの射精に耐えるように、ネク君は両手で必死にコンクリートへしがみつく。
「は、あ、ぁっ……! は、ぁぅ……」
「ここと後ろだけでいっちゃったの? ほんとに女の子みたいだね」
「ふ、ぅく……えうぅ……」
 くすくすと漏れる笑いでそのまま肌を撫でるように、まくれ上がった裾から丸見えの背中にくちびるを寄せてぺろりと舐める。そうするとひく、と肩を揺らしながらも刺激がもどかしいらしく、膝から折れてしまいそうな脚で彼は腰を突き出した。
「よしゅ……も、ちょうだ、ぃ」
 いやらしい格好で後ろを振り向く彼の目は、泣き濡れて欲望の色に染まっていた。
 ひくつく粘膜を振り払うようにゆびを引き抜くと、支えを失ったようにネク君の身体が揺れる。その腰を抱き締める形で、崩れてしまわないように押さえこんだ。
「もらうのは僕だよ?」
「う、ゃっ……やる……やる、からっ」
「くれるの?」
「ふ、ぁ……おねが、ぃ……よしゅあ……っ」
 必死に押し付けてくる腰を宥めながら、ベルトを外して勃起したものを取り出す。彼の太腿に擦り付けながら、やわらかい耳たぶに噛み付いた。
 がたがたとさきほどから何度も通る電車の音も、うるさい車のクラクションも、もう彼には届いていないのかもしれない。
「あっ……ぁ……」
「さっきからいっぱい人が通ってるのに。大きい声でおねだり上手にできたね」
「うぅ、ぅ」
「いい子。じゃあ、もらうよ?」
 問いかけに特に意味はなくて、返事を待つことなくネク君の中に押し込んだ。
「あぁぁっ」
 慣らされたネク君の身体は拒むことなく、やすやすと僕を奥まで受け入れる。強く締め付けると同時に、ばさ、と彼の背中で白いものが揺れた。
「あは、羽出ちゃったの?」
 片側だけの中途半端なそれは少し前まで僕の背中にあったものだ。下の方の死神と違って、コンポーザーは羽を出していてもいなくても力を使うのに大して問題はない。だから邪魔なだけのそれを普段はしまっている。明らかに死神のものとは違うそれを、他の子たちに見られてしまうのはまずい、というのもあるからだ。
 ただ、彼はまだ上手くそのコントロールがきかないようで、感情が高ぶるとすぐに管理者の証であるそれを顕現させてしまうらしい。
「は、ふゅ」
「いけないんだ。誰かに見られたらどうするんだい?」
「んん……! だ、って……やだ、でちゃっ」
 大きく出し入れさせて内部の粘膜を擦るたびに、びく、びく、と震える背中と同じく白い羽も揺れる。
 捲れた服の裾から覗く羽毛に覆われた生え際が不思議で、なんとなくゆびを這わせた。
「やあぁ!」
 途端にネク君は大きく身体を跳ねさせて、がく、と震える膝から崩れそうになる。
 逃がさないようにその腰を捕まえて支えながら、思わぬ反応に緩むくちびるをふわふわと羽の揺れる背中に寄せた。
「や、だ……いやっ……」
「ここ、きもちいいの?」
「ふぅ、あっ! やだ、だめ……っちが」
「根元のほうがいいんだ?」
 かり、と生え際と根元の境目に噛み付くと、ネク君の上げる声はもはや悲鳴交じりになる。
「ひゃら、ぁ! あ、あぁ……っだめ、だめえぇ……!」
 泣き声を漏らす彼に構わず何度も歯を立てて、引っ掻くたびにぎゅ、ぎゅとナカがきつくなった。
 僕が羽を持っていたときは特に感覚はなかったのだけれど、ネク君にはあるらしい。この辺は個人差なのだろうか。
「う、えく……えあぁ……っ」
 何箇所も同時に攻められてよだれを垂らすネク君は電車の通る振動にすら感じるらしく、すがるコンクリートががたがたと震えるたびに何度も声を上げた。彼の屹立にゆびを絡めれば、また達してしまいそうなほどに高ぶっている。
 けど。
「まだ、いっちゃだめだよ」
 戒めるように強く根元を握りこむと、ネク君は声にならない悲鳴を上げた。ひゅ、と痛々しく鳴る喉と反らされた背中がいやらしい。
「あっ……ぅあ……」
「僕がもらい終わるまで待って、ね」
 深く繋がるように腰を押し付けながら、流れてくる彼のソウルを取り込む。昨日と今日の二日分が満たされるまでは、締めつける内部の熱さとネク君の泣き声で、しばらく楽しませてもらうことにしよう。

 ネク君のゆっくりした足取りに歩調を合わせながら、その手を引いて歩く。本来僕のリードを引いてくれるのはネク君のはずなのだけれど。
「ん……んっ……」
 時々立ち止まりながら、足元のおぼつかない彼にそれを要求するのは少し酷だろう。
「ヨシュ、ア」
「うん?」
 何度目かに足を止めたネク君が濡れた瞳で見上げてくるのに、僕は知らない振りで返事をした。
「お、おなか……ぐちゃぐちゃする……」
 あのあとネク君の体内に吐き出した僕の精液は特別掻き出すこともせず、溢れるに任せたのを拭き取っただけだ。だから、そろそろ下着から漏れ出して彼の脚を伝うのも時間の問題かもしれない。
「うん、でももう少しだから。がんばって?」
 そのまま座り込んでしまいそうな彼の手を引っ張ると、泣きそうになりながらそれでもなんとかまた歩き出した。
 は、は、と荒い息を吐きながら震える脚で歩く彼に、審判の部屋までの道のりはなかなか長そうだけれど、僕は最後までのんびり散歩を楽しませてもらおうと思う。
 部屋に戻ったら、もう一回、かな?
 昨日意地悪された分の仕返しに、これくらいは許してもらわないとね。



全力で今を楽しんじゃうかんじのヨシュアさん。 20081108

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