※性描写を含みます。ご注意ください。




 寝過ごした。
 そう思って飛び起きた瞬間、ごつっと豪快な音と共に衝撃が駆け抜けた。

「い、って……」
 起き抜けにもたらされたあまりの衝撃に、何が起きたのかまったく把握できなかったが、額からじわじわと伝わる痛みに思わず手をやる。
 起き上がった拍子に何かに頭をぶつけたらしい。その何かはこの痛みと先ほどの見事な音から推測するに、なかなか硬かったようだ。
「っ、たー……」
 すぐ近くで聞こえた呻き声に閉じていたまぶたをそろそろと上げる。
 ベッドの端に控えめに腰掛けながら、こめかみの辺りに手を当てている、ヨシュア。
 どうやらぶつかった何かは、ヨシュアの頭だったようだ。押さえている位置から見て、頬骨か何かに直撃したらしい。
 いつの間にか俺の部屋に上がりこんでいたヨシュアが、眠りこけている俺の顔を覗き込むか何かして、ちょうどそのタイミングで俺が起き上がってしまったのだろう。なんて間の悪い。
「わ、悪い」
 思わず伸ばした手で、ヨシュアの柔らかな髪を掻き上げた。さするように撫でていたヨシュア自身の手が下りると、一目で分かるほどに赤みを帯びた皮膚が見える。
 ヨシュアは肌の白さゆえにそんな変化も易々と表れるらしく、余計痛々しい。
「熱烈な歓迎、ありがとう」
 にっこりと微笑む表情にいたたまれなくなる。怒ってはいない……みたいだけれど。
「ごめんってば……俺、寝過ごしたかと思って」
 焦って、と言いかけて口をつぐんだ。なんで焦ったのかと聞かれたらものすごく困るからだ。
「ネク君なりの新しい挨拶なのかと思ったじゃない」
「んなワケあるかっ」
「ふふ、冗談だよ。僕が帰っちゃったかと思った?」
「!」
 一番突かれたくなかったところを突かれて、自分でも顔が熱くなったのが分かる。
 ああ、もう。どうせこいつには全部お見通しなんだって、いい加減俺も学習すればいいのに。
 よく眠れたかい、と囁かれる言葉とこちらに伸びてくるゆび。
「よだれ」
「えっ」
 咄嗟に口元に持って行こうとした手はあっけなくヨシュアに阻まれた。
 ごしごしと口の端を優しく拭うゆびに、みっともない寝起きの顔を見られた羞恥で逃げ出したくなる。何よりもこれでは丸っきり子ども扱いされているようで居心地が悪い。
 他にどこか変なところはないかと身なりを正す俺を知ってか知らずか、なんでもないようにヨシュアの手が今度は俺の頭の後ろに回される。
「寝癖すごいよ? スズメの巣みたい」
「うー……」
 少しうたた寝しただけのはずなのに。そんなにひどいのかと鏡を見たいような見たくないような気持ちでそわそわしている俺を、ヨシュアの手は離してくれない。
 手櫛で優しく梳かれて、何度かくん、と絡まった髪が引っ張られる感触はなぜか不快ではなかった。
 丁寧な手つきで解かれるので全然痛くない。つくづく器用な手だなと思いながら、目の前にあるヨシュアの顔の近さとか全然関係ないことにドキドキしてしまった。
「よっぽど気持ちよく眠ってたんだ。ごめんね、起こしちゃって」
「別に……つか、むしろ起きられてよかったっていうか」
 言おうとした言葉はなんとも気恥ずかしくて、もごもごと口ごもる。
「おまえ、俺が寝てると起こさないで帰っちゃうだろ」
「あれ、気づいてた?」
「知ってる。つーか、意識朦朧としてても覚えてるから……」
 そのときばかりは眠気に負けてしまっても、次の日の朝にものすごく後悔する俺をこいつは知らないのだ。ただでさえこいつに会える日は貴重だというのに、自分でその機会を潰してしまうなんて悔やんでも悔やみきれない。
「……起こしても平気なのに」
 本当は起こして欲しい、と言いたいのだけれど、そこまで言い切れるほど素直になるのはまだ自分には難しかった。ぶっきらぼうな言葉でも、ちゃんとヨシュアに伝わればいいのに。
「んー……なんか気持ちよさそうに寝てるネク君見ると、ね。起こしちゃうの忍びなくて。眠そうにしてると可哀想なんだもの」
 それで次の日に落胆する俺は可哀想じゃないのだろうか。
 いや、まあ自業自得なのだからヨシュアを責める気は到底ないのだけれど。なんとなく釈然としない。
「僕がもう少し時間に融通きけばいいんだけどね」
 困ったように漏らされるため息に、こちらの方が焦る。
「そ、んなの……だって、しょうがないだろ」
 ヨシュアの立場はわかっているつもりだから、とうったえるようにぎゅっと服の裾を掴めば、髪を梳き終わったらしい手が優しく頬に触れる。
 当たり前のように与えられるその感触はあまりに温かくて、自分などが甘んじていていいのだろうかといつも不安になるのを、やっぱりこいつは知らないのだ。
 前髪と前髪が触れるほど近い距離にあるこいつの顔に、先ほどぶつけた赤らんだ頬が自然と視界に入る。
「今日は、ちょっとバイトで疲れてたから……悪い」
 改めて先の失態を詫びると、その頬と同様に赤くなっているだろう俺の額にヨシュアのくちびるが触れた。どうしてこいつはこんな気障な仕草をなんでもなくこなして見せるんだろう。
 常にその動作の受け入れ先である自分には、心臓に悪いことといったらない。
「バイトなんかしてたんだ。初耳」
「友達に、誘われて」
「どこで?」
「……トワレコ」
「へぇ、ネク君あの制服着てるの? ふーん」
「なんだよ」
「ううん、今度行ってみようかなーと思って」
「やめろ。絶対来るな」
 にこやかに告げられた言葉に、心底勘弁してくれと思って発した声は予想以上にげんなりしたものになった。
 身内やら知人やらにバイトしている自分の姿を見物に来られるのは、どうしてあんなに居心地が悪いのか。すでに何人かの襲撃を受けているとはいえ、こいつに見られるのは他の誰よりも恥ずかしい気がしてならない。
「そんな風に言われると、尚更行きたくなるね」
 くすくすと笑いを漏らすヨシュアにため息をつきながら、それでもこいつにはそんな時間的な余裕があるのかと疑問に思う。
 こうして俺と会う時間ですらこいつが無理くり捻り出してくれているんだろうというのは、何となくこれまでの付き合いで分かっていたからだ。
 俺のバイト姿をこいつが目にする日は来ないだろうと思いながら、もし万が一にもそんなことがあったなら、まあそれなりに応対してやろうかなとこっそり思う程度に、俺がこいつに弱いのはもうすでに分かりきっている。絶対言ってやらないけど。
 そういえば。
「おまえってどんな音楽聞くんだ?」
 持っていったヘッドフォンは愛用しているようだけど、実際こいつがそれで何を聞いているのかというのは正直見当もつかなかった。
「どんな? んー、とりあえず新しいのは一通り、かな」
 流行りの曲、ということだろうか。意外だ。
「意外?」
「ああ」
「ふふ、そうかな。聞いてるとね、音楽にも流行があるのが分かって面白いよ」
 こいつは一つ一つの曲が、というのではなく、もっと大きな流れを見ているのかもしれない。そう考えると、それはものすごくヨシュアらしいなと思える。
「ネク君は気に入ったアーティストをひたすら追いかけるタイプ?」
「なんでわかるんだ」
「やっぱり」
 そんなところまでお見通しじゃなくていいのに。
 分かりやすいよね、と俺の頬を撫でる手がそのまま少し伸び気味のサイドの髪を掻き上げた。あ。
 驚いたヨシュアの表情。普段飄々としているこいつも、そうすると少し子どもっぽく見える。じゃなくて。
 ばれたか。
「ネク君、ピアス開けたの?」
 そっと、ピアスそのものには触れずにやわらかく外耳をたどるゆび。まだ着けているのはチープなファーストピアスだから、開けたばかりなのが分かったのだろう、気遣われたらしい。
 その感触が少しくすぐったくて、軽く肩をすくめた。
「ん……ヘッドフォン、もうしないから。邪魔にならないし、と、思って」
 別に悪いことをしたわけでもないのに、じっと見つめてくるスミレ色になんだか恥ずかしくなってくる。
 あのゲームが終わってから今までずっと、愛用しているのは小さなイヤホンだ。こいつが俺に会いにくるまであのヘッドフォンはどうなったのだろうと気が気ではなかったのだが、再会してからもなんだか振り回されっぱなしで、最近になってやっと気持ちが落ち着いてきたらしい。なんだか、耳元が寂しい気がしたのだ。
 俺がヘッドフォンを手放してからもう随分経っているというのに、俺の身体はどこかワンテンポずれていると思う。それこそ、俺の背丈がヨシュアに追いつくくらいに時間が経ってしまった。今立って並んだら、どっちが高いか甲乙つけがたいほどだ。
 成長期真っ只中の俺と、成長しないヨシュア。それは、どこがどうと具体的に言えるほどには自分でも分からないのだが、とても寂しいことに思える。
 なんだか色んなものが寂しかったので、とりあえずピアスを開けることにした。なんて言っても、ワケがわからないと笑われるかもしれない。俺だってワケわかんないなと思うし。
「ふーん」
「な、なんだよ」
「ネク君て、何かしら耳に着けてないと落ち着かないんだね」
 くすくすと笑いを漏らしながら、くちびるが耳元に寄せられる。
「耳、弱いから?」
「!」
 囁かれた声は明らかにそれまでのものと違う音色で、不覚にもびくりと肩が跳ねてしまった。
「や……っ」
「悪い子だね。校則違反でしょ? ネク君はいつから不良君になっちゃったの?」
「べ、別に、髪で隠せば見えないだ、ろ」
「ふふ。まあ、別に僕も今更うるさく言うつもりないけどね」
 ぺろ、と濡れた感触が耳のふちを撫でる。
「ぅ、や……みみ、やめっ」
「やっぱり弱いね」
 微かに漏れる笑いが耳元をくすぐるから、余計に震えが大きくなった。
「やだ、ぁ……やっ……」
 ヨシュアの悪戯な手は、すでに俺の身体のあちこちを撫でていた。
 そのまま優しく肩を押されて、押し倒される。
 こいつから仕掛けてくるなんてとても珍しいことで、行為自体はまだ恥ずかしいのに嬉しくて、言葉以外の抵抗なんてできなかった。
 ヨシュアが触れる度に震える体では、嫌がったところでなんの説得力もないのだけれど。
 する、とヨシュアの手が服の裾から入り込んで、たくし上げる。
「ふ、ぅ……よ、ヨシュア……」
 脇腹を滑って、胸まで撫でる手にふるふると首を振った。
「ネク君のそういう声、好きだな」
 突然落とされた言葉に首をかしげる。
「へ……」
「笑い声も、泣き声も可愛いけど」
「え、ぁ……やぅ……!」
 言葉と同時に胸の突起を探られて、上がってしまった声にようやく意味を理解する。
「ゃ、だ……うー、あんま、聞くな……」
 今まであまり気にしたことはなかったのだけれど、改めて言われるとものすごく恥ずかしい。
「どうして?」
「だ……だって、ヘンだろ、こんなの……お、女の子じゃないのに……」
 きょとんとした表情で心底不思議そうにされて、猛烈に居心地が悪かった。
 それからふわりと笑うスミレ色に、今度はこちらが不思議に思う。
「ヘンじゃないよ」
「でも」
「だって、僕は好きだよ」
 囁く声はどこまでも甘くて、途端に顔が熱くなった。
 ヨシュアはずるい。そんな言い方をされると、声を出さなかったら俺の方が悪いみたいじゃないか。
 ヨシュアがそう言うなら、いくらでも聞かせてやりたいとも思うのだが。
 いかんせん上擦った自分のそんな声はまぬけで、耳の触りがいいとも思えず、やっぱり恥ずかしかった。
「んっ……んん」
 ゆるゆると胸元を弄られて、あまり変な声にならないように、口元にやった手でぎゅっと押さえる。
「我慢しないでいいってば」
「や、だ……」
「僕が聞きたいんだよ」
 言われて、口を覆っていた手も簡単に取り払われた。せめてもにくちびるを噛み締めると、見透かされていたようにヨシュアにキスされる。
 ずるい。ずるいったらずるい。そうされると俺はもう、口が閉じられないのをこいつは知っているのだ。
「ふ……ぅ、んぅ……」
 くちびるを舐めて、ヨシュアの舌が簡単に口内に入り込む。口腔を撫でて舌を絡められると、すぐに力が抜けてしまった。
「は、は……ぁう」
 舌が出ていってからもヨシュアは零れた唾液を舐めて、飲ませるようにまたキスしたり、口の端をついばんだり、そのたびにびくびくと身体が跳ねた。
 前から薄々感じていたけれど、ヨシュアはキスが上手い……と思う。
 俺はこいつとしかしたことがないから基準はよく分からないけれど、そうされただけでこんな風に力が抜けてしまうんだから、きっとそういうことなんだろう。
「おまえ、って」
「うん」
「キス、うまいよな」
 あれ、なんか困ってるみたいな顔。別に困らせたいわけじゃなかったんだけど。
「なあに、急に」
「誰かと、した?」
 俺が初めてってことはないだろう。こいつなら、キスは挨拶とか言い出しそうだ。日本人じゃないと思うし。
 俺、なんでこんなこと聞いてるのかな。
「僕が誰とキスしたか、気になるの?」
 からかうような視線に、馬鹿なことを言ったと思う。
「気に、なる……けど、別にいい」
 気にならないわけないじゃないか。馬鹿にされてる、となんだか無性に腹が立った。
「ネク君と会ってからは、ネク君としかしてないよ」
 ショックを受けるところじゃない。そんなの分かりきったことなんだから。これで初めてとか言われてもそれはそれで衝撃的過ぎる。
 けど、それでもやっぱり沈む心はどうしようもなかった。
「別にいいって言ってるだろ!」
「ふうん? じゃあ、もう他の人とキスしてもいい?」
 バカヨシュア!
「なんでそうなるんだよ! そんなこと言ってないっ」
 ヨシュアは意地悪だ。あくまでこいつは俺をからかっているだけだと分かるのに、泣きそうな自分が嫌だった。
「僕が他の人としてたらイヤ?」
 バカバカしすぎて答える気にもならない。こいつは俺を何だと思ってるんだ。
「お、俺は」
 泣きそうな声は、さっきまで堪えてた声なんかより全然情けない。
「いつでも……ヨシュアのいやがること、してないし……」
 そうであるように努力はしてるつもりだ。なのにこいつときたら。
「うん、だから、僕もネク君が喜ぶことしかしてないでしょ?」
 飄々と何でもないように言ってのけるから、ずるいのだ。怒るのもバカバカしくて、当たり前に言われる言葉は嬉しい。
 ヨシュアの意地悪は、俺が意地を張ったときだけなのだともう分かっているから。
「じゃあ、き、キス……する?」
 そろりと見上げれば、嬉しそうなスミレ色。
「して欲しい?」
 いや、やっぱりこいつは俺で遊んでいるだけなのかもしれない。
「しないのか?」
 されたら、俺は嬉しいと思うのに。
 そう思って見つめていると、ヨシュアのくちびるから笑いが漏れる。その吐息はもうからかってなどいなくて、とても優しかった。
「するよ」
 それでもヨシュアは全部分かってるよ、という顔で俺の望むとおりにしてくれるから、やっぱりずるいと思うのだ。


「あ、ぁっ」
 何だかんだで結局声なんて我慢できないから、諦めることにした。
 俺がそれらしい声を出すと、こいつがなんとも嬉しそうな顔をするのがいけないと思う。
 俺が気持ちいいと、こいつも嬉しいんだろうか。俺がどう感じているのか分からないと、こいつでも不安になるのだろうか。
 ヨシュアは、ちゃんと気持ちいいんだろうか。
「よ、しゅあ」
「うん?」
 見上げてくるスミレ色は穏やかで、ほんのり熱っぽい。というのは俺の願望だろうか。
 動くたびに、壁にもたれるヨシュアを跨いだ接合部からぐちゅ、と恥ずかしい音がして、どうしても視線が泳ぐ。
「き、もちいぃ、か?」
 不安になって思い切って聞いたのに、ヨシュアの苦笑する声にびく、と身体が揺れる。
「最近よく聞くね、それ。どうしたの?」
「だ、って……おまえ、あんまり表情、変わんないから」
 こいつはいつでも自分だけは余裕、みたいな顔をしているからずるいと思う。
「そうかな?」
 首をかしげるヨシュアは、やっぱり自分のことには疎いみたいだ。そういえば自分のことはあまり興味がないとか言ってた気がする。
「心配なら、それこそ女の子みたいにあんあん喘いでみせようか?」
「そ、そうは言ってない、けど……」
 ヨシュアの喘ぎ声なんて、ちょっと聞いてみたい気がしないでもないけど、想像もつかない。聞いたらたぶん俺、どうにかなると思う。
 こうしてる間にもヨシュアのくちびるから漏れる、ささやかな吐息にだってこんなにドキドキしているのだから。
「気持ちいいよ」
 耳元で囁く声に背筋が震えて、泣きたくなるくらい安心する。
「そ、か」
「気持ちよくなかったら、そもそもこんな風に勃たないでしょ」
 こんな風に、とそのゆびが屹立を咥え込んだ後孔をゆるりとなぞる。
「んっ、ん……ぅ」
 ヨシュアはキレイな顔をして、平気でそういうことを言うから心臓に悪い。でもそんなあけすけなヨシュアも、やっぱり好きだなぁと思ってしまうのだ。
「ね、ここひくひくしてる」
「ふ、ぅ……や、だっ……ぁ、さわん、なっ」
「嘘吐き。触って欲しいくせに」
 笑う声にゆるゆると頭を振ると、頬を撫でるヨシュアの髪の毛がくすぐったい。
「ナカ、狭くなったよ。僕のことぎゅーって締め付けてる」
「ん、く……ちがっ……やだ、やぁあ……」
 内部で食い締めるものの感触がたまらなくて、勝手に身体が動いた。中で擦れるたびに快感が走って、腰が揺れてしまうのが止められない。
「うぅ、やだ、なんか……ぉ、おれ……ヘンだっ」
 不安になって見下ろす位置にあるスミレ色に目をやると、やっぱり熱っぽい視線に鼓動が跳ねる。
「いいよ、いっぱい動いて……僕のこと気持ちよくしてくれるんでしょ?」
「ん、んー……っ」
 髪を掻き上げて耳元をなぶるゆびに、いちいち身体が震える。まだ違和感の残る金属のはまった傷口が、じくじくと熱を持った。
 触れられないのが分かっているから、逆にもどかしい。
「キスしてもいい?」
 落とされる声音は何も知らないようなそぶりで、意地悪だと思った。見上げてくる瞳は窺うようで、そんなところで遠慮されても困る。
「ぃ、ちいち聞くなってばっ」
 ヨシュアがしたいなら、俺がしたくないはずないのに。
 お互いの距離が近くなればなるほど、些細なことで簡単に相手を不快にさせてしまいそうで、段々と探るような触れ合いになる。こいつは何も言わないから俺はいつでも不安なのだけれど、ヨシュアも同じように思ってくれているのだろうか。
「うん」
 けどそんな言葉で嬉しそうにするヨシュアが愛しくて、しがみついた腕で自分から引き寄せる。
 それから、優しく笑うくちびるにキスをした。


「もう少し、お金貯まったら」
「うん?」
「……なんでもない」
「?」
 俺のささやかな計画をこいつにも教えてやろうかと思ったけれど、やっぱりやめた。驚いて、子どものようなあどけない表情をするこいつを見てやろうとおもう。
 目の前の胸元に頬を擦り寄せると、抱き締めるヨシュアの腕はやっぱり優しい。
「ネク君は何色のピアス着けるんだろうね」
「内緒」
 ヨシュアは変わらない。
「じゃあ、お楽しみってことかな。どんどん変わっていくネク君をお楽しみに」
「なんだそれ」
 俺は変わっていく。身体の成長は、残念ながら止められない。
「ううん、段々大人になるんだな、と思って」
「嬉しくない?」
「嬉しいよ」
 背伸びしなくてもヨシュアにキスが出来るようになった。
「……俺は嬉しくない」
 ヨシュアは変わらない。その見た目と同じように、俺への気持ちも変わらなければいいと思いながら、寂しい気持ちになるのはどうしてだろう。
「そんなこと言わないで。早く僕のこと追い越してよ」
 冗談交じりの言葉が、今の俺には少し痛い。
 優しく額を撫でる冷たい手に、まだ俺のおでこは赤いのだろうかと思うけど、ヨシュアの頬はもう元の白い肌に戻っていて分からない。
 そんなヨシュアにも。
「バカヨシュア」
 俺の気持ちは変わらないのだと、どうか伝わりますように。



トワレコで働いてるネクを視姦し隊。
こまごましたネタは高樹さんとのメッセからいただきました。いつもありがとうございます! 20080915


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