※性描写を含みます。ご注意ください。 何とも言えない緩慢な動作で、のそのそと身を起こしたヨシュアが上になる。 こいつほんとはやる気ないんじゃないか? と疑ってはみたものの、降ってくるくちびるは単純に嬉しかったので甘んじて受けておく。 「ん、っん」 こいつから俺にするキスはいつも触れたり舐めたりの簡素なものが多くて、思えば深く口付けられたのなんてこいつが初めて俺の部屋に訪れたあのときくらいだ。 まあ、キスなんてあのときが初めてだったのだから、下手くそなのは自分でも分かっているのだけれど。 そもそもこういう行為に至るのも、俺がそれとなく促すことが多い。 そんなに俺の腹具合はよろしくないんだろうか。 元々受け入れる身体ではないのだけれど、抱き心地悪いのかなと思うと少しへこんだ。 「ふ、ゃ」 離れたくちびるが首筋を撫でる。 耳の後ろの敏感な場所に息がかかって、背筋が震えた。 くちびるの通る場所を開けるように、シャツのボタンが外される。 自分の身体にそんなことをされているのが直視できなくて、うろうろと視線が泳いだ。 「ん、んぅっ」 胸元を猫のように舐められて、身じろぐ。 そんなところ触ってどうするんだと思ったが、こいつにされるとむずむずと変な感じだ。 「そ、れ……やだっ……」 身体が逃げようとすると、ヨシュアの手に阻まれる。 「ふ、ゅ……」 硬くなる突起を舌で押し潰されて、勝手に息が漏れる。 反対側もこいつの白い指で摘ままれて、どうしていいか分からずに身体が震えた。 「や、ぅっ」 なんだか女の子みたいに扱われているようでいたたまれない。 ますますこいつが俺とするメリットについて考えてしまって、途方に暮れた。 「お、お前はさ」 「うん?」 不思議そうに首をかしげてこちらを向く瞳に、このスミレ色に拒まれたら俺は耐えきれないだろうなと思う。 「ホントは、俺とこういうことするの、め、面倒なだけじゃないか?」 うんとか頷かれたらどうしよう。きっと何も言えない。 当のヨシュアはしばらく考えるように黙りこむと、ごち、と額をぶつけてきた。 「てっ」 「ネク君さあ」 「な、なんだよ」 なんだか呆れられてる気がする。ものすごくため息吐きたいって顔だ。 「どうしてそう思うのかなあ。また一人でぐるぐる考えてたんでしょ」 まったくその通りなのだが。 「だ、だって、いつもキスは簡単に済ませるし、こういうこと言い出すのは大抵俺じゃないか」 おろおろと反論すると、案の定ため息を吐かれた。 不安になりながら、スミレ色を見つめるしかない。 「なんか、僕って大事にしようと思うと裏目に出るんだね」 「だ、……?」 独り言のような言葉の意味を把握しきれなくて、今度は俺が首をかしげる。 「僕が面倒だと思うこと、わざわざすると思う?」 まあそりゃあ、こいつはしたくないと思ったことは、天地がひっくり返ったって指先一本動かさないだろうとは思うけど。 僕だってちゃんとしたいよ、と掠れた声音で言われて徐々に顔が熱くなってきた。 俺、もしかして大事にされてたのか? じわじわと言葉が染みてきて、思わず手を伸ばす。こいつの首に腕を回して、ぎゅっとしがみついた。 「すきだ」 「う、ん?」 「なんか今、お前のこと、すごい好きだな、って……思って」 「……」 再びの沈黙が降りて、また変なことを言ってしまったんだろうかと心配になる。 けど本当のことを言ったまでだから、しがみついた腕はそのままにした。 「ひゃっ……」 と、急にひっぺがすように下着ごと服を剥ぎ取られると、当たり前のように下肢を掴まれた。 「あ……な、にっ……やあぁ……!」 突然すぎて、身構える暇もなかった。 既に熱を持ち始めていた無防備なそこを握られると、何も抵抗できない。 追い立てるように攻められて、勝手に身体が跳ねた。 「は、ひゃう……! っふ、あ……やだ、あぁっ」 握られて、先端を擦られて、どうしたらいいのか分からない。 次第にぬめる指に、自分の状態を知らされていたたまれなかった。 理不尽なことをされてると思うのに、身体の正直さに呆れる。 快感ばかりが先回りして、気持ちがついていけない。 「ふ、ぅ……や、だっ……やぁぁっ」 ヨシュアの意図が分からないのが怖くて、子供のようにぶるぶると首を振った。 いつもはいちいち触るのだって断りを入れてくるくらいなのに、どうしてだろう。 「僕のこと、嫌い?」 ゆっくりと降りてきた言葉に顔を上げる。 「ん、く……ぁっ、なに……」 「嫌いでしょ?」 「な、に言って……ぁ、あぁっ」 何を言われてるのか分からなくて問い返そうとすると、絡まる指に邪魔された。 「あは、もういっちゃいそうだね。優しくされるより、こういうのが好みなのかな」 「は、ぅや……ち、ちが……!」 否定したいのに、びくびくと跳ねる腰に全然説得力がない。 「僕のこと、嫌いでしょ?」 こいつの表情が知りたいのに、青白く光る前髪に邪魔されてよく見えない。 容赦のない指に、もう出る、とくちびるを噛み締めた。 が、とたんに指を離されて、タイミングを逃す。 「嫌いって言ってよ」 「ぁっ……や……だ、なんでっ」 「言わないと出せないよ?」 「ひっ」 さっきまでの追い込むような動きではなく、ぎゅう、と柔らかく握り込まれてびくびくと身体が痙攣する。 「は、ふぁっ……ひゅっ」 震える身体に息がうまくできなくて、喉がひくついた。 「や、だ……っすき……」 「違うでしょ」 「ひあぁっ」 握られたまま先端を擽られて、がくがくと腰が揺れた。 もうどうしていいのか分からなくて、ヨシュアの言葉に従いそうになる。 でも今、この場で自分の気持ちに反することを言うのは嫌だった。 「き……」 「き?」 「きらい……じゃ、なっ」 必死に首を振ると、溜息が聞こえる。 しょうがないなあ、とでも言いたげだった。 「あ、あっ……あぁぁ……!」 と、すぐに握った手で強く扱かれて、あっけなく達してしまった。 出口を阻まれた苦しい快感が嘘のような解放に、頭が真っ白になる。 「は、ふ……あ、ぁ」 まともに呼吸ができなくて、喉がひゅうひゅうと鳴る。 思うとおりにならない自分の身体が不安になってヨシュアを見上げると、ふわりとくちびるが落とされた。 「ん、んん……」 相変わらずついばむような子供にするキスだったけど、呼吸がゆっくりになって安心する。 「ふ……あ、なんで、あんな……」 やっと呼吸が落ち着いて問い詰めようとしたら、泣きそうな声になってしまってびっくりした。 おろおろと狼狽えると、またやわらかくキスされる。 「だってネク君があんまり僕のこと疑うからさ。同じきもちになってもらおうと思って」 「む……」 まあ、たしかに、信用できてなかった。 こいつは全然悪くなくて、俺が勝手に卑屈になってたから。 「自分のきもち疑われるの、やだったでしょ」 向けられるスミレ色の視線をまっすぐ受け止められなくて、少しうつむく。 自分のことを嫌いかと問うてくるこいつに、俺のほうが嫌われてるんじゃないかと思った。 申し訳なさに、しがみついた腕にぎゅっと力を込める。 「ご、ごめ……」 「ふふ、少し苛めすぎたね」 額に、頬に落とされるくちびるに泣きそうになる。 されるがままな自分が情けなくて、何かしたくて手を伸ばした。 「あ、の……お前も」 ドキドキしながら下肢に触れると、じんわりと熱がゆびに伝わって来た。 「うん」 くすくすと楽しそうにベルトを外すこいつに、心臓の音が早くなる。 まだ全然慣れなくて痛くさせたらどうしようと考えると、どうしても恐る恐るになってしまうけど、そっと指を絡めた。 人のを触るなんて考えたこともなかったのに、こいつのは全然嫌だと思わないのが不思議だなと思う。 「壊れ物じゃないんだから、そんなにびくびくしなくても大丈夫だよ」 「あっ、ああ」 こんなときでも笑っているこいつが余裕なのが悔しくて、言われたとおりに思い切って触ってみた。 少し強く握って扱くと、指から伝わる熱にさっきから心臓の音がうるさい。 かすかに漏れ聞こえるヨシュアの吐息に、俺の手で感じてるのかとドキドキしながら嬉しいきもちになった。 「脚、広げて」 触りながら、太腿を撫でる感触と一緒に落とされた言葉に、余計に動悸が激しくなる。 まあ、こいつだけじゃなくて俺も準備しないとなんだけど、だけど! おずおずと広げてみるものの、やっぱり恥ずかしかった。 「ネク君も、いい?」 するりと後ろに触れた指に一瞬腰が跳ねたが、なんとか宥めすかしてして頷いた。 さっき俺が出したものでぬるつく指が後孔を撫でる。 何度やっても慣れない感触に身体が強張りそうで、ゆっくり息を吐いた。 ぐぬ、とゆびが入りこんできたのがわかって目を瞑る。 「ふ、っぅ……」 最初のころのような痛みは薄れてきたものの、久しぶりなせいもあってどうしても違和感に戸惑う。 それでも徐々に入り込むゆびは優しくて、額に落とされるくちびるが嬉しくて顔を上げた。 気遣うような視線と目が合って、どうしていいか分からないくらい胸がいっぱいになる。 とりあえずこのままでいると内部を探られる感触に気を取られて加減が出来なくなりそうだったので、こいつの下肢に絡めていたゆびを離した。 行き場のなくなった手をしばらくうろうろさせていると、こいつ自身の手で背中に回させられたので遠慮なく抱きついた。 「ん、んっ」 中のゆびが動くたびに何だか不安になってヨシュアの胸元に額を押し付けると、柔らかな感触の布地からいい匂いがする。 ヨシュアの匂いだ、とおもうとやけにドキドキした。 どこもかしこも感覚がヨシュアに埋められていくようで、それが全然嫌だと思わない自分がとても不思議だ。 こんなに深く他人と関わりたいと思うなんて、あの頃には考えられなかった。 「痛くない?」 「あ……大丈、夫っ」 「怖くない?」 「う、うん……うんっ」 一生懸命力を抜きながら頷くと、ゆびが二本に増やされる。 圧迫感に息が詰まりそうで、でも受け入れたゆびは乱暴にならないようにゆるゆると優しく動くから我慢できた。 「あ、ふ……ぁっ……」 何度か重ねた行為を身体が思い出したのか中をぐるりと動く指に、すとんと圧迫感が軽くなる。 むしろ探る指先は優しくて、物足りなく感じる自分に気がついてものすごく恥ずかしかった。 「ん、んく……っ」 身体は正直なもので、そうなると勝手に腰が揺れてしまうのも止められない。 徐々に奥へと入り込むゆびに、身体が震えた。 「は……ぁ、よ、よしゅあっ」 「うん」 「ふ、んぅ……っあ、あぁっ……!」 首を振って腰が揺れる羞恥に堪えていると、ヨシュアの指が触れた箇所にびくりと身体が跳ねる。 何度されても慣れなくて、未だに少し怖い場所だ。 「よしゅ、それ、あっ……こ、こわ……ゃっ」 「でも気持ちいいでしょ?」 「あ、やっ、やあぁ」 ぐりぐりと容赦なく押されて、とにかくしがみついた腕にぎゅっと力を込めた。 ガクガク震える腰に、どうしていいのか分からない。 不安になって顔を上げると、珍しく困ったようなスミレ色と目が合う。 「もう、入ってもいいかな?」 「へ……? ぇ、あっ」 あまりにも耳慣れない言葉に、意味のある音で返せなかった。 「だめ?」 今度の言葉でようやく意図を理解できて、慌てて言葉を返す。 「だ、めじゃないっ」 「ほんとに?」 「いい、から……!」 何せこいつからこんなことを言い出したのなんて初めてで、動揺してしまった。 いつもなら俺がしびれを切らせて促すまで動かないくせに、今日は待てないってことだろうか。 なんだろう、なんだろうこれ。 うれしい。 「ふ……」 ずるりと抜けていく指に、惜しむようにひくつく内壁がものすごく恥ずかしい。 物足りなさに腰が動く。 「ネク君」 「ん、うん……っ」 押し当てられる熱い感触に、意図せず呼吸が荒くなった。 なんだか無性にこいつの顔が見たくなって、閉じたがるまぶたを持ち上げる。 「ヨシュ、ア」 「うん」 「好き、だ」 「そう」 「すきっ」 「うん」 返事の代わりに頬にキスされて、そのまま押し込まれた。 「あ、あぁっあ」 反射的に逃げようとする腰を押さえられて、割り広げられる感覚に勝手に声が出る。 いつも初めは痛いだけなのに、今日はそれだけじゃない気がする。 「は、ぅ……んく……っ」 どうやら全部おさまったようで、止まった動きに息をつく。 毎度ながら、もともとそのための器官でもないのにこいつを全部受け入れられる俺の身体は、なかなか大したものだなと感心する。 これでちゃんと気持ちよくできてたなら、尚更いいのだが。 「ん、んん」 なかなか動き出そうとしないこいつに、腰が勝手に揺れそうになる。 さっきの言葉も腹の中で脈打つこいつも、いつもに比べて余裕がなさそうに感じるのに、どうしてこういうときに限って自分勝手に動かないんだ。 いつもみたいに俺を振り回せばいいのに。 こういうところが俺を不安にさせてるんだって、こいつは分かってないんだろうか。 「ぁ、も……っヨシュア……!」 ぐ、と押し付けるように腰を動かすと、吐息で笑われたのが分かる。 不満に思って顔を上げると、困ったような表情と視線がぶつかってこちらが困惑した。 知らないうちに生理的な涙が浮いていたまぶたにキスされて、ゆっくり動かれる。 「は、ふゃっ……ぁ、あっ」 引いてはまた突き入れられて、すがりつくように抱きついた腕に力を込めた。 揺らがない確かな感触に、泣きたくなるくらい安心する。 「僕も我慢してるのにさ」 ぼそりと聞こえた独り言のような呟きに、首を傾げる。 「あ……な、にっ」 「ネク君がそんなだと、大人げないことしちゃいそうだよ」 「……? っひゃ、ぁ……!」 問い返そうと思う前に強く揺さぶられて、思考も何も熱と快感に巻き込まれてしまった。 あとは何度突かれたのか、白く焼ける意識と吐き出される熱い感触に身体を震わせて、ぼうっとヨシュアの顔を見上げる。 乱れた前髪がやけに色っぽくて、ドキドキした。 「……れば、いいのに」 なんとなく最中のこいつの言葉が頭に残っていて、ぼんやり呟いた。 「何か言った?」 額に張り付く髪を払うゆびはやっぱり優しい。それがなんとも悔しくて、はっきり言ってやった。 「大人げないこと、すればいいのに」 驚きに見開かれたスミレ色が、すぐに楽しそうな色をたたえて細められる。 くすくすと漏れる笑いにむっとしつつ、まぶたが重くなってきた。 「それは、また今度ね」 今度ってことは、これもまた約束なんだろうか。ちゃんと守る気あるんだろうな。 返事がしたいのに、こいつの体温も落ちてくる声も心地よくて、どんどん意識が沈んでいく。 「おやすみ」 柔らかく髪を梳く指に誘われて、そのまま目を閉じた。 ふだんよりも長居していったせいか、起きるとあいつの姿は既になかった。 枕元の充電器もからっぽだ。 上体を起こして、朝の(もしかするともう昼かもしれないが)光が漏れる黄緑色のカーテンをぼんやり見つめる。 相変わらずあいつは自分の痕跡を残すということをしなくて、部屋は何もなかったかのように綺麗なままだ。 「……」 ひとつだけ、じんわりと残る身体の痛みを噛み締める。 髪を梳かれる感触も、抱きすくめられた温もりもちゃんと覚えている。 でもこんなのは、気を抜けばすぐにでも失くしてしまうものばかりで、忘れないうちに早く会いにこい、と心のなかで呟いた。 あいつの髪を思い出させてくれる色のカーテンだって、きっとまたすぐに変わってしまうのだから。 20080613 →もどる |