※菘が絵茶で描いたドレスネクを見て高樹さんが書いてくださいました。



「もっと」
ヨシュアの声が遠い。すぐそこで出しているはずの声は甘い棘が見えて、ちくちくと柔らかく俺を刺した。
「……ぅ……」
「もっと、だよ」
俺は震える手で裾を持ち上げた。これが限界だ、「これ以上は、やだ……っ」
「どうして?僕のお願いなのに」
「はず、かし…から」
「見てるのは僕だけだよ」
小さな下着に阻まれた自分自身が痛む。太腿をしばりつけるガーターベルトはいつはじけてもいい。
そもそも、どうして俺はこんな格好で、どうしてこんなことしなきゃいけないんだ。
「……よしゅあ、やだ」
「こんなにしてるのに」
しゃがんだヨシュアの髪が揺れる。そんなところに膝つかなくてもいいのに。スカートは潜り込むものじゃないのに。
「ドレス、嫌い?」
身を包むドレスがイヤだとかじゃない。この格好に抵抗はなかった。そんなこと言ってる時点で、もう逃れられないのはわかっていることだ、けど。
「ちがう、そんなんじゃっ」
びく、とカラダが勝手に動く。撫でられた股間のふくらみが痛みを堪えるように跳ねた。
「可哀想だね、こんなにぎちぎちで」
「っ、やぁっ」
「もっと持ち上げて、じゃないと僕が隠れちゃう」
指先ががくがくする。意に反してじゃないと持ち上げられそうにないふわふわのスカートを持ち上げて、ヨシュアの望むままに、と足を開いた。
「さっき、出したのにねぇ」
「っ…ぅ、や、ぁ」
蕩ける腰を支え、ヨシュアは再び俺の敏感なところをゆるりと撫でた。それだけで反応してしまうカラダが憎らしくて、こんな俺は本当じゃない。
指先が動いた。
「……うぁ、ふぁっ」
「ほら。まだ足りない?」
ちいさな下着をはみ出してとろとろと先走りを溢れさせる俺のこと、ヨシュアは楽しそうに見ていた。
「もう一回出しとこうか」
「え、……まさか、…よ、よしゅあ…っ!」
決断も何もないまま、立ち尽くすだけの俺にヨシュアはそのキレイな唇で俺を蹂躙し始めた。
「っあ!ふぁ、や、ダメぇっ」
「……いいよ、手、離して」
そんなこと今更できるはずない。逆にどこかをしっかり捕まえていなくてはこんなの立っていられない。
薄く瞼を開ける先、白く広がるベールが見えた。純白で、キレイで、全てをうっすらと隠すように薄靄みたいに。
「…っや、だぁ、やだ、ヨシュア、ゆるし…ぇう、もぅ、離し…っ」
「出しておかないと、ツラいのはこのまま行くネク君なのに」
それはそうだけど、ツラいままこんな格好で結婚なんていう気持ちにならないけれど、こんなこと、しちゃダメだ。
「でも、こんなの…っ」
やだ、なんて何度言うかわからない言葉を舌に乗せたとき。
とてもこの場には合わない、不快な携帯音が響いた。
「誰だろう、ネク君出てくれる?」
鳴っていたのは残念なことに、俺の立つ場所に一番近いテーブルの上に放置されたヨシュアのオレンジ色のケータイだった。
「や、だ……」
「出てよ」
「離して、くれるなら…っ」
ヨシュアは何も言ってくれない。震える右手は裾を落とし、俺は唇の震えが止まらないままヨシュアのケータイを手にした。
着信のメッセージと、相手の名前が見える。どうしてこんなときに。どうしてこのひとなんだ。
「よしゅあ…」
最後の頼みとばかりに口にした名前は返事もない。

「もしもし…?」
『あれ、ネクか』
「いま、ヨシュア、忙しくて」
俺を甚振ってます、なんて羽狛さんに言えるはずない。
「だから、あとで、……かけるように、言っとくっ」
じゅ、と吸い付く音が怖い。響かないように、そっちのほうに神経が飛んでて、強く俺を甚振る熱は二の次だ。
追い込むような、自分のナカの熱が波と変わった。
『ああ、たいしたことじゃないから別にいいが』
早く、羽狛さん、早く切らせて。
「ど、どしたの」
広げられた下肢、そこを滑るうごめくなにか。後孔に細いなにかが当たって「ひう」と溜められない声が漏れた。
『風邪、か?なんか声荒いようだが』
やばい、声に出てる。当たり前だけど、荒げた声を平静になんてできるはずない。
「そんなこと、ない」
当然だ、風邪じゃないんだもの。大丈夫、まだ、ガマンできる。ドレスのおかげでヨシュアの顔は見えないけれど、そこまで意地悪じゃないはずだもの。
『そうか…まぁ、ヨシュアによろしく言っといてくれや』
「っ……う、ん、わかった、ありが……とっ」
カラダのナカで、ヨシュアのゆびが暴れてる。ぐちゅぐちゅと響く水音はここまで届いてない、ぜったい。
「んじゃ、また、ね」
『ああ』
叩き切るようにボタンを押し、俺はケータイを投げるように置く。壊れても構わない、こちらがコワレそうなんだ。
「っ…よしゅ、あ、やめ、ばかぁっ!」
同時に声も叩き付け、立ち上がるヨシュアの姿に怒りのような、中断されたせいでの胸の燻りみたいなものが俺を蝕んだ。
「羽狛さんでしょ?ならいいじゃない」
いいことなんか何一つない。
「いやらしかったよ、声」
べとついた口元を拭い、ヨシュアは小さく舌を出した。
「さ、もう時間ないからね」
時計をちらりと見て、自身の乱れを直したヨシュアは、髪をさらりと流してからもう一度俺に向き直った。
これで中断か、これでもう終わりなのか、俺は開放されてしまったのか?
「……ヨシュ」
「わかってるよ」
見つめるヨシュアの瞳の奥に、頬を紅色に染め、淫らに舌を薄く出した俺が見える。
抱きついた耳元で、これからのリハーサルなのかといわんばかりの声色が、俺を耳から溶かしていく。
「ネク君のしたいがままに」
太腿を伝うものの感触に促されるように、俺はこれからの望みをゆっくりと口にした。


end.


高樹さんからいただきました。ありがとうございます!