「ネク君。プリン食べたい。」

なんて言われたので、俺はベッドから身を起こした。
なんだかんだでゴロゴロしてただけだから俺が行ってくる、と靴を履く俺に、ヨシュアは寝転んだまま、指さきをくるんと動かした。
「?コンビニ行くだけだよ」
ヨシュアの指の動き、俺にもよくわからない仕組みだけど、あちらのせかいと繋げるためのジュモンみたいなもの、らしい。
つまり、観音開きの扉はこの瞬間、あちらのせかいに繋げられたということだ。
「彼らのことだから、今は多分いないはずだよ」
「……取ってくるの?」
盗んで来いってことだよな。あっちのせかいの俺から。
頷いて笑うヨシュアに見えない手で背中を押された俺は、それでもヨシュアが喜ぶなら、ととびらを開いた。
簡単に開くってことは、向こうのヨシュアも鍵をかけてないってことだし。
「ごめんね、ネク」
許してくれるはずのない向こうの俺に少しの諦めを含んだ独り言を残し、溢れた眩い青に目を細めた俺は、意を決してとびらをくぐった。

「いらっしゃい」
案の定、いるし。しかも、あちらのヨシュアだけ。まるで俺が来るのを知ってたかのように余裕綽々の笑顔が怖い。
「お、お邪魔します」おずおずとフローリングに足をつける俺の手を取り、「はい、これでしょ?」冷たい手で渡されたプリン。
「え、なんで」
「なんでだろうね?」
ヨシュアはクスクス笑う。すべてお見通しというわけかな?
「あり、がと」
「あっ!」
あ、見つかった。
「こら、バカヨシュア!なんで勝手にやるんだよ!」
万事休す、俺は近づくネクに、素直に頭を垂れた。

ほっぺ痛い。
「お帰り、プリンは?」
「う〜……思い切り引っ張りやがってぇ」
お仕置きと称して、ネクにほっぺ引っ張られた。両方のほっぺが痛くて熱い。
「あれ、二人とも家にいたんだ?せっかくの日曜日の昼からいるなんて、渋谷の経済に非協力的だなぁ」
「プリン買って帰ってきたばかりだって……」
気持ちはわかるけど、プリン1個であんなに暴力的にならなくてもいいじゃないか。
「ツイてないね」
そう言って、俺の手からプリン持ち上げたヨシュアは既にスプーンを手にしてる。
「新製品だね。いただきます」
スプーンで掬ってつるんと吸い込むヨシュアの横で、痛みの治まってきた頬を撫でた。
あちらのヨシュアが新製品をくれたってこと、ネクは気づいてないといいけど。
「あれ、ネク君は貰えなかったんだ」
「あ、うん。1個なら、ってくれたから」
「はい、あーん」
同時に突き出されたスプーン。の上でふるえるプリン。
「え、え!?」
鼻先の甘い固まりに狼狽してると、
「早くしないと落ちるよ」
「あ」
ぽたん、落ちた。
「う、あ、ゴメンナサイ」
膝に落ちたプリンを拭おうと腕を伸ばしてティッシュを取る俺より早く、
「勿体ないなぁ、ネク君トロいんじゃない?」
ヨシュアが動いてた。
「う、え、ヨシュ」
膝を汚すプリンを舐めとられた感覚に、呼吸すら出来ない。
ヨシュアが、俺の膝舐めた?
「ほら」
ぺろりとくちびるを湿らせたヨシュアか近づく。
夢なら覚めた方がいい。今までそんなことなかった。当たり前だけど。
「ぅ、あ、えっ」
言語不能に陥った俺の頬を捕まえたヨシュアが悪戯の目をした。それが理解できるほど今の俺は落ち着いてないのに。
数秒間の口づけ。
「ごちそうさま」
溶けた甘さが口の中に広がる。なに、これってプリンの味?嘘だろ、なんて頭の中がぐるぐるする。
きっとこれは甘い毒だ。じゃなければ、こんなにフラフラしない。
「よしゅ」
「おいしかったでしょ?」
ヨシュアが笑う。とろける甘い笑顔で。
頷く俺の頭がふわふわする。

口に残るヨシュアの甘さはとろりとしてて、残された俺はふわふわした頭で呆然と時を流してる。

とろふわ……?ふわ、とろ?



ヨシュアさんが音操に優しいと心がほっこりするのはなぜですか。
高樹さん、ありがとうございました! 20081106