※性描写を含みます。ご注意ください。




 ヨシュアの愛情表現はわかりにくくて、ホントは俺のことなんてどうでもいいんじゃないかと思えるような行動を平気でする。
 俺のことすきって言ってくれたのを俺はちゃんと信じてるし、ヨシュアにしては特別だと言ってもいいくらいに態度で示してくれているのは分かってはいるのだけれど、それはあくまで『ヨシュアにしては』という括りに収まるわけで、一般論に照らし合わせてみると、いかんせんそれにしてはあまりにも俺の扱いがぞんざいではなかろうか。
 今回のこれ、とか。
「あ」
「うっ?」
 ピリリリ、という聞き慣れた電子音がして、ヨシュアの胸ポケットから響いたそれはケータイの着信音だと考えなくてもわかる。何もこんなときに鳴らなくてもいいのに、なんて普段なら絶対に思わないのだけれど、今は耳障りなその音が心底憎かった。
 なぜなら、ヨシュアは俺をベッドに押し倒して、滑らかなゆびでシャツのボタンを外しながら俺の胸を肌蹴させている真っ最中だった、から。
「ごめん、仕事の電話だ」
「あ、う、うん」
 ぱか、と開いたケータイの画面を見て、特に落胆した風もなく淡々と告げられたヨシュアの言葉に、俺はただ頷いてみせるしかない。
 そのまま俺の上からもベッドの上からも下りて、もしもし? なんて言いながら向こうの部屋へと消えて行く背中を、ベッドに倒れこんだような間抜けな体勢のままでじっと見送った。
 今日はいつものように週末のお泊りで、ヨシュアの部屋に来ている。もうここへ足を運んだのは何度目かもわからないほどだけど、勝手知ったる、とまでは行かず、だだっ広いヨシュアのベッドの上で身を起こすと、ぽつんと所在無く座り込むしかなかった。
 仕事の電話だからもちろん出るななんて言えないし、言うつもりもないけれど、どうしてヨシュアはあんな平気な顔で俺に触るのをやめたりできるんだろう。
 触れていたあたたかな体温が離れてしまったというそれだけで今、俺は泣き出したくなるくらい切ないのに。
 ヨシュアがいやらしい声で名前を呼んだり、やわらかいくちびるで何度も生々しいキスをしたりするものだから、こちらとしてはもう既に隠しようもないくらい臨戦態勢だったのだ。
 こんな状態で放り出されるなんて考えてもいなくて、張り詰めた下腹部がずきん、と痛む。
「ん……く……」
 しばらく座り込んでヨシュアが戻ってくるのを待っていたのだけれど、俺とヨシュアの時間を邪魔する憎らしい電話はどうやら長引いているらしい。そう何分も経っていないはずなのに長く感じるのは、単に俺の体感なのだろうけれども。
 ヨシュアの手で肌蹴られた胸元が寒くて、でも勝手にボタンを留めてしまうのもどうかと思うとどうすることもできずに、ただぎゅっと強く服の布地を握った。
「ふ……ぅ、よしゅ、あ」
 気づけば、身体の疼きを抑えるために下肢に宛がっていた手が、別の目的を持ってゆるゆると動き始めてしまっている。既に熱を持ち始めているそこを意図的になぞると、ぴくん、と腰が跳ねてしまうほどに身体が過敏になっていて、好き勝手に動くゆびを自分の意思で止めることができない。
 ヨシュアを恋しがって火照る身体と、ヨシュアが戻ってきたらどうしようと焦る気持ちが頭の中でもうぐちゃぐちゃになってしまっていて、もはや我慢のきかなくなってしまった手を恐る恐るベルトにかけた。
「何してるの?」
 その瞬間頭の上から降ってきた声が信じられなくて、何が起きたのかわからずに一瞬身体の全ての動きが止まる。
 呆然としたままのわけのわからない頭でのろのろと顔を上げた先には、不思議そうに首をかしげて佇むヨシュアの姿があった。
「へ……あっ、う」
「今、何しようとしてたの?」
 たおやかな白い手にはもうケータイは握られていなくて、先ほどまではあんなに早く終わって欲しいと思っていた通話が済んだのだと気づいたけれど、そのまますとん、と俺の隣に腰掛けるヨシュアの無垢な表情を直視することができない。
 がたがたと情けなく震えだす身体を、ヨシュアはどんな瞳の色で見つめているんだろう。
「べ、べつ……に……な、なにも」
「ホントに? ……うそつき」
「っ」
「自分で触ろうとしてたでしょ。ねえ」
 すぐ傍から注がれる冷めた視線に耐え切れなくて、逃げるようにヨシュアの身体に身を寄せると、いい匂いを振りまくその肩口にもたれて頭を押し付けた。
「や……ぅ、く……ごめ、なさ」
「僕がいるのに? どうして?」
 俺がもたれかかってもヨシュアは逃げるような素振りすら見せず、ただ淡々とした声音のまま冷静に俺のことを観察しているかのようだ。
「そんなにひとりでしたいならいいよ、見ててあげる」
「や、だ……っ」
 ヨシュアの言葉に反射的にふるふると首を振りながらも、言葉とは裏腹に止まらない手がいつのまにかかちゃかちゃと音を立ててベルトを外していて、下着の中に潜り込ませてから、きゅ、と形を成している屹立を握る。
「ち、ちが……ぁ、だ、だって、ヨシュア、が……っ」
 はぁはぁと荒くなった息でヨシュアの肩口のシャツが湿るのを感じながら、既に漏れ出した先走りがゆびに絡む音がくちゅくちゅと響くのを聞いて、眩暈がするような羞恥にじんわりとまぶたが熱くなった。それでも動きを止めない俺の手をヨシュアはその冷たい瞳で見つめているのかと思うと、より一層身体の疼きが強くなる。
「なあに、僕がなにをしたの? その手は、どこにあるの?」
「ぅ……く、っふ、ぇ……」
 元々はヨシュアが電話で俺を放り出したのが悪いのに、そんなのはどこ吹く風と言わんばかりに続けられる詰問は、じわじわと俺の頭の中を焼いていった。洋服の中で窮屈にしか動けない自分の拙いゆびにすら、びくん、と大げさに身体が跳ねてしまう。
「よ、ヨシュアが、してくれない、っから……おれ、じぶん、で……っ」
 酸素を求めて喘ぐたびに鼻腔をくすぐるヨシュアの匂いに、動くたびに耳や頬にかかるヨシュアのやわらかな髪の感触に、ぐずぐずと蕩け始める思考を止める術なんてこの部屋のどこにもない。
 ただ今は俺の身体のどこにも触れずにシーツの上をそっと撫でているヨシュアの優雅な指先が、たまらなく恋しかった。
「また僕のせい?」
「んんぅ……ふ、ゃ……」
「そんなに言われるのもイヤだし、ネク君も辛いだろうから、そのままずっと自分でしてればいいよ」
「やっ、あ……!」
 ふぅ、と肩を竦めたかと思うとそのまま立ち上がろうとするヨシュアに驚いて、咄嗟にその細い身体を包むシャツの裾を掴んでしがみつく。ヨシュアが本気で振り払おうと思ったら俺なんてどうやっても敵いっこないのだけれど、今のヨシュアはきっとただ俺のことを嬲って、楽しんでいるだけなのだ。
「やだ、ヨシュアっ……やだぁ! うぅ……行っちゃ……やだ……」
 しがみついた場所から伝わるヨシュアの体温にもういてもたってもいられなくなってしまって、そのままの勢いで腕の中の身体を広いベッドに押し倒した。
 シーツの上でとさ、と花びらが落ちるような軽い音しかしないヨシュアの身体に、羽をなくした天使を地上に落としてしまったかのような錯覚すら覚える。
「ふぅん?」
「ごめ、なさい……よしゅ……でも、おれっ、おれ、ぇ……」
 はくはくとうるさい息遣いをヨシュアの骨ばった首筋に押しつけながら、手探りで腰回りの細いズボンのウエストを探した。指先に冷たく当たるバックルをもどかしく外してから、下着ごとずらしてまだやわらかいヨシュアの性器をそうっと取り出す。
「は、ふ……ぅ、く、おれ、した、い……したい、の……!」
「そう」
「んく、んん……しゅあ、よしゅあが……ほし、ほしいよぉ……っ」
 身体をずらして手にしたヨシュアの性器にちゅ、と口づけてから、今にもだらしなくよだれを垂れてしまいそうな口内にその熱を迎え入れた。
 ぺちゃ、ぺちゃ、と音を立ててしゃぶる俺のことを、ヨシュアはやっぱり冷静な顔で見つめてる。
「これが、欲しいんだ」
「んんぅ、ぅく、はふ……あふ、んちゅ、うくぅ……」
「だらしない顔して、夢中でしゃぶりついちゃうくらい」
「はぁ、はふ……んく、ぅ……ほし、れふ……うぅ」
 何度もしつこく唾液を絡めて舌とくちびるで愛撫を施すうちに、びく、と口内で脈打つ程度に勃起したヨシュアの屹立の熱で、否が応にも高鳴る胸を抑えることなんてできない。
 気づけば、情けなくずり落ちた自身の下着を避けて下肢を弄くっていた右手は、するすると会陰を滑って後孔へと指先を埋めていた。
「んく、ん、ふぅ……よしゅ、ふゃ、あふ、んん……っよひゅ、ぅ」
 ヨシュアをちゃんと迎え入れることができるように、ヨシュアに負担をかけないような形になるまで何度も内部をこねくり回したけれど、徐々に広がる粘膜の感触にもはや俺の身体は限界だった。
「ぷはっ……はぁ、はふ、あふぅ……よしゅ、よしゅあぁっ」
「なあに」
「お、おれぇ、もぉ……らめ、から……いれる、から、ぁっ……」
 ずりずりと身体を持ち上げて、なりふり構わず後孔にヨシュアの熱を押し当てる俺を見て困ったような笑いを漏らしながらも、ヨシュアは拒むような素振りは見せず、優雅な動作で持ち上げた手でそっと優しく額に貼り付いた前髪を払ってくれる。
「僕に拒否権なんかないくせに」
「ふ、ぁ……あ、はぁ、あぁ……っ!」
 流れてくるヨシュアの声に頭の中を掻き回されながらゆっくりと腰を落とすと、入り込むヨシュアの温度に一瞬頭が真っ白になった。
 みちみちと粘膜を掻き分ける性器の太さと硬さに、あまりに過ぎる快感でがちがちと歯の根が合わなくなる。
「ひ、はぁ……あふ、はう、ぅ……しゅあ、よひゅあぁ……っ」
 それでも閉じられないくちびるからだらだらとよだれをこぼしながら、身体は勝手にヨシュアのものを内部に擦りつけるようにして、大きく動いていた。
「う、ぁ……ふかぁ、い……や、あ、おく、あたってる、ぅ、よぉ……!」
「っ……ね、くくん……そんなに、締めたら、いたいって、ば」
「ごめん、なさ、ぁい……っで、でもぉ……あふ、おれ、とまんな、よぅっ」
 ぱんぱんに張り詰めた俺の屹立は、今にも射精してしまわないのが不思議なくらいはち切れそうになっていて、断続的に襲い来る絶頂の波を涙声でうったえる。
「ふぇ、え……ごめ、なさ……おれぇ、も、でちゃあ……っいっちゃ……」
「……っ、へぇ? 自分勝手に動いて、僕だけ置いてけぼりにして、一人だけでいっちゃうん、だ……?」
 ヨシュアの屹立が粘膜を擦る度に気がふれてしまいそうなほどの快感が走って、べそべそと泣きじゃくりながら必死で意識を保とうとヨシュアのお腹に置いた手で爪を立てた。
「ごめ、ぇ、らさっ……」
「んっ……これくらいで、出しちゃうの? ネク君、こういうのも、すきなのに」
「へ、えっ……あ、あぁ……っ!」
 それまで大人しく脇に落とされていたヨシュアの手がゆっくりとお腹をなぞって胸へと滑らされると、ぎゅ、っと赤く硬くなった乳首を強くひねったまま、反対の手でわななく腰を捕まえて、ずぐ、と痛いくらい奥まで強く突き上げた。
「やあぁ、あぁぁ……!」
「自分のことなのに、ネク君がキモチイイところ、知らないんだ……?」
「だめ、へぇ……らめえぇ……っ! それぇ、あひ、はふ……やら、やらぁ……!」
「フフ、僕しか……知らないんだね?」
 そのまま少し腰を持ち上げて浅いところまで抜かれたかと思うと、今度は硬い先端で何度もしつこくお腹側の壁を抉られて、ひぐ、とヘンな音が喉からひっきりなしに漏れてしまう。
「やあぁ! あ、はひ、やぁ、なのっ……それ、やめぇ、やめ、へぇ……っ!」
「僕がいないとこんな風にキモチヨクなれないなんて、かわいそう」
「れちゃ、れちゃぁ、のぉ……! よしゅ、よしゅあ、よしゅあぁっ……」
「うん、いいよ? 勝手にいったら?」
 突き放すような声音に嬲られながら深く内部を抉られて、張り詰めていた俺の性器は呆気なく射精してしまった。
 びゅく、びゅく、と震えながらヨシュアの腹を汚す俺の一部始終を、すう、と細めた目でじっと見つめているヨシュアの視線に、情けない涙がぼろぼろとこぼれる。
 それでも、ゆっくりと横たえていた身を起こしながら、ひ、ひ、と嗚咽を漏らす俺の背中を撫でてくれるヨシュアの手は、どうしようもなく優しかった。
「ご、め……なさ、い……っ」
 ヨシュアの言葉通り、自分本位に動いて勝手に達してしまった罪悪感から咄嗟に謝罪を口にすると、冷たいはずの青紫の瞳は優しく慈愛に満ちた色で微笑んでいる。
「いいって言ったでしょ?」
「あ、う……」
 ふんわりと微笑みながらぺろりとくちびるを舐めるヨシュアの舌に、抵抗しようなんていう頭もないまま従順に口を開いた。
 つるりとした歯でついばむようにやわらかく下くちびるを食みながら、ぬるぬると口内に入り込んだヨシュアの舌に口腔を犯されて、くちゅ、と濡れた音が響くたびに、どろどろと身体の端っこから溶けていってしまいそうなほどの快楽を唾液と共に流し込まれる。
「んく、ん、んくぅ……あは、ぅ」
「ん、っ……」
 繰り返されるその行為に何度かこくりと喉を鳴らしてヨシュアの唾液を飲み込むと、ゆっくりと離れたくちびるに、はふ、と息を吐く俺を、ヨシュアは濡れたくちびるで微笑みながら楽しそうに見つめていた。
「その代わり」
「ふ、ぁ……?」
 細められた視線に身体中を嬲られながら、濡れた声音で囁かれるお願いに抗うことなんて、今もこれからも、俺にはとてもできそうにない。
「今の分と、ネク君がこれから出す回数分だけ、僕もいかせてね?」
「え、あ……う……うっ?」
「ね……?」
 再び優しくくちびるを食みながら、ゆっくりと動き出すヨシュアに俺はもう全てを投げ出してその手に委ねてしまったのだけれど、俺はぐずぐずになった頭で失念してしまっていたのだ。
 いつもヨシュアが達するまでに何度も射精してしまう俺が、同じ分だけヨシュアをいかせるためにどれだけ緩慢な責めを延々と繰り返されることになるのかということを。
 真綿で首を絞めるように執拗な愛撫を施されて、何度許しをせがんでも快楽から解放されることなく泣きじゃくることになるなんて、そのときの俺の頭では想像することすらできなかったのだけれど。


「あ、メール」
 ヴー、ヴー、と微かな振動とわずかばかりの着信音が寝台を揺らして、脱ぎ捨てられたハーフパンツのポケットに入っているはずの携帯に手を伸ばした。
 のに、身を起こそうとする俺をヨシュアの手が難なく捕まえてしまって、そのままベッドの中に、というよりヨシュアの腕の中に引き戻される。
「あ、う」
「寒いから離れないでよ」
「で、でも、メール」
 ゆるりと髪を梳く手が耳の後ろをなぞる感覚にぶるりと肩を竦めながら、もごもごと口にした言葉でさえなけなしの抵抗にもならないらしい。
「何か急ぎの連絡?」
「へ……あ、や……知り合いの着信音じゃない、から、メルマガかなんかだと思う、けど」
 頻繁に連絡を取り合う相手がいるわけでもなく、そもそもそんなにひっきりなしにケータイが鳴るほど、自分が社交的ではないのはヨシュアも知っているのだろう。
 唯一頻繁と言っていい程度に連絡を取り合っている相手は、今まさに目の前にいるわけだし。
「じゃあ、いいじゃない。僕もう疲れちゃった、眠いよ」
「う……う、ん」
「今日は寒いから、もっとぎゅってしてて」
 仕事絡みとはいえ行為の途中で放り出されてしまった俺と、ただ二人でごろごろとベッドでじゃれているだけの今メールを確認させてももらえない俺と、この扱いは一体なんなのだろう。とは義務的にちょっと思ってはみるものの、さほど嫌に感じていない俺は、これがいわゆる惚れた弱みというやつなのかもしれない、などとどうでもいいことを考えた。
 いつも通りのキレイな顔にすました表情でそんなわがままを口にするヨシュアへ、文句の一つも言ってやろうかとちょっとだけ思わなくもなかったのだけれど。
「うん、ヨシュア……おやすみなさい」
「おやすみ」
 散々ヨシュアに弄ばれて求め合った身体はもうくたくただったから、素直にあたたかな胸に顔を押しつけて、言われた通りにその身体をぎゅっと抱き締める。
 そうするとヨシュアは飼い犬を愛でるように頭を撫でてくれて、骨ばった手のひらの優しい感触が嬉しい。
 ヨシュアの体温と匂いに包まれながら、明日は二人で何をしようかというしあわせな想像に胸を高鳴らせて、ゆっくりと押し寄せてくる眠気に身を任せた。


高樹さんとのメッセからネタいただきました。ありがとうございました! 20100120

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