「おまえみたいな、ウソツキ……!」
 散々俺のこと騙して、欺いて、利用して、煙にまいて。
「おまえなんか、知らないっ」
「うん」
「おまえは、ウソ、つくから……っ」
「うん」
 優しいスミレ色。あのときと、同じ色だ。
「でも、ネク君はそんなウソでも信じてくれるんだよね。僕のこと」
 違う。そんなの、ちがう。
「信じてなんかない! お、まえのこと、なんか……信じてっ」
 勝手に涙が出てくる。こいつの前だと、俺の涙腺は壊れたようになってしまって、どうしていいのか分からない。涙なんか見せたくないのに。
 ただの気まぐれで、こんな簡単にまた姿を現したこいつになんか。
「気まぐれじゃないよ」
 嘘吐き。
「ネク君に会いたくて、来たんだよ」
 うそつき!
「っんなの、誰が……信じたり、なんか……」
 ヨシュアのくちびるが、俺のくちびるに降りてくる。優しくて温かい感触。
 決して強引ではなくて、優しくて、気持ちよくて。こんなの、ヨシュアが初めてで、どうしていいのかなんて分かるはずない。
「や、めろよ……またそうやって、誤魔化して……!」
 あとからあとから溢れて、涙が止まらない。
「誤魔化してなんかないよ。ネク君が、泣いてるから……」
 困ったように笑う顔。ヨシュアのウソの境目が、ますます分からなくなる。
「嘘吐き!」
「ウソじゃないってば。嘘吐きは、ネク君の方だよね?」
 びく、と、ヨシュアに掴まれた手首が跳ねた。
「嫌なら、僕の舌でもなんでも、噛み千切るのくらい簡単なことなのに」
「ち、が……」
「口ばっかりで、ホントは僕のこと待ってる。ずるいよね」
 ぺろ、とヨシュアの舌がくちびるをなぞる。濡れた感触に、大げさに身体が震えた。
「ぅ、やっ……」
「僕は、ネク君が好きだよ」
 する、と手首を拘束していた力が解けて、ヨシュアの腕が俺の背中に回る。
「う、そつき……っ」
 ぎゅっと抱き締める力は強くて、痛いくらいで。
「嘘吐きでもいいから」
 でも、身じろぎするだけで腕は簡単に緩んで、それから優しく包み込むみたいにされて。
「今、ネク君のことを抱き締めてるのは僕だよ」
 ヨシュアの匂いがする。もう二度と聞けないと思っていた声が、耳元で鼓膜を震わせる。
「俺はっ」
 おまえみたいな、ウソツキなんか。
「おまえなんか、大っ嫌いだ!」
 こんな風に優しく抱き締められては、もう振り払うことなんてできないのに。


20090506

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