少し肌寒さを感じて、目が覚めた。 億劫に感じながらも重いまぶたを持ち上げると、胸元に寄り添っているネク君の栗色の頭がすぐに目に入る。 そのまま視線をずらしていくと、肌寒さの原因に辿り着いた。恐らく寝ている彼が蹴りとばしてしまったのだろう、掛布団が大きく捲れてしまっている。 自分はそれでも身体半分程度めくれただけで済んでいるけれど、ネク君に至ってはもはや足先だけしか布団に入っていない。春先とはいえまだ夜は冷えるのだから、こんな状態では確実に風邪を引いてしまうだろう。 布団は蹴り飛ばしてしまったくせに、自分の身体にぴたりと寄りそって離れる様子のないことに思わず苦笑する。このまま朝を迎えることにならなくてよかったと思いながら、改めて跳ね退けられた布団を掛け直した。 掛け直すついでに寝乱れた栗色の髪を梳いていると、むずがるように身じろぐ様子がなんとなく小動物っぽく感じる。起こしてしまっただろうか。 「ヨ、シュ」 薄く開かれたまぶたから覗く青い瞳は、まだぼんやりとまどろんでいて覚醒には至っていないらしい。 「なん、か、寒い……」 「うん、ごめんね」 布団を蹴り飛ばしたのはネク君自身なのだから僕が謝る必要はなかったのだけれど、なんとなく反射的に口にしてしまった。まあ起こしてしまったことに対する謝罪ということで。 温かさを求めて伸ばされる細い腕を受け止めると、冷えた身体ごと包み込むように柔らかく抱き締めた。 もぞもぞと腕の中で身じろいだり、僕の身体に顔を擦り付けたりする彼はまるでよく慣れた飼い犬のようだ。そうすると安心したのか、また静かに寝息を立て始めた彼にほっと息を吐く。 腕の中の小さな生き物が僕を頼って、甘えてくることはとても好ましく、愛しく思う。 人間ってこんなだったっけ、とか、僕って案外まだ人間くさいところもあるんだなー、とか思ったりする。 いつでも少し無防備なくらい、まっすぐに僕に向き合ってくれる彼と接しているうちに、姿を偽っていることは彼に嘘をついているようで卑怯な気がしたので、最近は子どもの姿をとることをやめた。 けれど、改めて今の姿で彼を抱き締めてから分かったことは、ネク君は本当に細い。見るからに痩せっぽちだな、とは思っていたけれど、実際己の腕の中にいる彼を見るとあまりの頼りなさに抱き締めることすら憚られる。 そんな彼に無体を強いることになる性行為は、今の姿では渋るなという方が無理な話で、かといって最近は子どもの姿でいると怒られたりするのだから敵わない。 低位同調をすると多少の負担がかかるというのを、うっかり彼に漏らしてしまったのはやっぱり失敗だった気がしてならなかった。 だから、今日のように強請られると僕には困る以外に術がなくて、それを彼が不満に思っていることはよく分かっているし、そりゃ自分だって応えられるものならいくらでも応えてあげたいのだけれど、世の中そう上手くはいかないのだ。 「大事にするのって難しいねぇ」 ぼんやりと呟いてみても、唯一言葉を受け止めてくれるであろうネク君はとっくに夢の中である。 僕に大事にされるのが嫌なのだとネク君は言う。けれど、それなら多少は僕のネク君を大事にしたい気持ちも分かってほしいなあ、と思ってはみても、やはり子どもの我侭に大人は叶わないのだ。 細い腕でぎゅうぎゅうと僕にしがみつく彼を、僕はとても愛しく思う。 でも、だからこそ大事にしたい気持ちと求める気持ちとで多少の葛藤があることを、いつか彼が分かってくれればいいのだけれど。 「早く大人になって、ね」 まあそれまでは、子どもに振り回されるのはオトナの役目ということで。 20090408 →もどる |