※高樹さんの作品『KISS TO KISS』から、わたしが勝手に妄想しただけですのであしからず。




「ヨ、シュア……っ」
「ん……?」
「も、起きないと……ん、んぅ」
「あともう少しだけ」
「や、ぅう」
 ヨシュアにしっかりと腰を抱き込まれた状態で繰り返されるキスは、すぐにでも身体に変化が起きてしまいそうで気が気じゃなかった。
 先ほど俺がしていたキスとは違って、ヨシュアは何度も口内に舌を潜り込ませて、しつこく絡める。
 起き抜けでかさついていたはずのくちびるはとっくに唾液まみれになっていて、時折視界に入る濡れた色がものすごくいやらしい。
「ふ、ん、んぅ……ゃ、ら……よひゅ」
「ネク君が朝から可愛いことするから……遅刻したくてわざとしてるの?」
「ひ、が……ちがうぅ」
 しつこく絡められて痺れた舌が離れると、ぴちゃ、といやらしい水音がして思わず目を閉じた。
 それでもくちびるは離れずに、さっきのお返しのように下唇を食んだり口端を舐めたりする。
 そのたびにじん、と頭の奥が熱くなって、抱きしめられた腰をヨシュアに擦り付けた。
「じゃあ、どうして? いつもネク君からなんてしてくれないのに」
「ん、んっ」
 ぺろ、と上唇のふくらみを舐められただけで身体が震える。
「ね、どうして?」
 くちびるからくちびるに注ぎ込まれるヨシュアの声は甘い猛毒のようで、従わなければじわりと広がって今すぐ死んでしまいそうだった。
 目の前にあるのだろう青灰色を見ることなんてとてもできない。
「よしゅあ、の……」
「うん?」
 甘く囁く声が濡れたくちびるを撫でるのが我慢できなくて、ゆるゆると首を振って逃げようとする。
 けれどすぐに顎を捕まえられてしまって、触れるか触れないかの距離で固定された。
「く、ちびるが」
「僕のくちびるが……?」
「……、っ……」
 お互いが喋る度に微かに触れ合う感触がじりじりと身を焼くようなのに、ヨシュアのゆびは許してくれない。
 泣きそうになりながら、濡れたくちびるに囁いた。
「や、らかそうだった……から……」
 わずかなまぶたの隙間からでもヨシュアの青い炎に焼かれてしまいそうな気がして、何も見えないようにぎゅう、と目を瞑る。
 そうすると、ふ、と吐息が皮膚を撫でた。笑った、のだろうか。
 あやふやな頭で考える暇もなく、ちゅ、と一度だけ音を立ててくちびるを触れ合わせると、ヨシュアは身を起こした。
「そろそろ起きないと遅刻しちゃうね」
「ヨシュア……?」
 突然離れた体温に困惑して、そろそろとまぶたを上げる。ヨシュアの冷たい色のはずの目が、今は困ったように温まって見えた。
「このままだと、遅刻じゃ済まなくなりそうだから」
「!」
 落とされた言葉に熱くなった頬は、ヨシュアの顔に枕を押しつけることで何とか隠した。


 自分からそう言って離れたくせに、顔を洗っている間も着替えている間も、朝食を準備している間もヨシュアは離れなかった。
 それどころか隙を見ては頬やら額やらにキスを寄越すものだから、気が気じゃない。
 とてもじゃないけど料理になんて集中できなくて、味噌汁を盛大に沸騰させてしまったのはヨシュアのせいだ。
 それでもなんとか弁当を詰めて鞄に入れ、玄関まで漕ぎつけたというのにヨシュアはまた意地悪な顔をしている。
 今日はヨシュアはゆっくりで、俺が先に出る日だから見送られる立場だ。そわそわと靴を履いて、ヨシュアと向き合う。
 いつもならヨシュアの方からキスをしてくれるのに、やっぱりただ微笑んでいるだけの青灰色が憎らしかった。
 ヨシュアはずるい。ベッドを降りてからもずっと俺につきまとっていたくせに、あれからくちびるへのキスは一度もくれなかった。
 今の俺がヨシュアのくちびるにキスしたくてたまらないんだって、分かっていて何もしてくれないのだ。
「ネク君、いってらっしゃい」
 悔しい思いをするばかりなのに、そうやって優しい声で促されたらもう逆らったりなんてできない。
 せめてもにヨシュアの首元でキレイに締められたネクタイを乱暴に引っ張って、屈んだヨシュアのくちびるにキスをした。
 玄関の段差のせいで、それでもまだ背伸びをしなくてはいけないのがやっぱり悔しい。
「いって、きます」
 今日一日、授業に集中できないことで成績が落ちたりしたら、絶対ヨシュアのせいにしてやる。


20081031

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