躊躇いがちに、ネクがくちびるをふるわせた。
「俺は、すき…です」
俯いたままで顔は見えない。それでも、声色から目尻に溢れかけた涙の量は把握できた。
「僕は」
ヨシュアはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ネク君なんか嫌いだ」
うずくまるネクの背中が、怯えたように縮こまる。
「すきです」
「嫌いだよ」

薄闇が空間を占めたその部屋で、二人の声が交互に響いた。
「なら、どうして」
ネクが顔を上げる。
やはり、と思う通り、ネクの大きく開いた瞳からは、雫が数滴線を引いていた。
「どうして、俺を選んだんだ!」
荒げた声に、空間が揺れて震える。
玉座に繋がれた鎖を引きちぎるようなその声に驚くこともなくヨシュアは形のいい唇を歪めた。
嘲笑、そうとしか言えない微笑みで、床に倒れたままのネクに囁く。

「僕はね、言うこと聞いてくれる子が欲しいんだ」
見開いた薄藍の瞳。
呆然として開いたくちびる。

「ヨシュア」
「だから、僕の言うこと聞いてくれるよね」

ヨシュアが笑う。
天使のような、清らかな目で、優しく残酷な拷問を繰り返して。

冷たい床、光の差さないなにもない部屋。
二人しかいない、閉ざされた空間。

「ネク君」
かつん、ヨシュアの靴音が響く。
「僕のことすき?」

「俺は」
震える瞳。怯えた声。
痛む胸。
「ヨシュアのこと」
嫌われるために、好かれたいために。
ネクは、目を閉じて、口を開いた。


「き…らい…です」