またしても書きなぐりましたエロ文です。
閲覧の際はどうか自己責任で。































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「影守さん」
片山が掛け布団を足に引っ掛けたまま、膝立ちでずるずるとこちらに寄ってきた。
床に敷かれた布団からわざわざ抜け出てきたことと、うっすらと赤らんだ頬に物言いたげな目を見れば、その目的は容易く知れる。
それでも積極的に行動を起こそうとしながら、そいつは控えめに、俺のベッドの端に片手を乗せただけだ。顔は上げないまま、目だけでこちらを見上げてくる。
「あ、の…えっと」
子供のように丸い頭と明るい茶色がうずまくつむじを見下ろしながら、促すように「ん?」と眉を上げいつもの顔で笑ってやった。
それに勇気を得たのかどうなのか、はたして片山は意を決したように身を乗り出す。
今度は両手をついてベッドを軋ませ、精一杯首を伸ばして、つりあがった俺の唇の端に自分のそれを押し当ててきた。
「今日は、いいですか…?」
あまりに拙く遠まわしな物言いに、何のことかととぼけ倒してやったらきっとこいつは面白い反応で慌てふためくに違いないと、一瞬の誘惑にかられつつも、おずおずと所在無さげな様子に免じてそれは自粛してやる。
「お前もいいかげん物好きだな。上がるなら、自分で上がれ」
ひねくれた許しを与えてやれば、控えめにしながらも子供のようにうれしさを隠し切れない様子で、乗り上げながら身を寄せてきた。
「影守さん」
「なんだ」
「影守さん」
「…うれしそうだな」
「だって、物好きなぼくをちゃんと上げてくれるのは、影守さんも物好きだからだとおもって。好きな人に好きっておもわれてるのが分かって、うれしくないひといないとおもいます」
わざわざ自分から、それもうれしそうに捕食者の寝床に潜り込んでくる小動物はなかなかいないとおもうが。
「オオカミの寝床に、へらへら笑いながら上がり込む羊がいたとは知らなかったな」
思ったとおりに言葉に乗せてみる。
「じゃあぼくがオオカミですね。羊が寝巻きで無防備なところを狙って、ぺろりと食べちゃうんです。それなら変じゃないですよ」
「…お前は自分の立場がわかっていないようだな」
期待しているような顔をしながら無邪気に他愛もないことを言う様子に嗜虐心をそそられて、腰ごと引き寄せ、噛みつくように口付けた。
片山を膝に乗せるような体勢で、そのまま半開きの唇のふちを舐めてやる。
そうすれば待ちきれなくなったように、俺の上着の裾を掴んで、片山のほうから舌を伸ばしてきた。
少しだけ唇を離して、つかず離れずの距離で舌先だけで応える。あやすように舐めると、ぴちゃ、と子供の水遊びのような音がした。
「あ、やだっ…影守さ…」
泣きそうな声を上げて、裾を掴んだ手をぎゅうと握り締める。身を乗り出した片山に、焦れた唇を押しつけられた。
「んっ…んっ…」
いつだったか、キスをするときに目は閉じるなと言った日から、片山はずっとそれを忠実に守っている。
自分から強請るような行為に羞恥を感じているのか、耳まで真っ赤にしながら目尻に涙まで浮かべていても、閉じないように必死にこちらの目と合わせてくる様子は、いっそ健気ともとれるほどだ。
そんな初心な素振りとは裏腹に、片山の舌が口内に割り込んできた。こちらが応じるのを求めてさまよう。
それでもまだ触れるだけで絡ませようとはせずに逃げる俺の舌を、必死に追いかける。
「ふぁ…う、んんぅ…」
くちゅくちゅと篭った水音をたてる唾液が片山の顎を伝うころになって、ようやくそれに報いるように応えてやった。潜り込んでいた片山の舌をあっさりと捕まえ、擦りあわせるように絡ませる。
急な変化についていけなかったのか、力んでいた肩がびくりと震える。構わずに、そのまま吸い上げて甘噛みした。
「はっ…はぁっ…」
最後に口蓋を一舐めして解放してやると、空気を求めて喘ぐように呼吸をする。
目はとろんと潤んでいて、危うい。
「まだキスしかしていないが?」
「ぁ…だ、って…うぅぅ」
頭まで酸素が回っていないのか、反論がおもいつかないらしく意味をなさない音になる。
上がった呼吸が整わないうちに、顎のラインを唇で撫で、耳まで辿る。途端にびくりと震えた背中に腕を回し、てのひらで支えてやった。
歯と唇で耳朶をなぶり、舌で内部まで蹂躙する。それだけで感じたのか、震えながらゆるく首を振っていたが、行為に支障はないので構わない。
背中に回した腕はそのままに、もう片方の手でシャツのボタンを外す。合わせから入りこませた指先で胸を撫でると、主張するように立ち上がった突起が引っかかったので、爪を立てないように押しつぶした。
捏ねるようにつまむと、逃げを打つように腕をつっぱってくる。
「あっ、やだっ…そこ、やっ…」
なぶっていた耳も頭ごと離れてしまったので、回した腕で背中から引き寄せて、反対の突起に唇を寄せた。
同じようにすでに尖っているそこを、猫のように舐めてみる。
「ひゃっ…!」
それだけで身体が大きく跳ねた。素直な反応に気をよくして、濡れたそこに歯を立てる。
びくびくと痙攣する身体を逃がさないように、てのひらでしっかり支えてやった。
「あ、あっ…ん、んく」
押さえきれない喘ぎが恥ずかしいのか、自分の口元に手を持っていって袖を噛み始める。
こんなときの片山の声は、普段ののんびりとした喋りからは想像もつかないくらいに、飛び跳ねたり高くなったりひっくり返ったりする。
その音を俺は案外気に入っているのだが、本人にしてみればそれを俺に聞かれるのは堪らなく恥ずかしいのだと、以前最中に零していた。
声を我慢されるのは気に食わないが、そのうち堪えきれなくなるのは分かっているので、したいようにさせることにする。
胸から震える腹に指を這わせ、そのまま布越しに下肢へ触れた。
「んんぅ…!」
すでに立ち上がっているらしいそこを形をなぞるようにゆっくり撫でてやると、あからさまに腰が跳ねた。ちぎれそうなくらいに袖口を噛み締めている。
「んむぅっ、あぅ…!」
揺れそうになる腰を押さえるためか、ひくひくと腹筋が痙攣する。
服の上からの感触を楽しむようにそこで遊んでいると、先走りがしみてじんわりと布が湿るのがわかった。今度は揉みこむように指の動きを変えてみる。
すると片山は痺れを切らしたように、もどかしそうに前に触れる手を掴んできた。
「やぁ、そんなのっ…ちゃんとさわってくださ…っ」
焦れたように掴む腕も、下肢から伸びるつっぱった太腿も、可哀想なくらいぶるぶると震えている。安心させてやろうかと抱き寄せて、宥めるようにキスをした。
強請られるままに下着ごとズボンをずらして、直に触れる。完全に立ち上がって濡れたそこは、軽く指を絡めただけでぐちゅ、と音を立てた。
「あぁぁ…!んん、んーっ…!」
溢れる液体を塗りこめるようにまるく先端を弄り、裏筋を引っ掻く。
ゆるい快感で敏感になっていたのか、二・三回強く扱いただけで片山は達してしまった。
結局は押し殺し切れなかった声をちいさく上げ、背を反らせて腹を濡らす。胸を上下させて浅い呼吸を繰り返しながら、ぐったりとこちらに身を預けてきた。
ふと何をおもったのか、第三までしか留めていない俺のシャツを合わせからのけ、素肌に頬をすりよせる。上がりきった自分の熱を俺に移そうとしているようだ。
すりよってきた片山の髪を梳いてやりながらふと目をやると、達するときに大きく動いたせいか、前を外していたシャツがそれに合わせて大きくはだけている。
そうするとふだん見せないようにしている左肩の火傷が覗いて、自然とそちらに目が行った。
以前のような水疱の浮いたひどいケロイドではないが、まだ傷跡は大きく、生々しい。
閉ざされていた記憶が戻ったとはいえ、精神的な問題が完全に取り除かれたわけではない。
心の整理をするにはまだ早すぎる。表面的にはすっきりした顔をしていても、頭の中では依然こいつなりに葛藤があるだろう。
傷は残っている。これはこいつの心、もろい部分そのものだ。
少しためらったが、結局欲求そのままに顔を寄せ、ケロイドの端にそっとキスをする。
すると、達したばかりで過敏になっていたのか、いつも触れないようにしているその部分に触れたからか、片山はこちらが驚くくらい大きく身を震わせた。
「すまん、痛かったか?」
すこし軽率だったかと心の中で己を叱咤して、すぐに離れる。
が、今度は片山の方が驚いた様子で、困ったように手を伸ばしてきた。
思わず、といったように出された手は少し空をさまよったあと、結局いつものように俺の服の裾を掴んでおさまった。
「すみません、ちがくて…もう痛くはないんですけど、その…」
控え目に裾を引く手と、さりげなくシャツで傷を隠す指を見ながら、やはりこの傷に触れるには今はまだ性急すぎたかと、反省しかけたのだが。
「きもちわるくないですか?他人の火傷アトなんて…」
まったく見当違いのことを言われて、つい反応が遅れた。
「うん?」
「いや、その、やっぱり見てもきもちいいものじゃないですし。触るなら、なおさら…」
本当に申し訳なさそうに言うものだから、拍子抜けしてしまった。
「…それがどうした?」
「だ、だから、うー…好きな人にそういうのを見せたり、触らせたりするのは、申し訳ないな…って」
「…」
てっきり俺はこいつの精神的な琴線に触れてしまったのかとおもったのだが、どうやら当の本人には違ったらしい。
要するに視覚的もしくは触覚的に、生理的嫌悪感を齎すんじゃないかという、形状上の問題のようだ。
「くっ」
そういえばこいつはこういうやつだった。
いらぬ心配をしてしまったことも、こいつの物言いもおかしくて、つい噛み殺せずに笑いが漏れた。
「な、なんですか」
「いや…ずいぶん可愛らしいことを言うものだとおもってな」
「かわ…」
「可愛いぞ、片山」
喉を鳴らして笑っていると、からかっているのが分かるだろうにみるみるうちに片山の顔が真っ赤になった。
ほんとうにこいつは、見ていて飽きない。
「からかわないでください、こんなときにっ」
「からかってなんかないさ。言葉のとおり、素直に受け止めろよ」
「影守さんの言うこと全部真に受けてたら、身が持ちませんよっ」
金魚みたいに耳まで赤くしておきながら、よく言うものだ。
「それは心外だな。俺はそんなに信用が薄かったのか?」
「し…信頼はしてますけど、信用できるかと言われるとぼくには明言しかねます」
「片山はひどいやつだな。なら、これからの俺の信用のために言葉通りにしてみようか。
可愛がってやるよ」
「な」
「可愛がってやる」
片山が何か言おうと口を開く前に、こちらに伸びていた腕をつかんで引き倒した。
そのままのしかかるようにして顔を寄せる。
「火傷跡がどうとか言っていたが、片山、俺は医者だぞ。他人の傷跡くらいで気持ち悪がっていてどうする」
「そ…れはそうですけど、そうじゃなくてっ…」
「医者としてでなくても同じことだ。そもそも男が男の身体に触ること自体、普通は気持ち悪いと言わないか?俺は別に、お前の触り心地がいいから抱いてるんじゃないぞ」
きつくなり過ぎないように言葉を選びながら言い立てれば、どうしていいのか分からなさそうに、戸惑った顔で見上げてくる。照れたり困ったり忙しいやつだ。
「お前の身体なら、どこがどうなってようと関係ないんだよ。火傷があろうが、乳房がなかろうが」
見ると、あけすけな言い方に反応したのか、また少し頬を赤らめている。本当に忙しない。
「影守さんはずるいです」
「ほう?どこがどうずるいんだ」
「さっきまで意地悪だったのに急に優しくなったり、世間話でもするみたいに殺し文句を言うのがずるいです」
そうやってぼくが慌てるのを楽しんでるんだ…と何やらもごもご言いながら呟いた。
よくわかってるじゃないか。
「そうか、それは悪かったな。
なら今日は泣くほど優しくしてやる」
「っ!」
「優しく、可愛がるんだったな」
片山が言葉に詰まったのを合図に、半端にずれた下着を下ろして足から完全に引き抜いた。
腰を持ち上げ、ゆっくりと後ろに指を這わせる。
「あっ…」
一瞬全身を強張らせたものの、しばらくすると受け入れる決心がついたのか、力を抜いて心持ち脚を広げる素振りをみせた。
素直なその様子に満足して、そのまま間に身体を割り込ませた。驚かせないように、そうっと指を挿し入れる。
「んっ、あ」
くふ、と小さく息を吐いて俺の指を飲み込んでいく。最近は随分慣れたのか、ほぐすときにもそれほど痛がらなくなって少し安心している。
ゆったりとあやすように指を動かす俺をもの言いたげに見上げると、ためらいがちに俺の下肢に手を伸ばしてきた。
「あの、ぁっ…かげもりさん、も」
服の上から、まだ中途にしか立ち上がっていない俺のものに片山の指が触れてくる。
形を辿ってみたり、やんわりと揉むようにしてみたり。
どうやら、さっきの俺の動作を真似ているらしい。そのことに気が付いたら、目の前の生きものがとてもいじらしくおもえて、本気で可愛がってやりたくなってしまった。
柔らかくひくつき始めた後孔に咥えさせる指を増やしながら、少ししこったような場所を押し上げる。
「ひぅっ!」
派手に全身を跳ねさせた途端に、挿入された指がきゅぅ、と食い締められた。
「あぅっ、あぁっ!」
びくん、びくんと腰を揺らせながら、伸ばした手でこちらにも懸命に触れてくる。
ウエストのゴムをひっぱって下着の中まで手を滑り込ませると、おっかなびっくり握りこまれた。
加減を知らない子供のような手つきに、おもわず小さく息を吐く。
「っふ、あ…ぁ、すみませ…っ」
「いや…」
おもいがけず幼い様子が微笑ましい。それとは対照的にいやらしく蕩けきった内部を慰めるように、指をぐるりと動かす。
「やぁぁぁ…!」
片山の上げる声は、もはや泣き声じみている。ぶるぶると頭を振り、もどかしげに握っていた手を離してそのまま俺の背中にしがみついた。
「かげもりさ、やだっ、ぼく…もうっ…」
「…もう?」
「う、ゃ…もっがまんできなっ」
「我慢?こっちがか?」
さっき片山が俺にしたように、だらだらと溢れる液で濡れそぼった前を握りこむ。
「やあぁ、ちが、っそっちじゃな…!」
「違うのか?」
「あっ、あっ動かしちゃだめっ」
中の指も連動させるように掻き回せば、がくがくと首が振れ、限界を訴えるように内腿が痙攣する。
衝撃の強さを伝えるように背中に爪が食い込み、ちいさく鋭い痛みが走った。
「だめ、やだ、やだっ…いっちゃ…!」
「いけばいい。もう辛いだろう?」
「やだっやだぁぁ…たすけて、あっ、あぁぁ…!」
泣きじゃくりながら、あっけなく絶頂を迎える。びゅくびゅくと震える先端から、先ほどよりも濃い液を吐き出した。
埋めていた指を抜き去ると一瞬強く痙攣して、そのまま背中に回っていた腕からずるずると力が抜ける。
弛緩した身体で荒く不規則な呼吸を繰り返すと、まだ整わないままにこちらを睨みつけてきた。
「ひ、ど…優しくす、って、言った…に…」
「優しくしただろう。ちゃんといかせてやっても、ひどいのか?」
ぬけぬけと言う俺に、涙で濡れた顔を歪ませる。
「ちが、ちがうって、言いました…ぼく、ちゃんと、影守さんと…」
「俺と?」
こいつの望みが分かっていながら、鸚鵡返しが口をついて出た。
「っ…ちゃんと、影守さんと…一緒がよかっ…っく…うぇ」
やはり泣かせてしまった。言葉のとおりにしただけと言えばそれまでだが、これは完全に俺が悪い。詫びるように唇を寄せ、顔を汚す涙を舐め取った。
一年前、科学庁の実験場で一人戦っていたことがある。
あのときの俺の望みもしがらみも全部ひっくるめて光に変えてしまったこいつには、なるべくあらゆるものを与えたいとおもった。
だから本来、こんな風に強請られたなら尚更何でもしてやりたい。ヘドが出るほど甘やかしてやりたい。
が、生来の性質からか、素直に従ってやるのはどうも苦手だ。愛着が増せばそれだけ、こんな風に遠まわしに焦らして苛めてやりたくなる。
あの狭い檻の中で好意を持てる相手など片手で足りるほどだったから、こんな子供のようなやり方しか俺は知らない。
「悪かった。ちゃんと一緒にだな」
腫れたまぶたにキスをして、なるべく優しく囁いた。それでも片山は俯いて顔を上げない。 「片山…?」
名前を呼ぶと、自然と少し掠れた声がでる。以前この声が好きだとこいつに言われたことをおもいだす。
ぴく、と茶色い髪が揺れて、おずおずと顔を上げる。
「…はい」
返事をたしかめると、太腿に手をかけてゆっくりと腰を上げさせる。
前を寛げてひくつく後孔に押し当てると、待ちきれないようにほんのすこし、片山が腰を突き出した。
「こら、がっつくな」
「やです、がっつきます…はやく欲しいです」
「片山」
「影守さんが悪いんですよっ、おとなげなく意地悪するから」
「…やれやれ」
ちいさく溜め息を零すと、あやすように鼻先をすりよせながら、求められるままにゆっくりと身体を押し進める。
十分にほぐしたおかげで、そこは難なく俺をずぶずぶと飲み込んでいった。
「ふぁ、あっ…あ…!」
散々待ち望んでいたものを与えられて、片山は喉を反らせて大きく喘ぐ。
「影守さん、影守さん」
溺没する人が助けを求めるように、差し出された両手が俺の首に巻きついた。
ぎゅっとしがみかれると、片山の細い髪の毛が俺の首回りをくすぐる。
何とはなしに感慨深くなって、目の前で揺れる髪にくちづけてみる。すると、返事をするように晒した首筋に唇を押しつけられた。
下肢からの快感にときおり痙攣しながら、仔犬のようにそこを舐めたり噛んだりする。
こいつらしい控えめな先を促す行為に緩みたがる頬を許してやると、その小柄な腰に容赦なく奥まで押しこんだ。
「っ…!」
ひゅっ、と片山の喉が変に鳴る。悲鳴も上がらず息を荒げる様子を見かねて、しがみつく肩をすこし押しやる。
不安そうに開いた口から漏れる、断続的な息を整えてやるように、呼吸の仕方を教えるように繰り返し繰り返しキスをした。
「ふぁ、…はっ…か、げもり、さんっ」
足りない呼吸で、それでも当たり前のように俺の名前を呼ぶ。
つくづくこいつは不思議な生きものだと感じながら、込み上げるこの感情が世間では愛しさと呼ばれることを知っている。
知ってはいるが、それだけで言い尽くせるものでもない。言葉に置き換えきれないものなど、俺の頭の中だけでも山ほどある。
それでも言葉は俺にとっては重要な武器だ。その武器が、こんなときにはひどく意味をなさないものになることに驚きもする。
今は武器としてではなく、別のものになってこいつに伝わればいいとおもう。それが、こいつにとって優しいものになればいい。
「片山」
「はっ…ぁ、はい…っ」
「片山」
「…は、い…」
呼んだ分だけ律儀に返事をする唇にキスをして、律動を繰り返す。
奥まで何度も掻き回しながら、何度もくちづけた。最後に、少し乱暴になるのを自覚しながら突き動かして、絶頂はやけに静かに迎えた。
かすかな声を上げて果てた片山に締め付けられ、少し遅れて自分の熱が解放されるのを感じる。
穏やかだったようにもおもえる最後は、片山が声も出せないほどに感じたのだと自惚れでなく言い切れる。実際何の音もなかったわけではなくて、荒い息遣いと水音はうるさいほどに響いていたからだ。
「あの、影守さん」
繋いでいた身体を離してお互いに応急的に身なりを整えた後、風呂にも入らず二人でくっついて寝台に横たわる。
と、おもいだしたように片山が口を開いた。
「どうした?」
他愛もないいつもの会話の調子で、のんびりと言葉が続く。
「ぼく、大丈夫ですからね」
「…?」
前置きも主語も足りないものだらけの言い方に、眉をひそめる。
「片山、お前は今までの人生と国語の授業で何を習ってきた。言いたいことは文法に乗っ取って、分かりやすく明確に発言しろ」
「え、わ、だから、その」
事の後でぼうっとしながらの発言だったのか、口調どおりのんびりと考えを組み立てながら言うつもりだったのか、早口で言い立てればやけに慌ててみせた。
「…火傷が」
「火傷?」
「はぁ。さっき言ってたじゃないですか、痛いのかって」
「…もう痛くない、とはっきり聞いたが」
怪訝そうに見やると、困ったような笑顔が返る。
「そうじゃなくて、影守さんが聞いたのってそういう意味じゃなかったんですよね?」
変わらない穏やかな声色を聞きながら、気がついていたのかとほんの少し瞠目した。
まっすぐにこちらを向く深い青に、写りこんだ金色が反射する。
「ちゃんと治りますから、大丈夫です」
おずおずとこちらの手をとると、今はちゃんとボタンも留まったシャツの上から、左胸より少し上の辺りに押しつけた。一瞬ためらったようだが、その分しっかりと力がこめられる。
「ぼくって鈍くていつも気がつくのが遅くて、でもそうやってぼくが気がつかない間にも影守さんは優しいから、きっと治るのも早いとおもいます」
布越しに、隠されたわずかな凹凸と、じんわりとした体温を感じる。
一人で戦いつづけた最後の年、この傷跡を知ったすぐあとに、俺は足手まといでない誰かと並んで戦うことをこいつに教えられた。
数え切れないほどの、あれは救いだったのだろう。
その救いを、借りは二つだと押しこめた俺に、こいつはそれはうれしそうに笑ってみせた。
そんなやつだから、本当に大事なときほど誰にも頼らない。
小柄な身体で、細い二本の足で立っている。
そのことに気がつけば、歯噛みせずにいられなかった。借りの、せめて二つくらい、返させろとおもう。
俺の行為がこの傷の治る速度に影響するというのなら、いくらでも優しくしてやる。
さすがにそこまでは、口に出してやらないが。
「自覚したのは結構なことだが、言うべきことはちゃんと伝えろよ。治らないとか悪化したとかなら絶対だ。お前は俺の患者だからな」
「患者…ですか」
「なんだ」
「いえ、別に」
「そこまで言わせたいのか?」
「…言って欲しいのはやまやまですけど、あんまり駄々をこねるとまた泣かされそうなので、がまんしておきます」
少し引っかかる物言いだが、まあいい。
「お前にしては、なかなか賢くなったじゃないか。いいこだ」
また口をついて出た揶揄へ不満が上がる前に、主張するように赤くなった目尻にキスをする。
指先に伝わる体温を撫でながら、とりあえず風呂に入るのが先決だなと考えた。

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最初から最後までやりっぱなしで(以下略)

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